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食べ物にばかり

 更に歩いていくと、気付けば随分と川沿いばかりを歩いている気がした。

 所々に花畑や食べられる草や果実が実っている。

 こっちの方もその内採取してこようと思う。


 特にこの水際に生えている白い花は、山葵の様な香りがするらしい。

 サラダにしても美味しいと書いてあったので、ちょっとだけもらっていこうとブチブチ摘んでおく。と、


「そうやって食べ物にばかり気を取られていると、野宿だぞ?」

「わ、分かってるよ! そんなに食べ物ばっかり……あ、あんな所に“森タケノコ”が! ……うう、そんな冷たい目で見なくてもいいじゃん」

「別に野宿をしたいのなら俺は構わないが?」

「うぐ……クロヴィスだって食べているくせに。あ、そうだ、そろそろお昼にしない? 今日は色々いい物を持ってきたんだ!」


 そこで私の腕が掴まれてクロヴィスが歩いていってしまう。

 何でも私の相手をしていると本当に野宿になるからとの事らしい。

 でもせっかくのお弁当と私が呟くと、


「そうだな、この水が噴き出す所まで行ったら食事だ。それまでには幾つか戦闘もあるだろうしな」

「いやぁあああああ」


 悲鳴を上げる私の前に、兎の魔物が現れる。

 名前はもこもこ兎。

 ふわふわとして、私の身長よりもちょっと低いくらいの兎だ。


 確か倒すと謎の肉に……ではなく、兎の毛をくれたはずだ。

 その毛を使って糸をつむいで布を織ると、真っ白で柔らかく保温性抜群の布が出来るのだ。

 他にも布団に入れたり色々と用途があったりする。


 しかも小さく丸まった状態で渡されるのだけれど、それをお湯に入れるともこもこと膨れ上がり、数百倍の大きさになるのである。

 それがこの、もこもこ兎の名前の由来だ。

 ただ、火炎攻撃の場合その毛を出す前に、それが燃えてしまったりするのでこの魔法は使えない。


 だから杖を振りあげて私は風系の魔法を選択しようとして、そのまま私は兎にのしかかられた!


「やめっ、やぁああっ、ぺろぺろして、やだぁああ」

「あー、そういえば、今の時期このもこもこ兎は特に発情して、種族関係なくそういった意味で襲いかかるんだが……」

「のほほんとした口調で解説してくれなくていいから助けてぇええ」

「仕方がない、ほらっ」


 そこでクロヴィスが剣を薙ぐと、自身の毛でそれを防いでしまった兎が何かを落として逃げていく。

 白い毛糸が丸まったような物体。

 これが兎の毛である。


「それはエリにやる。たいしたお金にはならないが、材料としては使えるだろう?」

「う、うん、ありがとう……」


 時々クロヴィスは妙に私に優しい事がある。

 そもそもこうやって一緒にいてくれるのも、クロヴィスの好意でしかない。

 それとも何か裏があったりするのだろうか。

 私がふと不安に駆られてクロヴィスを見上げるとクロヴィスは笑い、


「今回は助けたが次の敵は一人で倒せよ?」

「う、うぐ……分かった」


 そしてお昼を食べるための水の噴き出す場所に行く頃までに私は、10匹以上の魔物を仕留めたのだった。






 もうすでにへとへとになりかけていた私は、ようやく川の源流であるらしい場所にやってくる。

 水しぶきが飛び散り、空からは霧の様な物が舞い降りている。

 その水の噴き出した後は小さな滝になっており、その裏にはここからは見えないが洞窟になっている。


 一応イベント用の場所なのだけれど今日は行かないようでほっとした。

 そこでふと誰かの視線を感じるけれど、周りを見回しても特に何もない。

 敵のいる様子もないし人影も見当たらない。


「よし、お昼だ! 今日は燻製の物を一杯作ってきたの、クロヴィスも食べよう!」

「エリは本当に食い意地が張っているな」

「……く、そんな余裕も今のうちだ。今日は幾つも美味しい物を持ってきたんだから!」


 そう私は言いながら、私はサンドイッチを取り出した。

 ゆでた卵サンドである。

 しかもそれを殻をむいて、燻製にしてからマヨネーズ等とあえて、サンドイッチにしたのだ。


 早速口に頬張ると、かすかに燻製の香りがして美味しい。

 それと一緒に、燻製になったナッツやクリームチーズを取り出す。

 どちらも事前に作っておいたので、香りが素材に馴染んでいる。

 一晩置いて冷めたほうが、燻製の香りをより楽しめる感じがする。と、


「へー、美味しいな」

「でしょう! というわけではい、お茶」


 クロヴィスにお茶を渡す。

 そんなこんなで、温かい日差しの中、私達は昼食を終えたのだった。






 楽しい昼食が終了した。

 折角なので幾らか吹き出したばかりの水を採取する。

 後でこの水を使ってコーヒーか紅茶でも淹れようと私は思ったのだ。


 山頂でそういった飲み物を飲むのも最高だろうなと。

 頂上にある水溜りは、“毒”が混じっているわけではないけれど、飲むには少しきつい水だから。

 なので水をここで汲んで持っていく。と、


「エリ、早くしろ。でないと本当に野宿になるぞ?」

「わ、分かってる」


 そしてここからが、山道だった。

 周りに木々が生い茂り、その山道に向かって青い空を覆い隠すように茂っている。

 けれど歩き続けていると、段々と木々が低くなってきて、やがてぱっと視界が開ける。


 森林限界だ。

 低木や高山植物が生い茂るその場所にやってきた私は……すでに疲れ果てていた。


「はあはあはあはあ、途中に“満月環熊”とか色々な魔物が……しかもここまで来るのすごく大変だったし。でもここまできたし後はそんなに危険な物はでてこないよね。折角だから、高山植物とか材料になりそうな物を……ぐえっ」


 私はそこで襟首をクロヴィスに掴まれた。

 私が涙目でクロヴィスを見上げると、


「いい加減脱線するな。依頼の相手を倒したら好きなだけ散策すればいいだろう」

「で、でもここよりもっと上は、植物も生えない石だらけの場所だし……あ、でもその石も利用価値はあるんだけれど……」

「そうかそうか。じゃあ先にその依頼の敵を倒してから探そうな。というよりは……よく知っているな。ここの山について」

「き、聞いただけだもん。そ、それに他にもこんな山があるし」

「へぇ、何処だ?」

「そ、それは……」


 私は焦る。

 だってそんな山、ここ以外に私はゲームの中でも知らない。

 ど、どうしようかなと私は思いながら、


「“ふ、フジ山”」

「フジ山? そんな山がエリの知っている所にあるのか?」

「う、うん……」


 つい適当に、日本で一番高い山を行ってしまった私。

 そもそもこの世界の山じゃない。

 もう少し何か考えられなかったのか私は……と思っていると。


「元をただせば魔力なんだからそこから作ったらどうだ?」

「そんなに簡単だったら、苦労はしないと思われ」


 そんなシステムゲーム内に組み込まれてないし。

 でももしやそれに似た異世界なのでそんな素敵機能があったりするのだろうかと私が思っていると、クロヴィスが意地悪く笑った。


「そうだろうな。魔力から直接この世界の物を作る力は、まだこの世界の人間達は持っていない力だからな。各々が植物なりなんなりに作り替えた物を人間は利用するしかない状態だから、当然だな」

「何でわざわざそんな意地悪を言うの」

「ん? そうだな、兎を罠にかけたらどうすると思う?」


 そう今度はクロヴィスが私に関係ない事を聞いてくる。

 今の話に何の関係があるんだと私はむっとしながら、


「兎は、食べるために取るんだと思う」

「だろうな」

「その質問の意味は?」

「言ってみただけだ」


 私はまたしてもクロヴィスにからかわれたと頬を膨らます。

 そんな私を意味深にクロヴィスは笑いながら、私を山頂まで連れていったのだった。






 見事に石だらけなのに、その中で山頂から水が噴きあがっている。

 透明で綺麗な水なのだけれど、魔力濃度が濃くて飲むと体にさまざまな変調をきたす。

 例えば猫耳が生えたりとか、兎耳が生えたりとか、犬耳が生えたりとか、体が変に疼く媚薬効果があったりとか……。


 その日その日の湧きでる水の魔力濃度が変化し、それの影響による物だった。

 ちなみにゲーム内では汲みだすたびに水の性質が変わっていたが。 

 それはさておき、そこに鎮座する水鳥。


 ただ鳥といってもいいのか分からないくらい大きい巨鳥である。

 名前は“ドミドミ鳥”。

 私の身長の三倍くらいある。

 もはやこれは怪獣といってもいいのではないだろうか。


 そこでその鳥は、白と茶、赤の入り混じった翼を大きく伸ばして、


「くえぇええええええ」

「うわぁあああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 私は大きな声で鳥に威嚇されて即座に謝ってしまう。

 そんな私にクロヴィスが、


「謝っている暇があるなら魔法を使え、ほら! 飛ぶぞ!」


 再び私を威嚇した鳥が空高く舞い上がる。

 そのまま特攻攻撃を仕掛けてくるのを私は知っている。

 そのダメージが結構、冗談にならないくらいに高い事も。


 だから私は防御の結界を張る。

 風の力の高い“ドミドミ鳥”なので、私も同じ風の魔法の結界を張る。

 同じ属性の魔法同士がぶつかり合えば、強い方が勝利するのが道理!


「“風のウインド・シールド”」

「ぐぎゃあああああ」


 そこで体当たりしてきた“ドミドミ鳥”が私の作りあげたその壁にぶつかる。

 自分の全ての力をかけて突っ込んできた反動が、その鳥に直接戻ったせいなのか悲鳴を上げてずるりと私の目の前に落ちてくる。

 そしてそのまま光に包まれて、ふっと消えて変えて大量の羽毛が……。


「あ、あれ、倒したのかな?」

「そうみたいだな。証明用に幾つか持って、ギルドに後は向かえばいいな」

「う、うん……随分とあっけないね」

「それだけエリが強くなったんだろう。さて、それでどうする? ゆっくり採取していくか?」


 そう私は言われて、どうしようかと迷ってから……。


「その前にクロヴィス、ここでお茶をしていこうよ。眺めもいいしね。さっき途中で水を汲んできたから、美味しいお茶とコーヒーが飲めるよ?」

「エリは本当に食べる事が好きだな」

「む、そういうとクロヴィスの分は作らないよ?」

「はは、俺はコーヒーが良い」

「分かった、じゃあ早速作るね」


 と言って私は、外で使える調理セットを取り出す。

 とはいえお湯を沸かすだけでいいので結構楽だ。

 用意をしてお湯が湧く間ある事を思い出したので、すぐ傍の怪鳥のいた泉に杖を漬ける。

 

 すると魔石の部分からしゅるしゅるとリリスが幸せそうな顔で出てきて、


「気持ちが良い~、生き返るぅ~」

「確か杖をつけると魔力が強化されたり色々付随効果もupした気がしたから。気持ちが良い?」

「うん、ふわぁああ」


 とても気持ち良さそうなのでしばらくリリスはゆっくりさせる事にした。

 ちなみにクロヴィスは今周辺を見てくると言ってここにはいない。

 コーヒーが出来るまでには帰ってくると言っていた。


 早く帰ってこないかな、と私は思いながら周りの景色を堪能してぼんやりしていたのだった。


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