ラスボスに戦闘に連れていかれました
青い空、白い雲。
日差しは温かく、道の両脇に生えた青い花が風に揺れている。
そんな長閑な道を歩いていくクロヴィスに私は担がれていた。
「い、いやだぁああ、もう私は街に帰るんだぁああ!」
「まさかここまで怠け者な魔法使いだとは思わなかったな。たまたまロープを装備していて良かった」
「うう、ぐす。何でいきなり町の外に連れて行くのですか」
先ほどの雑魚である緑色の箱のような妖精と私は戦うのも嫌なのだ。
もし失敗したらどうなるのか分からないし。
なのに私は、ひきこもると言った瞬間、クロヴィスが、
「……まさか、そんな性格だとはな。魔法使いはもっと好戦的かと思っていたが、仕方がない」
仕方がないというクロヴィスの声がちょっと楽しそうだったのに、私は早く気付くべきでした。
そして私はお腹の辺りで腕ごとロープでぐるぐる巻きにされてしまう。
「な、何をするんだ!」
「性格を矯正するために一肌俺が脱いでやるよ。もちろん有料な」
「お、押しつけて売るのはいけないと思います! 私は戦いたくないよ! 家に引きこもるんだぁああああ」
そう叫ぶ私を無視して、先ほどの町に近い街道に連れてきたクロヴィス。
幸いにも街道では敵にあわずに済んだ。
それに安堵しているとクロヴィスが舌打ちする。
「運の良い奴め」
「くくく、だが私には更に奥の手があるのだ! 見よ! “魔物よけのお守り”~、これを持っていると周辺にいる人の中で一番レベルが高い相手に合わせて魔物が出てこなくなるという……ぁあああ」
そこで私は、ロープからはみ出た手で何とか操作を行い取り出したその道具を、ぱしっとクロヴィスに取り上げられた。
そしてそのまま何処かに放り投げられてしまう。
森というか草むらの中に放り込まれて、あれでは探すのに時間がかかる。
「全く、無駄に色々持っているんだな。良い所のご令嬢だったのかは分からないが、お前のその根性を俺様が直々に直してやるよ」
「直さなくて良いですぅう、折角ベッドは最高級のものにして安眠熟睡とか、すごく楽しみにしていたのに!」
「……もう少し森に行こう。あそこに入れば、魔物の一匹や二匹には必ず当たる」
「やだぁああ」
「お前の意見は聞いていない。行くぞ」
「うわぁあああんんっ」
こうして連れて行かれた私は、もう全部戦闘はクロヴィスに任せてやると思ったのだが……そうは問屋がおろさなかったのだった。
触手系の魔物の前に私は置き去りにされました。
うねうねと動くそれには確かに攻撃力は無く、人や魔物を傷つけるのではなく肌に触れる事で魔力を奪って行くタイプのものだったのだけれど、
「やぁああっ、ぁあああっ、そこっ、はっちゃやだぁあああ」
真っ先に足を拘束され動けなくなった所で、服の中に触手が潜り込んでくる。
突起がところどころについたそれは冷たくて何処か湿っており、的確に私の感じる場所を探り当てているようだった。
もしかしたなら性感帯の場所に魔力が貯まっているのかもしれないが、そんなのよりも、何でこんなにじっくりするんだと私は思わざるおえない。
足のふくらはぎのあたりに触れているだけなのにこう、こう……。
そう思いながらももう耐えきれず私は、
「クロヴィス、もうやぁああ、ぁああっ」
「……本当に弱いんだな、お前」
そう、クロヴィスは深々と嘆息する。
手足がつかまっているんだから無理じゃん! と私は喘ぎながら心の中で思ったのだった。
私を散々喘がしてきた触手なモンスターは、クロヴィスが殺気を放つだけで逃げて行きました。
私ってそんな存在なんだと思いながら、そこでクロヴィスは、
「魔法使いは確かに杖で魔力を補強したり呪文を短縮したりできるが、普通の状態でも魔法は使えるだろう」
「……私の場合、こう、選択画面を選ばないと魔法もなにも使えないんです!」
「センタクガメン?」
「こう、目の前にガラスの板のようなものがあって、どんな魔法かを選択して行くんです」
「固有の才能みたいなものか? 天才的な魔法使いには、魔法を色で感じ取り理解するものもいるというのを聞いた事があるが……他の方法も出来るようにならないと、相手は待ってくれないぞ?」
正論を言われて私は呻く。
だがすぐに私は気づいた。
「だから私引きこもっていようかと! そうすれば戦ったりしないので魔法は使わずに、ぐえっ」
そこで私はクロヴィスに襟首を掴まれ、
「やっぱりもう少し戦闘をしようか。そうすれば力の使い方ももう少し感覚がつかめるだろうからな」
「いやぁあああっ、放せぇええ」
「……それとも触手が住み着いている“巣”のようなものがここの近くの洞窟にあるんだが、そこに放り込んでやろうか? 荒療治だから仕方がない。そうしても良いんだぞ?」
「や、止めて下さい! う、うぐ……せめて、せめて装備だけさせて下さい」
ニューゲームの初期の状態は何も装備していないので、これまでの装備アイテムを装備しなおさないといけないのだ。
とりあえず、杖だけでもと思って呼び出してみるが……。
その杖を見てクロヴィスは驚いたように、
「! それは“天球儀の導”と呼ばれる伝説の杖じゃないか! この世界に二本しかないと言われている、魔法使い最高の杖」
「ちなみにこれで三本目だよ。私が作ったからね」
ただしゲームの中でだけれどと、私は心の中で付け加える。
“天球儀の導”。
名前の通り杖にはめ込まれた夜空を示す青い球、そこには空に輝き揺れ動く数多の星が淡い光を放つ。
一説には、その空に浮かぶ星々の欠片を落としこんだ杖が、この“天球儀の導”なのであるという設定だった。
そしてこの伝説の杖は意思を持っており、主を選ぶらしいのだが……そこでその杖は、自分から私の腰に器用に体を折り曲げて腰に巻きつき、その天球である青い石の部分で私の体を味見するかのように擦りつけてくる。
「うえーん、杖にセクハラされるぅう」
必死で引きはがそうとするが、それは更に私の体を撫でまわそうとして……ぴたりと動きを止めた。
見るとクロヴィスがとても怖い顔で杖を睨みつけている。
それに杖がぶるぶると震えて、ポンと煙を出した。
「まったく、少しぐらいこんな可愛いご主人様なんだからセクハラしていいじゃない」
「杖の、精霊……」
私は小さく呟く。
銀色の髪に緑色の瞳をした小人に、透明なトンボのような羽が生えた美少女リリスだ。
何処かきつめな印象のある彼は私の周りを飛び回り、
「一応主だけれどさ、これだけ可愛いならちょっとくらい味見したいと思うのは当然じゃないか」
「可愛いって」
「可愛いよ、女の子からも人気があったし。それで新天地にって話だったじゃん」
なんですかその設定と私は叫びそうになった。
「私は、女の子に惚れられたとか?」
「そうだよ、忘れちゃった?」
「あ、後で男子と絶対交流もってやる! というか、今すぐ戦闘なんかやめて町で男子と仲良くなりにいく恋愛シミュレーションという名のR18な乙女ゲームをするんだぁあああ」
暴走した私はもう自分で何を口走っているのか分からない。
なんだかさっきからおかしいなと思っていたけれど、これ一般ゲームじゃないだろうとか、どんな改造をすればこんな展開にとか、もう私はわけが分からない。
けれどそこで私は首根っこをクロヴィスに掴まれて、
「わけのわからない事を言って逃げようとしても無駄だぞ。そして男子にもてたかったから、強くならないと駄目だぞ? 魔法使いは強い物が正義だから」
「世の中お金です」
「……強くならないと襲われるぞ。下手すると同性に」
「びくっ」
クロヴィスのその一言に私が恐る恐るクロヴィスを見上げると、彼は笑っていた。
「今ここで俺が襲ってやろうか? いいぞ? そのままひきこもりになっているなら、その家で飼ってやれるしな」
「何だか怖い事を言っている! ま、まさかクロヴィスも私の体が目当て……」
「それで、触手の巣に放り込むのと、普通に魔物との戦闘、どちらが良い?」
再び二択を突き付けられて、私は涙目になりながら魔物を倒す方を選んだのだった。
私の向かった先には“宝石蜜蜂”の巣がある。
その名の通り、宝石のように輝く蜜蜂の巣で、この地方でしか採れない特産品だ。
けれどその蜜蜂は獰猛で、勝利者にしか巣や蜂蜜を分け与えないのだ。
というわけで私は草むらで様子を伺って、綿密に出るタイミングをはかっていた所、
「良いから行って来い!」
「うわぁああああ」
クロヴィスに蹴り出されました。
同時に大量の蜂が私の目の前に集まり、そのすぐ後に私の身長の半分もあるような大きな蜜蜂が一匹現れて、
「この私に勝負を挑むとはいい度胸だ。行くぞ!」
そう、何処に発声器があるのか分からないが蜂が叫ぶ。
その掛け声と同時に彼らのすぐそばに体力の量を示す棒のようなものと、魔法を使うための魔力の残量を現す棒のようなものが現れる。
気付けば私のすぐ傍にもそれらが現れていたが、そこで私は、
「リリス!」
「はいっと、杖に付加された効力で問題ないですね」
そう妖精のリリスが答えて、杖の形になる。
その杖を振るうとその杖から炎や氷の刃、風の突風、などが生じる。
ふるった攻撃だけでその蜂達は全滅した。
「よし、大勝利っと。蜂の巣を少し貰って行くね」
「下の方から持って行ってくれ」
「はーい」
瞬殺されてうちしがれる蜂には悪い気持ちになりながらも、硝子のように輝く蜂の巣を手に入れる。
この蜂の巣から取った蜂蜜は、新鮮なミルクや豆乳と混ぜて飲んでも良いし、お菓子の甘味料として使っても良い。
この蜂蜜で作ったはちみつケーキは黄金色をしていて、とても優しい香りがするという。
後で絶対に作ろうと私が思っているものの一つだ。
そしてこの巣から採った蜜蝋は、化粧品から蝋燭まで用途がある。
私は何時もクレヨンを作っていたが。
だってそのクレヨンを納品する孤児院のお姉さんが可愛かったんだから仕方がないじゃないか。
そこまで考えて再び悲しい事を思い出しそうになるので私は止めて、蜂の巣を見る。
もちろん巣ごと食べても美味しいのだが、加工した方が価値が上がるのは現実世界と同じなので、ゲーム内の日数は経過してしまうが加工して売った方が利益が増えるのだ。
とりあえずこの貴重な蜂の巣を私は、何処からともなく取り出した道具袋に入れる。
そこでクロヴィスがやってきて、
「無駄に強力な武器を持っているな」
「だ、だって伝説の武器だし」
「……自分の持っている道具に慢心しないようにしないといけないな。どんなに道具が強くてもお前が弱いままでは危険だしな」
「……分かってる」
もっともな事を言われて俯く私の頭を、クロヴィスが軽くなぜて、
「だがまあ、良く頑張ったな」
私を褒めた。それだけでもしかしてこのクロヴィスは良い奴なのかもと私は思ってしまうが、すぐに彼はにやりと笑う。
「じゃあこの調子で行こうか!」
「やだぁあああ、もう帰るぅううう!」
こうして私は引きずられて、更に森を歩いて戦闘をさせられたのだった。
“発酵しかかったモラの実”、“七色の偏光石”、“透明な石”、“涼やかな香り草”、“飛行綿毛の種”等を、その後、私は手に入れた。
また敵を倒した時、“安価な野生の肉”や“もこもこ灰色毛皮”も手に入れたので、今日の夕食にはお肉が……ではなく、この毛皮は売った方がお金になるので売る。
確かになめして防具に利用しても良いのだが、今は所持金無双できる所なので私はやらない。
本当に強くてニューゲームは最高だと思う。
一週目に頑張って集めたアイテムや作成したものがそのまま使えて、努力が報われた感じがするのだ。
骨折り損のくたびれ儲けという諺があるくらい、努力はなかなか実らないのでこういった所はゲームの好きな所だと私は思う。
そこで私はクロヴィスに肩を叩かれた。
「これから食事をおごってやる。美味しい店があるんだ」
「ど、どういう風の吹き回し……」
「今日は頑張ったからご褒美だ。この調子で明日も頑張るぞ」
「あ、明日もやるの?」
「朝迎えに行くから覚悟しろよ」
意外に面倒見の良いクロヴィスだが、私には大きなお世話で、全力で逃げようと思う。
そんな算段をしているとクロヴィスは杖の妖精のリリスに、
「お前にも特製の花の蜜をおごってやる」
「本当ですか!」
「なので、しっかりこのエリの様子を見はっていてくれ。明日も今度は港町の方に連れて行くから」
「うう、分かったよ。市場でとれたての焼き魚が食べたいし」
「食い意地が張っているな。だが、少しはやる気が出たか?」
「うん」
頷く私にクロヴィスは小さく笑う。
それを見ながら彼は、ゲームではこんなに優しかったかなと私は思ったのだった。




