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花畑にて

 次の日は、いつものように朝を迎えたが、朝からフィオレが、


「では、泊めて頂いているお礼に、私が朝食を……」

「……これ以上あの黒い物体を作り続けるなら私も容赦はしません」

「……なんだと?」


 といった台所の防衛という、人知れぬ激戦があったわけだが、それは置いておくとして。

 今日も今日とてクロヴィスが戦闘の依頼を受けてきたので、連れて行かれそうになる。

 今回の依頼は、私が一番初めに連れて行かれた森らしい。


 そこに最近繁殖したネズミの魔物を10匹倒し、倒した後に残る小さな赤いビー玉の様な魔力の結晶を持って行ってギルドに渡す依頼らしい。

 せっかくなので、ギルドによって別の依頼もないか見に行こう、そんな話になる。

 それほど大変そうな戦闘ではなさそうだったので、私は渋々うなずいた。


 また、今日は、タマとリリスを連れて行っていいかと聞くと、


「……仕方がない、譲歩してやる」


 との事で、タマとリリス(杖)を連れて行く事になった。

 なので二人と一緒に行こうかという話しになっていると、そんな私の肩をライが掴んだ。

 何処となくげっそりとした顔になっているが、そこでライは、


「……私はもう、あの怪生物を作るのを止められない。だから一緒に連れて行って欲しい」

「いやいや、ライがいないとフィオレ一人になっちゃうし」


 そうなるとまたあの黒くてガサガサする生き物?が大量に……。

 けれどそんな言葉に、フィオレは、


「失礼な! べ、別に止める者がいなくても、私は我慢できる」

「……本当だな?」

「女に二言はない! 私を信じてくれ!」


 フィオレが言いきった。

 そんなフィオレに私は、ふと気になった事を聞いてみる。


「フィオレは、アンジェロと一緒に住んでいた時、料理を手伝おうとしなかったの?」

「……手伝えなかったんだ。そもそも手伝う気になれないような目に遭わされる」


 虚ろな瞳でフィオレが呟いた。

 あまり根掘り葉掘り聞かない方が良さそうな話だったので、私はそれ以上突っ込まず、今日はフィオレに留守を任せたのだった。







 ギルドに寄ると、丁度いい依頼……ポイントや依頼料は少ないけれど、それでもついでに行えるのならお得な依頼があった。

 その依頼は、ある花を摘んでくる依頼だった。 


 “星語りの花”という、五角形のお星様の様な小さな花が集まった、紫色の紫陽花に似た花を採取してくるのである。

 この花は香りが良く、その香りを抽出して高級な香水の原料になるという。

 そのまま飾っても、その花の香りでその部屋で眠ると良い夢が見れるらしい。


 なので後でベッドのすぐ傍の花瓶に飾っておこうと私は決める。

 しかもこの花は食べられたりする。

 砂糖漬けのクリスタルフラワーにしたりして、楽しむのだ。


 他にも使い道のある花だったりするのだがそれはいいとして。


「タマ、私の肩に乗らないでよ、重いよ」

「にゃーん、だってここにいた方が楽なんだもん」

「だったら私もエリのもう片方の肩に座ろうっと」


 杖の妖精のリリスまでもう片方の肩に乗りやがりました。

 私も猫か、妖精になりたい、そう私が嘆いていると後ろの方でクロヴィスとライの話声がする。


「機嫌が悪そうですね」

「……そうだとしたら、家に戻るか?」

「……それだけは勘弁して下さい。ああ見えてフィオレは頑固なんです。邪魔はしないので連れて行って下さい」

「では、戦闘はずっと見ているだけにしろ。エリのためにならないから」

「はい、分かりました」


 ライの躊躇ない答えに私は、そんなと悲鳴を上げる。が、


「それでは俺とエリの二人で頑張ろうな。そこの杖と猫は手を出すなよ」

「はーい」

「にゃーん」


 嬉しそうに私の両肩に乗っていたペットと妖精が声をあげたのだった。















 森にやってきた私は、真っ先に警戒するように周りを見回した。

 草が生い茂っている藪はあるが、それでも私は細かく観察する。

 次に木の枝などにそういったものは乗っていないか、幹に巻き付いていないかを私はつぶさに確認し、ようやく安堵の息を洩らした。


「よし、この辺りには触手がいなさそう」

「……触手なんて、エリの力があればどうにでもなるような気がするけれど」


 嘆息するように、ライが言うのを聞きながら私は、目をかっと開いて、


「そんなに触手が甘い物だと思うな! 奴らは、そう奴らは何時だって私の服を溶かして、肌を這いまわって私を散々喘がせるんだ!」

「……エリの魔力は、魔物達にとってよっぽど甘くて美味しいんだね」

「! 私のせいなの!」

「うん、普通はそこまで魔物にされないし。あ、そういえば前に来た時に聞いたけれど、ここって“触手”の巣があるんだっけ」


 何故か詳しいライに私は警戒する。

 まさかクロヴィスの様に私の触手をけしかける気なのだろうか。

 そう私は警戒していると、


「場所は分かる?」

「い、行かないからね!」

「場所さえ教えてもらえれば自分で行くから良いよ」

「……え?」


 私は今、不思議な言葉を聞いた気がした。

 この黒髪の美少女は、何を血迷ったのかと私は思ってライを見上げると、ライは目を瞬かせて、


「ああそうか、エリは“人間”だったっけ。うん、“人間”にしか見えないよね。だから触手に襲われるんだ」

「? どういう意味?」

「私は魔物の血が混ざっているから、同じ魔物なんだ。だから、服も溶かされないし、魔力を貰うついでに全身マッサージをしてもらえてすごく気持ちが良いんだよ」

「そ、そんな……」


 あのねちょねちょでいやらしい触手が、魔物側ではマッサージ機で、とても気持ちが良いらしい。

 なんて羨ましい、そう私が思っているとライが、


「クロヴィスはその触手の巣穴の場所を知ってるかな?」

「そこの細い道をまっすぐ行けばいい。ついでにこの駄目猫も連れて行け」


 そう言って私の肩に乗ってぐてーとしていた猫のタマの首根っこを掴む。

 それに猫のタマが、


「にゃー、僕は触手は嫌いなのですにゃー、にゃにゃー」

「だそうですので無理かもしれませんね。でも今日は戦闘の様子をちょっと見ていたいので、黙ってついていく事にします」


 微笑むライに、クロヴィスが不機嫌な感じになる。

 邪魔が増えたといったような感じだ。

 そう思っている所で、討伐対象のネズミの様な魔物が現れたのだった。







 異常発生したらしいネズミの魔物を倒した私。

 時々クロヴィスは手伝ってくれたが、ほとんどが私一人で倒した。


「クロヴィス、私はもう疲れたから次はクロヴィス一人で頑張って……」

「あと二匹だ。頑張ろうな」


 微笑むクロヴィスは暗に、これまで通り私が主導の戦闘をさせる気のようだった。

 嘆きながら次々と倒していく私。

 それにライとタマ、リリスがおおー、と歓声を上げる。


 歓声を上げるだけで手伝ってくれない。

 何でも私を強くするのに協力するらしい。

 なので私はクロヴィスとの共同作業という、私ばかりが戦う羽目に。


「もうちょっと甘やかしてくれてもいいじゃん」

「甘やかす? いいぞ、その代り何を要求してやろうか」

「うう……引き籠ってやる、こんな所に居られるか! って、うわぁあああ、また、触手がぁああ」


 意地悪なクロヴィスに私は言い返していると、そこで緑色の蔓っぽい触手に足を掴まれる。

 そして、ようやくちょっとは仕事をする気になったタマが、その蔓を切ってくれた。

 私は思わず猫のタマを抱きしめる。


「ありがとー、私にはタマだけだけだよー」

「にゃーん」


 どこか誇らしげなタマ。

 それにクロヴィスは深々と嘆息してから、


「あの程度の弱い魔物に捕まってどうするんだ」

「だ、だって……」

「まったく、仕方がないからもう少し戦闘慣れしないとな」


 その時のクロヴィスの頬笑みに、私は絶望を感じる。

 そうこうしている内に、私達は目的の花畑についたのだった。





 その花畑は森の一角にあった。

 木々が生い茂る中、唐突に開けた場所にやってくる。

 空から降ってくる太陽の光が、先ほどよりも熱く感じられる。


 その光の下で、薄い紫色の五角形の花が咲き乱れている。

 また、花々の間に細い小川が幾筋も流れていた。

 タマも嬉しそうにその花の香りをかいだり、前足でツンツンしている。 

 けれどそれよりも、


「凄くいい香り。私も自分用に幾らか貰っていこう」

「そうだね、私も貰って行こう。確かこの匂いの香水、買うと高いんだ」


 ライがそういうのを聞いて、そういえば香水にすると高く売れたから、ゲーム内ではそこそこ作ったなと思いだす。

 初めの方はお金に余裕がないので、色々効率よく物を作ったり色々した。

 必要な教科書やらアイテムやら、どれを優先的に購入するかなど、真剣に考えたものだ。


 それが今は余裕があるから、好きに出来るけれど、やっぱり少しずつためて行かないとと思う。

 今後どれだけ必要になるか分からないし、節約もしていかないとと私は思う。

 更に付け加えるなら、この花はとても香りが良く、香水も人気が高い。


 ライはそんな事を言いながら気楽そうに、花を摘んでいる。

 そこで私はクロヴィスがぼんやり立っているのに気づいた。


「クロヴィス、どうしたの?」

「いや、魔物がいるからここの花を摘む依頼は意外に大変だったはずだが……今はいないみたいだな」

「え、主みたいのがいるの?」

「ああ、確か大きな蛇の魔物で、戦って勝つと、渋々縄張りに入れて花を摘ませてくれるらしい。だが、ここには“いない”みたいだな」

「そうなんだ……留守中にこれて、私は付いているかも」


 そういえばここの森にいる蜂達とも、戦って勝利して蜂の巣を分けてもらった記憶がある。

 この腕試し的な感じはなんだろうなと思っているとそこで、ふわふわ飛んでくる蜂達に気付いた。

 どうやらここの花畑の花の蜜を集めているのだろう。


 ただあの大きさだと、きちんと花を受粉させているのだろうかという疑問を持ったが、異世界の不思議な事情で出来るのだろうと私は割り切った。

 そこで私は気づく。


「あれ、今、この花畑から花の蜜を集めていたよね? 蜂達」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「って事は、今の時期はここくらいしか花がないのなら、ここの花の香りのする蜂蜜が今は採れるんじゃん!」


 ゲーム内では、どんなものでも蜂蜜だったけれど、ここはそんない世界ならば……この花の蜂蜜が手に入る。

 それならばぜひ、ちょっとだけ手に入れてみたい。

 あとで挑戦させてもらおう、私はそう決めた。

 それをクロヴィスに伝えると、クロヴィスが苦笑して、


「エリは食い意地が張っているな」

「う、べ、別にそんな事はないよ。誰だって美味しい物は好きだし……クロヴィスだって、美味しいって私の料理を食べているじゃないか」


 ここのところずっと私がよく作っているけれど、その度にクロヴィスは美味しいと言ってくれていたのだ。

 そのためにも材料は美味しい物が良いに決まっているし、そういったものを選んで美味しくなるように作っているのだ。

 なのにその言い方は酷いと私が思っているとクロヴィスが笑って、


「そうだな、エリの作ったものだから何でも美味しいな」

「そうだよ! 私だって私なりに工夫をしているんだから……でも、美味しいって食べてもらえるのは嬉しいかな」

「……そうだな、エリがそう思うならそれでいい」


 クロヴィスがそう言って含みのある様に笑う。

 何だか引っかかる言い方だと思っているとそこで、ドシンと大きな音がした。

 気付けば白くて大きな蛇が、花畑に現れる。


 今更ながら私は、雑談せずに花を摘んでさっさと逃げれば良かったと私は思った。

 だがすでに時は遅く、


「わしが留守の間にこのような客人が来ていたとはな。摘まれてしまったが、このままただで帰すわけにもいかないな」

「え? いえ、そのまま帰して頂きたいです」

「……何という怠け癖、その腐った根性を叩き直してやる。行くぞ!」


 同時に、その蛇の口の当たりに炎が揺らめいたのだった。



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