来れてよかったか
私は、クロヴィス腕に抱きつくようにしてその場を歩いていた。
もちろんクロヴィスが逃げないようにである。
私ばかりが大変な思いをするなんて、嫌だからだ。
けれど、クロヴィスは何処となく嬉しそうである。
何でだろうと思っているとそこで、蜥蜴の様な魔物が現れる。が、
「げし、ぼこっ……次に行くよ」
食べかけのクッキーを片手に、ライが一撃に葬り去る。
そんな感じなので、私の出る幕がない。
かといって、帰ったりも出来ないので私は非常に困った。
どうしようかなと私が思いながら私ははっと気付いた。
「フィオレ!」
「何だ?」
「今日のお昼、何が食べたい?」
「……そうだな、“うねうねホウレン草とミギー豚ベーコンのキッシュ”かな。ほら、最近町の入り口近くにできた新しい店の」
「……確か、蒼い看板の?」
「そうそう、そこで売っている揚げドーナツも美味しいらしいよ? 何でも、ただの砂糖が振ってある物と、シナモンが入った物、チョコレートがかけられた物があるそうだ」
「お、美味しそう……」
「しかもそのお店で売っているポテトをあげた物には、ディップが一つついてきて、それが日替わりの物とその他にも……」
「二人とも、そんなに楽しそうにお昼の話をしないで」
そこでライが私達にそう告げる。
なので私はフィオレと顔を見合わせて、こくりと頷いて、
「そういえばそのすぐ傍にある、スープのお店も人気があるみたいだった。以前歩いていたら人が行列をしているのを見たから」
「! そういえばあそこ、何時も並んでいたな。確か、好きな焼きたてパンがセットになっていたはず。スープも日替わりで三種あって、毎日食べても飽きないように工夫をしているとか」
「そうなんだ、そこもいいな。あ、でもその隣には、手作りピザとバイキングがセットになったランチをやっているお店があったよね」
「ああ! あそこは美味しかった。ピザも5種類くらいあって、私が食べたのは、トマトソースの基本のピザだな。やはりシンプルだからこそ実力が出る。凄く美味しかったな……」
「いいな、バイキングはどんなものがあったの?」
「サラダ類も数種類あったし、デザートだって、ケーキからゼリー、フルーツまで何でも食べ放題だった。だからすごくお値段の割にお得だったかな~、ちらっ」
「へ~、美味しそう、私もそういった所に行きたいな~。ちらっ」
私はフィオレと一緒に、ライを見た。
もう何匹も魔物を倒したし、そろそろ気分が晴れていないかなというのと、ライもお腹が空いていないのかなと思ったので。
そんな私達をライは無言で見つめてから、
「……分かった。私もお腹が空いたし、食事に行く」
「「わーい」」
私とフィオレは、片手を打ち合わせて喜びの声をあげた。
けれどそこで、ぼこりと地面が盛り上がり、何かが顔を出す。
それは巨大な蜥蜴で、私達をじっと見つめている。
これはライの手に余るかなと思って私は、魔法を使おうとするけれど、そこでライが、
「ラ~~~~~~♪」
歌った。
こんな状況で何をやっているんですかと私は思っていると、そこで……大きな蜥蜴の頬が赤くなった。
そんな大きな蜥蜴にライは、
「今日は見逃してくれると嬉しいな」
「……コクリ」
大きな蜥蜴が頷き、そのまま土の中に戻っていく。
もしかしたなら、ライは魅了の声を使って、魔物を操ったのかもしれないと私は思ったけれど、フィオレがそばにいて、フィオレは何も言わないので私は何も言わない。
そんな私達にライは振り返り、
「さて、帰って、飯を食べようか」
そう私達に、楽しそうに微笑んだのだった。
こうして街に戻ってきた私達。
食事の時間をほんの少しずらしていた、正確には遅かったので行列は出来ていなかったけれど。
「お昼休みに入っちゃったみたいだね」
私達はバイキングのお店にやってきて、お昼休みとかかげられた看板を見てそう呟く。
もうちょっと早ければ良かったなと思いつつ、他の店に向かう私達。
けれどそこも休みで、どうにかちょっと長めにお昼をやっているお店を見つけてそこに入り込む。
ただ、もうお昼の時間も遅かったせいか、ランチメニューが幾つも売り切れていた。
残っていたのは二つ。
「ランチプレートAにしようかな。デザートに、“太陽の欠片のサクランボ”で作ったジュレが出てくる。あと好きなジャム……コンフィチュール? を選ぶらしい」
ジャムらしきものに何故か、コンフィチュールとふり仮名が振られている。
発音がおしゃれな感じなのでそうやって同じものを売り出す戦略……あるあると私は思いながらも、風リンゴとシナモンの様な物が混ざったジャムに決める。
そこでフィオレとライが、
「私はこの、酸味の強いキールの果実の物にしようかな。あ、ランチプレートはBかな」
「うーん、私はランチプレートA、ジャムはこれかな」
「皆決まったんだ。クロヴィスはどれにする?」
それに、すでにメニューを見ていないクロヴィスに私は聞くと、Bだと答える。
そしてすぐ様注文した。
店内は人がまばらだったので、すぐに料理が運ばれてくる。
こんな時間まで何も食べれなかった私達は、とてもお腹がすいていたのですぐ様それを全て食べ上げてしまう。
鶏肉のソテーや、粉チーズの様な物がかかったサラダ、パエリアの様な物などが一皿に綺麗に盛られていて、目で見ていても綺麗だなという物ではあったけれど、それよりも食欲の方が勝ってしまったのだ。
けれど、それでも一番食べるのが早かったのはクロヴィスだった。
夢中で私は食べていたはずなのに、よーしデザートだと思っていたら、クロヴィスはすでに全てを食べ終わっていた。
何だか悔しくてじっとクロヴィスを見ていると、
「どうしたんだ? エリ」
「クロヴィスが食べるのが早いから、ずるいと思っただけだ」
「そうか、それはつまり、そのデザートを俺に食べて欲しいという事か?」
「わ、渡さないから! ぱくっ」
慌てて私はジュレを一口で食べてしまう。
とろりと口の中で溶けるジュレに、果肉が舌の上で踊る。
凄く美味しいデザートだった。
幸せだなと私が顔をほころばせているとそんな私を見て、クロヴィスが、
「エリは幸せそうな顔をするな」
「うん、だってすごく美味しいし。幸せだよ」
「……ここに来れて良かったか?」
「うん、ここの料理は美味しいからまた来たいかも」
「そうか……良かった」
クロヴィスが、何か含みがあるように言う。
けれど私は何でだろうと不思議に思っただけでそれ以上追及しない。
他の二人も特にその会話に疑問を持っていなさそうなので、私の気のせいかと思う。
そんなこんなで私達は自分の家にようやく戻ってきたのだけれど……。
家に戻ってきた私は、いきなりリリスに抱きつかれ、
「も、もうこんな風になるくらいなら、エリを襲ってや……うにゃああ、らめぇえええ」
リリスが喘いだ。
周りを見回すと、部屋の奥の方でぶるぶる震える杖を押さえつけて、タマが何かやっている。
そんなタマから杖を取り返して、タマにあまり好きな子を苛めちゃいけないよと私がタマに言うと、
「にゃーん」
そう、タマはとても良い笑顔で私に鳴いたのだった。
さて、そんなこんなでアンジェロが持ってきたアップルパイを切り分けて、それと一緒にお茶を頂く。
折角なので別の甘いデザート? の様なものを小さな入れ物に入れて用意してみた。
ずばり、この前の“星語りの花”から集めた香りの良い蜂蜜に、ハーブやナッツを入れた蜂蜜漬けである。
黄金色のナッツが沈んだ蜂蜜の小瓶から、私がいた現実世界にあったような様々なナッツを取り出す。
特に私がお気に入りなのは、マカデミアナッツ!
世界で一番固い殻に覆われたナッツだけれど、こちらの世界では“岩石ナッツ”と呼ばれていて、取りだすのがとても大変だ。
けれどそのナッツは、旨みがぎっしり詰まった美味しい物で、そして割るのが大変なのでお値段も高い。
でもいいのだ、美味しのだから。
ただこれは作ってから1日程度しかまだ経っていないのが私には気にかかる。
現実世界では一週間置いても、蜂蜜を絡めたようにしかならず、一ヶ月置くとナッツに少し蜂蜜が入り込んで、ぐんと甘くて美味しくなる。
どうだろうと思って、作った人の特権、“味見”をする。
凄く美味しい、程よくナッツに蜂蜜が染みている。
これは紅茶にもヨーグルトにもパンにも合いそう、そう機嫌良く私は小皿にナッツを移して持っていく。
それを全員に渡してから、今度は貰ったアップルパイを切る。
網目状に付けられたパイの下には、黄金色のシナモンと蜂蜜、バターの香りがする柔らかくてジューシーなリンゴがぎっしりと詰まっている。
美味しそうなアップルパイだなと思いながら切り分けて全員の前に置き、紅茶を配る。
タマの分も。
リリスには、ナッツとハーブの香りが移った蜂蜜を、妖精用の小さなカップに入れて渡すと、
「わー、凄くいい香りがする。花の香りとそれにハーブも……美味しい!」
「良かった、気にいってもらえて」
「よし、やっぱり……うにゃ~!」
そこでリリスが悲鳴をあげた。
見るとすぐ傍でタマがまた杖を舐めている。しかも、
「なんだかいい花の香りがするにゃ~、ぺろぺろ」
「もしかしてリリスが食べた味に、この杖はなるのかな?」
「ふえええっ、もう、冷静に言っていないでっ、助けてぇえええ」
悲鳴を上げるリリスに私は、慌ててタマじゃら杖を取り上げて、
「タマ、ナッツはここにあるでしょう?」
「……にゃーん、仕方がないのでこれで我慢するにゃ」
そうタマはナッツやアップルパイを食べて、嬉しそうだ。
ちなみに今、タマは人型になっているが誰も気づいていないようだ。
やっぱりこのタマは……そう私が思っていると、そこでフィオレが、
「このナッツの蜂蜜漬け、凄く美味しい。後でレシピを教えてくれ。……以前、売っている物を購入していたが、ここには売っていないからな。それにこの微かな香りが良い」
「うん、でもこの蜂蜜の影響もあるだろうから、後で幾つかあげるよ」
「ありがとうエリ」
そこでライが、
「私もその蜂蜜を分けてもらえるかな。それとレシピ教えて欲しい、美味しいから」
「うん、良いよ。じゃあ、あとでメモ書きしておくね」
そう言いながらも今度は、フィオレはアップルパイに口を付ける。
アンジェロが持ってきたものなので睨みつけて、一口。
「……私の好きな味付けだ」
「そうなんだ、良かったね。アンジェロはフィオレが大事なんだね」
「……」
沈黙しながらも黙々とフィオレがパイを口にする。
それを見ながら私達も口にする。
何となくそこで私がクロヴィスの方を見ると、機嫌が悪そうに見える。
なのでじっと私が見ていると、
「なんだ?」
「機嫌が悪そうだからどうしてかなと思って」
「別に……さて、この後はまた戦闘の依頼を探しに行くか」
「行かせて堪るものかぁああああ」
そこで、また新しい依頼を増やそうとしやがったクロヴィスの服を、私は一生懸命握りしめる。
そんな私を楽しそうにクロヴィスは見ていたのだった。




