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肩をすくめやがったのだった

 そのクロヴィスの声に嫌な予感をした私は、モグラを見上げた。


「私を放した方が良いよ、クロヴィスがとても怒っている」

「みぃぎぎ」

「いやいやいや、そんな風に調子にのっていると、酷い目に合うよ?」


 それにモグラが、ミギミギミギと楽しそうに話す。

 だがその声を聞いた途端、その時クロヴィスの隣で捕まえられていたモグラが反応した。


「みぎぃいいいい」

「み、みぎみ、みぎ」

「みきぃいいい、みぎっ、みぎぃいいいい」


 何やら捕らえられたモグラが凄く怒っている。

 そしてそのすぐ傍にいたクロヴィスが……何とも言えない顔をしていた。

 先ほどまではとても怒ったような顔をしていたのに、今は、何処となく、うわぁ……といった雰囲気である。


 しかもその捕らえられたモグラは、クロヴィスに何やら話しかけている。

 だが、先ほどから延々と、みぎみぎとしか鳴いているように聞こえない。

 そこでクロヴィスがその捕まったモグラに、


「そうか、分かった。その代わり後で一緒に来てもらう、何、命の保証はする」

「みぎぃいい」

「……良い心がけだ。エリにも見習わせたい」


 私に見習わせたいとか、そもそも、モグラとどうしてクロヴィスは話せるんだとか色々突っ込みをしたかった。

 けれどそんな思いを抱いている間に、クロヴィスはあっさりその網を解いてしまう。

 同時に網を解かれたモグラが、思いっきり私達の方にかけよってきて、ぴょんととび跳ねたかと思うと、


「みぃいいい、みぎぃいいいい」


 そのまま飛び蹴りを私を捕まえているモグラに喰らわした。

 そのモグラは、大きな声をあげながら倒れて動かなくなる。


「みぃぎぃみみ」

「エリ、捕まえて連れて行ってくれだそうだ。ちなみにこのモグラ子さん(仮)(メス)の恋人がそのモグラだそうで、エリを捕まえている時に、この人間はいい匂いがするからこのまま恋人にしちゃおうかなっと言っていた」

「……どうして私がこのモグラなんかに」

「みぎみぎ」

「何だかいい匂いがするそうだ。更に付け加えるなら、そのモグラ(オス)は浮気癖があるらしい」

「へ、へぇ」

「みみぎぎぎ」

「子供も三人もいるのにいつまでも独身気分でふざけるんじゃないわよ、ちょっとお灸をすえてやる、だそうだ」

「こ、子持ち……」

「みみみぎぎぎ」

「“深淵の魔族”と取引して、ミルクなどを買うにはこういったキラキラがないと困るから襲ったけれど、少しくらいなら持って行ってもいいわよ、だそうだ」

「……“深淵の魔族”にそんな流通網が……というか、ただ集めているだけなんじゃと思っていたのにまさかそんな理由があるなんて」


 そもそもこの“宝の持ち腐れモグラ”って実は、凄く知能が高いんじゃないかと私は今更気付き、そういえば魔力が強いほど知能を持ちやすくなるというので、つまり、


「もしかして私達の言語も喋れたりしますか?」

「ええ、もちろんですわ。ただ魔物が人間の言葉を話すと、気持ち悪いと言って攻撃が酷くなるので」


 そう、モグラ子さん(仮)(メス)は、流暢に人間の使う言語で私に答えたのだった。






 気を失ったモグラのオスの方に、“ゴムっぽい投げ網”を使い拘束した私。

 それはまあ、良いのだけれど。


「ぱぱー」

「ぱぱー、どうしたの?」

「ぱぱを返せ―」


 小さな子供モグラに私達は襲われました。

 物凄い罪悪感に襲われながらも、“ゴムっぽい投げ網”を使って拘束し、手伝ってもらうだけだからと説得をして、どうにかなった。

 そしてその次だけれど、


「うう、この宝の山から何を探せばいいんだ。……諦めて少しずつやっていくか」


 そう思って私は探していく。

 途中私は石板を見つけて、何故ここに!? と思ったのは置いておくとして。

 あの、あたかも私が行くであろう場所に石板があるというか事前に設定してある気がして仕方がないのだ。


 この世界に連れてこられた私だけれど、一体何を望まれてこの世界で“主人公”を演じさせられているのか。

 ふつふつとわきあがる不安は、目の前の金貨など、宝の山の前にすぐに消えた。

 探しても探しても終わらない。


「うう、ブローチ、何処にあるんだよぅ」


 このままこの宝にちょっとだけ埋まってみようかと私は考えてしまう。

 それも気持ちが良さそうだ、そう私が現実逃避しながらも、場所を変えようと立ち上がる。

 そして歩きだした所でそれはあった。


「何だかこの宝箱、変な感じがする。何だろう、上手く言えないけれど、凄く凄く変」


 私はその小さな宝箱を持ちあげながら、鍵がついていないのを確認して力を加える。

 ぱかっと開いたそれの中には、白い石のはめ込まれたブローチとそして、


「“ローレライの涙”を加工したブローチも入っている」


 そんなイベントだったかな、と思いながらも同じ箱に入っているのならと私は思って、それを取り出し、他にも幾つかの魔法のかかった装飾品を貰い、クロヴィスにも声をかけ、集めたものを回収する。

 ギルドの落とし物コーナーに置いておけば、元の持ち主が見つかるかもしれない。

 もちろん石板は、私が個人的にもらっておくが。

 そして集めた装飾品類をモグラ子さん(仮)(メス)に見せて、


「これらを頂いていって良いですか?」

「あら、それだけでいいの?」

「はい、多分これで大丈夫かと」

「そう、では、これをよろしくお願いします」


 それに頷いて、私はこの縄に、運ぶ用の杖の端をくくりつける。

 空を飛ぶ時に使う杖で、魔法をためる球状の宝石部分から白い羽が生えて、こうやってものを浮かばせて運んだりできるのだ。

 その浮かせる高さは私がどの程度魔力を注ぐかで決まるらしく、地上から十センチくらいと心で願うとそれくらいに浮き上がる。


 そして帰りは、モグラ子さん(仮)(メス)に案内してもらって出口までやってきて、


「クロヴィス私に捕まって。上まで魔法で上がるから」

「……そうだな」


 そう言ってクロヴィスは私を抱きしめる。

 これは違うような思いつつも、仕方がないのでそれから地上に浮かびあがる。

 その場所は初めに来た場所と違っていて、代わりに、


「ここ、炭酸の泉が出る所だ! 少し汲んでくるね!」


 私はその泉で水を汲み、後でここに連れてこようと決めて町に戻ったのだった。







 町に戻った私達は、早速ギルドに向かう。

 あの森周辺の魔物退治とそして。


「これが“宝の持ち腐れモグラ”です」

「そうか、では……」

「ただこのモグラ、子供がいたり色々していまして、気の毒に思ったので依頼主に直接会って、渡して、それから事がすんだら森に返してあげたいのです」

「いや、それは……」


 ギルドのおじさんは悩んでいるようだった。

 それはそうだろう、と私が思っているとそこで、馬車がギルドの前に止まる。

 豪奢なそれに乗る人物を私は知っている。


 ドアが開かれ、現れた人物はクロヴィスより少し背が低いが、一般的な範囲内では高い部類だ。

 薄水色の色素の薄い髪に、緑色の瞳。

 海の向こう側の国の王子、フェンリルだ。


 彼は微笑みながら私達に近づいてきて、


「おや、君達が依頼を受けてくれたのかな?」

「は、はい、あの……」

「ああ、私は……フェンリルだ。フェンリルさんで構わない」


 お忍びで来ているので当然かなと私は思いながらそのフェンリルに、


「じつはこの“宝の持ち腐れモグラ”、子供がいまして後で森に返したいのです」

「なるほど。ただ私にも事情があるのだ。今回間違えて宝箱をそのモグラに投げてしまったのだが、実はそれが大事なものでね。だからこのモグラには、色々と聞かなくてはいけなくてね」

「えっと、その宝箱というのはこれでしょうか」


 私はいそいそとそれを取り出した。

 確かこの中に入っているブローチが、母親から頂いた大事なものだそうで、これを持っている事で身に起こる危険から守ってくれる、いわば防御の魔法道具のはずだった。

 それを取られてしまい、慌てて依頼してきたという話だった気がする。


 ただブローチだけで、宝箱丸ごとではなかった。

 今フェンリルは、宝箱を取り戻したいと言っていたのだ。

 その奇妙な違いに気付きながら様子を見ているとそこで、


「そうだ! その宝箱だ! どうしてそれが分かったのかな?」

「いえ、たまたま宝物が一杯ある所に来たので、魔力を感じるものを幾つか。後でギルドの落とし物箱に入れておこうかと」


 無くして探している人もいるだろうしと私は思ったのだ。

 丁度いい、このブローチが目的だと知っていたというカモフラージュになるなとも思いはしたが、役に立つならそれで良いなと私は思ったのだ。

 ほんの少し嘘を混ぜて話す私。

 そしてそれを話すとこのフェンリルは、


「つまり私のこの宝箱は、落とし物箱に入れられてしまう所だったと?」

「はい」

「……そうか、私の宝物が落とし物……何だかおかしくなってしまったよ」


 そう愉快そうに笑いだすフェンリルだがそこで彼は、


「面白いね、君は。名前は?」

「エリです。今魔法使いになる為に頑張っています」

「そうなのか。そして……有名な剣士が君と一緒にいる様に見えるのだが」

「きっとその通りなのでしょう」

「……クロヴィス。遠目で見た事があっただけだが……君の仲間なのかい?」

「はい、そうです」


 そう告げるとフェンリルはちょっと考え込むように黙ってから、


「君は意外に将来性があるのかもね。もしかしたならこちらに泊まっている間に、君の家に依頼をお願いしに行くかもしれないけれど、いいかな」

「ぜひそうして下さい! 危険な戦闘は嫌です!」


 フェンリル王子が沈黙した。

 次にフェンリルはクロヴィスを見て、それにクロヴィスが、


「だからエリには俺が必要なんだ」


 そう肩をすくめやがったのだった。



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