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飼い猫は私を裏切りました(笑)

 フィオレというのは、ゲーム内では主人公のライバルキャラだったツンデレ美少女である。

 銀髪の長い髪に青い瞳の、男装のツンデレ魔法剣士だった。

 初めの方で出てきて主人公にライバル宣言をするが、後に協力しあったり、時に百合っぽいシーンが……あったりするのは男性向けのサービスシーンなのだろう。

 そんなあの素直じゃないけれど主人公を気遣ったりする、気丈な美少女が今ここに!

でも主人公がいないとどうなるんだろうと私が不安を覚えているとそこで、


「……不服そうだな」

「え、いえ……何かお手伝いするのではなく別の物で解決したいな―、と」

「……ふーん、じゃあ、別の意味で体で支払ってもらおうか」


 ニヤッと凄みのある笑顔でフィオレが私を見て笑う。

 私は嫌な予感がしたが、そこで、


「まあまあ、フィオレ。可愛い子だからって苛めちゃだめですよ」

「アンジェロ! な、何を言っているんだ! べ、別に私は……確かにエリはいい子そうだけれど、これは私のソーセージを食べた罰なんだ!」


 そう言って、タマを指さすフィオレ。

 その指の先には、タマが新たなソーセージにかぶりついた所だった。

 怒られたり飼い主の私がこんな目になっているのに! と思っていると、そこでフィオレはようやく気づいたようだ。


「この駄目猫! また焼けたばかりの美味しそうなソーセージを……しかも焼け過ぎた感じのは避けているし!」

「にゃー、僕は美食家なのです!」

「……やはりこの怒りは、飼い主のエリに……体で支払ってもらうしかないな」


 そしてフィオレが私の前に近づいてきた。

 けれど私はその前に、後ろに引っ張られるようにして抱きしめられた。

 その相手はクロヴィスのようだが、


「エリに手を出したなら許さない」


 その声は私が聞いた事がないくらいに冷たく聞こえる。

 不思議に思って私が見上げると、クロヴィスと目があった。

 先ほどの背筋が凍るような声とは裏腹に、いつものクロヴィスにしか私には見えない。

 そこで目の前のフィオレが舌打ちした。


「ふーん、そこまで変わるのか。随分とお気に入りのようだな」

「……俺はエリにしか興味がない」

「別に良いけれど……ふう。それで私達と一緒に、“新緑の宝石”を探しに行く、それでソーセージの件は終わりにして、ついでに御馳走してやる」

「本当!」


 私はつい言ってしまった。

 だって先ほどから美味しそうな匂いがするし。

 そんな私にフィオレは唖然としたような顔をして、次にくすくすと破顔し、


「食い意地が張っているな。あの猫と同じだな」

「べ、別に……」

「御馳走してやる。丁度大量に採れた所なんだ」


 そうフィオレが私に言ったのだった。






 結局私はごちそうになる事に。

 ハーブやら何やらの入ったこのソーセージは、植物らしい。

 つまり、このソーセージは“野菜”だ。


 この焼いている場所は、採掘の時に地上から穴を掘った時の物らしい。

 そこそこ広くところどころに横穴があるこの場所は、壁の一角から地下水が流れ込み、中央に島のような場所を作って何処かへと流れい出ている。

 そんな外と繋がった場所なので、フィオレはここで食事も兼ねて焼いていたらしい。


「わー、これ美味しい。そういえばこんな調味料が」

「! それはトマトケチャップにマスタード! 素晴らしい!」


 といったように私達は気づけば意気投合していた。

 そんな私達から少し離れた場所で、クロヴィスとアンジェロが何かを話している。

 時々ちらちらと私達の方を見ているが、ここからは会話は聞こえない。

 でもそろそろ何本か焼けるので、


「クロヴィス、えっと、アンジェロさん、もう少しで焼けます!」


 今行くとクロヴィスが答え、アンジェロはさんは付けなくていいよと答え、こちらに来たのだった。





 エリから離れてクロヴィス達が何を話していたのかというと。

 先に話しかけたのは、アンジェロだった。


「あの時、本当にあなたには断って頂いて助かりましたよ。裏で手を回さなくて済みましたからね」

「……お前達の事は記憶にない」

「それだけ相手にしていなかったと。そこそこ強い気がしていたのですが……お眼鏡にかなわなかった、という事ですか?」

「俺はエリ以外に興味がない。俺が欲しいのは……エリだけだ」


 その淡々としたもの言いに、柔和そうな表情を崩したアンジェロは、探るようにクロヴィスを見て、


「貴方は一体何者ですか? その力も、普通の人間とは思えな……!」


 そこでアンジェロは言葉を切った。

 なぜならクロヴィスが、冷たい瞳のまま唇だけが笑みの形になり、笑っていたからだ。

 まるで深淵を覗きこんだような無意識の恐怖を感じたアンジェロは即座に言葉を止める。

 そんなアンジェロにクロヴィスは、


「知りたいのか?」

「……いえ、結構です」

「そうか、随分と賢く強い魔法使いだから、お前は俺が何なのかが分かるのかもしれないな」

「……おっしゃっている意味が分かりかねます」

「お前がそう思うのなら、これ以上俺は何も言わない」


 その言葉にどっと冷や汗があふれるアンジェロだが、そこで二人はエリに呼ばれたのだった。






 ソーセージをかぶり付いて楽しんでいた私とフィオレがもぐもぐしていると、やけにクロヴィスとアンジェロがじっと観察するように見ていたのは良いとして。

 火の始末をした私達は、傍の穴にもぐりこんで行く。

 人一人がどうにか通れる穴を歩いていくと再び広い空間に出る。


「ここは……石切り場みたいだね」


 四角く切りだされた後らしい階段状の突起がそこら中に見える。

 魔法の明かりが灯されて、中はそれほど暗くはない。

 ただ気になる点が一つ。


 何処からともなく聞こえる水の流れ込む音。

 反響がそこら中で起こって、何処から音が聞こえてくるのかが分からない。

 けれどすぐ傍に“水”があるのは確かなようだ。


 何処だろうと私は周りを見回すと、少し先の明かりに照らされた床に当たる部分が小さく波打っているようだ。

 この石切り場は外と繋がっているらしく、時折冷たく湿った風が吹いているので、その風に吹かれて水面が揺れているのだろう。

 でも水のある場所まで行ったら行き止まりだろうなと私が思っている内に、その水際までやってきた。

 そこでフィオレが、


「“妖精の灯り《フェアリー・ランプ》”」


 呪文を唱え、そう呟くとともに白い球の灯りが手の平から湧きたつようにあふれ出て、周りに広がっていく。

 その灯りは水の上に等間隔に止まり、その水溜りの広さを思い知らせた。

 それを見ながら私は、


「凄く広いんだね。でも水溜りの中に潜るのはどうかと思うので別の道を探しましょう!」


 と、私は提案してみた。

 けれどそこで私はフィオレに半眼で見られて、


「……本気か?」

「えっと……はい」

「水に潜る為の魔法など色々あったはずだろう?」

「えっと……はい」


 段々険しい表情になっていくフィオレに、私はどうしようかと周りを見渡して、そこで私はタマに気付いた。


「タマは猫なので水の中に潜るのはあまり良くないかと……」

「にゃ? エリ、僕は猫かきで水は泳げるよ? むしろ得意!」


 ここに来て、飼い猫は私を裏切りました。

 なので他にと思って先ほどから杖に入ったままの杖の妖精のリリスに、


「リリスは水に入りたくないよね?」

「いえ、実は私防水加工もされているような優れた杖なので大丈夫ですよ」

 

 手持ちの杖にも裏切られました。

 そこでフィオレははっとしたように私の杖を見て、


「そういえばそれは伝説の“天球儀の導”。そんな杖をなぜ持っている!」

「え、えっと……私が作りました」

「作った!? なんていう才能だ……なのにこんなにやる気がないなんて。許せない」


 状況が更に悪化したような気がした私だが、そこでそんなフィオレをアンジェロが後ろから抱きしめて、


「まあまあ、フィオレ。自分にも他人にも厳しいのはほどほどに」

「だってあれだけの才能があるのに、やる気がないってそんなの許せるわけないだろう!」

「人それぞれ色々な考えがあるものです。あまり硬く考えないようにした方が良いですよ?」


 そうたしなめられて黙るフィオレ。

 それに私は安堵しながらも、未だにこの水の中にもぐってどうこうするのも嫌だったので、魔法道具を取り出した。


「ちゃんちゃちゃーん、“ろ獲球状ボール”。名前があれだけれど、これを水の中に放り込むとかってに貴重なものを集めて戻ってくるという便利な……ぁあああああ」


 そこでその球状の水色のボールアイテムが、クロヴィスの剣で真っ二つにされた。

 一応代わりはあるのだが、これを作るのって材料集めが意外に大変だったんだ……と涙目になる私だが。


「エリが全くやる気が無いのがわかった。行くぞ」

「え? ええ! わぁあああ」


 そこで私はクロヴィスの脇に抱えられるようにして、水の中に飛び込んだのだった。







 こう見えても、クロヴィスは魔法が使えるらしい。

 というか、ラスボス戦の時に散々魔法攻撃を喰らって涙目になった素敵な思い出があるが、それも含めてクロヴィスの正体を言うと何かが起こりそうなので私は言えなかった。

 さて、それは良いとして空気の膜を作り水の中に飛び込んだ。


 水の底にはごつごつとした岩がところどころに見られたが、そのほかは基本的には平らな階段が幾つも連なったような形をしている。

 そこに綺麗な地下水が貯まって湖の様な地底湖の様になってしまったようだった。

 しかも先ほどフィオレがはなった明かりが上から水の中を照らしていて、それが何本もの筋を描いて固定を照らしているのもまたとても幻想的な光景だった。


 そこで私はふと、そういえば鉱石を採掘していたのに、何で石切り場なんだろうと思っていると、クロヴィスが、


「この辺りは石切り場だから、目的の石はないだろうがな」

「! だ、だったら何でここに……」

「ここは随分と人が入っているから、こういった妙なルートを取らないと目的の物がある場所に辿り着けないだろう?」

「そ、それは……でもそんな未知の場所なんて……」

「俺がついているから大丈夫だ」


 その一言でクロヴィスはすましてしまう。

 そんな無茶なと私は言いたかったが、このクロヴィスの自身のある態度とラスボスな事も相まって、きっとそうなのだろうと思う。

 ならば信じて進んで行ってもいいのかなと私が思っているとそこで、


「おい! エリ! この駄目猫の面倒もきちんと見ろ!」

「にゃーん、僕の猫かきの実力が見せられない~」

「ずっと泳いでおくわけにもいかないだろう! はあ、何か疲れる」


 そこで私は怒ったフィオレと、タマを見る。

 タマは私の方に走ってきて抱きつく。


「やっぱりエリが一番いい匂いがする!」

「そうなんだ……。フィオレ、ごめん、ありがとう」

「ふん、先にクロヴィスと一緒に潜ってしまうから、仕方がない。放っておくわけにもいかないし」


 ぷいっとそっぽを向きながらも頬が赤いフィオレ。

 ツンデレっぷりは相変わらずだ。

 そんなフィオレは後から来たアンジェロに、相変わらず素直じゃないですねとからかわれていた。


 そして私達は底を歩きだす。

 奥の方に向かう中、途中、色々な魔石やらアイテムが転がっているのに気づく。

 地上の水源と繋がっていたり、地中のアイテムや魔石を掘り起こすように水が流れて、ここに流れ込んでいるのかもしれない……というか、そんな設定があったなと私は思い出す。


 なのでこまめにフィオレと分け合いながらアイテムを拾う。

 また、水の攻撃をする、涙の雫の様な形をした魔物との戦闘――強制的に私がクロヴィスに戦わさせられた――や、魚の魔物――ちなみに倒したら食べられる魚が手に入り、タマが大喜びで倒して、口にくわえて私に自慢しに来た。タマ……それをどうするの? と私が聞くと、帰って料理をするらしい。私が――と戦いつつ奥に進んで行く。

 そんな中フィオレは、


「確かに実力はあるみたいだな」

「う、そう言って頂けると嬉しいです」

「……何でそんな風に謙遜する。もっと偉そうに、当然だという風な態度を取るべきだ。本来、力の強い魔法使いとはそういうものだ」

「で、でも慣れないし……」

「だがその力を持って、人々の生活に貢献するのだ。それがそんな風に低姿勢では示しがつかない」

「うう……善処します」

「……やはりこの私が直々に体に教え込ませてやった方が良いか? 魔法使いの心得を」

「! クロヴィスで間に合っています!」


 そう答えて私はクロヴィスに隠れてしまう。

 そんな私にフィオレは不機嫌そうになる。

 面倒見が良いのは好感が持てるけれど、こんなクロヴィスみたいのが二人になったら、私は嫌だよと思ったのだ。


 そしてそんなクロヴィスにひっつく私に、クロヴィスは何故か機嫌が良さそうだ。

 そこで機嫌の悪そうなフィオレにアンジェロが、


「フィオレ、振られちゃいましたね」

「べ、別に……というか振られたって何だ、振られたって」

「いえいえ、ただ、フィオレを一番分かっているのは私なんですよ、と思っただけです」

「ふん、私を一番分かっているのは私自身だ」

「では私は何番番目ですか?」

「……二番目だ」

「それは光栄です」


 耳まで真っ赤にしてフィオレが答えている。

 何となく、にまにまな光景だなと思っているとそこで私は気づいた。

 目の前に緑色に輝く石がある。


 これは間違いなく目的の……“新緑の宝石”。

 そう思って私は走り出して、


「エリ! 勝手に動くな!」

 

 そんなクロヴィスの声を後ろで聞いたけれど、私は無視してその石に手を伸ばす。

 そこで、にゅるりとした何かに腕を掴まれて、


「え?」

 

 疑問符を浮かべると同時に、何故かフィオレも一緒に何処かへと引っ張られてしまったのだった。


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