森の中
そんなこんなで魔物を倒しながら進んで行く私達。
とりあえず私は倒しながら、“宝の持ち腐れモグラ”を探していく。
多分何処かにそのモグラの掘ったらしい土や穴があると思うのだ。
ゲーム内では道のすぐ傍にそういった穴を見つけたけれど、私達は人が良く通っているので踏み固められたような土の道を歩いて森の中に入るけれど、一度も遭遇しない。
明るい森で、木漏れ日が気持ちい。
途中にちょっとした泉があると看板があったので、そこで私達は休憩する。
「うわー、湧水、美味しい。クロヴィスは飲まないの?」
「喉が渇いていないからな」
「そうなんだ。でも美味しいな。少し汲んで持って帰ろう」
後でコーヒーなんかを入れるのに使っても良いよなー、とわくわくしながら私は水を組む。
そこで地響きがする。
ドシンドシンと大きな物が歩くようなそんな音だ。
何が来たんだろうと音のした方を警戒しながら杖を構える私。
クロヴィスも私の隣で、剣の柄に手をかけている。
そしてその音の下方向からうっすらと私の背よりも高い、楕円形の様な物が見える。
それが更に近づくにつれて私は気づいた。
その茶色い毛並みに赤い瞳、あれは、
「“宝の持ち腐れモグラ”だ! 確か捕縛だったよね。網のアイテムは確か……これだ! “ゴムっぽい投げ網”」
ゴムのように伸び縮みして投げると勝手に敵に向かっていき、しかも縮まってその物体を捕縛するのだ。
これを使えば一発で終わりだと私は思った。
思ったのだ。
だが泉のすぐそばというかすぐ傍の石の上にいた私は、泉の水で濡れた滑りやすい部分に足を延ばしてしまい、そこで滑って転んでしまう。
おかげでちょうど持っていた網が私の真上に飛んで行って、視界全体に広がったかと思うと……。
「うぎゃああああ」
網が私に絡まりました。
私は敵じゃないのに、というかターゲットが私達から逃げて行くのを、私は目撃する。
「全くエリは何をやっているんだ」
「やりたくてやっているわけじゃ……クロヴィス、この網を切ってよ」
「エリが傷つくと困るから無理だな」
私を心配してくれたらしく、クロヴィスはそういう。
そこで、網に触れて、
「それでこの網の魔法はどうやって解除するんだ?」
「確か外から中に手を入れて、紐を引っ張ると外れたと思う」
「分かった。それでその紐は?」
「私の位置からは分からないよ」
「仕方がない、色々な場所から手を入れる事になるが、諦めろよ?」
諦めろよと言ったクロヴィスの声がやけに楽しそうだった気がして私は、恐る恐る見上げる。
クロヴィスは笑っていた。
意地悪そうな目で。
待って、と言おうとした私は、そこで肌を這うクロヴィスの手を感じたのだった。
もぞっと首の辺りに、クロヴィスの手が触れる。
首筋を動くそれがくすぐったくて、
「ぎゃははははは」
「……これはこれで面白いか?」
「あははっ、はあっ、それよりっ、あはっ、早く見つけてっ」
けれどそう私が言っているのに首の辺りばかりしばらくもぞもぞしてから、クロヴィスは手を引き、
「ここにはどうやらなかったようだな。では次に行こうか」
「わ、わざとだ。絶対にクロヴィスはわざとやってる!」
「それで?」
「そ、そろそろ本当に真面目にやってよ!」
「仕方がないな。どうせエリの視界内にないなら、背後にあるだろ」
気付いていたならもっと早くやってよ! 私はそう思う。
そこで背中をクロヴィスの手が滑る。
服の上だから何ともない。
そこで更に下の方にクロヴィスの手がのびて行き……そこで、網が私の体から解けた。
ようやく解けたと思って、球状になったそのアイテムを手に取りながら、
「はあ、とりあえずありがとう。クロヴィスのおかげで助かったよ」
「そうだな、感謝しろ」
嗤うクロヴィスを私はじと目で見た。だって、
「よくも散々私の体を弄んでくれたわね」
「エリが喘ぐのが楽しくて。だが解放しただろう? これがもし一人だったら……」
「く、くう……どうしてクロヴィスはそんなに意地悪なの」
「さあ、どうしてだろうな。それで、この後どうするんだ? あのモグラは逃げたぞ?」
そう言われてそちらの方向を見ると、あのモグラの姿は何処にもない。
逃げられたのだとすぐに分かるけれど、
「でも、ここの水を飲みに来ていたし、あのモグラがここに現れたって事は、ここの近くの何処かにモグラのダンジョンへの入口があるはずなんだ。その何処かに宝ものを隠しているはずで、多分その依頼主はモグラを捕まえてその宝を取り戻したいんだと思う」
「……依頼にはそこまで書いていないのによく知っているな、エリ」
「ぎくっ、それはその……そう、以前そんな依頼があったから多分そうかなって」
私は慌ててごまかした。
ここで異世界の人間だとクロヴィスにばれ、そのまま、仲間のいないラスボス戦に持ち込まれたら困るのだ。
だから私はそう言い訳したのだけれど、
「エリは嘘をつくのが下手だな」
「う、うう……」
「だが優しい俺は聞かないだやる。優しいだろう?」
「……うん」
素直に頷くと、良い子だというように頭を撫ぜられる。
私は子供じゃないと言い返したかったけれど私は我慢した。
そして、それから……私達は、あのモグラのいる方に歩いていき、
「ちょ、ちょっと待って、うわぁあああああ」
地面に近い場所に掘られていたらしい場所で、そのモグラのダンジョンに私とクロヴィスは落ちてしまったのだった。
“宝の持ち腐れモグラ”を追いかけて森の中に入ってすぐ、私は踏みしめた地面が崩れ落ちる。
「ちょ、ちょっと待って、うわぁあああああ」
「エリ!」
悲鳴を上げる私の腕を掴んだクロヴィスも、同じようにその穴に落ちてしまう。
周りに土の欠片が舞い、暗い壁が視界広がって、地上の光がどんどん遠くなる。
ふわりとした奇妙な浮遊感は、私が穴に落ちているから。
この穴どれくらいの深さなんだろう、そう思っていると私は誰かに抱きとめられた。
その手はクロヴィスで、お姫様だっこの形だ。
「た、助かった、ありがとう、クロヴィス」
「お礼をういう前に、すぐに魔法を使えるように訓練しろ。俺がいなかったら死んでいたかもしれないぞ?」
「だ、だから戦闘の依頼は危険なので止めて家に引きこもろうかと」
「よし、今度はそういった緊急での対応を仕込んでやる。嬉しいだろう?」
「つまり?」
「最適な依頼を探してきてやる。俺は優しいだろう?」
私はクロヴィスを恐る恐る見上げる。
地上の光が真上になっているとはいえ、濃い影になってクロヴィスの表情は見えない。
けれどきっとまた意地悪く笑っているんだろうなと私は思いながら、
「……何でそこまでするの?」
「魔法使いは、戦闘狂なものだろう?」
「ま、魔法使いだっていろいろな人間がいるんです! もう降ろして下さい」
「よーし、このまま連れて行ってやろうか」
「やめてぇえええ」
何が楽しくてお姫様だっこされて移動しないといけないのだ。
恥ずかしいので騒いだ私。
それでどうにか降ろしてもらった私は、地面を踏みしめながら、魔法を使う。
「“妖精の灯 ”」
魔法を選択する画面を開き、触れて、魔法を使う。
私の足元に光の円陣がくるくると回りながら現れて、杖の青色の石の中で黄色く輝く文字が躍る。
同時にそれを横にかけて振ると、黄色く輝く球状の灯りがシャボン玉のように広がる。
今回は小さめの灯りを沢山周りに振りまく事にしたのだ。
その灯りで周辺は明るく照らされるが、周りは土の壁だ。
耳をすましてみるけれど、遠くの方で風のざわめきが聞こえるだけだ。
「と、言うわけで隠している財宝を真っ先に探しに行きます。そのための魔法道具“猫に小判人形”。この人形は自動的に、宝のある場所に向かっていく魔法道具です。ただ宝ものには大抵魔法が封じ込められているので、それを察知して走っていく道具で……これはさすがに良いよね?」
私はクロヴィスを見上げると、クロヴィスは黙ってから、
「怠けるわけではなさそうだから良いだろう」
「わーい」
というわけでその人形を使う。
実はこのモグラのダンジョンは、好き勝手に穴が掘られるのでとても入り組んでいる。
なのでこういったアイテムがないとはいっても辿り着くのが至難の業なのだ。
しかもこの人形は、安全そうな道を選んで案内してくれるすぐれものなのだ。
イベントアイテムの一つで旅の人形遣いという怪しい魔法使いに教わるアイテムなのだ。
しかもその人形遣いは、この人形も含めてとても高度な魔法使いであったことが後に判明するが、結局はそれ以降出会うことはなかったはずだ。と、
「だがその人形、よく、ウィルワードが作っていたものに似ているな」
「……え?」
「人形系の魔法道具も面白がって大量に作っていたぞ? 確か、こんなのも」
「……ちなみにそのウィルワードは外を出歩く時変装していましたか?」
「そうだな、包帯巻いて仮面をかぶって、大きな帽子とローブを着て、極めて怪しい風体だったな」
それを聞きながら私は思う。
もしかしてゲームで倒したあの竜は、主人公達がもともとイベントアイテムを教えてくれたやさしくて優れた魔法使いで……。
そんな裏設定知らない、というかここはゲームの世界じゃないよな、似ているだけだよなと思う。
でもそういえば、イベントを進めていく途中にあったイラストというかスチルでは、その塔を攻略した後にちらっと主人公の成長を見守るような位置で書き込まれていたはず。
なのでこの世界とゲームの差異の一つなのかもしない。
そう思って私が安堵していると、
「それで、エリはウィルワードに教えてもらったのか?」
「い、いえ、又聞きで教えてもらっただけです、はい!」
「……まあいい、行くぞ。早く使え」
クロヴィスにそう言われて私は、その“猫に小判人形”を使ったのだった。




