私は逃走した
こうして私達は目的の品を手に入れて、依頼をこなした。
エロい目に遭いながらも何とか町まで戻ってこれたのは良かったように思う。
そして別れる時にフィオレに、
「また何かあったら一緒に……その、パーティを組んでもいい」
と顔を赤くしながら言われた。
好意が純粋に嬉しくてありがとうと、私は微笑んで手を握る。
そしてこれからもよろしくと私は告げると、フィオレがさらに顔を真っ赤にしている。が、
「でも私、出来れば家に篭りたいから、多分、あまり戦闘はしないと思う」
というか今度こそ朝早くに、ポイントが増えそうな依頼を探そうと計画しているとそこで、フィオレが私の手を握り返した。
その表情は何処か怒っているようにも見えるが、そこでフィオレが、
「つまり、お菓子などの食べ物や薬の調合を中心にすると?」
「う、うん。危険が少ないし……」
「これだけの力を持っていて?」
「う、え、えっと……でも今日みたいにエロい目にあうのも嫌だし」
険を帯びたフィオレの目が、一瞬だけ何処か虚ろに虚空を見たが、すぐに、
「確かにあんな目にあったりする事もままあるだろうが、それでも私達魔法使いは人の役に立つためにある」
「それは家に引きこもっても出来ると思います」
「だがその戦闘能力を腐らせるのはもったいない、そう思わないのか!」
「いえ、私はこう、平穏な生活が……」
そこで私は背後で何者かに襟首を掴まれた。
びくっとして恐る恐るとその人物を見ると、クロヴィスだった。
クロヴィスはひきつったように笑い、
「こうやってすぐエリは逃げようとするんだ」
「なるほど、これからはこまめに私も誘いに来よう。このエリを誘えばクロヴィスもついてくるんだろう?」
「……ああ。まだこのエリを一人にしておくのは危険だからな」
「あの一人狼なクロヴィスが、これほどまで入れ込むとは……よし、巻き込もう」
フィオレがそんな事を言いだした。
どうやらクロヴィスの力が魅力的なのもあって、私を誘いに来るようだ。
そんなと私が思っていると、そこでタマが、
「やっぱりこまめに外に行くのは楽しいよ? 塀の上を歩いたりとか」
「タマ……私の味方はしてくれないの?」
「エリには杖の妖精リリスもいるじゃん。あんな強い妖精の守護だってあるんだから、大丈夫にゃ~」
リリスもそうだそうだと言う。
ああ、このまま、また次のイベントに巻き込まれるのかなと私は涙目になっていると更に話は進んで行く。
「じゃあ、明日も誘いに来るよ、アンジェロもいいよね?」
「そうですね。良いですよ」
誰も止める人がいませんでした。
なので私は、明日は早起きして家を出てこの町がどうなっているのかを見に行ってやる、と決めたのだった。
そしてようやくフィオレ達と別れて家に戻ってくる。
食事は近くの露店で美味しそうな揚げ物があり、それを買うことにした。
何でもイカ鳥という、白いイカに茶色の翼が生えた鳥を衣を付けて焼いたものらしい。
部位によって触感や味が違うとか何とか。
「どう考えても手羽先と、イカの串揚げにしか思えない。美味しいけれど……あ、タマ、ソースは二度漬け厳禁だよ」
「にゃ~」
タマがもう一回ソースが付けたいなとソースの入れ物を見ているので、私はタマの手を引きその露天から歩き出す。
そこでクロヴィスに私は、
「口の右側にソースがついているぞ」
「え? どこ?」
「ここだ」
クロヴィスはそう私に告げて、顔を近づけてソースをぺろりと舐めあげる。
こうやって近くで見るとクロヴィスは整った顔をしているよなと私は現実逃避してしまったが、すぐにソースを舌で舐められたのに気づいて、
「し、舌でなめることはないと思う!」
「いや、美味しそうだったから」
笑うクロヴィスに、私はどことなく何かを感じた気がしたが、そこでリリスが飛んできて、
「エリ、私も」
「リリス用のご飯は、確か、ここの出店で南の方の花の蜜が売っていたはず」
以前ゲームで見た、夜しか出ない屋台のイベントの記憶を頼りに私達はそちらに向かい、花の蜜を手に入れる。
珍しいその花の蜜にリリスも喜ぶ。
そんなこんなで私は違和感を忘れて、家へと戻ったのだった。
朝早く私は目を覚ました。
今日は朝早く起きるぞ、と思っていたので上手く行ったと小さく笑う。
寝る前に色々と準備をしておいてよかったと私は思う。
「さてと、クロヴィスが起きる前に逃げちゃおう」
こんな連日戦闘ばかりでは、疲れるのだ。
やはり家に引きこもってゆっくり、ポイントの高い依頼だけを受けたい。
そしてあわよくば彼氏も!
「ゲームで見たけれど、モブの男の子も美形だったよね」
そう私は小さく嘆く。
嘆いてから、そんな自分を変えるために今日は頑張るんだと背伸びをして、服を着替える。
服を着替えながらも、その内、普通の服を買ってこないとなと私は思う。
「お店の位置も確認しておこう。ゲームでは女性用の服のお店なんて入った事がなかったし」
そこでそのうち女性用の普通の服を大量購入しておこうと思う。
だってこの前みたいに服を溶かされてほぼコスプレ服しかないなんて状況にはもうなりたくないし。
そう私は心の中で思ってからそこで私は気づいた。
「あれ、杖の妖精のリリスと飼い猫のタマがいない」
今日は同じ部屋で寝ていたはずだが、今日は二人揃ってクロヴィスに何処かに連れて行かれていた。
そう思いながら私はそろりと自分の部屋から抜け出す。
確かこっちの部屋がクロヴィスだからと思いながら気配を心なしか消して歩いていき、そこで声が聞こえた。
「あ、や、やぁああっ、タマ、止めてっ」
「にゃーん、妖精って可愛いし甘いんだよね。ぺろぺろ」
「やぁあーん、私の杖、舐めないでぇええ」
タマがリリスの杖を舐めている。
どうやら甘くて美味しいらしい。
そしてリリスがそれで、顔を赤くして、はぁあはぁあ、している。
ちょっとやり過ぎというか、止めた方がいいかなという感じで、リリスは顔を上気させ、荒く息を吐いている。
そんなリリスはそこで、
「ああ、でめ。そこを舐めちゃらめぇ~、うう、こうなったら、タマを連れてきたエリにセクハラしてやるぅうう」
その言葉を聞いて、私は放っておく事にした。
そっと声の聞こえた場所から離れて、ゆっくりと階段を音をたてないように下りていく。
そしてそのまま家から飛び出して、空を見上げた。
まだ太陽が昇り始めた空は、微かに星が見える。
けれど空気は冷たく澄んでいてとても心地が良い。
だから私は深呼吸をして大きく背伸びをしてから、走り出したのだった。
当り前だがこの時間では店はほぼ全てしまっている。
けれど人通りが全くないと言うわけではなく、途中、ジョギングをしている人達にも出会う。
世界が変わってもやる事はそんなに変わらないなと思っていると、そこで一台の高級そうな馬車が見える。
それは私の横をすぐに走り去っていってしまうが、その場所の印は何処かで見た事がある気がする。
何かのイベントがあった気がするが、何だったっけと思って、その時私は思い出せなかった。
そしてしばらく歩いて行くと、商店街に出る。
全てがしまっていて、明りもついていない。
ただ看板でどんな店か分かるので、私はそれで確認していく。
「ここは時計のお店、そしてあっちは八百屋で、ここは雑貨のお店。薬やハーブを扱うお店に、魔道具を売る店、武器のお店、服を売る店……ここは要チェックと」
そう思いながら見ていくと、ずいぶん色々なお店があると気付く。
しかも途中でチラシがあって、どんな風にお店が並んでいるのかが書かれていた。
今度からこれを参考にしようと思いつつ、ここの地図を何処かで手に入れておこうと私は思う。
ゲーム上ではマップとしてあらわされていたけれど、それだけではこの町の中が良く分からないからだ。
そんな事を考えながら歩いていくと、そういえばこの先はギルドだったよな、と思いだして歩き出す。
今、並んだなら一番乗りだろうなと思っていた私は、自分の考えが甘かったと痛感する。
しばらく機嫌よく歩いていった先で私が見たのは、ギルドの前に並ぶ魔法使いの女性や男性達、10人程の姿だったのだった。
並んでいる魔法使い達。
最後尾は可愛い女の子達だったので、お友達になれないかなと思った。
私はそう思って静かに頷き、新たな一歩を踏み出すべくその列に近づいていった。が、
「……」
私は無言で女の子達から見られました。
なんで、どうしてと思っているとそこで彼女の一人が私に、
「貴方……クロヴィス様とパーティを組んでいる人じゃなかったかしら」
「は、はい、そうですが」
「クロヴィス様を遠くから愛でる会のブラックリストに載っている人物だったわね」
「へ、え? な、何ですかそれ。クロヴィス様を遠くから愛でる会って……」
そこで彼女達は二人でこそこそと話す。
次にこくりと二人は頷いてから、先ほど私に話しかけてきた彼女が、
「クロヴィス様を遠くから愛でる会とは、クロヴィス様のお姿を遠くからじっと見つめ、見守る女性や男性の会です」
「それってス……」
「いえ! 我々はただ見ているだけです。あのお姿、あの実力であるが故なのか、唯我独尊な性格で、何時も一人でいる。そんな孤高の方なのです。過去に一体何があったのか、妄想が止まりません」
「え、えっと、それってただのボッチ……」
「いいえ! あの方はそんな物ではありません。あの方は貴方が来る前は、パーティに誘われても全て断っていたというのに……貴方が来て、あの方は変わられてしまったのです」
そうなんですか、欲しいならぜひ持って行って下さいという気持ちに私はなった。
だってクロヴィスは、私を戦闘に連れて行くのだ。
私はもっと危険のない依頼で、ゆっくりと元の世界へ戻る方法を探したかったのに。
ほんの少し贅沢を言うなら、素敵な出会いも夢見ていた。
なのに現ぞ何時はこれである。
どうしてこうなった。
切なげに数回呟くけれど、現実は変わらない。
そこで私は話している女の子に、
「聞いているのですか!」
「は、はい、ごめんなさい」
「……貴方が来てからというもの、無表情で冷たく、見下すように周りを見ていたクロヴィス様が笑うようになったのです」
「……その笑顔にも種類があるような気がするのですが」
「ええ、おかげで様々なパターンのクロヴィス様の笑顔を写した写真が手に入りました。でもまさかあの方が貴方の家に同棲するなんて」
「あ、あの、目が怖いのですが……」
「しかもこんなに可愛い子で、クロヴィス様と一緒にいるのが似合ってしまうなんて……許せない」
そこで彼女が指をパチンと鳴らすと、何処からともなく女の子達が早朝なのに現れて、私を取り囲む。
怯える私に、先ほどから私に話しかけてきた彼女が告げた。
「前々から思っていたの……クロヴィス様の傍にいる子は、何であんなに地味な格好なのだろうと。なぜドレスを着ないのだろうと」
「で、でも私普通の恰好が……」
「だから一人になった時に、着替えさせてしまおうという話しになったの。でも貴方はクロヴィス様達といつも一緒だから、手出しできなかったのだけれど、ようやく機会が巡ってきたのよね」
笑う彼女達に私は恐怖を覚える。
先ほどまでの穏やかな彼女達は、今は私にとって恐ろしい怪物の様に見える。
がたがた震える私は逃げられずにいるとそこで、
「エリじゃないか。珍しいなこんなに朝早くにこんな場所で会うなんて」
フィオレが珍しく一人で私の前に現れたのだった。
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