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ゲームのような異世界に飛ばされました

「ここ、どこ?」


 私は周りを見回しながら呟いた。

 記憶にある限り、先ほどまで自宅の自分の部屋で、新発売のゲームをやっていたはずなのだ。

 何日もかけて夢中でゲームを終わらせた私は、アイテムその他もろもろも含めて引き継ぎしつつ、二週目に突入した。


「強くて、ニューゲームが出来て、楽にストーリーが進めるはずだと喜んで、二週目に進んだんだよね」


 そのためにも武器やら防具やらを強化したり、お金も引き継げるので限界ぎりぎりまでためたり、序盤では手に入らない高級なアイテムを大量に集めたのだ。

 これも全て二週目のイベントのためだった。

 そしてわくわくとゲームを始めようとした所までは私は覚えている。


「そもそもなんでこんな草原みたいな場所にいるんだろう。確かにオープニング画面でこんな場所があったし、すぐ傍にはこんな形の木があったけれど……いや、まさか。まさかね」


 自問自答して、私は乾いた笑いを上げる。

 そんな私の頬を暖かい風が撫ぜる。

 この現実味のある感覚に、私は少し悩んでから、


「……とりあえず、この世界の人に会おう。夢の世界かどうか分からないけれど、現実っぽい感覚があるし」

 

 そう、私、酒井絵里さかいえりはスリッパをはいたまま歩きだしたのだった。



 




 ゲームの世界だと、確かこの道をまっすぐ行けば主人公達が住んでいた町があったはず、と思いつつ歩きだした私だけれど。


「確かこういった道でも、敵のモンスターが出るんだよね」


 この辺りでよく見かけたのは、四角い緑色の箱が宙に浮いているようなものだった。

 確か土の精霊が敵側についたおかげで出来たものだったはず、設定上はだが。

 草むらから突然出てきて攻撃をしてきて、倒すとたまに回復の薬草やら素材を落としてくれているので初めの方は重宝した。

 そう、初めの方は。


「途中からサクサク倒せるようになっちゃうし、お金が貯まってくるからいらなくなっちゃうんだよね」


 おかげで私のやっていたゲームの、持っているそのアイテム欄は満杯だった。

 とはいえ今は私自身が戦えるかどうかが分からない状態なので、そんな敵と遭遇したくなかった。

 運が良いのか今の所、私は敵とは遭遇せずに済んでいる。

 このまま戦闘にならず町まで付けばいいなと思いながら更に歩いて、丘を一つ越えると、


「町だ、町が見える、助かった!」


 そこに行けば少し状況が分かるかも、そんな期待に胸を膨らせながら更に進んでいくが。

 ガサガサっと近くの茂みが揺れる。

 私はそれに気付いて慌ててそこから距離を取ろうとするが、間に合わない。


 そこに現れたのは、緑色の立方体のような魔物。

 それほど強くないのだが、今の丸腰な私には脅威だ。


「た、戦わないと、でもどうしよう……え?」


 傍に木の棒か何か落ちていないかと周りを見回した私は、目の前にゲームの画面のようなものが現れる。

 それは先ほどまで私がやっていたゲームの選択画面だ。

 その中に魔法を使う項目があり慌てて私が宙に手をかざすようにそれに触れると、どの魔法にするか選択画面が現れる。けれど、


「ま、間に合わない!」


 こんな場所でいきなりゲームオーバー! そう私は涙目になる。

 訳も分からずこんなゲームのような世界に連れてこられて、今まさに倒されてしまいそうなのだ。

 とっさに私は自身の顔を負うようにして庇う。

 そこで風を切る音がして、悲鳴が聞こえる。

 恐る恐る指の間から覗く私は、目の前に一人の男がいるのに気づく。

 黒ずくめのベルトが幾つも付いた服装の長身の男。

 剣を持ち、金色の髪に青い瞳の美形。

 間違いないと私は思う。


「大丈夫か?」


 そう問いかける声に私は確信を強めた。

 すでに一周したゲームの内容が私の脳裏によぎる。




 ああ、どうしようこの人……ラスボスだ。





 このゲーム、『ワールドピース・ラボラトリー』はある町の魔法使いが主人公のゲームだ。

 ちなみに主人公はミニスカートのふわふわした黒髪の女の子で、杖をふるったりする姿はとても可愛い。

 そんな彼女は、魔法使いの一ランク上の“資格”をとる為にこの町で、実習という名の研修室を作り、他の生徒と競い合いつつ依頼をこなし、時に友情を深めて行くのである。


 そして戦闘などを通し、遺跡に潜ったり、異民族の都市などに行ったりして、世界の謎に迫っていくのである。

 色々なものを倒していき、とあるエンディングに辿り着くには、ラスボスであるみじかな人物と戦い勝利しなければならない。

 ちなみにその人物、クロヴィス・レーベは


「……全く、この俺が助けてやったのに、ずっと固まったままは無いだろう」

「え? えっと……助けて頂きありがとうございました」


 ぺこりと私は素直にお辞儀をする。

 俺様美形という少女漫画に出てきそうなキャラである彼は、剣と魔法を使う魔法剣士。

 味方ならば強くて頼もしい性格に難のある俺様美形なのだが……ラスボスだ。

 本当に敵となった時、私は吹き出したものだ。

 強いしアイテムは一杯使うし、もうね、もうね……。


「これは無いよな……」

「俺に助けてもらって不満があるのか? だったら今すぐ置き去りにしてやるよ」

「う、うう、私はまだ戦闘慣れしていないのに」

「変った服装だから一般市民かと思ったが、少し魔力を感じたんだよな。だから放置しても問題ないよな?」


 にやにや笑うこの金髪さらさら青い瞳の男であるクロヴィスに言われ、むっとしたように私は、


「そんな意地悪、言わなくて良いのに。町はすぐそこなのに」

「だが魔力の気配、あれは魔法を発動させようとするものだ。だからお前は魔法使いであり、魔法使いなら戦闘の実習も必須だから、戦う力がないとは思えないんだよな。あんな雑魚に」

「うう……まだ慣れていないんだ」

「まあいい、そろそろ助けたお礼を貰おうか」


 そういうキャラだったかなと思いながら私は、


「幾らでよろしいのでしょうか」

「そうだな……」


 そこで彼が口にした数字に私は叫んだ。


「高すぎです! そもそも持ち合わせがありません!」


 彼が口にした額は、ゲーム内でためられるお金の限界値を超えていた。

 そもそもそんな大金を要求すること自体がおかしいのだが、そこで更にクロヴィスは笑って、


「だろうな。だから体で返してもらおうか」

「ま、待ってください!」

「というのは冗談だが、それで名前は?」

「……酒井絵里さかいえりです」


 ヒヤリとする意地悪を言わなくてもいいじゃないかと私は思いつつ自分の名前を口にした。

 それを聞いて目の前のクロヴィスが笑った。


「なんだ、お前、今度新しくやってくる予定の魔法使いじゃないか」

「え?」

「いいだろう、折角だからラボまで案内してやるよ。この俺様が直々にな」


 クロヴィスに言われ、私は目が点になる。

 何でそんな話になっているんだろう。

 このゲームに私は名前は登録していない。

 何故彼は私の名前を知っている? 否、そういった名前の人物がこの世界に存在している事になっているんだ?

 そう、私が疑問を覚えている間もクロヴィスは、気付けば私の手を引きながら町中を進んでいく。そして、


「着いたぞ、お前のラボだ」


 私が案内された場所は、何処からどう見てもゲームの主人公の研究室――ラボ、だった。






 衝撃! 主人公不在! どうするんだ私!

 私はその家を見上げながら固まった。

 見上げたその場所は、主人公の住んでいるラボラトリー。

 青い屋根と石造りの可愛らしい家だ。


 だが待って欲しい。

 ここに来るはずだったあのミレニアムちゃんは何処に行ったのか。

 主人公の可愛さと健気さに私はほのぼのしながらゲームをしていたのだが……。

 そこで立ち止まったまま茫然としている私にクロヴィスが、


「どうしたんだ? 中に入らないのか?」

「え、えっと、ここに来るはずだった女の子は……」

「なんだ、聞いていないのか? 同居人となるはずだった女の子は――確かミレニアムといったか、彼女は資格試験を諦めて結婚することになっていたじゃないか」

「なん……だと……」

「知り合いなのか? 知り合いだったのか?」

「結婚……したんだ」


 私は茫然と呟いてしまう。

 どんな展開だこれ。

 これでは彼女にこの世界について質問できない!

 凍りついたように固まる私に、そこでクロヴィスが流石に気の毒だと思ったのか、



「あー、言わない方が良かったな。すまない」

「……いえ、良いです。それでここを借りた魔法使いは、私なんですよね?」

「私なんですよねって……お前、本当は魔法使いじゃないのか?」


 鋭い目つきになったクロヴィスに、私は慌てて、


「い、いえ、これが私の魔法使い証明書です!」


 といって慌てたように私は先ほどのメニュー画面が出るように念じる。

 すると薄く水色に光り輝く半透明の画面が目の前に現れて、自身の持ち物(重要なので捨てられないものに分けられている)を探し出し、見つけた。

 ポケットに入っていたらしくそれが出てきた。

 その紙には主人公の名前が入っていたはずの魔法使い証明書は、気付けば私の名前になっている。


 しかしこの世界では普通に選択画面を出しても、驚かれないのだなとは思う。

 そう言った世界なのかもしれないが。

 嫌々今はそんなことを考えている場合ではない。


 そういえば私、魔法使いとしての経験全然なくて、証明書だけあってもここでやっていけるんだろうかと不安に思う。

 そもそも異世界からどうしてここに飛ばされたのかすら分からないし、物語だと異世界に転生やら何やらする時にそれっぽい神様が出てくるのだが、それと接触した記憶がない。

 なのに私はここにいる。


「……積んだ。ヒントが何処にもない」

「どうしたんだ? 面白い顔になっているぞ?」

「私が絶望しているのにそんな言い方は無いと思う」

「はは、言い返せるだけの元気があるなら十分だ。そろそろここに立っていても仕方がないから家に入ろう」


 促されて私は家の扉に魔法使い証明書をかざす。

 すると鍵が開いた。

 魔法使いの家は見た目は景色に溶け込むようにされているけれど、中の魔法薬などが危険なために魔法で防護がなされている。


 そして危険であるがゆえに、この魔法使い証明書で家に出入りするようになっているのだ。

 といった設定を思い出しながら、私は家の中に入り、中は何もないのを確認する。

 これから机や魔法実験機材を購入して並べなければならない。


「とりあえず一通り買えるものは揃えてしまおう。所持金は、ゲームと同じで限界ぎりぎりまであったし」

「何か買う物があるなら手伝ってやるぞ? 無償で」

「……ここまで運んでもらう費用はどれくらいかな?」

「10ゴールドもあれば、人を一日借りてお釣りがくると思うが、新米魔法使いはそんなにお金は持っていないだろう」


 それを聞いて、私はあることを決める。

 ついでに確認のために所持アイテムを一通り見る。

 手に入れたアイテム全てが劣化しない、つまり腐ったり痛んだりしないアイテムを所持しているので、全く問題ない。

 更に付け加えるならば、必要になれば鮮度の良い物を購入してしまえば良いのだ。


「……必要な機材全てを買いそろえて、アイテムもまだまだ沢山あって、武器も防具もこれだけあって……よし、そうしよう」

「何をする気なんだ? まさか一気に全ての道具をそろえようなんて……」


 クロヴィスが苦笑いするが私の心はもう決まっていた。

 にやぁっと私はクロヴィスに笑い、


「そのまさかだよ。そして、お外は危険なので、ひきこもってものを作る依頼だけを攻略くしていくんだ!」


 そう私は答えたのだった。


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