帰還しました
額をこつんこつんと指でつつかれる感覚。
そこで私はゆっくりと意識を取り戻した。
「あれ、ここは?」
そう呟くと同時にすぐ私の目の前で様子を見ていたらしいクロヴィスが、
「タマ、リリス、エリが目を覚ましたぞ」
「「「本当!」」
そう言ってバタバタと駆け寄ってくる音と、猫に戻ったタマと杖の妖精のリリスが飛んでくる。
二人とも心配そうに見ていて、心配されているなと思って、そこで私は気づく。
あの魔族がいない。
出会ってあの時何かがあったような気がしたが、頭がぼんやりする。
だから知っているだろうクロヴィスに、
「“深淵の魔族”はどうしたの?」
「ちょっと脅かしたら、大人しく帰ったぞ?」
一体何を言ったんですかと私は聞きたかった。
でも聞いた瞬間に大きな墓穴を掘りそうだった気がしたので、私は黙った。
そこでクロヴィスが、
「何を言ったかとか聞き出そうとしないのか?」
「……嫌な予感がするから聞かない」
そう答える私にクロヴィスは、少し驚いた顔で、けれど嬉しそうに残念だと笑う。
その笑い方にむっと来た私は、だったら教えろというと、
「そうだな、俺の恋人になるならいいぞ?」
「! だ、誰がなるかぁあああ」
「相変わらず、エリは元気がいいな。暫く楽しめそうだ」
「う、うぐっ、もういい、ひきこもってやるぅうう」
「……俺から逃げられると思うなよ?」
そういえば一緒に今は住んでいるんだった、そう私は絶望する。
そんな私を見てクロヴィスが、何か思う所があるように笑っていたのに私は気づかず、そして、私達はようやく帰路についたのだった。
戻ってきた城にいた“深淵の魔族”は目の前の、黒ずくめの男に報告する。
「以上が今回城での出来事です、ルーザリオン様」
「……ウィーゼが言うのであればそうなのだろう。……クロヴィスめ」
そう呟くルーザリオンと呼ばれた男。
この“深淵の魔族”を取りまとめる宰相である。
現在魔王が空席であるので、仕方がない。
そこで、もう一人、頭に猫耳を生やした女が現れる。
「おや、ネコミミ族の軍師クラウズ・マレア殿、どうされましたか?」
「……きたくて来たわけではない」
「ではお帰り願おうか。今は立て込んでいる」
「お前達があの方と接触した、と聞いてな」
それを聞いて、ルーザリオンは目を瞬かせる。
そこで、ウィーゼが、
「ではやはりあの場にいた猫は、ご子息のタリスマン・マレア様なのですか?」
「……そうだ」
「……全力で攻撃してこなかったのでよかったように思います。嫌われているようですが。ですが事前に傍につけているといったことを教えていただかないと、困ります」
ウィーゼが一言文句をいうと、ネコミミ女のクラウズは疲れたように、
「放浪癖のあるあの愚息が、好みの人間を見つけたから、嫁にすると連絡を寄越したのが昨日。そして、君が知っている事実を知ったのは先ほどだ。ちなみに私に連絡をよこすまであの愚息は、その人物がそうだと気付かなかったようだ」
「……いえ、でも好意を持ったのは事実で……」
「でも相変わらず嫁にすると言っているし、本当にもう、どうするんだ……」
嘆き始めるクラウズに、そこで、ルーザリオン嗤い、
「また昔のようにベッドで慰めてやろうか?」
「お断りだ!」
その言葉に焦ったように後にするクラウズ。
そこでウィーゼが、
「そのようなご関係で?」
「昔はな」
それ以上その話はせず、すぐに別のことをウィーゼ達は話し合い始めたのだった。
家に帰る頃には朝になっていた。
帰り道に城で鍵となる石をまた見つけてしまったが、そんな簡単に重要な物が転がっていて堪るかと思いつつ私は回収した。
そして家に入る私。
「ね、眠い。寝る……」
私がそういうとクロヴィスが、ふらっとする私を支えたと思ったら抱き上げる。
目が覚めた。
「な、何でこんな……」
「ベッドに連れて行くくらいはしてやるよ。今日は頑張ったからな」
「い、いいよ、何でこんな……」
そんな事を言っている間に、私はベッドに連れて行かれた。
猫のタマ達は、家に帰ると同時に階段を駆け上がって好みの場所に寝付いてしまった。
なので今は私とクロヴィスの二人だけだが、ベッドに私を横にならせたまではいい。
上から見下ろすように、私の顔のすぐ横に両手をベッドに置いている。
そのままじっとクロヴィスは私を見つめていて、それが何処か熱を帯びているように感じる。
それがいたたまれなくて私は、
「な、何? もう寝たいよ。それともギルドに報告に行かないといけないとか?」
「そうだな、依頼は遂行したし、後で行っておくよ」
「私、行かなくていい?」
「眠いんだろう?」
そうクロヴィスに言われて私は頷く。
すでに瞳も開いてはいられない。
眠い。凄く眠い。
気付けば意識は深い闇の中に沈んで途切れてしまう。
だから私は全然気づかなかった。
「……こんな風に無防備にさらけ出して。俺が悪い奴だったらどうする気なんだ? エリは。……もっとも、俺はエリにとって“悪い奴”なのだろうけれど」
そうクロヴィスは小さく笑う。
もちろん疲れ切ったエリは目を覚まさない。
一番危険な相手が傍にいるのに目を覚まさない。
「仕方がない。そろそろギルドが開きそうだから行ってくるか。また戦闘の依頼を探してくる。もっと俺を楽しませないと駄目だぞ? エリ」
そうクロヴィスは酷薄な笑いを浮かべて、その場を後にしたのだった。
ふっと私は目を覚ました。
随分と気持ちよく眠れた気がする。
それに誰かに抱きしめられていてすごく気持ちが良い。
誰かの体温が傍にあるのは安心するなと私は思って、
「だ、誰だ! ……ク、クロヴィス」
私が目を覚ますと、私を抱きしめるクロヴィスが一緒のベッドで寝ていた。
いや、抱きしめられている時点で一緒のベッドだが、どうしてこうなったと思う。
そこで更にぎゅっと抱きしめられて、
「エリ……」
愛おしげに囁かれる。
寝言にしてはなんかこう、凄くドキドキすると思っているとそこでクロヴィスも目を覚まし、
「おはよう、いや、こんにちは、か?」
「そ、そうだね。午後十二時か……」
「そういえば、あの助けた冒険者達は無事戻れたらしい」
「そうなんだ、良かった……」
「依頼料ももらえたし、エリの資格のポイントも追加しておくって」
「そうなんだ、後で見てみよう」
「そして、また新たに戦闘の依頼を受けてきた」
それを聞いた私は、クロヴィスを見上げた。
多分凄く嫌そうな顔をしていたと私は自分で思うのだがそこで、
「また逃げられないようにして連れて行ってやるよ」
「い、いやだっ、今日はゆっくりするんだからぁあああ」
「大丈夫、依頼遂行まであと五日あるから、今日じゃなくて明日でも良いぞ」
「絶対に逃げてやるぅううう」
意地悪く言うクロヴィスに私はそう叫んだのだった。
今日は皆で食事に行く事になった。
近くのお店に入り注文する。
「私はオムライスが良いな、デミグラスソースらしきものがかかったらやつ」
「……エリ、それは子供が選ぶものだぞ」
「! ……い、いいんだ、私は。これが食べたかったんだし」
「じゃあ俺は肉だな」
そう言ってステーキを頼むクロヴィス。
何がお子様だ、一口肉を奪ってやると私は心に決める。
そして私は杖の妖精リリス用の花の蜜、そしてタマの分のお肉を注文する。
「タマはお肉が好きだよね」
「ニャー、お肉は美味しいし。でももっと味見したい物があるんだよね」
「どんなもの?」
私が問いかけると、タマは笑って私を見た。
何となく狙われているような気がするが、そこでリリスがタマの頭ををぽかぽか叩く。
「エリに手を出すな。私がエリの一番(の杖)なんだもん!」
「私は、エリの一番だもん!」
「むー」
「むー」
いがみ合う二人をどうしようかと私が思っていると、そこでクロヴィスが、
「それで今日の予定だが……」
「きょ、今日は色々家でする事が……」
「“虹の森”にある採掘場に行こうと思う。魔法使いが良く好んで行く場所らしいが、行かないのか?」
「……私は沢山材料を持っているのです」
「使っていればいつか無くなるぞ?」
「……その時考えるから良いんだ」
うんうんと私は一人で頷く。
そんな私を見てクロヴィスは溜息をつき、
「……強制的に連れて行くか」
「! 私だって欲しい物があるんです! それに今日は、服が二割引きで売っているんだ」
「……男物か?」
「女もの! ……女ものだよね?」
「いや、今日は男物だけが二割引きだから聞いたが、エリなら似合いそうだし良いんじゃないのか?」
「私に似合ってたまるか! ……くう、安売りだと思ったのに」
そう私は嘆くがそこで料理が運ばれてくる。
金色のとろとろの卵に旗が立っていてデミグラスソースの様なものがかかっている。
とても美味しそうだと目を輝かせる私だがそこで、
「俺の肉だな。……あらかじめ切り分けられているのか」
そうクロヴィスが呟くのを聞いた。
聞いた私がそちらに目をやると、鉄板の上で重々と美味しそうな音を立てて焼かれている肉が見える。
胡椒や塩、ソースがかかったその肉を見て、私は即座に動いた。
「頂き!」
さっとフォークを使い、クロヴィスの肉を一切れ奪う。
クロヴィスが何かを言う前に、私はそれを口に入れる。
熱々の肉だが、噛みしめると肉汁があふれる。
凄く美味しいなと幸せな気持ちで私がもぐもぐとして飲み込むと、
「エリ、良くも俺の肉を食べたな?」
「ふ、ふふん、私の事をお子様なんて言うからだよ」
「……肉を奪った分、俺もエリから頂こうか」
「一口食べる? お子様のご飯~って、三分の一!」
そこで私は大量にオムライスを奪われて、涙目になる。と、
「エリ、口を開けろ」
「ん、ん!」
そこでクロヴィスが余分にお肉をくれた。
とても美味しい。と、
「美味しいか?」
「うん!」
「そうか、良かった」
クロヴィスにそう微笑まれて私は、一瞬その微笑みに見入ってしまったのだった。
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