廃墟
そんなこんなで、スライムを退治しに頑張った私。
しかし、このスライムの量は、
「この前来た時はこんなんじゃなかったのに、何でこんなにスライムがいるんだろう」
以前あの、地下に封じられていたらしい塔に向かった時は、こんなにスライムはいなかった。
なのにすでに私は二回、フィオレは1回着替える羽目になっている。
油断しているから、それだけを聞いたならそう答える人もいると思う。だが、
「何で警戒しているのに、私の死角を狙ったかのような場所から襲ってくるんだろう」
「それだけ、エリの魔力がスライムには美味しそうなんじゃないのか?」
「そんな!」
クロヴィスが適当な推測を私にぶつけてくる。
そんなスライム好みの魔力であったたまるかとか、そうなってくると私が触手に襲われるのも実は彼らにとって私の魔力が美味しそうに見えたんじゃないのかとか、悶々と悩んで私は気づいた。
そういえば石切り場で私がフィオレと一緒に攫われて、現在フィオレがスライムにも襲われている。
つまり、私と同時にフィオレもそのスライム達に美味しそうに見えているのだ。
ならばと私は考えて、
「フィオレ」
「何だ?」
「私より先に歩いて、スライムの囮になってくれないかな」
「……」
「絶対助けるから、ね?」
そうすればフィオレが襲われている所で私が助ければ良いだけなのだ。
私はクロヴィスみたいにじっと観察したりなんかしないのだ!
これは素敵な案だと私は思う。が、
「……だったらエリが囮になってくれてもいいだろう? 何で私がしないといけないんだ?」
「だ、だって私スライムに襲われるの嫌だし。フィオレはスライムが私みたいに怖くないみたいだから、多少襲われても平気なのかなと」
「! そんなわけない! あの冷たくてぶよぶよした物に体を這われて感じる所ばかりに吸いついて……魔力を吸いやすい場所は感じやすい場所とはいえ、あれはない!」
やはり魔力を吸いやすい場所が、私達の体で特に感じやすい場所であったらしい。
そこでフィオレが私を見て、
「エリ、怠けようとしているな?」
「え、いえ、そういうわけでは……」
「だから私を囮にしようと言い出したのか?」
「い、いえ、だって、フィオレのほうがすぐに次々スライムに臆すること無く戦ったりできているし」
「別にちょっと感じさせられるくらいじゃないか。あの程度……」
だから私はフィオレのその言葉に言い返す。
「だ、だったら慣れているならフィオレが囮になってくれてもいいじゃん!」
「慣れているからされてもいいというわけではないんだ! そもそもスライム程度の雑魚に怯えるなど魔法使いの風上にも置けない。やはりエリには囮になってもらってそれで……」
などとフィオレが言い出した所で、少し離れた場所にいたクロヴィスが呆れたように私達に、
「おい、そっちに大きなスライムが行ったぞ」
「「え`」」
そこでベチャッと私達に向かって気の上からダイブしてくるスライムを目撃して、そして、
「やらぁあああんんっ」
「ぁああっ、やめ、だめぇええ」
と、私とフィオレは二人して喘ぐ羽目になり、そんな私達はクロヴィスにすぐに助けだされた。
そのあまりにも直ぐな様子に私はクロヴィスに、
「フィオレと一緒だったらすぐに助けてくれるんだね?」
「……」
「でも、すぐに助けてくれた……これはもう、フィオレと一緒に戦闘の依頼を受けるしか無い!」
そんな前向きな私に、クロヴィスの機嫌が悪くなったのはいいとしてそこで、
「にゃーん、こっちこっち」
「ちょ、タマ!」
そこでタマが再び何処かに走って行ってしまう。
そしてその場所が何処なのか私は見当がついてしまったのだった。
そのタマが向かっていったそこには、“偶然”に遭遇するはずの物だ。
とはいえ、ゲーム内では重要なイベントではある。
つまりあの、石板が存在している場所だ。
何だか本当に主人公としての道を歩かされている気がして、嫌な気持ちになる。
やはり町に戻って、家に引きこもりながら楽しくて危険のないイベントを模索すべきではないのか?
よし、今度こそそうしよう、そう私は決心してから走っていったタマを追いかけて行く。
そういえばリリスがいないなと思いながら、杖は私の手元にあるから大丈夫だろうと私はすぐに思考を切り替える。
そして、やってきた先には小さな石作りの建物がある。
古い衣装の石の建物だが、これは実の所入口にしか過ぎない。
古い遺跡なので、人々に忘れ去られ、森にのまれた謎の遺跡なのだ。
それに関するもっと詳しい説明は、今は置いておくとして、そんな遺跡の前にタマがいる。
口にはぐったりしたリリスを咥えている。
それを器用に自分の背に乗せながらタマは、地面を自分の前足で叩いて、
「ここ掘れ、にゃんにゃん」
「……何かが間違っている気がしたけれど、タマ、そこは掘れないよ?」
「掘るんだにゃん」
再度タマはその地面を叩く。
仕方がない、お猫様の言う通りと、私は小さなスコップを取り出した。
これも魔法の品で、土がプリンの様に柔らかくすくえるのである。
それを取り出して掘っていくと何かが出てきた。
石板の破片だ。
何故こんな場所にと私が思っていると、それを見たフィオレが、
「“深淵の鍵を歌う石板”じゃないか。だがあれは海の向こうの博物館に飾られていたはず?」
「じゃあ違うんじゃないかな」
そう私はフィオレに答えた。
正確にはそうであって欲しいという私の気持ちだ。
けれどフィオレがじっと石板を見て、
「だが、魔力は感じる。……危険だからあまり触れない方が良いんじゃないのか?」
私に忠告してくれている。
けれどこれを集めておいた方が、もしかしたら元の世界に戻るとっかかりになるかもしれないと思った私は、
「何も知らない一般の人が拾うよりは、私が持っていた方が対処できると思うし」
「……素晴らしい。それでこそ魔法使いだ」
そう告げるとフィオレが感動したように呟いた。
どうしよう、意外に簡単に誤魔化せてしまったと私は思いながらその石板をしまい、
「さて、帰ろうか」
私はその遺跡にはいるイベントフラグを折ろうとした。
けれど、そこで私の襟首が何者かに掴まれる。
振り返るとそこにはクロヴィスが立っていて、
「何を逃げようとしているんだ? エリ」
「だ、だってこんな未知の遺跡なんて……」
「誰にもあらされていないからこそ、良い物があるかもしれない。いくぞ」
「いやぁあああああっ」
私は逃走をしようとしたけれど、そのままクロヴィスに遺跡の中に連れ込まれてしまう。
そんな私を追うようにフィオレやタマ達が追いかけてくるけれど、そこで。
「あれ?」
暗い遺跡の中で地面が青く輝く。
それが魔法陣だと私は気づいた所で……私とクロヴィスは、何処かへと飛ばされてしまったのだった。
私は完全に忘れていた。
ここは確かに古い遺跡だけれど、ある一定のパーティでやってくると別の場所にランダムで転送されてしまうのだ。
青白い魔法陣がきらきらと光る中私は、失敗したと思った。
そしてふっと世界が暗闇に包まれたかと思えば、すぐに明るい場所にやってくる。
そこは魔法の明かりに照らされた特別な場所のようだった。
ゲーム内では確か、何もない、簡素な部屋に飛ばされたような気がする。
そういった場所からゲーム内では散策を始めたのだけれど、いきなり私達が飛ばされたのは、数多くの彫刻に彩られ、繊細な絵画が壁面に描かれた場所だった。
神話も含めた数々の話しが絵で表されている。
文字を読めない人が分かる様に、絵で示されている。
その中には時折、クロヴィスに似た人物が描かれているが、良くあるその当時の流行を取り入れたものというか、抽象的な絵であるためにクロヴィスか描かれていても良く分からない。
そしてどうして私が分かるかといえば、ラスボス戦辺りで説明されたからだ。
もちろんゲームの最中では、この辺りのイラストが拡大されて、主人公キャラが『これって何だろう……』みたいに疑問を持つシーンが提示されている。
その時点で重要な伏線なのだろうなと分かるけれど、気付いた時点でいきなりここでラスボス戦になりそうな空気を読んだ私は、特に気にも留めないようなふりをして周りを見回す。
ここの部屋は“特別”な部屋なので、敵の魔物は出てこない。
そんなわけで気楽に周りを眺められる私だけれど、ゲーム画面では綺麗なグラフィックだと思っていたけれど、
「実際にこの目で見ると凄い……この鳥のような彫刻も、本当に生きて動いているみたい。うわー……」
「エリ、下手に触るな。何が起こるか分からないぞ?」
「う、うん……でも古いのに、“綺麗”な遺跡だね」
周りを見回しながら私はそう呟く。
こうやって直に見ると、芸術品といったものを間近で見たような感覚になる。
現実にそうなのだろう。
確かここはゲーム内では、昔、“古い王国”のあった場所で、ここは王の間だったはずだ。
その種族が何処に行ってしまったかといえば、ゲーム内では謎だったけれど、その内知る事になるあの、謎の種族が住まう天空の国の人達だ。
もっとより人間からは遠く安全な場所を求めて旅立った結果、彼らは安住の地を見つけたのだ。
話を戻すとして、そんなわけでここは“深淵の魔族”と関わりが深い。
それによい、彼らの武器やアイテムもここでは手に入ったはずだ。
この王の間には特に重要なアイテムがあって、それは王の玉座の上に乗っているはずだったけれど……。
遠目で見ても、そのアイテムはなさそうだ。
魔力を凄く使うのだけれど、瀕死の人間すらも元気になるまで蘇らせられるアイテムで、特にゲーム内の主人公の魔力は膨大だったので幾らでも回復できた。
しかも広範囲に及ぶので、集団回復に便利なアイテムなのだが……。
「そもそも私、すでに持っているんじゃないかな」
「何がだ? エリ」
「え? うんん、凄いアイテムがありそうだけれど、私、色々持っているから私の持っていないアイテムがあるかなって」
「なるほど。……きっとあるだろうから散策をしようか」
ここであると答えると、私が戦闘に行くだろうと踏んだのだろうクロヴィスがそう答える。
そしてクロヴィスと部屋を探しまわる。
王の間なので防御が高いので魔物が入ってこれないから、遭遇戦にならずに散策できる。
そこで再び私は石板の欠片を手に入れたのはいいとして。
「廃墟だから、特に良いアイテムはなさそうだね」
「そうだな」
「次の部屋に行こうよ、クロヴィス。……クロヴィス?」
そこでクロヴィスは壁面に描かれた絵を見ている。
そこにはクロヴィスらしき人々と、それを祭る人々が描かれている。
何を思ったのかその絵をじっと見ているクロヴィス。
無表情なその横顔はどこか寂しげだ。
だから、寂しくないように私はクロヴィスの手を握る。
「大丈夫? クロヴィス?」
自然に出てしまった行動だけれど、それにクロヴィスは大きく目を見開いて私を見て、そして、
「……エリは、この世界を気に入っているか?」
そう私に問いかけたのだった。




