内部に潜入中
鍵で開けたその階段は、木のような材質で作られており、手すりには所々に羽の生えた爬虫類、つまり蜥蜴のような形をした、ドラゴンのようなものが描かれている。
それを見ながら私は、
「ここにドラゴンみたいのがいるから、こんな風に模様がついているのかな?」
「いや、この塔の主の趣味だ」
クロヴィスが私の口に出した疑問に、さらっと答える。
というか、今のクロヴィスの発言からすると、
「クロヴィス、知り合いなの? この塔を作った人って」
試しに私は聞いてみる。
けれど私は知っている、この塔は古の魔法使いが作ったものだと。
そして、魔物などが住まうこの場所を作り上げた時点で……。
しかもクロヴィスは、そんな相手と知り合いのようなのである。
ゲームにはなかった設定も含めて、このクロヴィスはどういった存在なのだろうと私が思っていると、
「“深淵の魔族”と知り合いかもと、俺を警戒しているのか?」
「! そ、そういうわけでは……」
「俺に嘘をつくと、キスするぞ?」
私は動けなくなった。
ここではい、クロヴィスが“深淵の魔族”と関係しているんじゃないかと思っていました、なんて言えない。
でもそういえばあの古城での記憶はないけれど、“深淵の魔族”と接触したけれど、戦闘を本当にしたのだろうか。
私の中で疑惑が膨れ上がっていく。
でもそれならば、クロヴィスが私を気にかけているのは当然で、だって、ゲームと同じならば……。
そこで私はクロヴィスに、
「それで、“深淵の魔族”と知り合いか、と言われたが、俺は彼らには非常――っに嫌われているから、知り合いといえば知り合いだが、手を組むことはないな」
「あ、はい。そうなのですか……」
「そしてこの塔だが、実は三年ほど前に作られたものなんだ」
クロヴィスの口から出てきた言葉に私は目を瞬かせて、
「三十年とか三百年とかの間違いではなく?」
「ははは、エリは夢見がちだな。それだったらもっとぼろぼろだろうな」
「……というか、三年前って……」
こんな巨大な建造物を、こんな辺鄙な場所に作って一体その人は何をしたかったんだろうと思う。
しかも変な仕掛けを用意して外から出現するようにしているし。
私ががっかりしているのを見て、クロヴィスが更に楽しそうに続けた。
「顔見知りの相手が、ここに引きこもったんだが、そろそろ起こしてやろうかと思って。丁度この辺りで変なものを見つけたから確認をする依頼があったから、久しぶりに顔でも見ようかと思ってここに来たが……中の作りも中途半端だし、何をやっているんだか」
「あの空の水槽とか? もしかして作り途中?」
「ああ、元々は恋人と一緒にここに移住する予定だったらしいんだが、振られてしまって、世間ではそれが原因で“狂って”行方不明になったと言われているが……ここに引きこもったというわけだ」
そんな格好悪い設定知らないよと私は思った。
というか引きこもったって……。
「な、なんでクロヴィスは、知り合いが引きこもって三年も放置なのに、私は引きこもらせないようにするの!」
「……弄った方が、俺が面白いからだな」
その時のクロヴィスの楽しそうな意地悪な笑みに私は、絶望的な気持ちになったのだった。
「うわーん、クロヴィスなんて大っ嫌いだぁあああ」
私はそう叫んで階段を駆け上がり、その部屋を開けた。
そこは、果樹の生い茂る森だった。
ゲーム内では、所々で果物がとれてホクホクだったが、途中何度も魔物に襲われた。
でも今とあの時では装備が違う。
この魔法の杖があれば楽勝、のはずだ。
私はそう思った所で、ニョロンと緑色の蔓が動くのを見た。
以前にも出会った多分、あの魔物である。
蔓が絡みついてニョロニョロして、エロい思いをさせるあの……というか、少年誌で見かけるちょっとエッチなアレである。
だが、今までの経験上、こういった触手は私を襲ってくるのだ。
だから早めに攻撃を、と私が思った所で、足にぐるんと何かが巻きつく。
私は血の気が引く思いで足下を見ると、緑色の蔓が私の足にぐるりと絡まっている。
こうなってしまえばもう次の展開は予想できた。
けれど私は諦めるつもりは毛頭なく。
「た、確か炎の魔法はこれで、えっと……ってうわぁあああ」
そこで片足が引っ張られるように宙に浮き、逆さ吊りにされてしまう。
しかもちょっと高い場所にいるせいか、木々や花に隠れるように存在している緑色のうねる蔓が見える。
更にその蔓は、また数本こちらへと伸びようとしていて、
「絶対に、にょろにょろされてたまるか! このっ、“火球”」
杖を掲げながら即座に発せられた簡単な魔法。
炎の塊を放出するそれだが、この蔦のような植物には効かなかった。
「しまった、炎じゃなくて、氷じゃないと……というか服を引っ張るな、うぎゃあ」
私の服に伸びて来た所で、ブチッと音を立てて、私の足に絡まっていた蔓が切られたらしく、私は地面に落ちそうになって、誰かに抱き上げられる。
「まったく、勝手に飛び出していったかと思えば、すぐに捕まって……何をやっているんだ?」
「わ、悪かったわね」
「とりあえずは助けてやったんだから俺に感謝しろよ」
「うう……はい」
そうお礼を私は言う。
そこで、今ので倒した判定をされたのか、目の前の蔦が鍵を差し出している。
それをクロヴィスが受け取り、次に私を見て、
「エリを抱いたままだと鍵が受け取れないからな」
「わ、わかった」
そう答えて私は受け取ったのだった。
次の部屋は、じめっとした、来る途中の森の様な場所だった。
小さな水の流れる川の様な物があって、大きな岩が転がっているこの場所は、そこかしこに苔やキノコが生えている。
ちなみにここにあるキノコは、毒キノコエリアと食用キノコエリアに分かれており、どっちも有用だ。
毒キノコは少量であれば他ものもと混ぜて、薬になるのである。
敵もネズミのような奇妙な生物だったはずだ。
そう思っていた所で、二足歩行する私よりも背の高いシイタケの様な生物が現れた。
ここに顔を描けば可愛らしいキャラクターになりそうな気もするが、顔は何もない。
そんな茫然とする私に、クロヴィスが囁いた。
「これが部屋のボスみたいだから、頑張って倒してこい」
「ええ! ……というか、ネズミの様な魔物に喰われているんですが……」
そこでそのシイタケの様なボスは、ネズミの様な魔物に襲われて食いつかれている。
だがそこで、シイタケが震えた。
ぶるぶると震えると同時に、かさの部分から胞子をまき散らし、それに触れると魔物達は力が抜けたように地面に落ちている。
びくびくと震えているのを見ると痺れ薬か何かの様だ。
こういった毒を振りまく敵って、地味に倒すのが大変なんだよな、色々な毒消しの薬を使わないといけないしと私が思っているとそこで、キノコが私達の方を向いた。
そしてまるで私達の動向を観察するようにじっと見てから、私の方に突進してくる。
「なんで! こ、この……“火球”」
簡単な魔法を再び使ってみる。
キノコの上の部分に当たり、炎が燃え上がる。
慌てる様なキノコ。
意外に簡単に倒せそう……にみえるけれど、本当にそうだろうかと思う。
そもそもこんなキャラはゲームには出てきていない。
そこでそのキノコは、くるりと宙返りをしたかと思うと、自分の頭を地面にこすりつけて火を消してしまう。
うにょんとした体の動きを見せ再び元の体勢に戻るキノコ。
なんだこのキノコは、と私は思いながら再び、
「輪を描き、敵を滅せよ! “円環の炎”」
同時に私の杖から赤い炎のような光が零れ落ちて地面に魔法陣を描き、わっか状の炎が幾つも吹き出すように生まれ、それが飛び跳ねる様にキノコに向かっていく。
転がり、飛び跳ねるその炎の輪をキノコはよけていくがそこで、後ろからはねかえった炎の輪がキノコに輪投げの様に入っていく。
「みぎゃああぁああ」
変な声が聞こえると同時に、その炎が大きく膨れ上がる。
対象となる敵に触れた瞬間に燃え上がる、これはそんな魔法なのだ。
そしてようやく炎が消える頃には、黒焦げになったキノコがいて、
「みぎゃ、みーみー」
と叫びそして、私の方に鍵を投げてくる。
「もしかして、私の勝ち?」
そう聞くとキノコは無視して何処かに消えていく。
何だか変な感じだなと思っていると、私の頭をクロヴィスがぽんと叩いて、
「なんだ、一人でできるじゃないか」
「う、うう……今回はちょっと頑張っただけだから。というか手伝ってよ!」
「エリがどうしようもなくなった時は手助けしてやる。それ以外は、エリの成長のために見守ってやるよ」
そんなクロヴィスに、何でそんなにスパルタ教育なんだと私は小さく心の中で呟き、次の階へと向かったのだった。




