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港町にGO!

 並べられた食事は、サラダにエビフライにステーキにパンケーキにパフェにチョコレートケーキにゼリーに……どれも美味しそうだ。

 見た目も私が知っているものばかりである。

 だが……原材料はなんなんだろう。


 ゲーム中に出てくる謎の動植物は、加工すれば現実のものに酷似しているが、果たしてこれは口にしていいものだろうか。

 私はしばし悩む。

 悩んだけれど空腹と目の前の美味しそうな匂いには勝てなかった。


「い、いただきまーす。ぱくっ」


 まずは目の前でじゅうじゅう音を立てる分厚いステーキ、特製の果物の甘みと醤油のしょっぱさが絶妙なソースがかかっているそれを、ナイフとフォークで切り分ける。

 じゅわぁっと口の中で肉汁が滴り落ちる。

 とろけるような肉の感覚、こんな高級なお肉食べた事がないよと思いながら、その肉の味をかみしめて、次にその肉に添えられていた人参のグラッセらしきものを口に入れる。


 美味しい人参。

 セロリなどの色々な野菜と一緒に煮て柔らかくしたのか、この人参にはほのかな他の野菜の香りと旨みが染みている。

 それをバターと砂糖、そしてほんの少しの塩気が豊かな風味を醸し出しておりそれがまた……。


「幸せだ」

「なんだ、エリは“人参ウサギのしっぽ”が好きなのか」

「ごふっ」


 私は人参のグラッセを吹き出してしまいそうになった。

 そういえばこの世界には人参ウサギという兎がいて、毎日1~10本人参の葉をとった部分のようなしっぽを生え変わらせるのだという。

 つまりこの世界の人参は……“肉”だ。


 あまり深く考えるのを止めて、料理だけを楽しもうと私はそれらを口にして、口直しに傍にあった飲み物に口をつける。

 しゅわしゅわとした炭酸が美味しい。

 確か天然の炭酸水がここから南に行った泉で手に入るはずなので、それでシロップを割っているのだろう。

 甘い蜂蜜と梅のような香りがする。

 

 梅の蜂蜜漬けを炭酸で割ったようなものらしい。

 丁度蜂の巣も手に入ったので、蜂蜜を取り出して果物を漬けても良いよなと思う。

 食生活が本当に素敵で、ここにいるのもいいかなと思った。

 すぐ傍では杖の妖精も花の蜜を幸せそうに飲んでいる。

 そこでクロヴィスが口を開いた。


「幸せそうに食べている所悪いが、それでこれからどうするんだ?」

「何が?」


 私は再び肉を一切れ食べて幸せに浸っていると、それにクロヴィスが苦笑して、


「本当に美味しそうに食べるな。奢ったかいがあるよ。だがいつまでも戦闘で杖ばかりに頼るわけにもいかないだろう」

「……その気になれば、私だってすごく強い魔法が使えるもん」


 頬を膨らます私。

 それをクロヴィスは何か思う所があるらしくじっと見て、


「じゃあ食後の運動も兼ねて力を見せてもらおうか。町の外でなら少しくらいは大丈夫だろう」

「で、でも私にはこの杖……リリスがいるし」

「杖だけに頼るわけにもいかないだろう。だいたい魔法使いなのに杖に頼りっぱなしで良いのか?」

「……道具も実力の内です」

「それにお前の力がどの程度か知りたいしな、俺がサポートしてやるんだから、やり方も決めたいし」


 その話に私は気づく。そういえば、


「いつから私はクロヴィスと一緒にパーティを組む事になったのかな?」

「俺が助けて俺が拾ったからお前は俺のものだ」

「……いやいやいや、その論理はおかしいかと」

「そんな事を言って外で技を見せてもらう話は無くならないからな」


 クロヴィスがそう話を一方的に切りやがりました。

 でも町のすぐ外なら怖い魔物も出そうにないので、それに実際に私が魔法を使うとどうなるのかを見てみたかったのでまあいっかと私は思ったのだった。






 町の外にやってきた私は、クロヴィスから少し離れた場所で選択画面を出す。

 攻撃魔法が良いと言われていたのでどれにしようかと迷う。


「……“沈黙のサイレント・フレア”でいいかな。そこそこ強い炎の塊が飛んで行くだけだったし」


 特にこの薄暗くなった時間にはさぞかし映えるだろう。

 私の力を思い知れ、クロヴィスと私が調子に乗りながらそれを選択する。

 私の足元に赤い光が生まれ、それが放射状に広がったかと思うとそれが細かな模様の魔法人を描くように地面に走る。

 その円陣が走ると同時に赤い光が白みを帯びてそこから魔力の粒が光となって宙に浮き始める。

 

 私の髪と服がその魔力に煽られるようにふわりと宙に浮かぶ。

 同時に今度はその円陣から生まれた光の粒が私の腕に絡み、掌へとそのまま収束し、地面に描かれた円陣の小型化したものが掌に浮かぶ。

 私はその手を前面に押し出し、何もないその場所に魔法陣が展開され、その中心に炎の光が貯まる。

 それに私は意外に小さいんだなと思いつつ、私は命じた。

 

「“行け”」


 同時に、その小さい炎の塊が数十倍に膨れ上がり、空の彼方へと吹き飛んで行った。

 あまりにも突然の出来事に私は茫然として、次に正気に戻って、


「ど、どうしよう、あんなに強い魔法だと思わなかった!」

「……あっちには草原しかなくてその先は海だからさすがに大丈夫……だと思う」

「そこは大丈夫って言いきってよ! どうしよう!」

「人間諦めが肝心だぞ」

「人ごとのように言うな! う、うぐっ……もう、帰って寝てやるぅうう」

「あ、おい、待て……明日は迎えに行くからな!」


 待って―と、杖の妖精リリスが追いかけてくるが、私はもう限界だった。

 そんな私が魔法使いの家(主人公がいるはずだった家)に戻ってその日は、疲れもあってかすぐに眠ってしまったのだった。






 傍にあった目覚まし時計は、何故かローマ数字だった。

 その辺りの事情は置いておくとしてエリは目覚ましをセットしなかった。

 もちろん、理由はクロヴィスと一緒に港町に行くつもりがなかったからだ!


「それよりもこうやって家の中、このベッドの中でぬくぬくしていたいし。何であんな危険な戦闘なんてしないといけないのよ。ここで引きこもってゆっくりもとの世界に戻る方法を探そう」


 丁度朝食用のパンと瓶詰めジュースもすぐ傍の机の上にあるのだ。

 ゆっくりそれこそ休日のように遅くまで寝てから、起きよう。

 そして今日こそ色々な機材をそろえて依頼も見ておこうと思う。


「お得な依頼ってあるからね。それを見極めてコスパが良いようにやっておこう。うん、また眠くなったし二度寝ー」

「エリ、起きてよ。私のご飯!」


 杖の妖精のリリスがそう眠っている私の頭上を飛び回る。

 なのでもごっと私は布団に更に潜り込みながら、花瓶を指さす。

 そこには蜜のしたたる甘い香りの赤い花が飾られている。


 “赤糖蜜の花”と呼ばれるもので、別名“妖精の花”と呼ばれている。

 別名は妖精の好む蜜をこぼすからだと言われている。

 香りが良くこの透明な甘味料は、広く一般的に使われているものだ。

 これを乾燥させて粒状にしたものがこの世界の“砂糖”である。


 花の蜜の砂糖と聞くとココナッツシュガーなんかが、あったよねと私は思い出した。

 同時に、昨日の内に買っておいて良かったと思いながら私は再び目をつむるがそこで、


「クロヴィスが今日はくるよ? 早く起きようよエリ」

「来れないから大丈夫だよ。昨日の間にたっぷりと補強したし」


 そう私は自信たっぷりに答える。

 この家の二階の部屋には、幾らか金属がありそれらに魔法を付加させて幾つかの材料を加えて……私はこの家を内部から徹底的に補強した。

 ゲームをしていた時の知識を駆使し、私は家に帰ってすぐひきこもる為に全力を尽くしたのだ。


「だから私はこのままゆっくり寝るんだ。……あれ? リリス? いなくなっちゃった……寝よう」


 再び心地よい惰眠というただれた生活に戻りかけた私は……そこで、私の部屋のベッド。

 そのすぐ傍の壁が爆発するのを見た。

 大きな轟音とばらばらと零れ落ちる瓦礫。


 な、なんですかと私は飛び起きたのだが、その朝日が眩しい壁の穴から人影が一つ。

 黒い闇の衣をまとった金色の髪の青年。

 ただ入ってくるだけで、陽の光に輝くその髪も含めて絵になるような美形、クロヴィス。


「全くこんな事だろうと思ったんだ」

「わ、私の家が……」

「お前がきちんと起きて準備をしていればこんな事にはならなかったのにな」

「そ、そんな事で誤魔化されないんだからな! 修繕費払え!」

「ああ分かった。じゃあこれから俺が毎日ここに通って少しずつ直してやるよ。それで解決だ」


 え、毎日クロヴィスが来るの? と私は、自分で墓穴を掘った気がした。

 そこでつかつかとクロヴィスが近づいてきて、布団をめくる。


「か、返して!」

「……今すぐ黙って着替えないと、襲うぞ」


 凄みのある顔でクロヴィスに言われて、私はすぐにそれに従ったのだった。







 そもそも、徒歩で移動する必要なんてないのだと私は気づいた。


「“何処からゲート”。この金色の四角い箱が四つくっついたものを引っ張ると、縦と横に広がります」

「ほう」

「それで、これに設定すると他の町への移動が一瞬で済むのです!」


 移動時間短縮アイテムで、後半になると作れるのだ。

 これで周辺の町、ちょっとした採取、戦闘地点へは一瞬で移動できる。

 もっとも戦闘する気のない私は、町の移動だけで済ます予定だったのだが。


 そこでクロヴィスが私のその道具を取り上げ、剣で半分に叩き割った。

 突然の事に私は唖然とするが、


「少しでもレベルを上げろ。魔法使いなら」

「で、でもあんな便利アイテム……」

「お前にはまだ早い。サポートしてやるから、もう少し自分で戦えるよう努力しろ」

「う、うぐ……」


 確かにこの世界で生きて行くなら戦闘はする事になる可能性は高いが、アイテムも含めて大概の事はお金や引き継いだアイテムで事が足りるのだ。

 だからもう少し甘やかしてくれてもいいじゃないかと思いながら渋々、私はリリスに杖になるよう命令する。

 これから常に臨戦態勢だから。


「いい子だ」


 クロヴィスが優しく微笑んで私の頭を撫ぜた。

 なんだこの子供をあやすようなそれは。

 でも不思議と私は嫌な気はしなくて大人しくされている。


 そこで目の前に壊れた先ほどの道具が私の目に映る。

 荒療治にしても、クロヴィスは思いっきりが良い。

 それを見ながら、いいもん、まだあるから……そう私は心の中で思ったのだった。






 こうして港までやってきた私とクロヴィス。

 海風が心地よいこの町は、魚やら何やら色々な海産物が取れる。

 また海の向こうから船も来るので、それに乗って海を渡ったり、他の場所の特産品などがこの港では手に入る。


 それ故に魔法薬から文房具まで、様々なものを作る道具で、この地方では珍しい物が手に入ったりする。

 後で送料込みで購入しておこうと、私はイキイキ引き籠りライフを満喫する為に頑張ろうと決める。

 ついでに、ここで魚や貝、貝殻、海に流れ着いた流木やココナッツのようなもの、石、海岸の砂を購入しておこうと思う。


 一部は購入の必要はないのだが、加工して売るといい稼ぎになるのだ。

 砂を瓶に詰めただけの物でも意外に売れてしまったはずなのだ。

 それらを含めて、ここでの機材の購入費などは十分賄える。

 なので私はクロヴィスに、


「幾つかよりたいお店があるんだけれどいいかな?」

「そうだな……ただ太陽の位置から、もうすぐ昼になるから、先に食事を済ませた方が込まなくていいんじゃないのか?」

「言われてみればそうかも。じゃあのお店に行こう!」


 そう私はクロヴィスの手を引っ張る。

 丁度ゲームに出てきたお店で、主人公達が美味しそうにご飯を食べていたのだ。

 あれを見てここに来たなら絶対にこれだと思っていたのだ。

 そんな私は、クロヴィスの手を引っ張った瞬間、クロヴィスが驚いた顔をして、次に優しげに私を見ていた事に気付かなかったのだった。






 やってきたレストランで、海鮮パスタのようなものに舌鼓を打つ私。

 クロヴィスも同じものを頼んでいた。

 飲み物は、半透明の癖のない海藻、“白ブドウ”の実が入った“青色ココナッツ”とミルクを混ぜた甘いジュースだ。

 主人公達が感動していたように私も幸せを感じながらそれを食べて行く私だが、そこでクロヴィスが、


「だいぶ戦闘にも慣れてきたみたいだな」

「うう……それならもう引きこもっていいかな?」

「駄目だ。勘が鈍るからな。それに俺が手伝ってやっているんだからいいだろう?」

「それはそうだけれど」


 そう答えながら、私は先ほどの戦闘を思い出す。

 それほど強くない、ウサギのような形をした魔物や鳥のような魔物、ネズミのような魔物、ハートマークをした精霊と接触したが、私も初期のころに手に入る魔法で応戦したものの、そのほとんどがクロヴィスの力によって倒される。


 青白い光をまとった大剣を軽々と持ち上げて戦うクロヴィスに、いいなぁ~、私もこんな風に格好良く戦っえたらいいのにと思ったものだ。

 そう思ったら私はなんだか恨めしくなってしまう。

 なのでじと~とした目でクロヴィスを見ていると、


「どうした? 俺の方を見て」

「別に。ただクロヴィスみたいな剣も使ってみたいなって思っただけ」

「そうなのか? ……そうだな、エリ、後で少しだけ貸してやろうか。エリなら大丈夫だろうし」

「本当! わーい」


 装備できる相手が決まっている剣なので私は主人公に持たせられなかったのだが、その剣を私も使えるのだ。

 良い事もあるものだなと私が思いつつご飯を食べていると、港町の漁師らしき人たちがやってきて私の後ろの席に座った。そして、


「おい、聞いたかあの話」

「あの話?」

「昨日夕暮れの後くらいかな、暗くなりかけの時に船で港に戻ってくる途中、ミナトの方から炎の塊が船のすぐ傍を通りすぎて行ったって」

「ああ、炎の強力な精霊が、海を渡っていったんじゃないかって言われているよな」

「天変地異の前触れじゃないだろうな」

「……そうでない事を祈ろうぜ」


 などとお話していました。

 間違っても、私です! なんて名乗りあげられませんでした。当り前の話ですが。

 そんなわけでその後しばらく私は、食事の味を緊張のあまり楽しめなかったのだった。






 クロヴィスはさりげなく港町に持っていく依頼を受けていたらしい。

 私も受けておけば良かったのにと思うのだが、後の祭りだ。

 そして店を見て回る前に、その仕事を終えてから店を回る。


 途中、美味しそうな焼き魚が売っていたので買って食べていたのだが、茶色い毛並みのニャンコが物欲しそうに見ているのに私は耐えられず、食べかけの残りをあげてしまった。

 しっぽが二本生えていたので、その内猫耳の男の子になって恩返しをしに来てくれると思う。

 そんなこんなで、ふとゲームで見覚えのあるお店に気付きそこには……。


「これは……」

「パズルのピースみたいだな。あの伝説の神々の片鱗と呼ばれる石板に描かれた絵のレプリカに見えるな」


 クロヴィスに、えっ、そうなのと聞く。

 この世界の秘密に迫る為の重要アイテムだったのだが、すでに集められ、海の向こうの美術館に封印されるようにひっそりと置かれているらしい。

 そしてその絵画の欠片といったレプリカやグッズがそこら中で売られているそうだ。

 

 あ、まずい。このままこのパズルの欠片を集めなければならないフラグ。

 など思った私の不安は杞憂に終わったが、もしかしたらこれを集めたら元の世界に戻れたりするかなと期待して購入する。

 何か奇妙な魔力を感じるし。

 そんな私をクロヴィスは何か思うように見つめていたのだった。



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