表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/55

似ている所

 クロヴィスは気まぐれに、散歩をしていた……ふりをしていた。

 もちろん目的はある。


「それで、何時までそこに隠れてみているつもりだ?」

「……」

「エリに、ずっとお前が付けていた事を教えてやってもいいが、どうする?」


 そこで舌打ちする音がして、ふっと何かが現れる。

 黒いローブを着た、“深淵の魔族”。

 けれどその瞳は睨みつけるようにクロヴィスを見ている。

 それをクロヴィスは嘲笑じみた笑みを浮かべながら、


「この前、城で会った魔族か。同族に襲われた間抜けな、な」

「……お前への敵意があの方にも伝わってしまっただけの事」

「さあ、どうだろうな? 案外何も考えていないだけかもしれないぞ?」


 クロヴィスが軽口を叩くが、その“深淵の魔族”は沈黙する。

 うっすらと額に汗が見えたりするが、そこでこほんと咳払いをして、その魔族は再びクロヴィスを睨みつけ、


「なぜあの、エリ様の傍にお前がいる」

「お前とは失礼だな。だが俺は今、気分が良い。答えてやろう」


 高慢に言ってのけるクロヴィスだが、それに魔族は沈黙する。

 機嫌を損ねて話すのを止められても困るからだ。

 そんな様子を鼻で笑いクロヴィスが、


「逆に考えてみろ。俺の許し無く、この世界にお前達は都合のいい人間を呼べると思っていたのか?」

「! それは……」

「俺がエリを気に入った。だからエリの傍に俺がいる。それだけだ」

「……お前が何かに執着するとは思わなかった」

「そうだな、俺も思わなかった」


 そこでクロヴィスは、時々、エリに見せる様な優しげな笑みを浮かべた。

 それを見て魔族は息を飲む。

 まさかこのクロヴィスがそんな顔をする事が出来るなど思ってもいなかったから。


 何時も高慢で苛立つようなそんな憎い相手で、そんな表情であざ笑うかのように“深淵の魔族”を見ていたから。

 そういった意味でももしかしたなら、エリは“深淵の魔族”にとって、否、この世界にとって……そう思っているとそこで、クロヴィスが何かに気付いたように目を瞬かせた。


「……よくよく見れば、お前は、あのウィルワードと一緒にいた事がなかったか?」

「……珍しくよく覚えていますね。我々“深淵の魔族”等、そういった存在と認識してしかいなかったと思いましたが」

「エリに関する事と、面倒なあれに関する事は覚えている」

「つまり、ウィルワードの言っていたクロヴィスが友人だという戯言は本当だったと?」

「……さあどうかな」

「もっとも、お前は友人だと思っているはずがないと私は思っていたが……」

「友人というよりは、迷惑をかけられていた知人なだけだ」


 クロヴィスが微妙そうな顔をして告げる。

 その答えを聞いた“深淵の魔族”はしばらくクロヴィスを見て、


「……まさかお前が迷惑をかけられる事なんて無いだろう」

「何度も巻き込まれたからな」

「……お前は巻き込まれても無視をしているだろう。我々の事など、どうでもいいのだから」


 けれどその魔族の言葉にクロヴィスは沈黙する。

 その表情は何処か、驚いているように魔族には見えた。

 だがこのクロヴィスがそんな顔をするなんて思わなかった魔族は、見間違えだとそれを否定して、


「その内、エリ様には我々の方に来て頂きます。その時には、彼は、貴方の敵になるでしょう」

「どうだろうな。そんなにお前達に都合よく事が運ぶと思うのか?」

「……運んでみせます」

「そうか、それでウィルワードには会っていかないのか?」


 そのクロヴィスのからかうようなその言葉に、その魔族は答えずにその場を立ち去ったのだった。






 意外に時間がかかっているクロヴィスを待ちながら私は、頂上周辺の砂を集めていく。

 これも爆弾なり、銃なりに必要な火薬の材料になる。


「周りに水があるのにそういった性質があるのはちょっと不思議だよね」


 海の傍でとった砂もそうだったけれど、水の近くでとれるのが元の世界の感覚では違和感がある。

 雨が多い地域では水に溶けて流れていってしまうから。

 ちなみにこの砂にも魔法的な意味で、炎の力が強かったりと、威力が採れた場所で変わる。


 その時点で異世界だなと感じる。

 似ているようで違う世界。

 けれど世界の構造自体は単純な気がする。


 あんな材料を放り込むだけで出来あがってしまうオーブンや機械なんて、私達の世界にはなかった。

 構造が単純だから、あんなに簡単に物が出来上がってしまうのだろうか?

 それとも私がそう思っているだけで、


「私達の世界よりも技術が進んでいるのかな?」


 魔法という選択肢がある分、私達が思い描く世界とは違う進化をしているのかもしれない。

 考えれば考えるほどこの世界は私のいた世界と違う。

 幾つもの顔を持つ物質は、この世界ではもっと少ない顔しか知る範囲では私には見せない。


 そう思いながら傍にあった別の白い砂を採取する。

 “月光の砂”と呼ばれるアイテムだ。

 私達の世界で言うなれば、二酸化ケイ素……水晶が主な成分の砂。


 これを溶かすとガラスが作れる。

 それはこの世界でも同じで、材料の一つだ。

 他にも天然ガラスである黒曜石、昔は矢じりにも使われていたらしいそれは、この世界では“虹の黒曜石”といった名で、水の中から採取される。

 

 確か水草が花を咲かせた後の種がそれだったはずだ。

 そこで私は気づく。


「この世界にある物は、私の知っている知識によって表現されているように、私が聞こえたり見えたりしているだけなのかも」


 異なる世界ならば異なる言語を話していてもおかしくはない。

 なのに意思の疎通が出来るというのは、そういった可能性がある。

 それともこの世界は本当にゲームの世界なのだろうか。


 悩んでいるとそこでお湯が湧く。

 よし、お湯を入れようと思ってから、私はコーヒー粉末にお湯を注いでいく。

 芳しいコーヒーの香りを楽しみながら私は、ふと、奇妙な思いに駆られる。


「私は今、“何に”不安を感じていたんだっけ?」


 そもそもその前に一体何を考えていたのだろうと思いながらコーヒーを淹れていると、私の頭を何者かががしっと掴んだ。


「放せー、放せー」

「……何かに悩んでいるようだったから、試しに掴んでみたがどうだ?」

「むがぁああ、どうしてクロヴィスはこんな意地悪なんですか!」

「エリの反応が面白いからだろうな。そしてコーヒーを寄こせ」

「その前に頭を掴むのを止めてよ!」

「仕方がない、代わりに撫ぜてやる」


 そうクロヴィスが言って、私の頭を撫ぜてくれる。

 その温かさに私は、心地よくなってしまい、不安も無くなってしまう。

 何でだろうなと私がクロヴィスを見上げる様にじっと見つめると、クロヴィスの顔が見える。

 とても優しそうだった。

 不覚のも私は、胸が高鳴ってしまう。と、


「それでコーヒーを寄こせ」

「! わ、分かってる!」


 私はクロヴィスに言われて、もやもやしながら私はコーヒーをカップに注いだのだった。






 帰り道も、途中途中で植物や鉱物を採取した。

 一日で行って戻ってこられるとはいえ、


「この山に何度も登るのは嫌なんだよね。魔物も出るし」

「……エリのためにもここで採取を止めさせるべきか?」

「! もうあまりここに来なくて済むように採取を……」

「それに、エリの杖の妖精リリスが物欲しそうにエリを見ているぞ?」


 そこで私は、私の杖の石の上に乗っているリリスを見る。

 じっと私を見ている。

 その意味が分かっているから、私は先ほどからずっと目を会わせないようにしていたのだ。だって、


「頂上まで登るのは大変だし」

「……とっても気持ちが良かったのに」

「そんな事を言われても、もう下山しないと周りが真っ暗になっちゃうよ」

「……それは分かっているけれど、すっごく気持ちが良かったんだ」


 リリスが不貞腐れる様に、私に言う。

 どうやらリリスにとってのあの泉は、私達にとっての温泉の様な物らしい。

 でもあまり長くつかるとのぼせてしまったりしないのかな、と私は思う。それに、


「だったらこんな高い所で無くとも、今度は皆で、家からは少し離れた場所だけれど温泉があるから、そこに連れて行ってあげるよ?」

「温泉……」


 リリスは真剣に悩みだした。

 やっぱりタマとの事で疲れているのかもしれない。

 それに私も温泉には一回いっておきたいと思う。


 丁度、家にはフィオレ達もいるので皆でそこに向かうのも楽しいだろう。

 なので、温泉に心惹かれているらしいリリスは、落ちるのは時間の問題だと思って放置し、代わりにクロヴィスに、


「クロヴィス、近いうちに温泉行こうよ!」

「温泉か……確かに気持ちが良いかもしれないが、確かまだ戦闘の依頼が」

「あ、後いくつあるのかな?」

「依頼の期限はまだ先だから、温泉に行く時間くらいはあるだろうな」

「い、意味深に言わなくたっていいじゃないか! でも、だったら明日とか行けないかな、皆と」

「……そうだな、それもいいかもしれない。確か“タケノコ温泉”だったか」

「うん、混浴もあるらしいし楽しみだな~」


 少年向け漫画にありそうなハプニングでもあるのかとふと私は思ったが、今まで温泉に入ってそんな事はなかったと気付いて私は安堵した。

 でも、クロヴィスもこうやってokを出してくれたので、行く事はできそうだ、あとは、


「フィオレとライだね。どうせ“星語りの花”の影響で私の大勝利が確定しているけれど、疲れていそうだから丁度いいかも」


 あの二人はかたくなに認めていないが、私の左右であれだけああだったのだ。

 きっと今頃は、その事実にうちしがれている事だろう。

 そう私は計算して、明日は皆で温泉に行けるかなと、楽しみになりながら山を下りていく。


 そこで先ほどの水の噴き出す場所にやってきたので、再び水を汲む。

 その見にくい場所にはやはり洞窟がある。

 ここのイベントは何時ごろになるんだろうなと思っているとそこでクロヴィスが、


「どうしたんだ? エリ」

「ん? 何でもないよ」

「……エリ」

「何?」


 その時クロヴィスは、珍しく不安そうに私を見ていた。

 どうしたのだろうと私が思っているとそこで、その不安そうな何かは消えうせて代わりに私に微笑み、


「逃げられると思うなよ?」

「! ……わ、私は戦闘なんてせずに家の中に閉じこもっていたいんだ!」

「……そうだな。だがもう一度言う。俺から逃げられると思うなよ?」


 その言葉に私は、その内絶対に出し抜いて逃げてやると決めたのだった。







 家に帰ってきた私は、必死にフィオレを後ろから羽交い絞めにして止めるライを真っ先に見た。

 

「は、放すんだライ! 私は私はもう、ストレスが酷過ぎてお菓子を作るしかないんだ!」

「き、気持ちは分かるけれど駄目だってフィオレ! 私だって絶望したけれど、そんな形でストレスを発散しようとは思わない!」

「い、今なら素晴らしいお菓子が出来そうな気がするんだ! 否、きっとできる!」

「それは絶対に気のせい……エリ、帰ってきたんだ」


 そこでフィオレとライは私達の存在に気付いたようだ。

 そして私も、ぎりぎりの所で帰ってこれて良かったと思う。

 涙目で顔を真っ赤にしている二人を見て大体状況が分かった私は二人に、


「チーズケーキを一人一つづつ、それで良いかな?」


 私がフィオレとライに問いかけると、二人は一瞬黙ってから頷く。

 そこで先ほどまでやけに静かだなと思っていたら、タマは窓辺で日向ぼっこをしていて今起きたばかりらしく、


「僕もチーズケーキが食べたいにゃ~」


 そう鳴いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ