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謎の黒い塊

 帰りにギルドに寄って、戦闘の依頼をクリアしたことを伝える。


「では残る戦闘の依頼は、三つですね」


 受付のおじさんがそう告げた時、私は驚愕の思いでクロヴィスを見上げた。

 クロヴィスはそんな私を楽しそうに見ている。


「いつ俺が、戦闘の依頼を一つしか受けていないと錯覚していた」

「で、でも……これからの予定、幾つも埋める気だったり?」

「もちろん。俺と二人っきりで、頑張ろうな」

「……せ、せめて、他の仲間にお手伝いしてもらうのは……」


 今回だって結構大変な思いをしたのだ。

 なので仲間のありがたみをとてもとても私は感じてしまったのだけれど、そこでクロヴィスは面白くなさそうに、


「そんなに他の奴と一緒がいいのか? エリは」

「え、だって……私ばかり戦うの大変だし。あ、クロヴィスに全部お任せでいいなら、いいよ?」


 ニコッと私は笑ってクロヴィスに言った。

 それにクロヴィスも微笑み、


「そうかそうか。……やはりエリには再調教が必要だな」

「調教!? い、いえ、あの、私……」

「怠け者の魔法使いには丁度いいだろう。これから連日頑張ろうな。俺と一緒に」

「で、でも私……うう」


 クロヴィスは私の言葉なんて聞いてくれないようでした。

 はあ、明日からまた大変なんだなと思って、やっぱり絶対誰か連れて行って手伝ってもらおうと私が心に決めているとそこで、


「あれ、また依頼が増えている」

「ああ、それは急ぎの依頼で、納品が本日中なんだ。その分依頼料は多くなっているよ」


 受付のおじさんが言うのを聞いて私は、材料もあるのですぐ出来る依頼だと気づいて受付に持っていく。

 依頼内容は“水晶石鹸”を十個だ。

 しかもお値段もポイントも結構いい。


「これで資格ポイントも貯められる」


 私は喜んでその依頼を受けるとそこでクロヴィスが、


「そういえばエリ、今はレベルはいくつになっている?」

「確か資格の魔法使い証明書の紙に、魔力を通すと表示されていた気が」


 そう思って私は、レベルを見ると三十五と表示されている。

 但し魔力などは、とても多くて吹き出しそうになったが。

 そういえば、レベルを見たのはここに来て初めてだった。


 どうせ“1”からだろうと思って油断しすぎていた気がする。

 まさかこんなになるなんて……待てよ。

 ここでこれだけ力があったり、そこそこレベルがあったりすると、力があるから更に危険な依頼を受けさせられるのではないだろうか。


 それでは私は、引きこもれない。

 なのでこれは、クロヴィスに気づかれてはならない事項だ。

 そんな私にクロヴィスは、


「それで、どれくらいまでレベルが上がったんだ?」

「え、えっと、現在のレベルは九です」

「嘘だな」

「!」


 即効で嘘がバレました。

 そしてそんな私を見てクロヴィスがにやぁと笑う。

 私の頭の中で警鐘がなる。

 なので、ジリっと私は後ずさりしてから、


「だ、誰が言うかぁあああ」

「待て、エリ!」


 クロヴィスの声が聞こえたけれど私は全力で疾走して、私は自分の家の前まで来てようやくクロヴィスに捕まる。

 

「は、放して」

「逃げ足だけは速いな。今までで一番速かったんにゃないのか?」

「う、うう、絶対に言わないんだから!」


 私がそう抵抗した所で、ぼんという音とともに、私の家の煙突から黒い煙が吹き上がったのだった。

 






 私の家が、危険で危ない!

 ここで突然宿なしになってたまるかと慌てて私は家のドアを開いた。

 そんな私が中で目撃した光景といえば、ライが必死になってフィオレを止めている様子とそして、家の中を走り回る黒い謎の物体だった。


「私の家に、謎生物が住み着いた……」


 しかも丁度、魔法の暖炉兼調理道具から、またも黒い物体が飛び出して走り回っている。

 一体何が起こったのだろうか。

 私がそう思って固まっていると、ライが近づいてきて、


「ごめん、エリ、折角泊めてもらっているからフィオレと一緒に食事を作ろうとしたのだけれど、フィオレが料理を作ったら全部失敗してこんな風に」

「……失敗?」


 天井や壁すらも走り回る黒い物体を見ながら、私は反芻する。

 何をどうしたら失敗してこれになるのか?

 黒い灰が出来るのは分かるけれど、これは蠢いている。


 現在その謎の物体を、我が家の飼い猫タマが追いかけ回している。

 それを見ながらそこで私は思い出す。

 フィオレには確かメシマズ属性と共に、植物を育てる謎の特殊能力があったはずだ。


 ゲーム内でのイベントでは、谷を越えるために、巨大綿毛の植物を育てて、それの一つに捕まりながらその谷を越えたのだ。

 その植物を育てる様に、灰を育てて何かに変化させてしまったのか。

 とはいえ、ネズミと同じくこんなものに走りまわられては困る。なので、


「この黒い生物を捕まえるのを手伝って。クロヴィスも!」

「……」


 けれどクロヴィスは、黙って無表情にフィオレを見ている。

 どこか遠くを見るような、けれど冷淡な眼差しのクロヴィス。

 どうしたんだろうと私は思いながらも私は、


「クロヴィス、手伝ってよ」

「あ、ああ、そうだな……」


 そこで私の方を見て、クロヴィスが微笑んだ。

 何処か寂しそうな微笑みでそれが私は引っかかるけれど、それ以上は私は追求しなかったのだった。






 そんなこんなで、謎生物を倒した私達。

 仕方がないので私がご飯を作った。

 お昼も兼ねたそれは、パンとビーフシチュー(のようなもの)とサラダ、そしてスパイスティーであるチャイのようなものだ。


 チャイのようなものは、この世界にもシナモンやカルダモン、ホール状の黒胡椒や紅茶のようなものがあり、それを煮だした液に砂糖とミルクを加えて濾したものだ。

 現実世界でも時々作っていたが、体が温まるし、インスタントのものと違って自分で作ると格段に美味しい。

 なのでそれを作ってみたのだ。


 また、手作りドレッシングをかけたサラダは好評だった。

 そんなこんなで話しながら、そこでライが、


「それで戦闘はどうだったの?」

「うん、かくかくしかじかだった」

「へー、伝説の魔法使いが冬眠していたんだ。そのうち会えるといいね」

「うん、ここにそのうち立ち寄るって言っていたよ」

「本当か!」


 そこでライと私の会話にフィオレが全力で食いついてきた。

 目を輝かせているフィオレに私は、


「フィオレ……もしかしてファン、とか?」

「ファンじゃない! 尊敬する方だ! あらゆる魔法の知識に精通し動植物や素材に関しても深い造詣ぞうけいを持つ素晴らしい方だ! けれど数年前に行方をくらませて……きっと、誰にも言えない世界の悪意と戦っていたに違いないと私は思っていたのです!」

「……えーと、恋人に振られて引きこもっていたらしくて……」

「……いや、あの尊敬する方がそんなはずはない!」


 フィオレは私の話を聞きませんでした。

 なので私は、夢を見るのはいい事だと思って、放置しておくことにしておいたのでした。







 そんなこんなで昼食会が終わり、珍しくクロヴィスが自室に行って休むと言いだした。

 もしかして、午後は別の戦闘の依頼に連れて行かれてしまうのではと私は警戒していたけれど、そんな事はなかった。


「……よし」


 つい口に出してしまう私。

 だが、それは迂闊だった。

 目の前にはまだクロヴィスがいて、私を見ている。


 まずい、何でつい口に出してしまったんだ私は……そう私が焦っていると、そこでクロヴィスが私をじっと見る。

 まるで食い入るように私を見つめていて、それに私は居心地の悪さを感じる。

 一体クロヴィスはどうしたのだろうと思っていると、そこでクロヴィスが私の肩を掴んで抱き寄せ、そのまま抱きしめる。


「ど、どうしたの? クロヴィス」

「……抱きしめるのには丁度いいサイズだな、エリは」

「え? は、はあ……」

「このまま安眠のために連れて行くか。ベッドに」

「ま、待てぇぇええ、私を抱き枕にするなぁああ」

「日ごろこの俺がついて行ってやっているんだからその分を体で支払え」

「べ、別に頼んでないし! というか、どうしたの? クロヴィス」


 何だかいつもよりもクロヴィスが弱っているように見えて、私は問いかける。

 それにクロヴィスは、ふっとほ微笑んで、


「……少し昔の事を思い出しただけだ」

「そういえばウィルワードさんも古い友人なんだっけ、クロヴィスの」


 その言葉にフィオレが大きな音を立てて立ち上がって、嬉しそうにこちらを伺ったのは良いとして。

 このクロヴィスの友人というのも、珍しい気がする。 

 そういえばクロヴィスの親衛隊らしい女の子が言うには、クロヴィスは孤高の存在だったらしい。


 どちらかというと傲慢さもある嫌みなイケメンでありながら、時々は優しさを見せるこのクロヴィスに友人がいるのも少し不思議な気がする。

 何か過去にあったのかなと思いつつ、ゲーム上ではクロヴィスの過去にはあまり触れられていなかった。

 多分製作時間か予算の関係なのだろうと、邪推しつつ流していた私。


 攻略本も購入して(主人公達の女の子が好みだったので、全イベントをコンプリートしようとしたため)読んだ中にはとくそこまで触れられていなかった。

 しかもあのウィルワードと友人という設定も知らなかった。

 どんな接点があるのだろうなと思っているとそこでクロヴィスが、


「友人……というか、友人を押しつけられたんだ」

「え? それは友人、なのかな?」

「絶対にあいつが譲らないから、面倒になって放っておいた」


 酷い答えだなと思いながら私は、


「でも起こしに行こうと思ったのはクロヴィスの意志だし、“友人”なんじゃないかな」

「そう……なのか?」

「そうそう、腐れ縁でも、そうやってクロヴィスは友人として心の何処かで思っていたんじゃないかな」


 それにクロヴィスは沈黙して、私は何となく良い事を言った気になった。

 けれどそこでクロヴィスは私から離れ、深々と頷き、


「それはないな」

「ええ!」

「今回は起した方が面白そうだし、エリのレベル上げのためにも必要だったからそうしただけだ。だからあれは友人じゃない」

「……何でそんなに友人であるのを否定するかな」

「……エリもあれの友人をやれば分かる。紹介してやろうか? もっとも近いうちにここを訪ねるらしいが、大変だな」


 にやにやと意地悪く笑うクロヴィスに私は、もしかしてあの人の良さそうな伝説の魔法使いは、思いのほか曲者なんじゃないかと不安を覚えたのだった。




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