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主人公の立ち位置にいるような?

「うぎゃああああああ」

「のにゃああああああ」


 私とフィオレは、何かに引っ張られて何処かに連れて行かれる。

 その時にうっかり魔法の杖を置いてきてしまったのも私の痛恨のミスだと思う。

 私とフィオレの名前がクロヴィスとアンジェロの声で聞こえたが、その声も今は遠い。


 しかもフィオレが呼び出した明かりの魔法は既に届いていない場所だ。

 一体どれくらい遠くまで私は引きずられてしまったのだろうと思って、そこで光が見える。

 揺れる水面から注ぎこむ地上の光。


 そこで私達は水面から引きずり出された。

 水しぶきを上げながら地上に引きずり出された私達。

 そこは円柱状に掘られた場所で、地上との距離も近いようで、私の二倍くらいの身長の場所から、雑草が顔を覗かせている。


 けれどそれを見たのは束の間。

 すぐ傍の私達の身長よりも少し高い、半円状の天井の穴がある。

 そこは昔は道であったらしく、レンガが積み上げられている。


 ただ古いものではあるらしく、所々にひびが入っているが。

 そこまでは良かった。

 その古い道の様な場所、そこからもぞリと半透明なゼリー状の様なものがはい出してくる。


 よく見ると私達の足に絡まっている物はそれの一部の様だった。

 その透明な生物を見ながら、私は戦闘しないとという思いに駆られていると、


「華麗なる炎の矢 (グレイス・ファイアーアロー)」


 フィオレが魔法を使う。

 フィオレの手に持つ杖から、三本ほどの炎の矢が現れて、その透明なゼリー状の物に当たった。

 けれど当たると同時に霧散してしまう。


「やはりこの程度の魔法では無理か。まさかこんな強力な魔物がいたなんて」

「! この魔物、そんなに危険なの!?」

「いや、危険はあまりない。だが……というか、魔法使いの天敵みたいな魔物じゃないか! 何でエリは知らないんだ!」

「だ、だってゲームには出てこなかったし」

「げーむ? まあいい。それよりも攻撃を手伝え」


 そうフィオレに言われて私も、手ごろな杖を呼びだして魔法を使う。

 先ほどのフィオレが使った魔法の上位魔法。


「華麗なる炎の乱舞 ( グレイス・ファイアーダンス)」


 炎の矢が躍る様に数十本現れて、一斉に攻撃する。

 けれどそれでも傷一つつかない。


「ぼ、防御力高すぎるんじゃ……」


 私が呟くとフィオレが舌打ちして、


「だがエリ、攻撃して勝たないと酷い目に会うのは私達だ」

「で、でもさっき危険はあんまりないって……」

「ああ、ない。だってこの魔物の一番のごちそうは私達魔法使いの魔力だからな」

「まさか……」


 そこでフィオレが暗く笑った。


「ここで負けると、あの透明な奴に捕まって死なない程度に魔力を吸われる。しかもどうして生かしておくかというと魔力は回復するからだ。そこまでいえば意味が分かるな?」


 そう、フィオレは私に無理ゲーに近い何かを告げたのだった。





 いなくなるエリにクロヴィスはとっさに“力”を使おうとした。

 けれどそれは人ではない、人の持ちえない力だ。

 きっとまだエリは気づいていない。


 もしかしたなら気付かないふりをしているのかもしれないが、それでもまだこの関係をクロヴィスは維持したかった。

 だからクロヴィスは、エリを連れ攫われてしまったのだが、そこでアンジェロは、


「まさかこんな事になるなんて。フィオレにこっそり発信機を付けておいてよかった」

「そうか」

「貴方はエリに付けないのですか?」


 さらっとアレな行為を薦めてくるアンジェロにクロヴィスは、


「俺がエリを見失うはずがない」

「ですよね。貴方の力は規格外ですから」


 そう笑っていると、猫のタマと杖の妖精が自分の杖を重そうに持ち上げて、早く探しに行こうと騒ぎだす。

 そんな杖の妖精の杖を猫のタマが持ち上げた程度に中の良いこの二人を見ながらクロヴィスは、この妖精と猫もエリを狙っているんだよなと思う。

 そう思うと邪魔に見えるが、それをするとエリが悲しみそうなのでクロヴィスはやらない。


 エリはクロヴィスの物なのだ。

 一目見て欲しいと思った。

 だから怠惰に世界を見ていた自分がこんな……。

 そこまででクロヴィスは考えるのを止めて、


「行くぞ」


 短くそう、告げたのだった






 そんなこんなで、私はあの透明な触手ぽい魔物と戦ったのですが……見事に負けてしまいました。

 攻撃しながら逃げ出そうとした私達は、一番初めに掴まれた触手はどうにか吹き飛ばしたもののすぐに別の触手に捕まって、トンネルのような場所に連れ込まれてしまう。

 そのまま何かに覆いかぶされる。

 窒息はしないので良く分からないけれど水の球な物に閉じ込められている。


 そこでにゅっとなのかが自分の中から減っていくのを私は感じた。

 このまま魔力が減っていくとどうなるんだろうと怖さを覚える。

 こっそりフィオレの様子を見ると真っ蒼い顔でぐったりしている。


 本当に私は大丈夫なのだろうか。

 だから魔法を使おうとするけれど、手がピクリとも動かない。

 出せるのは声ぐらいのものだ。


 怖い、怖い、怖い。

 私はどうなってしまうのだろう。

 こんな見知らぬゲームの様な世界で……。

 

 恐ろしい想像がよぎって、けれど、真っ先に頭に浮かんだ相手といえば、


「助けて、クロヴィス、こんなのやだぁあああ!」


 無我夢中で私は助けを求めた。

 その相手は無意識のうちにクロヴィスを選んでいたけれど、そこで、


「……ぎりぎりだったな」


 クロヴィスが怒りを込めた声で呟くのが聞こえて、すぐに目の前に黒い線の様な輝きが走り、轟音と共にその触手が真っ二つに切られて、消滅したのだった。






 その後私達は助け出された。

 フィオレはぐったりしていたので、ちょっとする事があるからとアンジェロが隠れる様な場所に抱きあげて連れて行ったのは置いておくとして。


「まったく、駆けつけて助けを求めるエリの声が聞こえて……つい頭に血が上ってやりすぎたかもしれない」


 そういったクロヴィスの視線の先には、私が黒い閃光を見た場所だった。

 触手が切られていたが、それどころかその地底部までもえぐり取るように爪痕が残っている。

 一応ゲーム内でこの技を見た事があった私だが、実際に見るとそれはそれで恐怖感が湧いてくる。


 ちなみにこの技は、このクロヴィスがラスボスとして出てきた時に一番初めにしてくる攻撃だった。

 けれどその力は私を助けるために振るわれたので、怖がるのは失礼だなと思う。

 そこでクロヴィスがそっと私を抱きしめて、


「無事で良かった」


 その一言に私は、酷く安堵して力が抜けてしまう。

 そして甘えるように私はクロヴィスに抱きつくと、私を落ちつかせるように頭を撫ぜる。

 それに私はようやく落ち着いてきて、そこで、


「エリ大丈夫だった?」

「みたいだね」


 猫のタマと杖の妖精のリリスがやってきた。

 何でもエリがさらわれたのに気づいて、クロヴィスが恐ろしい速さで追いかけてきたらしい。

 でもそれが嬉しくて私は、 


「皆、心配かけてごめん。クロヴィス、助けてくれてありがとう」

「……守るのが約束だからな」


 微笑んだクロヴィスに私は、相変わらず面倒見が良いんだなと思うと同時に、もう少し傍にいたいなと無意識のうちに思ってしまったのだった。







 正気に戻ったフィオレは顔が真っ赤だったが、アンジェロに話を聞いて顔を曇らせる。


「黒く輝く剣、そして一瞬であの魔物を焼失か」

「ええ、只者ではないと思いましたが、これは予想外でした」

「……野放しにするには危険か」

「手を出す方が危険かと」


 案に関わるなと言うアンジェロにフィオレは鼻で笑う。


「それだけの力を持つなら仲よくしておくに越した事はないだろう。それに、あいつのお気に入りのエリは私と、と、友達だからな……」

「……そういえば“普通”の友達に飢えていましたね、フィオレは」

「な、何で嘆息するんだ! 気に入った相手がいないからだ」

「はいはい。……でも、あのエリという彼女も、何か違和感を感じるのですよね」

「? 何か言ったか?」

「いえ、皆さんが待っていますから、もう行きましょうか」


 そうアンジェロは話を切り上げてフィオレを促し、何も気づいていないような瞳でエリを遠くから見たのだった。






 フィオレと合流した私だけれど、そこでタマが、


「所でエリ。エリを追いかけていく時にこんなものを見つけた!」


 そう言ってタマが私に手を差し出す。

 その手には緑色の宝石が幾つものっていて、それは、


「“新緑の宝石”! タマ、お手柄じゃん!」

「うーにゃにゃ。褒めて褒めて。頭を撫ぜさせてやるのですにゃー」

「うん、ほーら、撫ぜ撫ぜ~」

「うにゃーん」


 タマが頭を撫ぜると、嬉しそうに鳴いた。

 こういうのを見ると猫だよなと私は思い、その石を受け取って、


「そういえば、フィオレ達はこれを探しているの? 魔物退治だけ?」

「両方かな。でも魔物は十分に依頼分だけ狩ったし、後はそれだけかな」

「どれくらいかな。私達も依頼があるから、全部は無理だけれど……」

「その小さいの1つ分かな」

「? そんなに少なくていいの?」

「……“新緑の宝石”の、そんな大きい物がいくつも見つかった事自体奇跡だよ。そこのタマという猫は、招き猫なんじゃないのか? 幸運が近寄ってきているとしか思えない」


 フィオレが告げるのでタマを私は見ると、タマはにゃ~んと鳴いた。

 でもこのおかげでこのまま帰れそうだ。

 あの触手のような強い魔物がもういないとは限らないし、そう思って私たちはその場を後にしようとして、そのすぐ近くの穴……その水の中で何かが光るのを目にしたのだった。








 キラキラと金色に水面が光っている。

 そういえば、ゲーム内のイベントでそんなような場所があったなと思って、でもそれは“主人公”の為のイベントだ。

 私の立ち位置がそうだからといって、“主人公”と同じ道をたどるとは限らない。


 そもそも海の向こうの博物館に石板が飾られている時点で全部違うのだ。

 ここはきっとゲームの世界に似た異世界に違いない……そう思うのに、違和感が私の中に残る。

 それは幾つかすでにその石板を集めてしまったからかもしれない。


 私があたかもあの“主人公”にされてしまったような不安。

 そして私の傍にはクロヴィスがいて、私を守っていてくれているからつい忘れてしまう。

 私はまだこの世界からだ出する糸口すらつかめていないのに。


 そう思うと怖くなるのに、気がつけば私はこの世界に馴染んでいる。

 もしも最終的にクロヴィスと戦うならば仲間を集めないといけないけれど、そのイベントは多分……もう終わっている。

 本来ゲームの序盤の方で出会うはずの彼ら、彼女らはまだ接触すらしていない。


 クロヴィスに連れ回されていたから当然なのだが、このフィオレと出会うのは仲間がそこそこ集まってからのはずだった。

 やっぱりもっと仲間を増やしておこうと決意する。

 そのためには身ぎれいにしておいた方がいいだろう。

 それもできるだけ普通っぽい服を着た方がいい。


「あとで服を買いに行こう」

「? 服が欲しいのか。服は俺が選んでやるぞ?」

「え? いいよ、別に」

「……帰ったら着せてやる。俺への報酬の一部だ」

「何を着せる気?」

「大丈夫だ、問題ない」

「せ、ぜったいに着ないから!」


 何かとてつもない嫌な湯悪寒がして私は言い返す。

 だがそのクロヴィスは、タマと杖の妖精リリスに目配せし、こくりとお互い頷く。

 何ですかその暗黙の了解みたいな感じは、とペットにまで見放された私は思っているとそこで、


「それでエリ、何で突然立ち止まったりしたんだ?」


 フィオレに問いかけられて私は、


「あ、あそこが光っていたから」

「? 何処が? 明りで水が反射しているだけみたいだけれど?」


 どうやらフィオレにはそれが見えないらしい。

 ますます私用のイベントじゃないですか! やだー、と逃げ出したい気持ちに私はなった。

 けれどもしかしたならこういったイベントを消化していかないと元の世界に帰れないかもしれないので、仕方がないので、


「ちょっと行ってくるね」

「? 行ってくるって……え!」


 フィオレが私に手を伸ばすけれど、その時には私はその光の中に飛び込んでいた。

 魔法を使って飛び込んだので、息は苦しくない。

 そしてそんな余裕からか、私は周りに浮かびあがる金色の光の粒を見上げる。


 それは水中にある魔法陣から発せられているようだった。

 幻想的な光景の中、その魔法陣が浮かび上がっている水の底にまでやってくる。

 魔法陣は二重の円の内側に歯車の様な物が三つ入っていて、その歯車が動くごとにその魔法陣から光の粒が噴き出している。


 その周りには光る文字が描かれていて、“世界を光で満たす者、かの地より来たりて、この世界に祝福を与えん”と書かれてくる。

 見た事もない文字……というかゲーム内では、ただの魔法陣の模様としか認識していなかったけれど、私にはそう読めた。

 そう思っていると同時に、その魔法陣の中心部に足が触れるとひときわ大きく魔法陣が輝く。


 白い閃光に視界が満たされて、代わりに幾つかの情景が見える。

 そのどれもがゲーム内で回った事のある場所で、もしやこれからそこを回らないといけないのだろうかという不安を私が覚えて……同時に、何かに助けを求められているような気がした。

 それはあくまでそういったものを私は感じ取っただけなのだろうけれど、この物語がどういったものかを私は知っている。


 ただ、この世界はゲームとは似ているけれど違うのだ。

 だからそうなるとは限らない、けれど……。

 私の中で不安は募る。


 そこで魔法陣から以前の石板の破片の様な物が出てくる。

 とりあえずそれを回収すると、その魔法陣はふっと光を失う。

 これでイベントは完了らしい。


 そう思って私は底から離れて自ら顔を出すと、皆が私の顔を覗きこんだ。

 そしてフィオレが、


「エリ、一体何をやっていたんだ?」

「魔法陣の様な物があったので見たけれど、近づいたら消えちゃった」

「魔法使いならもっと警戒しろ! どんな危険な魔法があるかも分からないのに!」

「ご、ごめん。心配かけたかも」

「……まあいい。帰るぞ」


 さり気に心配性なフィオレに、良い人だなと私は思う。

 けれどこんな人間が作った石切り場に何であんな魔法陣があったのか、私は気づいていなかった。

 その傍で誰かが私を見ていたのも。


 そして、タマはそれに気付いていたらしい、というか“仲間”だから気付いていたらしい事も。

 それでもまだ、私のこの世界の日常に大きな変化はなかったのだった。





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