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波乱の生活

 俺の日常は、まず幼馴染に叩き起されて始まる。いつもの怒鳴り声。いつもの小鳥の囀り。いつもの騒がしさの中で、俺はゆっくりと目を開けて、俺の胸の上に居座っている幼女を見た。

 ……なるほど。これは夢だな?

 と、そんなわけはない。目が覚めて夢を見ているなど、ありえないとすぐに判断して、ならば、目の前の幼女はいったい誰なのかを思い出す。そうしたせいで、俺は昨日起こった事件の全貌を思い出し絶望した。

 昨日。俺は魔女の目覚めを前にして、大いに喜んだ。そのあとに空から落ちてきた幼女を救出し、なんだかんだで仲間へと変化した。そして、幼女は家がないというのでこの家を使わせることになった。

 だが、良かったのはそこまでだ。その後、幼女がどこで寝るかという議論に突入し、幼女の性格上人見知りなため、幼馴染と義父さんの部屋は論外。魔女はこの期に及んでまで俺と一緒に寝ると言い張り、一人で寝かせるわけにも行かないため俺と一緒に寝ることになった。

 そういうわけで、コイツが俺の部屋で寝ているのは百歩譲って許そう。でもな、誰も腹の上を明け渡したつもりはない。そもそも、息苦しいこの体勢になってまで幼女の寝顔など見たくもない。まあ、この顔は可愛らしいが。


「おい。そろそろ、起きろ。稲美がキレるぞ?」

「んぅ……」


 駄々を捏ねるように唸る颯希に俺は嘆息して、仕方ないと抱き上げる。すると、俺の足元に変な違和感が存在することがわかった。

 柔らかく、それでいてしっかりと固い。程よい温かさで、俺が足を動かすたびに少しだけ高い音を発する……ガバッ。

 勢いよく布団をまくると、そこには魔女がぐーすか寝ていた。その顔は独身女性(見たことはないが)そのものであろう。俺の足を抱き枕にして、よもやヨダレまで垂らしている。

 ……偶然にしてはひど過ぎるな。まさかとは思うが、魔女が俺の布団に自ら入ってきたのか?

 その可能性は十分にあると結論づけて、俺は流石に寝過ぎな二人の幼女を強制的に現世に呼び戻した。要は頭を思いっきり叩いたのだが、二人共起きる予兆さえない。どれだけ寝入っているんだこの二人は……。


「はあ、とりあえず、魔女は置いておいていいだろうな。問題は……はあ」


 二度の大きなため息を最後に、俺は颯希を抱っこしてそのまま部屋を出る。もちろん、魔女は起きそうにないのでちゃんと寝かせてやって掛布団を掛けてやってから部屋を出た。

 一階に降りると、少しだけお怒りモードの稲美がエプロンを着こなし、片手にはお玉、もう一方にはフライパンとどこぞのアニメの家庭だと言わんばかりの格好で迎えてくれた。


「おはよ。ちなみに、颯希と魔女が起きなかったから遅くなったんだぞ?」

「遅れるのはいつだって響木が寝ぼすけさんだからでしょ? まあ、今日は自主的に起きてきたから許してあげるけど、何歳まで私に起こさせる気?」

「お前が結婚するまでだ」

「じゃあ、響木と結婚するから、ずっとだね!」

「前言撤回。明日から自分で起きる」

「ちょ! なんでいつもそういう方に持っていくの!?」


 騒いでいる幼馴染を放っておいて、俺は出されている朝食を前に自分の席に座って手を合わせる。

 いただきますと言ってから、俺は箸で目玉焼きをつつき始めた。うん。いつもと同じ目玉焼きだ。焼き過ぎでもなくかと言って生すぎない。ちょうどいい火加減の目玉焼きはやっぱり最高だな。

 毎朝の至福に俺がありついていると、ずっと寝ていた颯希が目を覚ました。


「んぅ……お兄、ちゃん?」

「よう。おはよ」

「うん……おはよぉ……」


 起きたばかりで頭がぼーっとするのか、颯希は若干船を漕ぎながら俺の言葉に返事をしてきた。そんな颯希が可愛くて、俺が笑うと颯希はすっとぼけた声を上げる。


「んぅ?」

「なんでもねぇよ。朝飯、食うか?」

「ご、飯? たべゆ」


 あーんと大きく口を開ける颯希に俺は目玉焼きを一口サイズに取り、口の中に放り込んでやる。するとスローペースで口を動かしながらモグモグと食べていく颯希。どうやら、お口には合ったようだ。

 次を寄越せと再び大きな口を開ける颯希に、俺は忙しなく次を渡す。


「美味しいか?」

「うん」

「だってよ、稲美。良かったな」

「はあ……なんでそう心が込もっていないかな」


 失敬な。颯希も俺も、心を込めて美味しいと言っているつもりなのに。ただ、朝は頭がぼーっとしてうまく回転がしないだけなのに。

 まあ、寝ぼけているとわかっている稲美はそれ以上の言葉はなく、稲美も朝食をとり始めた。最初は話をしたりと家族らしい会話をしていたが、徐につけたテレビに気になるものを見た俺と稲美はすっと箸を置いて見入る。


『えー。こちらは現場の○○町です。見てください。昨夜までは普通の一軒家だったですが、朝見たら黄金へと変わっていたという自宅です――』


 レポーターらしい女性がそう発言しているが、その発言全てが気になった。

 もちろん。普通ならば木材やコンクリートが急に黄金へと変わるわけがない。ということは、だ。これは誰かしらの工作。もしくは……。


「なあ、稲美」

「何?」

「これだけの質量を一晩だけで金に変えることが可能なのか?」

「それは――」

「可能じゃよ。錬金術を使えばのぅ」


 俺の質問に答えたのは頭を叩かれてもびくともしなかった魔女だった。魔女は起きたてらしく寝癖が目立つ姿だったが、頭のほうが冴えているようだった。

 テレビのチャンネルを変えて、俺は魔女に質問した。


「錬金術って、質量変換までできたのか?」

「それの応用よのぅ。まず、木材やコンクリートからは金は作り出せない。それに準ずる原子がないからだ。じゃが、化学とやらでやったであろう? 原子には陽子と中性子、そして電子が存在する。その中でも元素の存在として大きな役割を補っているのは陽子と中性子じゃ。それらを増やしたり、減らしたりすれば存在は変化する」


 一息、


「今回の錬金術でまずやったのは、元素の変換。つまりは陽子と中性子を増やす行為じゃ。しかし、ちらっとだけ見ただけじゃが、元素変換を行った跡が全く残っていなかった。これがどういうわけか、わかるか?」


 理屈は理解できる。元素そのものを変えるには陽子と中性子を増やすか減らす必要がある。しかしだ。それを行えば、増やすにしろ減らすにしろ、陽子と中性子のバランスを保つためにどこかしらに変化が生じるはずだ。でも、それはどこにも見当たらなかった。もしかしたら家の中にあるのかもしれないが、家が存在しているということはその可能性も低い。

 そうなると、一体どうやって金を錬成したんだ? という疑問が残る。それは流石に魔女にもわからないらしく首を横に振った。謎は深まるばかりだが、それよりも……。


「さっきの家、隣町の家だよな?」

「うん……何事もなければいいけど、ね」

「これ以上の面倒はゴメンだぞ。こちとら、混乱していることが多いっていうのによぅ」


 魔女の目覚めに合わせるようにして次々と起こる事件。これがどうしても別々に考えられなく、俺の不安は深まるばかりだ。しかしながら、そう思いっていられない事態が迫ってきているというのは事実なのだろう。こないだの兵士(ソルジャー)の件もそうだが、誰かが颯希の体を狙っている。しかも、そいつは相当質の悪いやつだ。

 これ以上、考えるのは答えがでないのでやめよう。まずは、今日の精力を出すために飯を食おう。その前に、颯希の口に飯を入れてやろう。

 どうやら、俺が話している間ずっと口を開けていたらしく、少しムスっとした顔で颯希が俺の方を見ていた。


「悪い悪い。ほら」

「ん♪ おいしー」

「そうかい。ほれ、飲みもん飲むか?」

「うん!」


 どうやら頭も回ってきたらしく颯希は明るさを取り戻していた。可愛らしい笑顔に、少々口の周りが汚いのがまた一段と愛らしさを増す。

 ほれ、と俺が口の周りを拭いてやると、ニッと笑って抱きついてくる。それを見て魔女と稲美が睨みつけてくるが、どうして睨まれているのかわからない俺は引きつった失笑を見せた。


「それにしてもあれだな。……今日も平和だな」

「今日も、と言うには昨日の事件は大きい気がするがのぅ?」

「その事件の中にあんたの目覚めも入っているんだがな……。まあ、邪魔をする奴は蹴散らすし、俺の日常を阻害する奴には容赦しない。今までも、これからもな」


 ご飯を掻き込んで、俺はお茶碗をテーブルに置く。そして、魔女、颯希、稲美を見て、かすかに笑った。

 そう。俺はずっと前に決めていた。この力をどのように使うのかを。俺は自由主義者だ。平和主義者だ。だから、俺は俺の平和のために、自由のためにこの力を行使する。その平和の中にいる全ての人を助けられるくらいの力は、俺にだってあるだろうから。

 そう決め込んで、俺は今日も学校へと赴こうとする。だが、出鼻をくじかれるように、俺の行動に文句をいう奴がいた。


「どこ行くの?」


 颯希である。

 確かに、俺は昨日颯希に俺が学校へ行くところを見せていない。制服は見せた気がするが、それで気が付く程、颯希は大きくはない。

 ゆえに、俺がどこかへ行くのは不思議なのだろう。


「学校だ。お留守番、できるよな?」

「いや!」

「……いやって。じゃあ、どうするんだ? ついてくるわけにも行かないだろ」

「むぅ……」


 頬を膨らませて怒りを露にする颯希に、俺は少しだけ焦りを感じ始めた。このまま行けば、稲美がもう一日休みを取ろうと言い出すかも知れない。それ自体に問題はない。ただ、ひとつだけ問題があるとすれば、この家に女子が多いということ。稲美然り、魔女然り、そして颯希もまた然り。義父さんは仕事で出て行ったし、男といえば俺だけになってしまうのだが……それだけが問題だ。

 さて、どうにかして学校へ行けるように図らわねば……っ!


「ならば、妾たちも学校へ行けば良いだろう。何も問題はなかろう?」

「問題ありすぎだろ! お前たちをどうやって説明すればいい!?」

「説明も何も、妾たちをお主の妹にでもすればいい。言い訳は……そうだな、保育園が休みとでも言っておけばいいだろう?」

「よくねぇよ! 全然よくねぇよ! 百歩譲ってそれが通ったとして俺の心臓が一日高鳴ってるわ!」

「それほど興奮しなくてもよかろう。いつも一緒に寝ているだろう?」

「誰が興奮してるんだ!? 俺は心配してんだよ! ったく……。稲美からも何とか言ってやって――お、おい。稲美? 何真面目な顔になってるんだよ。まさかとは思うが――」


 一息置いて、俺が危惧していたことを稲美が真面目そうな顔で語った。


「そうだね。一緒にいられるならそのほうが守りやすそうだしね。それでもいいんじゃない?」


 こうして、三対一で俺の意見は配慮すらされない結果になった。

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