合流しました
途中、魔物と遭遇したりする。が、
「ほら、行って来い、エリ」
「う、うぎゃああ、クロヴィスが手伝ってくれてもいいのに! この……“炎の円環”」
輪っかになった炎が三つほど杖から飛び出して、現れたネズミに蝙蝠の羽が生えた魔物に絡みつき燃やして滅する。
大分魔物が現れても、焦ることなく魔法が使えるようになっている気がする。
だが油断は禁物だ、だってそれが命取りになるかもしれないのだから!
そこまで考えた私はある事に気付いた。
つまり、私は今、戦闘にとても慣れてきているわけで……そこで。
「ふむ、大分、エリも戦闘に慣れてきたな。このまま敵を見つけるや否や、喜んで倒しに行くくらいの戦闘狂になれば、一人前の魔法使いだな」
「いやいやいや、それ、多分、魔法使いじゃないと私は思います」
「そうか? 今まで俺が出会った魔法使いは、魔物を見つけるや否や歓喜の雄たけびを上げながら倒しに行っていたぞ? アイテムを寄こせー、と叫んだりしながら」
「……多分クロヴィスが出会った魔法使いが特殊だったのだと思う。フィオレはそこまでじゃないし」
「いや、フィオレにもそういう傾向はあるぞ」
「……いやいや、そこまででは……」
「それにまだフィオレは、厳密な意味での魔法使いではないからな。エリもそうだが」
そう言われて私は、確かに魔法使いには分類されるけれど、まだ厳密な意味では“魔法使い”ではないと気付く。
その“魔法使い”になる為に今は頑張っている設定なはずなのだ。
だがそこである危機的な事実について私は気づいた。
「もしかして私が本当に“魔法使い”になると、そんな風になっちゃうってことかな?」
「そうじゃないのか? ……まあ、ウィルワードみたいな変な魔法使いもいるからな……一概にそうとは言えないか」
「そうなんだ、じゃあ私は、ウィルワードさんみたいになるように頑張ればいいのかな」
何処となく温厚そうなあの、ちょっと抜けている魔法使いを思い出す。
ゲーム内でも優しそうな人物だったし、あんな風になるなら良いなと私は思った。
だがクロヴィスは違うようで、私の肩を掴んで、
「エリ、それだけはやめておけ」
「え? でも優秀な魔法使いなんでしょう?」
それを聞いたクロヴィスが、深々と嘆息してから、
「優秀だが、斜め上方向過ぎてあまり関わり合いたくない。むしろああいう風になるな」
「! クロヴィスが弱っている! つまりウィルワードさんみたいになれば、クロヴィスに私は勝てる! そして戦闘をせずに引きこもれる!」
そこで、何処か怒った様なクロヴィスに、
「ウィルワードのようになったら、エリを快楽的な意味で調教するからな」
「! 何で!」
「……いい事を教えてやろう。エリは触手やスライムが苦手だったな」
突然違う話しを振ってくるクロヴィスに私は、当然じゃないかと思いつつ周りを見回した。
どうやらこの遺跡にそういったものはいないようだった。
良かったと私が安堵していると、
「今回のスライムの異常発生は、恐らくウィルワードが関わっている」
「まさか! スライムが増えやすくなる薬を撒いたとか?」
何で人間の魔法使いが、魔物の増える薬の作り方を知っているんだと思って、私はそこで気付いた。
あの塔の主は“深淵の魔族”と関わりがあるらしいという設定があったはず。
あれっと私が思っているとそこでクロヴィスが、
「大方、邪魔だからと森にそういった増えやすくなる効果の薬を捨てたんだろう。きちんと処理をしないで」
「……不法投棄」
「何時もそうだ。その手伝いに俺はあいつといると駆り出される。少しは迷惑を考えろと言いたい」
「! クロヴィスがおされている! よし、私もあんな風になれるように頑張……りませんのでよろしくお願いします」
「……いい子だ」
そう、怖いくらいの笑顔で私を見たクロヴィスに、怯えた私は素直に頷いたのだった。
そんなこんなで記憶にあるゲーム内のマップを参考に、私は進んで行く。
とはいうもののこの犬の道具に頼りっきりの状態ではあるけれど。
何故って、私がフィオレ達と早く会いたいからだ。
だって、次から次へと魔物が出てくるのである。
クロヴィスも手伝ってくれているが、それでも私が主導のままだ。
だから攻めてタマくらいは味方に欲しいなと私が思うのは当然だと思う。
それにまた石板を見つけてしまったのだ。
あれのイベントは主人公キャラの秘密の血筋が影響して、最後はクロヴィスと対戦する為にある装置を起動させるのに必要な道具なのだ。
実はあのラスボス戦でも、ゲーム内ではクロヴィスは力が抑えられた状態だった。
人間や“深淵の魔族”が秘密裏に作りあげていた装置を開く鍵がその石板なのだ。
ただ途中、というか段々とクロヴィスに対する脅威を忘れて、それよりも日々の生活と権力闘争を主として行うようになってしまったり、“深淵の魔族”と人間とが決別(一部では関わり合いがある)状態になってしまったりなどの歴史的な背景もあって、その装置は使わなくなってしまったのだ。
そして歴史の闇の中に消えていったはず。
ただこの世界はゲームに似ているだけで、少し違うので設定も違うのかもしれない。
ちなみにこの石板は伝説の神々の片鱗と呼ばれる石板に描かれた絵と言われているが、絵画ほどに彩り豊かなものではなく、真ん中に赤と青の石がついた白い歯車と黒い歯車の絵が描かれているだけだ。
その歯車も、白く大きな歯車とそれよりも一回り小さい黒い歯車がかみ合っているだけの物だ。
そんな簡素な石板が何故、伝説の神々の片鱗と呼ばれているのか。
まずこの歯車の白い物はこの世界の神を指し、黒い方が魔王を示すという。
そして“深淵の魔族”にとって魔王は、“神”に近い物であるらしい。
また、この歯車は“運命を回す歯車”という意味を持っているそうだ。
ただそれがどうして二つ、相反する者が描かれているかといえば、二つ揃わなければ運命が回らないから、らしい。
これらが設定にあったはずで、それを知らず知らずに主人公が集めて……という話だった。
けれど、その本体は海の向こうの博物館にあり、ここに転がっているのはレプリカのはずなのに、奇妙な魔力を感じる。
不安を感じるものの、集めるしかないのは私がこの世界の人間でないからだ。
ヒントになるならばという気持ちで私は集めている。
いずれ“深淵の魔族”達とも接触する事になるかもしれないなと思って、その時にタマの正体は分かるかもしれないなとそこまでぼんやり考えた所で私は、崩れた壁が塞ぐ道に辿り着く。
使った人形の犬が、わんわんと二回叫んで子手っと転がる。
ありがとうと小さく呟いて大事に人形を私はしまってから、崩れた壁の様子を見る。
土砂も入り込んでいるが、確かこの辺だったかなと思ってみると、風が吹き出してくる場所に気付く。
そこで声が聞こえた。
「おい、駄目猫、勝手に走るな!」
「にゃーん、私は強いので大丈夫ですにゃー、にゃあ!」
「きちんと前を見て走れ! だからこんな行き止まりにぶつかるんだ!」
どうやら丁度この壁の向こうにフィオレ達が来ているらしい。
そしてこちらからあちらの声が聞こえるという事は、こちらの声もあちらに届くことを意味するので、
「フィオレ、無事だったんだ!」
「エリ? クロヴィスと一緒か?」
「うん、そうです」
「ではここの壁を吹き飛ばすから、下がっているように!」
待って下さい、もっといい方法がありますと私が言い返そうとするとそこで、私はクロヴィスに襟首を掴まれてそのまま下がらせられて……同時に、轟音と共に、こちらに土が吹き飛んでいく。
クロヴィスのはった防御の結界と、壁際にクロヴィスが庇うようにしてくれていたので私は安全だったのだけれど……大きく穴を開けた壁。
その土ぼこりが舞うのが止むと、笑った得意げなフィオレの姿が見える。
やっぱりこの魔法使いも、戦闘狂なんだと私は思ったのだった。
ようやく私達はフィオレに会えた。
ただ血の気が多すぎるようなそんな雰囲気に私はびくっとしてしまうがそこで、
「エリ~! 会いたかった~」
「にゃーん」
妖精のリリスと、猫のタマが私に抱きついてくる。
何故かタマはネコ耳な人型になっていたがそれはいいとして。
「みんな無事だったんだ、良かった」
「そちらも、そうみたいだな。まあ、クロヴィスがいるから大丈夫そうだけれど……こっちは今回この駄目猫のおかげで助かった」
「そうなんだ、タマ、偉いね」
「にゃーん」
そんな得意げなタマの頭を私は撫ぜる。
猫耳がピコピコ動いているのが、物凄く触りたい衝動にかられるけれど、必死で私は我慢した。
さて、そんな私達だけれど、このまま外に出ようと提案した私だけれど、そこでフィオレが、
「エリ、この遺跡はあまり人が来ていなさそうだ。偶然にもこんな素晴らしい場所に出たならやる事は一つだろう!」
「え? でも出口を探して脱出した方が……それから装備を整えた方がいいのでは?」
「常に何事も対処しておけるように装備をしておくものだ! 魔法使いならば!」
「いえいえ、まずは自分の身の安全の確保からです!」
「ふん、そうやって戦闘からまた逃げるのか? エリは」
「いえ、そういうわけではなくてですね、まずは安全を……」
そこで私の肩をクロヴィスが叩いた。
なのでそちらの方を向くと、人差し指がたてられていて、その指に頬がぶにっと当たる。
「エリは単純だな」
笑うクロヴィスに私は半眼で、
「こんな事をするためにわざわざ私の肩を叩いたのか」
「いや、面白そうだったからな」
「この……」
「とはいえ、今回は俺も戻るのに賛成だ。実はこのスライム狩りの依頼は今日が締め切りだったから、あまり遅くなっても困る。特にここは地上から離れているから……時計はもっているか?」
それに私は首を振り、フィオレも横に首を振る。
どうやら全員、今日はもっていないようだった。
それを見たクロヴィスが小さく笑い、
「だからここに入ってどれくらい経ったのか分からない以上、早めに出た方が良い。それに夜になると魔物の動きも活発になるから、視界が悪い上にスライムに徹底的に襲われるという悪循環に……」
「ふむ、それでは仕方がない、戻ろう!」
フィオレが真っ先に声をあげた。
今回のスライムを倒す依頼で、色々懲りたらしい。
けれどこれでもう家に帰れるんだと私が喜んでいるとそこでフィオレが、
「それでどうやって出口を探す?」
「あ、それは……」
とても良いアイテムがありますと言おうとした所で、タマが、
「出口はこっちにゃ」
「あ、タマ!」
そう言ってタマが走りだすので私達はそれを追いかけていく。
フィオレは猫だからそういった出口の匂いが分かるのかと呟いていたけれど、本当にそうなのだろうかと私は疑問を持つ。
もしかしてタマはこの遺跡に来た事があったり、知っていたのでは、と思ってしまう。
けれどそれを聞く勇気は私にはまだ無くて、タマに案内されるまま出口に向かう。
ただこの時私はある事を一つ忘れていた。
そしてそれを思い出すのはそれと遭遇した時、つまり、
「がぁあああああああるるる」
出口である場所、外の光が見えてきたと思ったその時、それは獣の咆哮の様なものをあげて私達の前に姿を現したのだった。




