仲間集め part1
帰宅部の地位、それは明らかに最下位である。もちろん「部」という名がついているが、部活動ではない。正しくは無所属である。もはや、部活動勢力争いに参加する資格は無いように思える。だが、先月行われた月末報告会において、『帰宅部』も部活動として認められていることがわかった。
「今本先輩ですか?」
香住は、帰宅部の先輩のリストを教頭先生にお願いして作ってもらった。初めは、個人情報だから、とやる気のない教頭であったが、月末報告会の報告をしたい、と切実に言うと、いやいや名簿を渡してくれた。
今は、その先輩方にあいさつをして回っている。
「いかにも、私が今本 佳代だ。君が噂の一年帰宅部代表の子かな?」
今本佳代は、ショートヘアーで髪型も、性格も男っぽいが、顔だちはそれに似合わないほどかわいい。背も高く、足も長い。学校一の美女といっても過言ではない。その美貌はさながら、その男っぽい性格で男子の中でも、女子の中でも兄貴的存在として慕われている。もちろんその噂話は、香住の耳にも入っていた。
「私がその噂の子だと思います。はじめまして、伊藤香住と申します。今回、月末報告会でのことを一応報告しに来ました」
「ご苦労様です。私たちが教頭のオファー断ったから、カスみんが出席せんといかんなったんやんな。わるかったね。それと、報告しなくてもいいよ。全部三年の先輩からきいたから」
カスみんというあだ名は香住の小学生のころから変わらないあだ名である。
(どうしても、カスみん以外のあだ名が生まれないだよね。私の名前からは。)
「でも、私まだ三年生の先輩に報告してないですよ。今本先輩が初めてですから」
「あぁ、なるほどね。でも、カスみんが『帰宅部の先輩が言っていたのですが』というフレーズを使ったから、他の部活や委員のトップがその先輩を探したんだってさ。なんでも、野球部と、学級委員への苦情だったらしいじゃん。あのプライド高い人たちが犯人捜しをしないはずがないからね」
「えっぇ、そこまで伝わってしまいましたか。すみませんでした。勝手に先輩の名を使ってしまって」
「いいの、いいの。三年の先輩も言ってたけど、カスみんは良くやったよ。帰宅部の地位を上げたいんでしょ。教頭からきいたよ。それに、ほとんどの帰宅部生は同じ気持ちだと思うから、どんどん先輩でも、今本先輩でも使っちゃいなよ。私の名前はカスみんにあげるから、好きに使ってね」
「ありがとうございます。では、一つお願いごとをきいてもらえますか」
「なんなりと」
「簡単に、自己紹介してもらってもいいですか。特技だとか、苦手なこととか、適当に」
「いいわよ。私は、二年二組出席番号一番、今本佳代。歳は17。誕生日は、一月二日。血液型はA型。得意なことは、運動全般と数学。校外で陸上部に所属。不得意なことは、国語、家事全般。彼氏はいません。こんなもんでいいかな」
香住は、佳代の自己紹介をすべて書き取った。これらを、後々の攻撃際の弾丸にするつもりだ。
「ありがとうございます。大変参考になります。では、また何かの折にお世話になります」
「いつでも待ってるよ。帰宅部の地位獲得はカスみんに任せたからね」
「はい、任されました、ではまた」
香住は、二年二組を辞した。次は二年三組の林先輩と、山口先輩、栗原先輩、石山先輩に会いに行く。
林先輩は女の先輩で、残り三人はイケメン三銃士として校内に名が通っているイケメン三人組である。
どうやら、その他の先輩にも報告内容は伝わっているようで、今本先輩どうよう激励の言葉を掛けてくれた。他の先輩方にも、簡単な自己紹介をしてもらった。
「林 琴音と言います。得意なことは、ピアノとヴァイオリンです。嫌いなことは、球技と数学です。よろしくね」
「俺は、山口 拓斗。得意なことは、運動全般、家事。嫌いなことは、勉強、やけに鬱陶しい女子。以上だ」
「俺は、栗原 健斗。得意なことは、特にないよ。ほぼなんでも、できちゃうような人だからね。不得意なことも、ないかな。これからもよろしくね」
「はじめまして、僕は石山 天斗。得意なことは、勉強全般。自慢じゃないけど、僕が二年で一番だから覚えとかなくてもいいけど、頭の片隅にでも置いてもらったら嬉しいです。不得意なことは、運動全般と強調性が無いとよくみんなから言われる。帰宅部同士、協力しましょう」
帰宅部は、一年1名、二年4名、三年3名の計8名である。
香住は、二年生すべてを周り、あいさつと、今後の協力、自己紹介をお願いしてきた。
残すのは、三年生。
三年生の教室は、受験ムードが漂うかのように静まり返っていた。
香住は入りにくいその教室の雰囲気に退けられるように、教室の外で立ち尽くしていた。