戦闘の依頼
そんなこんなで結局クロヴィスは、部屋で眠るのを止めた。
理由は私がこれから依頼された石鹸を作成するからだ。
つまり、石鹸の依頼をこなしてギルドに届けて、それから戦闘だそうだ。
「しくしくしくしく」
「さあ、早く作れ。日が暮れる前に家に帰りたいだろう?」
「……今日はもう戦闘したから良いじゃん」
あんなに沢山何回もの敵と戦ったのだ。
私はとても頑張ったと思う。
だから、考え直して欲しいと私は思ってじっとクロヴィスを見つめた。
するとクロヴィスの顔が私に近づいてきて、私の唇と重なった。
温かい唇が私の唇に触れているという感覚に、私は、何故!? としか思えなかった。
そんな固まっている私からクロヴィスの唇が離れて行って、クロヴィスが真っ青になっている私を見て意地悪く笑い、
「ごちそうさま」
「な、な、何でキスするの!」
「俺の方を物欲しそうに見ていたから。悪いか?」
「悪いに決まっているよ! 私は、戦闘したくないと念じながら見ていたのに!」
「そうか、可哀想にな。それで早く依頼の品を作れ」
全然、可哀想と思っていない口調で私にクロヴィスはいう。
それに涙目になりながらも、私は石鹸を作る事にした。
まずは材料を並べて行く。
「確か、“モノクロ岩塩”が一杯あったよね。あと油。“壁づたいの実”という蔓性の木の実から採った油があって、それを鍋に入れて……雷の魔法と水で……あ、そうだ。香りを付けた方が良いよね。“紫の穂花”を使って」
これを鍋に入れてセットして、後は、自動的に四角く切り分けた石鹸が出来るのだ。
“モノクロ岩塩”はその名の通り、黒と白が交互に重なった、ミルフィーユというお菓子の様な層状の塩だ。
形は立方体のようになっていて、この近くの山である、モノクロソリッド山でとれるらしい。
ゲーム内では購入していたのでその山に私は行った事はないが、何でも岩塩が四角く削り出されているので、四角いぼこぼこした山になっているらしい。
また塩自体はこの前行った港町の近くでも塩田があって、そこでは、“白雪の花塩”と呼ばれる高級な塩が採れる。
あまりにも高くてもったいないので、私はこの石鹸には使用しないが。
そして油はとても良く繁殖するつる植物の実からとった油である。
匂いがあまりない油なので香り付けするにはとてもいい。
なので、石鹸の香りは今回はラベンダーの様な形をしたとても香りのよい花、“紫の穂花”を使用した。
依頼でもそう書いてあったし。
そんなこんなで、それらの材料を鍋に放り込んで、雷の魔法を使って石鹸を作っていく。
薬品の危険がないのもゲームの良い所だよなと私は思う。そこで、
「私も何か手伝おうか? 泊まってばかりでは……」
「あの黒い生物を増殖されると困るので、フィオレはそこに座ってライの相手をしていてくれると嬉しいです」
そこでライが椅子に座ったまま私達に手を振る。が、
「ああなるのは食べ物だけだ。それも普通に焼いただけとかなら大丈夫なんだ! ……どうしてそんな目で私を見る!」
「あの黒い生物を捕まえるのは大変だったので、大人しく客人でいて下さい。お願いします」
「う、うう……反論できない」
「それに早くアンジェロさんと、仲直りを……」
「あいつの話はするな!」
フィオレはまだご立腹のようです。
仕方がないのでまたもお留守番(クロヴィスに、今日はエリと二人っきりだと言われてしまった)していてもらい、私は石鹸を持ってギルドに向かったのだった。
ギルドにて、石鹸を納品した私。
お金を貰って、ポイントも確認して、よしと私は頷いた。
「このままお家に帰ろう! ……ぐえ」
そこで何者かに私は、服の襟首を掴まれた。
私は必死になってその人物から逃げようとするが力が強くて逃げられない!
そこでその人物が私に嗤いながら、
「俺から逃げられると思っていたのか? さあ、行くぞ」
「さ、さっきギルドで新しい依頼を受けていたはずなのに、何でそんなに早く手続きが終わるの!」
「今してもらっている最中だが、エリが逃げようとしているのがばればれだったからな」
「そんなに私の今後の予定を埋めるのが楽しいの!」
「……大丈夫だ。追加した依頼はこれから行く場所の依頼だ」
「それなら一緒にこなせるね。それでどんな依頼なの?」
私は依頼内容を聞きながら、クロヴィスの隙を探す。
だがそんな物は何処にもなかった。
代わりにクロヴィスが私の耳元で、
「今回は、モグラの捕縛の依頼も受けた」
「……モグラって、土の中で穴を掘る?」
「そうだ。その中でも“宝の持ち腐れモグラ”というモグラがいるが……」
「確か、光りものが好きだったんだよね」
「そうだ、何だ知っているんじゃないか。それから財宝の幾つかを取り返す、そんな依頼だ」
「依頼人は?」
「……匿名になっているな」
クロヴィスのその話を聞きながら、私は知っているあるイベントを思い出す。
そんなに大した事のないイベントだったけれど、その依頼の人物は……。
やっぱりあの馬車は見間違いじゃなかったのだ。
物語が前後しているけれど、確実に私はその場所に向かう事になる。
そしてその場所には石板がある。
あれを集めると、あの場所の封印が解けちゃったりするんだよなと思って、そのイベントは必須なのかと思う。
しかもそれ、最終に近い場所で起こる話で、その後にやってくるのが……。
私は無言でクロヴィスを見上げた。
のけぞるような格好だけれど、そのクロヴィスは何時ものように意地悪く笑っている。
今は大人しそうだけれど、最終局面であんな事になってしまうなんて。
ブルっと私が震えると、そこでクロヴィスが微笑み、
「ちなみに、その周辺の魔物もそこそこ倒す依頼が、もう一つの依頼だ」
「……う、うう。仕方がない、それで確か行き先は“クラフの森”だっけ?」
「そうだ」
「……折角だから近くにある炭酸の泉から、炭酸水を汲んでこよう。シロップに混ぜても、料理に使ってもいいし」
そう思えば私ももう少し頑張れる気がする。
美味しい物を手に入れるためだ。
そうだ、クレープなんかも焼いていいかも。
お食事系のクレープも美味しいしなと、自然と笑みがこぼれる。
そんな私にクロヴィスが、
「エリは食い意地が張っているな」
「! いいじゃん、美味しい物が好きなだけ!」
「そうだな、“美味しい”から仕方がないな」
クロヴィスがそう面白そうに笑う。
何だか馬鹿にされている気がする、そう私は思って怒りながら歩いて行って、そこで……何で素直に戦闘に向かってしまったんだろうと気付いたのだった。
気付いた所で後には戻れない。
そんな道中にて、私は魔物に遭遇していた。
羽の生えた、円錐上の魔物で、精霊のなりそこないのようだ。
あともう少しで精霊になるのかもしれない。
けれどだからといってやられるわけにはいかない。
仕方がないので、ただの杖(それでも装備できる物の中では強い物)を振るう。
魔法を使うたびに、杖の先端についた丸い青い石と、その石を嵌めこむように作られたつる植物のモチーフから伸びる黒い金属の鎖の先についた、小さな青い石、その二つの石の中で黄色い光が小さな文字を描くようにくるくると回り輝く。
その光は青い石の中なので弱まると緑色になって、その青色の石には青と黄色、緑の三色の輝きがう浮かぶ。
威力もさることながら、この華やかな魔法少女の持っていそうな杖が主人公たちみたいな可愛い女の子が振るのはとても目の保養でした。
それが何でこんな可愛い杖を私が振らなければならないんだろう、平凡なこの私が。
涙しつつも目の前の魔物を倒していく。
だいぶ慣れてきたので、ここにいる魔物達を倒すために瞬時にどんな魔法が良いかと思いついて、それを使うのだ。
ゲーム内で何度も戦ったせいで、弱点の属性やら何やらを記憶してしまっているのである。
繰り返し学習するのは記憶にとどめやすいという実例なのかもしれない。
さて、そう思って倒すとすぐ傍に現れたもう一匹をクロヴィスが倒す。
一撃で真っ二つにして倒してしまうが、クロヴィスにとっては大した事のない相手だったようだ。
ゲーム内で仲間だった時はそこまでではなかったけれど、ラスボスのクロヴィスはそれはそれはもう、強くてもう……。
ゲームではあるあるなのだが、敵キャラだったキャラが仲間になるとそこまで強くなくなるという謎の法則に似たものを感じる。
類似のあるあるでは、敵の持っていた危険な武器を使えるようになると、何故かそこまで強くないという……あの、がっかり感のあるあれだ。
とはいえ、この世界でのクロヴィスは、何というかこう……現実的な意味でラスボスじみた強さがあるような気がする。
なんとなくだけれど。
そこでクロヴィスが私を見て、
「エリも諦めて戦闘するようになったな。このまま戦闘と聞けば自分から飛び込んで行くようになるかもしれないな」
「そんな物になってたまるか! うう、本当は戦闘なんて嫌なのに」
「別に倒せる相手を怖がってどうするんだ?」
酷く不思議そうに私はクロヴィスに聞かれて、
「だって、死にたくないし。命は一つしかないんだもん、当然だよ」
「……そうだな。だが、戦闘で強くなればモテるぞ」
「……そんな物がなくても、モテる方法だってあるもん」
「だが俺が魔物を倒すと、女の子にもてたぞ? 男にもだが」
クロヴィスが私にそんな事を言う。
私は思った。
それはただ単に……。
「美形だからモテているだけなんじゃ」
「? 敵を倒すと、キャーって。強い男は素敵ですねって言われたが」
「美形が強かったら更に持てて当然じゃない! その、ただしイケメンに限るみたいな話は……許せん。やっぱり私は、戦闘能力が上がってもモテる気がしない。町で良さそうな男性を探してやろうかしら……」
「……それが上手くいきそうになったら邪魔してやる」
「! なんで!」
「エリは俺の“物”だから」
クロヴィスは私に笑いながらそう告げる。
けれどその瞳は、ぞっとするような冷たさと本気が秘められているような気がした。
ただ気になったのは、
「誰が“物”よ。私はクロヴィスの所有物じゃない!」
「へぇ、じゃあここでお別れだ。一人で頑張って帰ってこい」
「! 帰りに魔物にあっても一人で戦闘……はっ、ここで魔物よけの道具を……クロヴィス、何で剣を構えるのかな」
「ん? もちろんエリが怠けないようにそのアイテムを壊すためだが?」
「う、うう……ぐす。私はクロヴィスの所有物で良いから、一緒に来てよ」
流石に一人の戦闘は嫌なのだ。
そう私がお願いすると、クロヴィスがまあ良いだろうと偉そうに私に言ったのだった。




