逃げられませんでした
そして会計を済ませた私は、全力でその場から逃走した。
その後をタマとリリス、クロヴィスが追いかけてくる。
だが私は、絶対に捕まるつもりはない。
と思って家駆け込もうとすると、私はクロヴィスに後ろから抱きしめられた。
とうとう追いつかれてしまったらしい。なので、
「放せぇええ、私はこの家の中で家庭的な調合をして依頼をクリアするの!」
「さて、準備をさせると引きこもりそうだからこのまま行こうか」
「な、なん、だと」
「お前達もいいな」
それにタマとリリスはお散歩だ―、と喜んでいる。
味方が私の周りに一人もいない。
そうしてそのままズルズルとクロヴィスに引っ張られて、家が遠ざかっていく。
それを涙目になりながら私は何処かに連れて行かれたのだった。
草原にて魔物の攻撃を受ける私だが、
「な、何でこんな所に触手がぁあぁぁ!」
クロヴィスから少しずつ離れるようにして逃げ帰ろうと思った私は、草むらから突如現れた触手に捕まっていた。
腰のあたりにぐるりと触手が絡みつき宙吊りにされて、服の中に細い触手が入り込んでくる。
触手なら触手らしく女の子を襲っているので極めて触手らしいのだけれど、
「やっぱり触手だからと言って男女差別はいけないと思います! というわけで男も襲ってくださいっ!」
しかし私の抗議は無視されてしまった。
正確には狙いを私に定めたようだ。
そこで私はクロヴィスに目が合う。
「た、助けて……」
「大人しく冒険に向かうならいぞ?」
「い、嫌だっ、絶対逃げてやるぅう」
「じゃあ暫く放置だな。俺が楽しく見ていてやるから、がんばれよ」
「薄情者、タマ! リリス! 助けてっ」
けれどタマはいつの間にか猫に戻りにゃ~と鳴くだけで、杖の妖精のリリスは楽しそうに飛び回っているだけだ。
薄情な仲間たちを見て私は諦めた。
「大人しく冒険に行くので助けてください」
「いいぞ」
こうして私は諦めて、戦闘の依頼を受けに行くことになってしまったのだった。
森を歩いていくと、途中特に敵と遭遇することも無く目的地に着いてしまった。
「それでここは昔鉱石の採掘が行われていた場所だが、今は魔物の住処だ」
「……ここに何の用があるの?」
「“新緑の宝石”が希に採れたらしい。そして今も探すとたまに採れるそうだ」
「“新緑の宝石”……私持っているからそれで依頼終了に出来ないかなって」
「さあ、探しに行こうか。エリ明かりの魔法を使え」
「い、行きたくない……」
「まあ、中には未だに明かりがともあれているから薄暗い程度に中は見えるからいいか、行くぞ」
そうして嫌がる私を無理やりクロヴィスは採掘所に連れて行く。
どこか外とは違いひんやりしている。
何かがいかにも出てきそうだが、そういえばここって、と私が思い出していると、
「レールに、トロッコがあるな」
古びたレールと今にも壊れてしまいそうなトロッコが、そこには2つあったのだった。
私は嫌な予感しかしなかったので、そろりと一歩後ずさるが、
「逃げようとしても無駄だぞ」
「い、嫌だし、あれ何処からどう見ても壊れそうじゃん!」
「大丈夫だ、皆使っているし。いざとなったら……」
「いざとなったら?」
「乗り捨ててレールの上を歩いていけばいいか」
「……ちなみにこのレールの整備は一体何方が?」
「さあ、やっていないんじゃないか?」
クロヴィスのその答えを聞き私は決心した。
これはもうお家に帰るしかないと!
冗談じゃない、こんな危険な場所に居られるかと私は思った所で、私はクロヴィスに腕を掴まれた。
「全く、エリはすぐに逃げようとしやがって」
「う、で、でもこんな危険な……え?」
そこで私はクロヴィスに抱き上げられた。
お姫様抱っこの形で抱き上げられて、一瞬私はどきりとしてしまうが、そのクロヴィスといえばトロッコにそのまま飛び乗る。
その後ろにタマがにゃ~と鳴きながら乗り込んで、同時にトロッコが動き出す。
「ひ、ひぁあああああ」
私は悲鳴を上げた。どんどん加速していくトロッコ。
途中ジェットコースターのように宙返りはしなかったが、一気に坂を下ったかと思えば少し登って、その後は螺旋状にグルグルと回り更に速度が加速して……。
「いやぁあああっ、もう帰るぅうううう」
「少し速度が速すぎだな。落とすか。あ……ブレーキが壊れたな」
「ク、クロヴィス、何でそんなに冷静なんだぁああ」
「別に、いざとなれば飛び降りればいいだけだからな」
「そ、そんなの無理、無理だよ……」
風をきる音を聞きながら私は呟く。
そんな私をクロヴィスが抱きしめて、
「大丈夫、俺が守るって言っただろう? 安心していろ」
「……うん」
抱きしめられてそばにクロヴィスがいると思うとなんだか安心してしまう。
そこでクロヴィスが呟いた。
「ああ、行き止まりだ」
「いやぁあああああっ」
そのトロッコの先には、切り立ったがけがそびえ立っている。
途中いくつも横穴があったのでそこに入り込むのが普通なのだろうが、ブレーキが壊れてこのザマだ。
なので私が悲鳴を上げると同時に、私はクロヴィスに抱き上げられてそのトロッコから飛び上がり、タマもちゃっかり猫になってクロヴィスの背に張り付いていたのだった。
私達がいるのは、採掘場の最深部らしい。
どうにか地面に降りたものの暫く私は足が震えてしまい自力で立てず、クロヴィスの服に捕まっていた。
そんな私にクロヴィスは、仕方がないといったように笑って私の頭を撫ぜる。
それだけで私の震えが段々と治まってくる。と、
「もう大丈夫だろう?」
「う、うん」
もう少しひっついていたかったが、クロヴィスが私から顔を背けている。
どうしたのだろうかと思うが、周りは暗くてよく見えない。
明かりのようなものがポツポツとあるが、その内の半数以上が壊れていて使いものにならないのだ。
これから探検するにしても、こんなに暗いと危険なので私は魔法を使う。
選択画面を呼び出して、ポチッとして。
ふわりと杖から光が溢れて魔法陣が浮かぶと同時に明かりの球が浮かび上がる。
それを周囲に配置した私はそこで気づいた。
「リリスがいない?」
「いやぁ~、怖かったので杖に隠れてしまいました、てへっ」
そこで杖から妖精のリリスが顔を出す。
そんなリリスを恨めしく思う私だけれどそこで、
「なんだかこっちから良い匂いがする!」
「あ、タマ! 待って!」
そこでタマが、勝手にすぐそばの横穴に入り込んでしまったのだった。
タマは猫の姿ではなく人型になって走っていく。
私はそれを慌てたように追いかける。
その横穴は特に小さく、私の背丈でもどうにか天井に当たらないかといった高さだ。
なので私よりも背の高いクロヴィスは腰をかがめながら進むので動きが遅い。
もしやこの状態ならば私は逃げ帰れる!? と思ってしまったが、後ろにクロヴィスがいて、タマがその先にいるのだからここでは逃げかえれない。
そもそも突然タマはどうしたというのだ。
先ほどこっちからいい匂いがするとタマがこっちに走ってきてしまったのだ。
いい匂いって私には分からないよ、というかちゃんと食事は与えておいたはずなのにな……という意味で飼い主として悲しくなる。
けれど奥に進むにつれて私は、タマの言っていた言葉に気付く。
じゅうじゅうと何かを焼く匂い。
正確には肉を焼く香ばしい匂いがする。
思わずよだれが出てしまいそうないい匂いなのだが、こんな洞窟の奥深くで何でこんな匂いがするんだろうと思っていると、やがて奥の方が開けているのに気づく。
そこで声が聞こえた。
「この駄目猫! 私のソーセージを返せ!」
「にゃーん、うまうま」
「うまうまじゃない! この……一体飼い主は何をしているんだ!」
「まあまあ、フィオレ、落ち着いて」
「アンジェロ、落ち着けるか! 絶対に飼い主が来たら……」
そこで私は怒っているその人物と目があった。
さらっとした白銀の短い髪に青い瞳のちょっと生意気そうな美少女だ。
剣を持つ剣士であるが魔法の杖を持っているので、魔法剣士なのだろう。
だが、今の名前とこの顔というかキャラデザには覚えがある。
そしてその彼女のすぐ傍にいるおっとりとした感じの魔法使いっぽい賢者な人にも見おぼえがある。
だがその二人について、私は幾つか突っ込みを入れたかった。
正確には何故!? という気持ちが強かった。
そんな私に気付いたタマが嬉しそうに抱きついてくる。
「エリ、美味しかった!」
「タマ、人様の物を勝手に食べちゃだめだよ! ……すみません、あの、弁償します。おいくらですか?」
私はタマの食べた分の品物の代金を支払おうとした。
そこで目の前の彼女がじっと私を見て、一回頷いてからふっと微笑み、
「その体で支払え」
「いきなり体を要求された!?」
「違う! そう言う意味じゃない!」
「それでその、体でというのは?」
そこで今度は目の前の彼女は、フィオレは私の後ろにいるクロヴィスに気付いたらしい。
そして彼女は笑みを更に深くし、
「久しぶりだねクロヴィス。以前私がパーティに誘ったのを覚えているかな?」
「誰だ?」
フィオレがそのクロヴィスの答えにむっとしたようだ。
「以前散々パーティに誘っただろう! 能力が高いから、この私が直々に誘ってやったというのに……まさか忘れたのか!? この私が誘ったのに!?」
「記憶にない」
クロヴィスはまるでどうでもいいといった表情で答えている。
それがこのフィオレのプライドを傷つけているのだろう。
というか私はある点が気になっていたのだが、そこで彼女は私の方を見て、
「私が幾ら誘っても落ちなかったクロヴィスを落とすなって、どんな色仕掛けを使ったんだ?」
「え、いえ、たまたま助けてもらったといいますか、出会ったといいますか……」
「ふーん、つまりこれがクロヴィスの好みなのか。でもこんな風に、助けるだけじゃなくてパーティまで組むなんて……名前は?」
「えっと、エリです」
私は普通に答えたはずだった。
けれどそれを聞いたフィオレが、
「その名前は私よりも高得点を取った魔法使いじゃないか! へぇ、まさかこんな所で会うなんてね」
フィオレの目に闘争心が見える。
でも私は全く身に覚えがなく、むしろ何だその設定は状態である。
そして彼女は次にクロヴィスを見て、
「なるほど、これだけ実力がある魔法使いだから仲間になったと」
「いや、エリは家に引きこもれる依頼で資格を取ろうとしていたから、連れ出そうと思ったからだ」
そんな押し売りみたいな目に私はあっているんですと思いながら私はフィオレを見たが、そくでフィオレが冷たく私を見た。
「魔法使いが、そんな情けない事を言っているのか! しかも実力があるのに!」
「え、ええっと……」
「いいだろう、今日はソーセージ代分、使ってやる」
どうしてそうなったと私は思った。
けれどそれはも決まってしまった事らしい。
何でこんな……私はそう思ったのだった。




