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あいつの話はするな

 並べられた料理の数々に舌鼓を打ちながら、私達は昼食を食べていく。

 温かい紅茶にはミルクと花の蜜から採ったシロップを添えた。

 また、シロップと言えばこちらにも木の樹液を煮詰めた甘い蜜があるらしい。


 その名も、黒糖蜜カエデというそうだ。

 寒い時期に採取して、煮詰めて作りあげているのだそうだ。

 他にもメープルバターの様なものもあるらしい。


 ゲームには出て来なかった美味しそうな食材だ。

 パンに付けても美味しいよねと思ったので、その内購入する予定である。

 そしてリリス用の小さなカップに、今日は花の蜜ではなく樹液の方を入れてやると、これも美味しいかもと嬉しそうだった。


 そんなこんなで出来たてのシチューやサラダなどを食べながら、私達は会話で盛り上がる。

 美味しいと目を輝かせるフィオレに私は、


「そう言えばフィオレ、今日は一人だったみたいだけれど、アンジェロはどうしたの?」

「……あいつの話はするな」


 途端に機嫌が悪くなり、それ以上聞けない雰囲気になってしまった。

 そこでライが、


「このパンケーキ、分厚くて美味しいね。どうしたのかな?」

「豆乳を使ったのです」

「なるほど、それで少しあっさりした味なんだね。でも美味しいね、今度私も試してみようかな」


 その隣ではタマが、うまうま言いながらパンケーキを食べている。

 クロヴィスも静かに先ほどから無言で黙々と食べている。

 でもタマのように、こうやって美味しいと言って食べてくれるのは嬉しいなと私が思いながら、そこで私はライに、


「今日からどれくらいいるの? 酒場で歌うんだよね?」

「そうだね、これから一週間はいると思う。酒場で歌うのは結構いい稼ぎになるんだ、人が集まるからね」

「そうなんだ。どんな歌を歌うの?」

「古い、遠い国の歌とか、そういった物が珍しがられるね。それも私の商売のネタだから、あまり詳しく言えないな」

「そうだね、うん」


 そう思いながらそう言えばと私は思う。


「ここでもあの、ああいった格好で歌うの?」

「もちろん、その方が客入りが良いんだ。……でもせっかくだから二人も一緒に歌ってみない? 二人共似合っているし」


 そこで私は未だ着せ替え人形状態のままなのを思い出して、憂鬱になった。

 だがそこで思わぬ人物が声を上げた。


「わかった、私とエリで出よう」

「え、なんで私まで、というかフィオレどうしたの?」

「この美しい姿で他の男を見つけるんだ。私の仲間になってくれそうな人を!」

「あ、あのアンジェロは」

「あいつの話はするな!」


 フィオレにぎろっと睨まれて私は大人しく引き下がる。

 ただ私はどうしてもそんなことはしたくなかったので、クロヴィスに助けを求めるが、


「いいんじゃないか? 三人で歌って踊ってこい」

「何処のアイドルですか! なんで私がそんな目に……歌だってそこまで得意じゃないのに……」


 それにライが一緒にいるだけでいいからと説得されてしまう。

 しかもクロヴィスはそういった私の姿が見たいという理由で、敵に回った。

 そんなこんなで、よく分からない内に私は、そんな状況になってしまったのだった。







 その後もこの世界の話を色々聞きながら、所々ゲームよりも詳細に聞く事が出来た。

 それに関しては後に話す事もあるだろうと思う。

 ちなみに現在クロヴィスはここにおらず、タマはリリスの手が甘いからと逃げるリリスを追いかけていった。


「後でエリに八つ当たりでセクハラしてやるぅうう~!」


 と叫んで、自ら何処かの部屋へと逃げていった。

 わざわざ自分から追い詰められにいってどうするんだろうと思った私だけれど、先ほどの発言から私は放っておいた。

 何だかんだ言って、あの二人は仲が良さそうなので邪魔したら悪いかなと思ったのも理由の一つだ。


 そんな感じでほのぼのしている私達。

 平和だな、こんなに平穏だとなんか逆に不安になってくるなと私は思って気付いた。

 私は、クロヴィスがギルドに用があるので、料理の依頼を持っていくと言ってくれたのだ。


 だが何故、クロヴィスはギルドに行く用事があったのだろうと私は思って、そこで気付いた。

 クロヴィスはおそらく、否、絶対に今後の戦闘の依頼を探しに行ったのだろう。

 本来であれば引き止めておかなければならなかったのに私は、そうなんだ、お願いしようと思ってそのまま……うがががが。


 けれど今更追いかけても私はどうにもならないので、どうやってクロヴィスから逃走するかについて考えた方が良さそうだと思う。

 やはり朝早く起きて、抜け出して何処かに隠れるのが良いのかもしれない。


「うん、そうしよう」

「何が? やけに深刻そうな顔をしているけれど、どうした?」


 私の様子に気付いたフィオレが、心配そうに聞いてくるので事情を話した。

 とても怒られました。

 フィオレに、魔法使いたるものの心得という、お説教を延々とされ私は更に涙目になった。


 そこで時間もそこそこすぎたので、そろそろおやつを作ろうかという話になる。

 今回の依頼は、クッキーとファーブルトンというプリンに似た味わいのあるお菓子だ。

 フランスのとある地方の郷土菓子らしい。


 卵を泡立てないように混ぜて焼くだけで美味しいお菓子なので、ちょくちょく作って食べていた。

 中の果物も、プルーンを紅茶で戻した物から、洋梨を砂糖と白ワイン、水で煮たコンポート、イチゴに砂糖をふりかけて煮た物など、様々な物が使っていた。

 もちろん自分が食べている時は砂糖の量は半分にしたのだけれど、この世界の場合は半自動的に出来上がるので、材料をセットし出来あがりを待つのでそのような調整は出来ない。

 正確には、オーブンが動いてくれないのだが。


「さてと、次はクッキーだけれど……スノーボールクッキーにしてみようかな」


 クッキーにもチョコレート(この世界のチョコレートは、棒状に木に生るらしい)を付けた物や、ブランデー(といっても、ワインの様な酒から作られている蒸留酒)で果実のジャムを溶かしたものを飾ったりと種類も多い。

 明らかに制作者のお菓子や料理へのこだわりが感じられるゲームだったなと思いつつ、こねていく。

 今回はバターの代わりに、オリーブオイルの様なものを使ってクッキーを作っていく。


 先ほどライがくれた棘ココナッツの油を使ってもいいのだけれど、またの機会に回した。

 ライは他にも棘ココナッツの缶詰などもくれたので、これからどう使おうかと楽しみだったりする。

 そんなこんなで、小麦粉などを混ぜ合わせた物を丸い一口大のボール状にしていく。


 それを鉄板に載せて焼き上げ、冷えてから粉雪が降り積もる様にり、粉砂糖をふりかけた。

 白い雪だるまの一つの様なクッキーが出来上がる。

 試しに口に含むと、口の中でほろほろと崩れ落ちて美味しい。


 それらを依頼の量だけ袋に詰めて、残りは私達が食べる事になった。

 丁度そこでクロヴィスが帰ってきたので、


「クロヴィス、お菓子が出来たよ!」


 そう言ってクロヴィスにクッキーを渡すと、私の指ごとぱくんと咥えられて、舌でなめられて、


「美味しかった」

「わ、私の指まで食べる事はないじゃない!」


 そう怒ると同時に、再びリリスが階段を下りてきて、それをタマが追いかけている。

 おやつの匂いで来たのかな? と思うようなタイミングだけれどリリスが言うには偶然らしい。

 そんな私やクロヴィスを、ライが思う所があるらしく見ていて、そんなライをフィオレも何故か様子を伺うように見つめていたのだった。










 おやつを食べ終わってから、ライとタマが話があるからと部屋を出ていってしまった。

 ふと先ほどの不安な話が私に蘇ってくるが、それは置いておくとして。

 フィオレと私、クロヴィスの三人でお菓子を楽しむ私達。


 そこでクロヴィスが紅茶のカップに、優雅な仕草で口を付けながら言った。


「明日は近くの森で戦闘だ」

「……や、やっぱり依頼を増やしてきたんだな!」

「なんだ、気付かなかったのか? 愚かだな、エリ」

「絶対に逃げてやるんだから!」


 私はクロヴィスを指さし、宣言した。

 そんな私をクロヴィスは薄く笑いながら、


「へぇ、この俺から逃げられると思っているのか?」

「う、ぐっ、絶対逃げてやる。私の本気は凄いんだから!」

「……本気で俺から逃げたら、エリ、自分がどうなるのか分かっているのか?」


 そこでクロヴィスは笑みを深くして私を見る。

 その瞳は妙にギラギラしていて、私を見つめている。

 私は怖さを感じるが、こんな所で負けてたまるかと思って、


「こ、この家は渡さないからな!」

「……どうしてそうなる」

「だってクロヴィス、家がないじゃないか!」

「……いや、普通に色々な宿を転々としているだけだ。そもそもここに来るまではずっと色々な町で流れの冒険者をしていて、それは今もだが……一応、俺の屋敷はあるぞ? ここから遠いが」

「そうなんだ。でも何で宿を転々と?」

「女も男も俺の所に押し掛けてきて煩くて面倒だからだ」


 言い切ったクロヴィスに私は、絶望を感じた。

 だってそんなうらやまけしからんイベントは私には無かった。

 しかも異性が自分からやってくるなんて。


 私はこんな格好をさせられたのに!

 この扱いの差はなんだと私は、泣きそうになる。

 そこでクロヴィスが深々と溜息をつき、


「なのにここまで俺がつくしてやっているというのに、エリはこうやって俺を邪険に扱うんだな」

「だ、だって、私はこの家に引きこもって安全な依頼だけを受けていたいのに」

「……どう思う、フィオレ」


 そこでそんな私を指さしながら、クロヴィスはフィオレに話を振った。

 フィオレはこくりと頷き、


「やはりエリには、魔法使いの心得について、教え込むべきだな」


 そうフィオレが、ふっと冷たく微笑みながら、私に告げたのだった。







 エリがフィオレに魔法使いとしての心得を教育されている頃。


「まさかこんな所にいらっしゃるとは思いませんでしたよ」

「にゃー、可愛い子がいて、お魚をくれたので嫁に決めました」

「……そうですか。それで、あの方が……なのですか?」

「そうにゃ。かわいいにゃー。でも傍には危険な者がいるにゃー。でもあれがなんなのか僕にも分からないんだよね」


 そこで語尾ににゃーを付けるのを止めて真剣な表情でタマは語り、けれどすぐに微笑み、


「まあ、今は大丈夫そうだからにゃー。他にも可愛い子がいたし、にゃー」

「……恋多き方ですね」

「魅力的な相手は追い回す主義なのです。というわけで、ローレライのライも頑張るにゃー」


 短い会話を交わして去っていくタマを見送りながらライは、


「相変わらず自由な方だ。でも、巻き込まれというか巻き込み体質なんですよね、あの人」


 そうライ一人呟いたのだった。


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