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情報屋の忠告

 高校。特に何もなく、一般的かつ平和な一高校が俺が通う学校だ。周りは魔術やそれに準ずるものに全く関係なく、未来に希望すら抱いている普通の人間だ。

 そんな高校の中で今、俺だけは心配で心臓が潰れそうな感覚に陥っている。その理由は、俺の横に座っている幼女二人を見つめるクラスの奴らの視線だ。

 あのあと、結局二人は高校までついてきてしまった。それ自体に問題はない。いや、よく考えれば問題ありありなのだが、来てしまったものが仕方ないだろう。それだけならまだ良かったのだ。学校に着いてから気がついたのだが、幼女を二人も保護できる場所は高校に存在しない。保健室はどうかと言えば、諸事情であそこには向かわせたくなかった。

 それに合わせるようにして颯希が俺のそばでなくては嫌だと言い出し、魔女はみんなの前で嘘泣きをする始末。流石にこれ以上の印象悪化を避けるために非常に不本意だが一緒に教室まで来た。


「よう……って、お前さ。いつからハーレムなんて作り出したんだ?」

「影丸か。別に、俺はハーレムなんて作ってねぇだろ。こいつらは……妹だぞ?」


 軽快に俺に話しかけてきたのは影丸日土(かげまる ひづち)。俺と同じクラスで、いつでも誰とでも明るく話せるムードメーカーな立ち位置にいる少年だ。そして尚且つ、コイツは俺の正体を知っている数少ない人間の一人だ。


「おいおいおい。お前の血統でそんな可愛らしい女の子が産まれるわけが――すまんすまん。冗談だって、マジで怒んなよ」


 鋭く睨んでやると、影丸は少しだけ焦ったように両手を振って否定する。コイツはいつも俺を茶化すが、今回の言葉だけは少しだけカンに触った。いや、颯希や魔女を俺の妹と言い張るには無理があるのはわかっている。ただここでバレてはいけないというリスクがあるがゆえに、周りのやつに変な先入観を持たれるとまずいのだ。

 そう思っての睨みだったが、影丸はそのことを理解したのか、もしくはただ恐れたのか、話を変えてきた。


「そういや。隣町の一軒家が金ピカになったって話、知ってるか?」

「ん? ああ。今朝、ニュースで見たよ。それがどうかしたのか?」

「いやー。すげーよなってさ。一晩で金に変換できる『魔法のような』ことが、本当に起こるなんてな」


 がらっと立ち上がって、俺は影丸の方を見る。すると、影丸はニヤニヤと笑いながらこちらを見るだけで、続きは話さない。

 少し心配そうな顔をしている颯希にどうしたのと聞かれて、俺は影丸を前の席に強制的に座らせ、小声で話を始めた。


「どこまで知ってる?」

「おいおい。俺は情報屋だぜ? 金をくれればどれだけの情報でもくれてやるよ」

「ちっ。ツケで頼めないか? 今、俺の懐は寒いんだ」

「死因は金欠かー。可哀想な死に方だな」


 死因。つまり、一軒家を金に変えた人物は俺たちを狙っているということ、か。でも、そんな情報を影丸が安々と渡すはずがない。一体、コイツのこれはウソかホントか……。

 と、俺が悩んでいると、隣で座っていた魔女が、真面目な顔つきになり影丸に物申す。


「妾の存命を情報として提供しよう。どうだ?」

「これはこれは緋炎の魔女様。ですが、宜しいので? あなたほどの方が、自らを危険に晒すようなことをなさって」

「そのときは妾の優秀かつ忠実な眷属が守ってくれる。それに何より、こんな体でも武力行使に支障は存在せぬよ。試してみるか?」

「……いえ、やめておきましょう。まだ、消されるのは勘弁ですよ」


 ニヤニヤと笑いながら、影丸が交渉に応じた。そして、一冊の本を虚空から取り出すと、俺の机に広げる。そこには英語やら、外国語の文でびっしりと書かれており俺には解読不可能だが、影丸にはそれが理解できているらしい。

 やがて、本から読み解いた情報を俺たちに開示する。


「一軒家を金に変えたのは能力者だ。つまり、錬金術師ではない。どんな能力なのかは読み解けなかった。だけど、どうやら相当な強者らしいな。S級レート以上の危険な能力であるのは確かだ。そいつがたどってきた道筋から計算するに、まっすぐこちらにやってきている。緋炎の魔女様、あなたの下にね」


 緋炎の魔女の下に……。しかも、能力者か。


 能力者とは、神々や森羅万象の名を模したレート別に危険な能力を持つ者であり、最低レートのC級レートでも数百メートル範囲に影響を出すと言われている。ちなみに、最高レートはSSS(トリプルエス)レートは世界でも五人しか存在せず、その力は一瞬で世界に気候変動や地殻変動、酷いものならば地形をガラリと変えるものまで存在するらしい。そして、その中に俺の名前が上がろうとしてるのは何かの間違いだろう。


 ということはだ。魔女の目覚めに気がついてやってきた可能性が大きい。しかし、魔女を捕まえるのならば眠っているときのほうが手っ取り早いはずだ。なぜ、それをしなかった? いや、待てよ。

 俺はふと浮かんだ謎を影丸に質問した。


「影丸。確かに魔女は昨日目覚めた。でも、それっておかしくないか? 例えS級レートって言ったってよ、魔女相手に一人でやらかす奴はいないはずだ。それに、捕まえるのなら魔女が眠っていた時にするのがセオリーだろ?」

「知らねぇよ。相手が俺より強いから情報がうまく引き出せなかったんだ。相手の目的はこの街にいる非常に強力な力を持った者。俺の知る限り、それは緋炎の魔女、ただひとりだ。それとも、それ以外にも存在を知っているのか?」

「それは……」


 知っている。というよりも、今俺の背後で首を傾げている。

 颯希の中には殺鬼の能力『神仏滅殺の神狼(ヴァナルガンド・フェンリル)』の力が拘束されている。ヘタをすれば、SSS級レートにだって入ってしまうほどの強力な存在が俺の背後で無自覚にも息づいているのだ。

 どうする。颯希のことを影丸に伝えるか? もしかしたら、助力を得られるかもしれない。

 いや、やめておこうと俺は判断し、口を噤んだ。


「まあ、お前がどれだけの秘密を隠しておこうが俺の預かりどころではないけどな。言っちゃなんだが、俺はこの街がそこそこ好きなんだ。魔術や魔女に関係なく時間の進みこの街がな。だからよ、ひとつだけ約束しろ」


 影丸のいつにない真面目な表情に俺は少し力みながら話を聞くことにした。


「な、なんだよ」

「隠し通すなら、その上で全てを救え。あとで話しておけばよかったなんて絶対に言わせないからな?」

「……任せろ、とは言わねぇよ。俺は、そこまで強くないからな。でもまあ、できるだけのことはしてみようと思うさ」

「それでいい。お前はそれが一番いい。こっちもなるべく情報は集めとくよ。金か情報があったら交換しようぜ」

「ああ、頼んだ」


 チャイムが鳴るやいなや、影丸はすぐに自分の席に座った。俺も、椅子に座り直して、先ほどの情報を頭の中で整理する。

 まず、強い奴がこの街に近づいてきている。目的は魔女か、俺。もしくは颯希。相手がどんな理由で、俺たちを狙うのかはわからない。相手がどういうやつなのかも半分以上不明だ。これでどうやって戦えって言うんだよ……。

 俺は、少ない情報と厳しい現実と冴えない雲行きに絶望しながら、小さくため息をつく。


「なんだ。ため息とは珍しい……いや、そうでもないか」

「魔女。俺はお前に出会って多くのため息をつくようになったぞ。むしろ、それが癖になってきた。どうしてくれるんだ?」

「知ったことか。お主の不甲斐なさが起こした事であろう?」


 そうじゃないんだがな……。と俺は呆れの嘆息をする。

 確かに、俺の不甲斐なさが起こしたため息は多くあった。兵士(ソルジャー)の事件も、今回のこともきっと俺の不甲斐なさからだろう。もっと、力があったら……とは言わないが、もっと平和だったらと言っても文句はあるまい。俺はいつだって被害者だ。向かってくる敵に、正当防衛で返り討ちにしてきただけだ。

 今回もそうなるのだろうか。いいや、なぜかは分からないが、俺の感覚がそれを否定してくる。それはきっと、不確定ながらも颯希に向けられた矛先があることを理解しているからだろう。

 無自覚ながらもその身に大きな力を秘めてしまっている颯希。それを使用すれば、一体どれだけの被害が出るのだろうか。考えただけでも身震いが止まらない。

 魔女だってそうだ。今はこんな成りをしているが、その力は絶大。俺が借り受けている眷属も元は魔女の力だ。そのことを考えれば魔女の強さがとくとわかるだろう。


「はあ。憂鬱だ。不愉快だ」

「はっはっは。そう項垂れるな。何も今すぐに戦いが来るというわけではあるまいよ。まあ、そう遠くない時期に大きな戦いが起こるのは避けられぬがな」

「その大きな戦いの中心に俺がいるんだろ? そしてあんたも、颯希も。それが憂鬱なんだよ」

「ならば捨ててしまえばよかろう? 何も守れとは言っておらん。いや、妾は守れと言ったが、颯希に関してはそこまで言っていないだろう?」

「そりゃ、そうだけどよ……」


 俺は颯希の方を見る。颯希は学校が珍しいのか、窓辺から外を眺めて女子たちの歓声を受けている。無邪気なあいつが、事件の中心にいるというのは心から惨めになりそうだが、実際にそうなりそうな予感が存在する。

 さて、魔女に答えよう。俺が下した、即決の決断を。


「そうはいかねぇだろ。颯希はチビだし、世の中のことを全く知らない。そんな奴が、他人勝手に人生をめちゃくちゃにされていいはずがねぇよ」

「ならば?」

「助けるさ、その時はな。もちろん、あんたのことだって守ってみせる。俺の主様だからな。眷属としては守るのが普通だし、平和主義の俺からすれば戦うのは不本意だが、自由主義に任せて力を振るうのは間違っていないしな」


 回りくどいのぅ、と魔女は笑った。俺もかすかに笑って、話を打ち切った。そして、そろそろ教師が来る頃だと思い、颯希を抱き上げて席へと戻った。



 後日談だが、この瞬間には俺は教師に幼女二人を授業に参加させる事への許可をもらっていなかったため、教師が現れてからどうにかできないかと交渉に三十分ほど時間を費やした。

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