もう一度チャンスを
それでこのモグラは、私達が持っていって良いですかと私が聞いた所、
「うん、構わないよ。私が取り戻したかった宝物はこれだからね」
「ではこのモグラは元の場所に返してきます」
そこで、何故か私の目の前でフェンリルは宝箱を開き始めた。
何でだろうと思っていると、
「中身も特に変化はなし。まったく、君は無欲だね」
「? あ、なるほど」
「……この白い宝石は、母からもらったものでね。私に怪我がないようにとくれたのだ」
「そうなのですか」
流石に、ゲームですでに知っています等と言えなかった。
そんなフェンリルはその白い石を私に見せる様にして手にしながら、次に別の物を取り出した。
「“ローレライの涙”のブローチですね」
「知っているのか? 貴重品であったはずなのだが」
「偶然、手に入れる事が出来まして」
「そうなのかい? だがこの石、美しいと思わないかい?」
「はい」
「しかもローレライというのはとても美しい魔物だ。そんな魔物の流す涙は、それはそれは神聖で美しい物に見えるだろうね」
「見た事があるのですが?」
「玉ねぎをみじん切りにして泣いている所をね。それでも美しいと思ったかな」
私はこんな時どんな顔をしていいのか分からなかった。
困ったように愛想笑いを浮かべる私にフェンリルは、
「というのは冗談で、昔ここに近い港町で、月の綺麗な夜に涙を流す、美しいローレライに出会った事がある……そしてこれはその時もらった、“ローレライの涙”で、私はずっと彼女に恋をしていて探し回っている……という話の方が本当に聞こえるかな?」
「! 嘘なんですか……」
「はは。ただ、港町では未だにローレライが住んでいるという噂があるらしい。君はそんなローレライでありそうな知り合いはいないかな? 君は、本物の“ローレライの涙”を知っているようだし」
そう言ってフェンリルは探るように私を見る。
その瞳の鋭さに私は怖くなって固まってしまう。と、
「あまりエリを怖がらせないでください。フェンリル様?」
あえて様づけでフェンリルの名前を呼ぶ。
それにフェンリルは目を瞬かせて、気付いたように頷きクロヴィスを見て頷く。
「では、この辺で私は帰る事にするよ。……そこの剣士に脅かされてしまったからね」
「いえ、普通にお呼びしただけです」
「エリの騎士は、少しからかうのもいけない事であるらしい。では、その内訪ねるのでよろしく」
そう言って去っていくフェンリルを見ながら私ははっと気付いた。
「なんで今の会話で接点が出来ているんだろう?」
「……天然ジゴロなんだろう。男を落とす才能がエリにはあるのかもしれない」
そんな才能本当にあるのだろうかと私は思ったのだった。
そして再び森に行って、モグラを返す。
紐を探す私に対して、クロヴィスはすぐさまそれを見つけて解除する。
手際のよいクロヴィスだが、それを見ながら私は、
「何で私の時は、あんなに手間取ったの?」
逃げて行くモグラに手を振りながら私がそう告げるとクロヴィスが、にやっと意地悪く笑った。
それだけで私は気づいてしまった。
そう、クロヴィスは初めから、もっと早くに……。
「さて、もう暗くなら帰ろうか」
「う、うぐ、クロヴィス、覚えてろぉぉおお」
そう叫んで私は駆け出して、魔物と遭遇して、八つ当たりも兼ねて魔法で倒していったのだった。
そんなこんなで落ち着く我が家に戻ってきた私。
だが再び玄関のドアを引いた瞬間目撃された、悪夢、再び。
「……謎の黒い物体がは追いまわる家(第二陣)」
私は茫然とそれを見ながら呟いた。
よく見ると、ローレライのライは、もう知るかというように椅子に座ってふてくされていて、猫のタマはその黒い生物を追うのに飽きたのか、リリスの杖を舐めて、リリスがらめ~と啼いている。
そんな中で元凶と言えるフィオレが、その黒い生物を必死になって捕縛していた。
一人で。
そこでフィオレは戻ってきた私に気付いたらしく、晴れやかな笑みで、
「あ、お帰り、エリ。えーと、ごめん、失敗しちゃった」
「何故作った」
「いや、こう、ほら……次はきっと大丈夫だって思ったんだ」
「……すでに二回駄目だったので、もう諦めて下さい。料理関係は私が作ります」
「も、もう一度チャンスを……」
「アンジェロに言い付けてやる」
フィオレは沈黙しました。
そしてこの混沌とした中に私は入ってから、杖をぺろぺろして、リリスをびくびくさせているタマに、
「タマ、あの黒いの捕まえるのを手伝って!」
「うにゃ~。多すぎて捕まえるの面倒臭くなってきたにゃ~」
「手伝ってよ、それとライも」
「「は~い」」
二人して気のない返事をして、黒い謎の物体の捕獲を手伝ってくれる。
そしてすぐ傍に転がっている、ようやく解放されて、はあはあと息も荒げにとろけそうになっているリリスを拾い上げて、
「リリス、大丈夫?」
「はあはあ……助けてくれてありがとう。そっちの二人は全然助けてくれないし、やっぱり私にはエリだけだよ~」
そう言って抱きついてくる妖精のリリス。
タマはちょっとやりすぎだから後でお説教だなと思いながら杖を見ると、杖全体がタマに舐められた跡がある。
これは……と私が思っていると、
「ちょっと私(杖本体)はシャワーを浴びてきます」
「うん、その方が良いと思う」
そう言って、リリスの本体である杖が、ぴょんぴょん飛んでいく。
それを見送ってから最後にクロヴィスに、
「この黒い物体を捕まえるのを手伝って。そうしたら夕食にしよう」
それに仕方がないとクロヴィスは頷いたのだった。
どうにか全ての黒くてがさがさする物体を捕まえて処理をした私は、夕食を作っていた。
本日は、そば粉のガレット……お食事系のクレープの様なものである。
この世界には“三日ソバ”という物がある。
そのそばは、撒いて三日ほどで収穫できるらしい(設定を見た時、どんなインスタントだよ、と私は思った)。
その傍を粉にした物で、ガレットというお食事系のクレープが出来るのだ。
個人的には、卵ハムチーズ、塩コショウバジルで味付けをして、レタスも入れるのが好きだ。
この世界にも似たようなものがあるので、それらを次々と焼いていく。
また、魚の切り身も帰ってくる途中で買ってきたので、この世界にある味噌の様なものを搾って作った醤油とバター、塩で焼いた物も一緒に出す。
他にはもともと作ったままこの世界に引き継ぎ? されていた果物“もこもこモモ”を蜂蜜に付けた物があったので、先ほどくんできた炭酸でそのシロップを割って飲み物として出す。
皆、喜んでくれたのが嬉しい夕食。
タマもお魚だと喜んでいる。こうして今日は食器洗いを全部してくれるとフィオレが言うのでお任せして私達は、各々の部屋に向かったのだった。
フィオレがいない内にと思って私は、部屋でライにこっそり話す事にした。
「あのね、今日依頼を受けたのだけれど、その人がローレライの知り合いがいるのかとか聞いてきて、ちょっと危険な気がしたからライに伝えておくね」
「……まさか薄い水色の髪だったりする?」
ライがものすごく嫌そうに呟いた。
愛想が良い魔物だったはずだけれど、こんな風な嫌な顔をするのは珍しいなと私は思いつつも、
「うん、それで、緑いの瞳の、フェンリルという……」
「……私の事は話していないね?」
「も、もちろんだよ」
「そう、それならいい。……ここまでわざわざ逃げてきたのに何でいるんだ」
ぼそりと呟いたライの様子に、私は、
「知り合いだったんだ」
「……まあ、そうだね。でも絶対に私の事は秘密だから。それは約束して欲しい。でないと……」
「でないと?」
そこでライはちょっとだけ黙ってから、嗤う。
「何処かに連れて行かれてしまうかもしれないよ?」
「なんか怖い事を言いやがりましたよ! え、何処に私連れて行かれちゃうの!?」
「はは、というわけで私の機嫌は損ねないようにね。フィオレも来た事だし」
ライがそういうと、丁度私の部屋をフィオレは開いたのだった。
そんなこんなで部屋で私達は色々話していた。
「それで今日は、“宝の持ち腐れモグラ”を捕縛したのですが……そこで、フェンリルという貴族らしき人に会いまして」
その名前に聞き覚えが合ったらしく、フィオレが、
「フェンリルは、海の向こうにある、“リーフェ国”の王子様の名前に似ているね。たしかその国の博物館には、伝説の品の数々が置かれ、封じられていると言われている」
「封じられている?」
「危険なものが多いから……エリ、常識」
「う、うぐっ、でもそんな国の王子様がどうしてここに?」
「港町は、あちらの大陸と行き来がしやすいからね。帆船に風魔法を使うものが未だに主流だけれど、空を飛ぶ魔法使い達なら半日もかからずここまで来れるし、最近では“すくりゅー”というものが開発されて、風ではなく炎の魔法などで移動できる最新の船もあるから、それほど時間はかからない」
「そうなんだ。海の向こうにいってみたいかも」
ゲーム上では設定だけだったけれど、もし行けるのならば行って見たいと私は思う。
そんな私にフィオレが、
「そういえばエリはここから更に東の方にある、ディアナ魔法学園の出身だったな。どんな所だったんだ?」
私はフィオレに聞かれて、どうしようと思ってしまう。
確かにこのゲームのシリーズには、魔法学園物もあったが、その学園ではない。
どうしようと私が困っているとそこでライが、
「そろそろ眠りたい。静かにしてもらえないかな。今日は黒いものを追いかけるのでとても大変だったんだ」
ライの言葉にフィオレが小さく呻く。
けれど次こそは成功すると言っていたので、私は、もう止めて、というかアンジェロに報告してやるというとフィオレは怒ったように口をつぐむ。
そしてそんな私も昼間の二度に渡る戦闘に疲れて、その日は泥のように眠ってしまったのだった。




