なんという奇跡
次の日の朝食は、蜂蜜を使ったパン、ソーセージ、サラダ、トマトのような何かスープ。
そこに昨日買っておいた“ベクトル牛”の生クリームを加工して作った、サワークリームを少量落とす。
ほんの少し入れるだけでまろやかな酸味と旨みが抜群に増すのだ。
そしてこのサワークリームはチーズケーキを作るのに使ってもいいのだけれど、かんばって脂肪分を分離させると、発酵バターになるのだ。
その発酵バターに塩を加えたりしてパンにぬると独特の風味がしてとても美味しいのだ。
またこのサワークリームがあまり醗酵していないけれど固まった状態の物に、ジャムほど煮詰めないで作ったイチゴソースをかけてもおいしい。
ただ面倒臭い時には泡立てた生クリームとヨーグルトを混ぜただけでもさっぱりとしたヨーグルトクリームになる。
ちなみに、これはカスタードクリームと合わせると、とても合うのでお勧めだ。
話はそれたけれど、他にも、机の上にイチゴジャムなどを出しておく。
手作りイチゴジャムは、一応自動では作れるのだけれどこれは私のお手製だ。
自作すると砂糖が少なく出来る。
その分日持ちしないけれど、イチゴの風味がとても味わえるのだ。
さて、そんな美味しい朝食を沢山作った私は、もう一つ楽しみなのがあって、それの入った小瓶を取り出す。
中には黄金色の液体がはいっている。そう、これは、
「じゃーん、“星語りの花”からとった蜂蜜です! とりあえずリリス用に、先に小さなカップに入れておいたよ!」
「わーい、ありがとう~エリ。愛してるぅ~」
「ふ、女に愛してるなんて言われても嬉しくないんんだからね! フィオレの真似でした!」
「ちょっと待て、エリ、何だそれは、私はそんな感じじゃない! というか聞いているのか!」
「聞いてません! というわけでさっそくパンに塗ります! ……わー、花の香りがする」
これは間違いなく、“星語りの花”の香りだと思って幸せを感じながらその蜂蜜の瓶(実は5つある)それを、ライとクロヴィス、フィオレに渡す。
そこでフィオレが半眼で私を見た。
「花の香って……そこに飾ってある花の香なんじゃないのか?」
「ふふふ、そう思うならば、その蜂蜜の瓶を開けて匂いを嗅いでみるが良い!」
「……エリが調子に乗っている。こういう時って何かあったりしそうだね」
「……例えば?」
「触手とか?」
私はパンに蜂蜜とバターを塗ったものをタマに渡しながら、周りを見回した。
この家は私という魔法使いの家で、あんな魔物がいるはずがない。
けれど不安で仕方がなかった私は、周りを全て確認してから、
「この家の中にいるはずがないじゃない」
「ふん、そんなにあんな弱い魔物が嫌なのか」
「……フィオレはあの採石場で、即効でトロンとしていたからいいけれど、私は、私は……ずっと正気のままだったんだからね!」
媚薬でメロメロになっていたので、フィオレはあまり感覚を覚えていないのだとおもう。
でも私は違うのだ。
さんざん丁寧にねっとりと体を触られるあの感覚を、正気のまま味合わされたのである。
あれは酷いと思うのだ。
フィオレよりもよほど酷い目にあった私に、フィオレはなんてことを言うんだと私が思っていると、
「な、く、確かにエリの方が魔力が強いから魔法耐性なども強いのだろうけれど……あれは特別に強い魔物だったんだ! エリが襲われるような、貧弱な蔓の魔物ではなかったからしかたがないだろう! ……そもそもどうして変な所で弱いんだ、エリは!」
「個性なんです! これは全部個性のせいなんです!」
「個性って言えば全部許されると思うな! というか、そもそもこの花、何でここにおいているんだ? 確か寝室に持って行こうって私はエリが花瓶に入れているのを見たぞ」
「……忘れちゃったんだよ。昨日は忙しくて。……今日はこれを寝室に持って行くからいいじゃん」
そんな風にフィオレにいい返した所で、ある人物がここに訪れたのだった。
やってきたのは、アンジェロだった。
声を聞いた瞬間、フィオレは階段を上がって別の部屋に逃げてしまった。
まだ顔を合わしたくはないようだ。
仕方がないので私が相手をすることに。
「こんにちは、アンジェロ。今フィオレは逃げましたがどうしますか? 必要なら引っ張ってきますが」
「いえ、もしよろしければ、エリ達の家で預かって頂けませんか? ちょっとこちらもゴタゴタしていまして」
「はあ……それは大丈夫ですが、ただその、あの黒くて動く物体を作るのをやめさせる方法ってありませんか?」
「そうですね……エリ達にフィオレが好意を持っている限り無理でしょうね」
実はフィオレが持っている好意があれを産んだらしい。
なんという奇跡と私は現実逃避していると、アンジェロがフィオレを預かるお礼として、アップルパイのはいった紙袋を渡して去っていったのだった。
と、いうわけで、いってらっしゃーいと手を振るライに家のお留守番を頼んで歩きだす私達。
そういえば今日は何処に行くのか聞いていなかったと私は思い出して、
「クロヴィス、今日は何処に行くの?」
「……ウィルワードの住居周辺で、スライム狩りだ。エリ、逃げようとするな」
さっと家に引き返そうとした私の襟首をクロヴィスが掴んだ。
けれどその程度で諦めきれず、私はじたばたしながらクロヴィスの手から何とか逃げようて家に帰ろうとする。
だが今度は右腕までもフィオレに掴まれてしまう。
しかもフィオレはそんな私を見て深々と溜息をついて、
「全く、エリは魔法使いとしての自覚が足りない」
「う、うぐっ、で、でもスライムじゃない!」
「あんな雑魚に怯えてどうする」
「服が溶かされるじゃない!」
それを聞いたフィオレが、再び深々と溜息をついた。
「……やられる前にあいつらを倒せばいいだろう」
「あ、あれは何処からともなくやってきて、私の服を溶かすの! 雑魚なんて言えない、凶悪な魔物なんだ!」
「……仕方がない。この私が直々に、スライムと戦ってやる。そのやり方を見てエリは覚える様に」
「! ありがとうフィオレ、これでもしかして私、服が溶かされなくなるかも!?」
私は新たな希望を手にして、フィオレの手を握る。
自信ありげなフィオレ。
そしてクロヴィスは……機嫌悪そうというよりは複雑な顔をしているが、そこで先ほどぴょんととび跳ねて私の肩に乗っかったタマが、
「ここで僕が予言する、フィオレはスライムに服を溶かされるのにゃー、にゃにゃ!」
「この駄目猫が……そんな風に私を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな。べ、別にエリが友達だから、やり方を教えてあげようなんて思っていないんだからな!」
そういいながらフィオレは、タマの顎の下を撫ぜて、気持ちよかろう、気持ちよかろうと生意気なタマを鳴かせている。
ただこれを見ていると、普通にタマと会話しているのに、フィオレは何の疑問も感じていないんだなと私は思う。
本当にこのタマという猫は一体何なんだろうという疑問が私の中に湧いてくるけれど、危害を加えてくるわけでもないし、まだ詮索してもしょうがないなと思いながら、私はフィオレに、
「じゃあ、スライムの倒し方を教えてね、フィオレ」
「任せておけ!」
そんな自信たっぷりなフィオレ。
そして道中もフィオレが張りきっているので、私はあまり戦わずに済んだのはとても良かったと思う。
あとは、憎き宿敵、服を溶かすスライム達を退治していけばいいのだ。
これで完全に勝てる、余裕たっぷりと私が思っていた。その時までは。
だが怪しいキノコが胞子を飛ばし、その胞子が煌めくじめじめとしたその守の中で、先頭を歩いていたフィオレは真っ先にスライムに襲いかかられた。
それはもう、抵抗するまでもなく。
「や、やめ、這うな、服の中に入ってくるな、やめっ、服溶かすな、やぁあああんっ、やぁああっ、やだっ、そこっ、らめぇええ」
余裕たっぷりだったフィオレは、スライムに魔法を使う前に襲われて、服を溶かされる。
しかも魔力を吸われているのか、変な場所を這われたり吸われたりしているようで、乱れて震えて、フィオレが大変エロい状態に……。
仕方がないので、私がそのスライムを倒しました。
クロヴィスはやる気が無さそうだったのと、タマは傍にあるキノコを叩いて、胞子を出して遊んでいたので。
そのスライムを倒した後フィオレが絶望的な表情で呟いていた。
「そういえばスライムは、いつもアンジェロが倒していたきがする……」
「アンジェロは、フィオレを守ってくれていたんだよ、気付かない所でね。いい仲間じゃん」
「……」
そんな私の言葉にフィオレが沈黙した。
だがそんな風に感傷に浸っている暇もなく、そこで新たにスライムが2匹ほど現れたのだった。
ちなみに、服を溶かされていたフィオレは、そのために戦闘が続けられない。
なので嫌だけれど私が相手をする……のも嫌だったので、
「クロヴィス、あの赤と緑色っぽい透明な粘性のある液体の魔物をお任せしたいんだけれど」
「スライムくらい、自分一人で倒せるようになれ」
「で、でもあいつら私を見た瞬間けだものの様に襲いかかってきて服を溶かしに来るじゃないか」
「あー、エリは愛されているな、スライムに」
「そんな物に愛されてたまるか! クロヴィスだってスライムに服を溶かされてみれば、絶対に私の気持ちが分かるはず!」
「……俺の場合は、スライムが自分から逃げて行くから、よく分からないな」
「なん、だと……」
クロヴィスの衝撃発言に私は目を大きく見開く。
だってそれって、クロヴィスは今まで私みたいに襲われて服を溶かされた事がないとういう事に他ならない。
その衝撃の事実に私は、
「ク、クロヴィスばっかりずるい! 何時だってクロヴィスばかりいい思いをしてる!」
「……言わない方が良かったか。それで、早く倒してこい。捕まってアレな目にあったら助けてやるから」
「こ、この……いいわ、一味違った私を見せてやるんだから!」
と、涙目で私はクロヴィスに告げて戦闘を開始する。
とりあえずは防御の結界……風系の魔法で壁を作る。
そんな私の隣をかけて行く影が一つ。
「にゃーん、良いおもちゃが手に入ったぞ~」
タマが真っ先に赤いほうのスライムに接近する。
よし、このまま一匹はタマに相手をしていてもらおうと私は決めた。
そのタマがスライムをぺちんぺちん猫パンチで叩いて遊んでいるのに興味がいったのか、リリスがふわふわ飛んでいって……スライムに襲われた。
「な、何で私が……私はただの妖精です、だから放して下さい、やらぁあああ」
リリスが悲鳴をあげてじたばたしている。
そんなリリスを見てタマは、耳をぴくぴく動かしながら、
「リリスがスライムに襲われてても、可愛いにゃー。ぺろぺろ」
「ちょっと、私を舐めてどうするんですか!? エリ、助けてぇええ」
「ごめん、今ちょっと無理」
薄情者とリリスが叫んでいるが私だって必死なのだ。
まずはこの防壁を突破される前に、簡単な雷の魔法を使おうと決める。
このスライムは水系の魔物なので、電気系の魔法がとても良く効いたはずだ。
選択画面を呼び出して、どれにしようかと決めて触れる。
掲げた杖の先に小さな魔法陣が浮かび上がり、バチバチと白い光を放ちながら電気が貯まっていき、そして、
「“天使の雷《エンジェル・サンダ―》 ”」
その言葉と共に防御の結界が壊れて、一筋の雷が飛んでいく。
それが緑色のスライムに当り、瞬時に倒されて、緑色のガラスの破片のようなものになる。
スライムの魔力の結晶の欠片である。
実は用途はあまりない。
でも依頼の証明にはなるので、それを一つ拾い上げて、それからタマに、
「タマー、次に行くから、早くそれを倒しちゃって」
「にゃーん」
タマが鳴いて返事をする。
すでにもぞもぞされて服を溶かされたリリスがぐったりしていたりする。
そうしてタマはスライムを倒して、二匹ほどスライムを倒したあかしを私は手に入れたのだった。




