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あれは嘘だ

 ひらりと揺れるフリルのスカート。

 後ろに結ばれた大きなリボンには繊細な刺繍が施されていたりする、そんなミニスカドレス。


「何でこれをまた着なくちゃいけないんだ」


 クロヴィスにお似合いだと言われて着せられた服。

 かといって他にこういった服はない……という事になっているので、エリは着れないのだ。

 実際には、主人公達が来ていた可愛い服が沢山あるのだ。


 ぶっちゃけゲームの中の全種類を揃えたのである。

 ほら、集めるものがあると全て集めたくなるというか。

 なのに、今はその情熱のせいで悶々と悩む羽目になっている。


 少なくともドレスといっても、もっと露出度の低い服だってあるのだ。

 だがそれをもしも持っていると言ったらどうなっただろう。

 現に他にないか聞いた所、ないと言われた私だけれど、ライに、


「エリは持っていないの? ひらひらフリフリのドレス風の服」

「も、持ってないよ。だって私、そんな趣味ないもん!」

「そっか……。エリくらい可愛ければ持っているかと思ったけれど、そんなわけないんだ。じゃ諦めてそれを着なよ」


 と、言われてしまったのだ。

 でもここで先ほどの服を出したらその時点でそっちの趣味があると言われてしまう。

 そこでフィオレが私に何か差し出してきた。


 透明な水のような何か。

 後で聞いたがマタータビ草の蜜というもので、人によって酔ったようになるらしい。

 ごくまれに、だが。

 そして今の話だけでのどが渇いた私は、それをごくりと飲み込み……私は、記憶が途切れたのだった。






 はっとすると、私は見知らぬ場所に立っていた。

 すぐ傍でざわめきが聞こえるが、目の前には疲れたようなフィオレとライがいる。

 あれ、どうしたんだろうと私が思っていると、フィオレが、


「酔い覚ましの魔法は効いたみたいだな。はあ、まさかエリがあんな風になるなんて……」

「え、え?」

「エリはこれからも飲まない方が良いと思う」


 それだけ言ってそれ以上フィオレは何も言わない。

 しかもライもひきつったように、


「私の商売が上がったり、になるから止めて」

「え、えっと、あの私……」

「歌も上手のは驚いたけれど、あれは駄目だ、止めた方が良い」

「え、あの、私一体何を」

「知らない方が良いよ」


 そこまでしか言わない。

 そこでクロヴィスが現れて私に、


「エリ……もう止めておけ。悪い事は言わないから。そうだな、明日は戦闘は止めてゆっくりしようか」

「本当に何があったんですか!?」


 それにクロヴィスは無言でライとフィオレを見て、こくりと頷く。

 意味深な行動を取られて、私は更に戸惑う。

 けれどそれ以上三人は私に何も言わなかったのだった。







 そしてお泊りになった私達だけれど、気付けば私とフィオレとライの三人で寝る事になっていた。

 クロヴィスは不満そうだったが、初めから部屋が違うのに何でだろう?

 といった疑問は置いておくとして。


 そんなお泊りなので三人仲良く眠っていたわけだが、もちろんすぐに寝つけるわけではなく。

 気付けば色々な雑談をし続ける羽目に。

 そこまではいい。


「それで、好きな人の話に行こうよ!」


 そうライが楽しそうに言いだしたのだった。






 まさかそんな話に行くとは思わなかった私は、どうしようかと悩む。

 今好きな子というか、ゲームや漫画や小説という、二次元のキャラが私の婿ですなんて、とてもではないが言えない。

 けれど好みのキャラの性格だけ言う、というのも手だが……。


 そう思っていると、真っ先にフィオレがすねたように、


「アンジェロなんて大嫌いだ」

「フィオレどうしたの? 昨日まではあんなだったのに」

「……言いたくない」

「うん、分かった。じゃあ聞かないよ」


 と、私は答えた。

 だって無理やり聞くのも悪いからと思ったのだけれど、そこでフィオレが私の方を向いて、機嫌が悪そうにじっと見ている。

 それを見ながら私は、


「もしかしてフィオレ、聞いて欲しいの?」

「……エリ、一つ聞きたいけれど良い?」

「何かな」

「クロヴィスとエリはどこまで進んでいるんだ?」


 その言葉に私は目を瞬かせて、何を言われたのか暫く考えて……私は顔を赤くした。


「す、進むも何もそんな関係じゃないよ!」

「つまり未だ、清い体だと。というか、クロヴィスが一方的に追い掛け回しているだけか」

「え、あの、何の話でしょう」


 私はよく分からずに聞き返す。

 クロヴィスはこの世界に初めてであった相手であり、私が引きこもろうとすると外に連れ出して、ハードな思いをさせるのだ。

 それが何だか別の話にされている気がして、そこでライが、


「普通のパーティにしか私は見えませんでしたが、フィオレには別のものに見えたのですか?」

「……そうだな。私達がそうだからといって、エリ達までそうとは限らないか。それで、ライには恋人は?」

「酒場で歌っている時に聞いてくれるお客さん全員ですが、何か?」

「……初恋の相手くらいいるだろう」

「いましたけれど、子持ちでしたしね。その後も何人か好きな人は出来たのですが、ほら、私ってドレスを着たりすると、見違えるように美しくなるので告白されたりもしましたが……まあ、今はフリーですね。それよりもフィオレがどうして怒っているのか、聞いてあげたほうがいいんじゃないかな?」


 そこでライはフィオレに話を振る。

 けれどそれにフィオレは、


「……何だか話す気が無くなった」


 フィオレがそう言いだして結局私もつかれていたので眠気を覚えてしまう。

次の日の朝食はライが作ってくれるとかそういった話をしていると気づけばうとうととしてしまい、私はそのまま眠ってしまったのだった。







 次の日私は、ライの作った焼きたてのパンやベーコン、玉子焼きとサラダを食べていた。

 クロヴィスの分まで用意されていたが、クロヴィスは朝から機嫌が悪そうだった。

 どうしたのだろうと私が思っていると、


「今日は、森に行って戦闘だ。いいな」

「! 今日はなしって……」

「気が変わった。エリは甘やかすと怠けるから、今日は戦闘に行く。二人っきりでな」


 二人っきりを強調されて私は、なんでと思った。

 

「フィオレとライに手伝ってもらった方が……」

「俺はエリ以外は守るつもりはない。今日は、二人にはタマの世話でもしてもらっていろ」

「せ、せめて杖は……」

「他にも妖精のついていない杖があるだろう。あの杖はタマはお気に入りのようだから、一緒にしておけばいい」


 そんな感じでクロヴィスは勝手に決めてしまう。

 横暴だと私は言うと、クロヴィスは私があの謎のジュースで酔っている間に依頼されたお菓子を届けたりした話などをしてから、


「そんなに大人数で行く場所じゃない。そこまであの森は危険ではないからな」


 と言われてしまえば私も言い返せず、そんなこんなで私とクロヴィスの二人で食後、森に向かったのだった。





 二人が家からいなくなった後、フィオレは深く息を吐いた。

 これからの聞きださなければならないと思うと面倒臭く感じていると、


「それで、フィオレは私に何か聞きたいみたいだね。どんな疑問があるのかな? 魔法使いさん」

「お前は、魔物か」

「そうですね。でも混血ですから」

「混血?」

「ローレライと人の混血です。秘密にする約束を結んで、代わりにエリに“ローレライの涙”をあげたのです。ローレライは見かけも良いですし、歌だって素晴らしいですし、なので悪い人間や魔族もいますし面倒なんですよ」

「……分かった、秘密にしておく」

「そうして頂けると助かります。でないと殺さないといけなくなる場合もありますから。あ、“ローレライの涙”はいりますか?」

「貰わないと、殺されるのだろう? 確か秘密に関する話があったはず」

「そうです。身を守る為には仕方がありませんがね。では、どうぞ」


 さらっと恐ろしい事を告げたライにフィオレは、“ローレライの涙”を受け取りながら、それを特に気にするわけでもなく別の事を聞く。


「それで、どうしてこの家に泊まり込んだ?」

「宿代を浮かせるためです」

「……」

「本当ですって。こう、私って魅力的じゃないですか、見かけが。なので接客のアルバイトをするとお客さんが惚れちゃったりして、色々難しい問題があるので……。でも、歌姫だと男性のみなさんが崇めたり、牽制しあったりしてくれるので助かるんですよね。それでもこう、宿を提供しようとしたりと色々面倒なので、友人の家の方が良いと言った方が彼らは諦めてくれやすいんです」

「……本当の理由か?」

「信じてもらえなくて悲しいですね。でもまあ、エリが可愛いので気に入っている部分もあるのですが」


 そう言っているライを見てフィオレは、


「信じてやる、一応はね。それにエリには何か秘密がありそうだし」

「あ、フィオレもそう思いますか? 何だか惹かれてしまうんですよね。これが恋なんでしょうか」

「違うと思う」

「ですよねー。さて、お昼はキッシュにしましょうか。エリが好きな材料を使って良いと言っていたので、豪勢に行きましょう」

「……私も、昨日はごちそうしてもらって、泊めてまでもらったから何か作ろうかな」


 そうフィオレが言って、菓子を作るのだが……その菓子があまりにも危険なものになりすぎて、フィオレはライに台所を追い出されたのだった。







 何時もの様に道を歩いていくけれど、会話が全くないと私は思う。

 もしかしてクロヴィスは、私の存在を忘れているのではないだろうか。

 つまりこれは逃げるチャンス。


 そう思って歩む速度を私は緩めていき、クロヴィスから1メートルくらい後ろに下がった所で、私は後ろを向き全力でその場から逃走しようとした。

 だがそれと同時に風を切る音がして、


「ふみゃ!」


 縄が私の体に絡みついてぐるぐる巻きになってしまう。

 芋虫のようになってじたばたする私に、人影が。


「また逃げようとしたな」

「な、何で逃げたって分かるんだ。それにロープだって……」

「エリが何処にいようと俺には分かるからな。逃げようとするなら捕まえて、そうだな……どうしてやろうか」


 そこでクロヴィスが、いつもと違うようなぞっとするような威圧感のある笑みを浮かべる。

 けれどそれは一瞬だったようだ。

 クロヴィスは瞳を閉じて、ふうと大きく深呼吸をしてから、


「実は、今日は近くにある森で少し戦闘をするだけだと俺はエリに言ったな?」


 それに私は頷く。

 頷いてから、何でわざわざそんな事を私に言うんだろうと思って、そこで私は気づいた。

 ま・さ・か。

 表情から私の悪い予感を読みとったかのようなクロヴィスが意地悪そうな笑みを浮かべて、


「あれは“嘘”だ。今日はこの前よりは大変ではない戦闘をしようかと思っているんだ」


 私は芋虫のように這って逃げ出そうとする。

 だがそこで私はクロヴィスに担ぎあげられる。


「今回は特別に、道中の雑魚は適当に俺が倒してやる。優しいだろう?」

「嫌だぁああ、お家に帰るうぅうう」


 そんな私の悲鳴が木霊したのだった。



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