俺達は何もきづかなかった
やってきたのは、温泉の源泉の一つであるちょっと、いや、結構大きい湖の一角に隠れる様にしてある泉だった。
ぽこぽことお湯が湧いていて、そこでは湯気が立っている。
よく見るとそこから石の水路を経て温泉街に向かうようだった。
ただお湯の湧きでる量が少ないのか、ほとんど流れていかない。
そしてここの源泉に、確か私の持っているような道具袋があるはずだけれどと思って覗くけれど……。
「何もない感じだね」
「確かに何かあるようには見えないな」
私の呟きにフィオレが答える。
そしてリリスにも聞くが、特に“何か”は見えはしない。けれど、
「エリに貰ったその道具はここを示しているんだよね。でも、何となく魔力を感じるんだよね、ここ」
そう言ってリリスがお湯に近づくけれど、それに私は慌てて、
「リリス、お湯が熱いから火傷するよ」
「うぎゅ、じゃあもう少し離れてる」
そう言って私の肩に乗るリリス。
とはいうものの、確かに魔力を感じるけれど、袋は見えない。
試しに傍に転がっていた木の棒でその泉をかき回してみるけれど、何も引っかからない。
ゲームの時はどうだったっけと私は真剣に思いだそうとする。
そう、この袋は異空間と繋がっているのでそちらにお湯が流れていくとともに、その袋自体がそのままで触れられないようになっていたはずなのだ。
確か、ここに存在しながらも異なる場所に袋が存在しているという、そのお湯が出ている面上の一部のみが袋と繋がっていたはずだ。
そしてそれを引き寄せるには確か、便利アイテムの一つ、
「“屋内釣り針”。この釣り針を竿に付けて引くと何処からともなく魚が転送されて連れるというアイテム。確かこの釣り針の先が、時空に作用するので袋の紐に引っ掛かるはず……ライ?」
そこで私の方をじっと見つめるライに気付いた。
何でだろうと私は思っていると、
「“時間・空間”に作用する魔法は、この世界でも使える者がほとんどいない魔法。そういった道具が作れるのも、その力の影響によるもの……だよね」
楽しそうにライが告げるので私はあっと気付いた。
だってこれは確か主人公の特殊な“血”にまつわる力を使ったわけで、私は関係無くて、えーとえーと。
「あ、これ、私が便利だから購入したんだけれど、そんなに凄いアイテムなのかな?」
「うん、凄いアイテムだね。そしてそこに時空と関係する袋があるって、どうしてエリには分かったのかな?」
ライのその言葉に私は、はわわと慌てる。
確かイベントだと、見ても分からないねとなって色々聞き込みしてヒントを経て……ちょっと怠けただけでこんな風に私がピンチに!
もしも私が異世界から来たとばれたらどうなってしまうんだろう。
そもそも私の居場所がこの世界にある時点で、何かがおかしい。
まるで、“誰か”が私の居場所をつくって、私をここに……。
……。
……。
……。
「あ、あれ、私、今何を考えていたんだっけ」
「……エリ、その釣り針の話だよ」
ライに言われて、あれ、何で私こんな物を持っているんだろうと焦る。
急に記憶が消えてしまった気がするけれど、そんなわけがないと私は思って、
「え、あ、あれ、これだしたんだっけ。そうそう、これを使えば温泉がおかしくなっている元の袋を取り出せるんだけれど……ライもフィオレもリリスも、真剣な顔で私を見てどうしたの?」
何でこんな風に私は見られているんだろうと思っていると、そこでフィオレが溜息をついて、
「ライがエリを試していたんだ」
「あ、ああ私がぼうっとしていたから……からかうなんて酷いよ」
「……ごめんごめん。それよりも早く袋を釣り上げてよ」
「うん……こうやって糸を垂らして、こうして、それぇえええええ」
私は一気に竿を持ち上げる。
同時に何かが引っ掛かるてごたえを感じるとともに、茶色の袋が引っ張りあげられたけれど、そのまま勢い余って森の中に飛んで行ってしまう。
「勢い良く引き上げすぎだ!」
「う、うう、フィオレ、ごめん」
「私に謝るんじゃ無くて早く探しに行こう、アンジェロ達に拾われる前に!」
そう言われた私は、フィオレ達と一緒にその袋の落ちた方向に向かう。
そこで私達はある人物に出会ったのだった。
私達が向かった先で、誰かが何かを拾い上げたのを見た。
こんな森の中で出会うのはきっと猟師か何かだろう、そう私は考えていたのだけれど、
「エリ、戦闘の準備だ」
「へ?」
フィオレに言われて私は魔の抜けた声を上げた。
フィオレがそんな私を凄く冷たい目で見て、
「あそこにいるのは“深淵の魔族”だ」
「……本当だ、そんな気配がする」
「やはりエリにはもっと戦闘をさせないといけないようだな。私も手伝ってやろう」
「! そんなのクロヴィスだけで十分だよ!」
「ははは、遠慮するな」
そうフィオレはいいながら、ちらりとライの方を見る。
私は一瞬、ライがローレライという魔物との混血だとばれたのかなと思うけれど、それ以上はフィオレは何も言わない。
だからただの思いすごしかと私は思ってから、とりあえず杖を構えつつ、魔法の選択画面を表示させる。
森の中なので氷系の魔法が良いかなと私は大まかに検討を付けた所で、その拾ったらしい人物が私達の方を見た。
その顔には見覚えがあって、
「あれ、あの魔族、古城であったかも」
「……覚えていて下さったのは光栄ですね」
私のその言葉に、彼女はそう、うっそりと笑いながら告げる。
あの古城の中は薄暗かったのでそこまで分からなかったが、何処か美人とはいえ“蝕まれた”風なものを感じる。
陽の光の中でそれを余計に私は感じさせられた。と、
「つい落としてしまった袋でしたが、まさかこんな場所で回収できるとは思いませんでした。どのようにこれを手に入れたのですか?」
言葉はこの前と違い穏やかだが、威圧感を感じる。
それを聞きながら私が、
「私が持っていた、素敵なアイテムでゲットしました」
「へぇ、最近作りあげたか購入したと。人間達も中々面白い魔法を手に入れているようですね」
「え、いえ、元々ここに来る前に購入したもので……」
とりあえず私は過去の詮索をされたくない。
だって私はこの世界の“過去”に存在しないので、この町で購入したというならフィオレ達が知っているかもしれないのだからそう言うしかなかった。
そもそも作り方を知っていたとしても、どうして知っているのかを聞かれるのも危険だ。
どうやら私の持っている魔道具も含めて、この世界では“異常”に高度な物の様だったから。
確かにゲームの中ではそういった発言はあったけれどそこまで貴重な物の様に感じられなかったし、今だってそうだ。
だから気をつけないとと思って、私はそう告げると、目の前の魔族は言葉を失ったようだった。
「ここに来る前に購入した?」
「は、はい……」
「つまり、ここに、この町にクロヴィスに連れて来られる前に持っていたと?」
「は、はい」
何処か言い回しがおかしい気がしたけれど私は答えながら彼女を警戒しているとそこで、
「まさか、あいつが強化したと? 一体何のために?」
「エリに手を出すな」
驚いた様に疑問符を浮かべる魔族だが、その背後で剣が煌めき、クロヴィスの声が聞こえる。
その剣を魔族は避けるように飛び上がった魔族は、そこで私に向かって袋を投げた。
「それは貴方の自由にして構いません」
「え、あの……」
私が何かをいう前に、それを放り投げてその魔族は消えてしまう。
とりあえずその袋を受け取りはするけれど、私はもうすでに一個、同じものを持っている。
二個あってどうしようと私が思っているとそこで、フィオレとライ、リリスに私は抱きつかれた。
「ぐえっ」
「とりあえず魔族は退散したけれど、理由は分からないけれど袋を手に入れたから私達の勝ちだ! アンジェロを見返せる」
「よくやったエリ、これでフェンリルの奴を見返せるよ」
「私は、タマに仕返しだ―」
そうやって抱きついてくる全員に私は、く、苦しい……と小さく呟き、そんな私を見てクロヴィスが面白そうに笑っているのを見る。
その間に、ウィルワードも含めた他の二人がようやく表れたのだった。
“深淵の魔族”ウィーゼは、エリ達から離れてこっそり様子を見ていた。
そのクロヴィスの楽しそうな様子と、エリの様子も見てウィーゼは、一人小さく呟く。
「我々が思っているよりも、クロヴィスはエリをとても気に入って大切にしているのかもしれない。……気に入りませんが」
そして、その件も含めて報告だと、思いながらエリの袋を見やる。
これで、彼の行動を随時監視できる。
何せあれは魔族の作ったものなのだ。
だから特別な波長を示し、何処に向かうのかを把握できる。
「いずれは、上手くこちら側に来て頂かないと、ね」
それも出来るだけ早く、何も知らない内に。
そう、それこそウィーゼが力に飲まれるより早い方が良い。
朦朧とした頭で、憎々しげにクロヴィスを見てから、ウィーゼはその場を後にしたのだった。
というわけで私達が勝利して、温泉は再び元の様に温泉街に行きわたりそして。
「温泉が流れる様にしてくれた皆様には、何処でも無料です!」
「「「やったー!(にゃーん)」」」
といったような経緯があって、結局はそこまで有名どころでは無い(そこは予約でいっぱいだったのもある)温泉を、貸し切りにさせてもらえる事になった。
しかも屋外にあって広々としていて、空には青空が広がっている。
なので大喜びで私達はその温泉に向かったわけだ。
その後の展開については、ご想像にお任せする。
そんな私は、目の前で小さくなっているので背中を流してもらうのは難しいといった話になったリリスが、猫かきで温泉を泳いでいるタマの頭の上に乗って楽しんでいる。
実にこの二人というか二匹は健全である。
そして更に健全なのは……私だ。
「遅れて入ってきたらこんな事になっていたので、慌てて自分で体を洗って温泉に入っちゃったんだよね」
そしてクロヴィスが入ってくるのが一番遅かったので、ぎりぎり私は間にあったのだ。
もう温泉に入っちゃったから、背中はながさなくていいよ~、と私はクロヴィスににこやかに手を振った。が、
「エリ、後で覚えていろよ?」
微笑んだクロヴィスの表情はとても怖かったです。
なので私はそれを忘れようと、黄色いあひるさんの玩具を二つほど浮かべて遊んでいる。
ただしこのあひるさんはそれっぽくみえるが、足の部分が二つほどドリルの様になっている。
実はこの世界にいる黄色いあひるさんの様な魔物は足がドリル状になっており、それで魚などを銛の様に突き刺しで捕まえているらしい。
相変わらずの不思議な世界が広がっているが、こういったお湯に浮かべている限りは足の部分があまり見えないので問題ない。
そうやって私が遊びながら傍で聞こえる声も含めてすべてから現実逃避していると、
「まったく、折角この俺が背中を流してやろうと思ったのに」
「でも、ウィルワードさんもここに来ればよかったのにね」
話を変える意味でその名前を出すとクロヴィスは嫌な顔をして、
「あいつの事だ。ここで入浴剤の新商品を試すぞ」
「……そうなんだ。……もしや今、その新製品を試している最中だったり?」
「俺達は何も気づかなかったし、なにも見ない事にした。……そして早めに切り上げるぞ」
「うん、そうだね」
暗に巻き込まれない内に逃げるぞというクロヴィスに私は頷く。
そこでクロヴィスが私の隣に入ってくる。
こうしてみると背の高さや筋肉の付き具合が全然違う。
何だか意識してしまうなと私が思っているとそこで、頭を軽く撫でられた。
「な、何……」
「俺が守りたくなるのが、これ位のサイズだと思っただけだ」
クロヴィスが変な事を言うなと私は思ったけれど、でも今の私を守りたいと言っているというのが分かってそれはそれで嬉しいような気持にもなってしまう。
なので小さく呻いてそのまま少し私はお湯に沈んだのだった。




