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思わぬところの支援

 佐久間響木が緋炎の魔女の結社を改革している時、影丸日土は(おの)が行動でとある廃ビルに来ていた。と言っても、明確が理由がなければ空が漆黒に包まれる時間に外を出歩くことはしないのが影丸という人物なのだ。当然、その時間帯に外を出歩いているということはそれほどの重大な仕事を持っているということと変わりない。

 ならば、その仕事、とは。影丸という人物の性格上、仕事であってもこんな時間に外は極力出歩かない。その時間に命令されれば別であるが、そんな素振りはない。なら、どうして影丸は外を出歩いているのか。その理由は、佐久間響木が自身を暴走させてまでも守ろうとお節介を焼いた女の子にある。

 影丸には最初からわかっていたのだ。いや、学校で親友である佐久間響木が連れていた少女に出会ってから気がついたのか。どちらにせよ、影丸には事がどう転ぶのかがわかっていた。しかし、それも必然だ。ありとあらゆる可能性を考えていればどれかひとつは当たるのだから。そんな影丸の考えたありとあらゆる考えの中で的中した考えはとても最悪な結末を呼ぶ事になる。

 だから、影丸がこのタイミングで動いたのだ。


「ったく、姉貴には忠告しておいたのに……って、問題はその最中で起きたんだっけか。まあ、仕方ない。親友の尽力を期待するしかないな。でも、一枚くらいは噛んでも怒られやしないだろ」


 影丸がここに来た理由。それは親友の起こすであろう戦争の被害を極力減らす行為。すなわち、戦闘行為の回数減少だ。親友である佐久間響木の力は絶大だ。ゆえに被害も大きい。それに加え、暴走状態の佐久間響木が何らかのキッカケで精神すら暴走すれば、世界が終わる。

 それを避けるためにはストレスを減らす必要がある。そのストレスを減らす最もな方法はただ一つ、相手の戦力の低下。要するに戦う回数を減らすことだ。


「さてっと。まあ、俺は戦闘要員じゃないんだけどなー」


 ポキポキと、首を鳴らして廃ビルに忍び込む。見つからないように相手の内情を知り、戦力を調べる。こういう行為の的確さと素早さはさすが情報屋というべきかとてもなく早い。ベテランである影丸からすればこんなものは出来て当たり前だが、それでも影丸の行為は類を見ない早さだった。

 しかし、それでも相手の数を減らすためには戦わなければならない。実を言えば、戦うというのは影丸は本意ではない。誰ひとり怪我をしないようにというわけではないが、無闇な人殺しは好きではないのだ。


「誰だ!」


 そんなことを考えていたせいか、影丸は気配を掴まれた。相手は忍者の修行を受けているらしく、気配を掴むのは必須のスキルのようだ。そんな者たちの中を駆け巡って情報を集め切った影丸もスゴイが、影丸の完璧な隠密行動を見破った忍者も素晴らしい。かくして、影丸は敵中のど真ん中に顔を出す。


「ハロー。ジャパニーズソルジャーさん。ちょっと用事であんたたちを倒さなきゃいけないんだ。黙ってやられてくれると嬉しいんだけど――――」

「臨戦態勢!! 皆の者、散らばれ!」


 影丸の話も聞かずに戦闘態勢に入る忍者たちを見て、影丸は深い溜息を着いた。

 相手は殺気をこれでもかと滲み出し、武器をチラつかせている。普通、戦い慣れている者ならば武器は極力出さないのがセオリーなのだが、忍者の大半はこないだの空き地自然爆破事件(佐久間響木が忍者の先鋭たちと戦った際に起きた大規模な爆発のこと)で先鋭を失い、戦える者を総動員したせいでこういった初心者が混ざっているのだろう。それはそれで好都合だった。

 影丸は隠しておいた魔力をジワジワと滲み出させていく。


「もう一度、言い直すけどさ。黙ってやられてくれると嬉しんだよね」

「そんなことを、聞いてやれると思っているのか?」


 部隊長だろうか。そこそこやれそうな男がそう言った。その答えは考えていた答えの中で最も可能性の高いもので、同時に影丸の一番嫌った答えだった。

 はあ、と影丸は息を吐く。それを合図にして、初心者たちが一斉に襲いかかってきた。その手には日本刀やクナイといった古風な武器だった。

 しかし、最も恐れたのはその早さだ。忍者の修行をしていたということもあって、その速さは尋常ではない。ゆえに、影丸も早々に本気というものを出してみた。


「ラス・アルハゲ――――」


 瞬間、莫大な魔力と引き換えに一匹の白銀の蛇が召喚される。その蛇は全長十メートルほどの大きさで、鋼を超える強度の鱗で身を包んでおり、呼び出した影丸を守るように螺旋を描く。

 一斉に攻撃を仕掛けた忍者たちの鋭い攻撃は鋼を超える強度の鱗に邪魔されて通らない。一旦退いた忍者たちを物静かに見つめる影丸。その目には静かな炎が滾られている。


「退けと言って退かなかったお前たちがいけないんだぜ?」


 消して笑っていない目で忍者たちを見つめると、忍者たちはすぐさま蛇の扱いを考え抜いたのか動きを変えて召喚された蛇を狙い撃ちに行く。


「イェド・プリオル。イェド・ポステリオル」


 再び莫大な魔力を消費して二匹の蛇が召喚された。その姿はイェド・プリオルは赤い鱗をしていて小さいが忍者を超えるスピードで忍者たちを無力化していく。イェド・ポステリオルは青白い光を帯びており動きこそ遅いが牙から滴る雫は床を溶かすほどの酸である。

 二匹の蛇を召喚されて忍者たちは驚きを隠せない。その中でも手遅れになった忍者は実に三分の一。その一部はイェド・プリオルに首をあらぬ方へ曲げられ、一部はイェド・ポステリオスの酸で上半身を既に無くしていた。

 一瞬にして総数の三分の一を失った忍者たちは認めざるを得なかった。目の前にいる少年が、超危険人物だということを。

 一歩も動かず、ただ呆然と立ち尽くす影丸は一言こう言った。


「俺はSS(ダブルエス)級レート。通称、冥府破りの蘇生者(インフェルノ・アスクレピオス)。名前くらいは知ってるよな?」

「なっ……」


 絶句。その後、男から地獄を見ているような目で告げられた言葉は、


「蛇使い……なぜ、このタイミングで――――!!」

「少々、親友がやらかしたみたいでさ。選択ミスってやつだな。まあ、わかってたことだけど。尻拭いをするつもりはサラサラないけれど、それでもやっぱりさ。忠告だけじゃ足りなかったって思っているわけさ」


 困ったように微笑んだ影丸。

 先ほど、影丸は戦いを好まないし、本意ではないと言った。だが、誰も戦えないとは言っていない。そもそもだ。戦えないのならこんな危険なところへ来てはいない。ただ、影丸では力不足なのだ。根源である敵の大将を打ち破るには、圧倒的に火力不足だ。それを理解しているから、脇役で十分だと言い切っているに過ぎない。

 要するに、どれだけ忍者を注ぎ込もうが影丸の敵ではないということだ。


「さあ、どうする? 俺が本気になればあんたら忍者は御終いだぞ?」

「そうかもな。だが、それでも退けない時もあるのだよ!!」


 行け!! という号令。それに息を合わせて忍者たちが向かってくる。影丸はそんな忍者たちを垣間見て、


「ケバルライ。ムリフェン。サビク」


 冷たい言葉を放った。すると、三度(みたび)莫大な魔力を消費して三匹の蛇が現れた。ケバルライは体は小さいものの黄色い鱗で、表面で青白いスパークを起こしている。ムリフェンはラス・アルハゲと同じくらいの大きさでコブラみたいな形をしている。サビクは召喚された蛇の中で一番細い体をしていて、シュルシュルと音を上げている。

 残り三分の二となった忍者たちはそんな蛇に臆することなく突っ込んでくる。が、先程と同様、否、先ほどとは比べ物にならないほどに衝撃的なダメージを受けた。あるものは武器を弾かれた勢いのまま首をもがれる。あるものは上半身に酸に受けて何も出来ぬままに溶かされていく。あるものは高圧の電撃に内部から焼かれて失神。あるものは体を丸呑みされてゆっくりと断末魔を上げながら食されていく。あるものは首に絡まれた体を引き離そうとするが息ができずに死亡。

 一秒と持たずに、残りの三分の二は十分の一へと量を減らす。

 これは相手にならないとわかったのか、忍者たちはある程度の攻撃を行ってから距離を取った。


「まだ、やるんだよな?」

「もち、ろんだ」


 呆れたと言わんばかりに肩を竦める影丸。そろそろ時間だと言って、最後の一匹を呼び出す。


「マルフィク」


 最後の一匹は最もか弱な存在だった。大した能力もなく、これといって特徴のない蛇だが、影丸は頭を撫でるとモードチェンジと呟いた。するとどうだろう。か弱な存在だった蛇に召喚された全ての蛇が巻きついていき、大きな存在へと姿を変えていく。

 色は全て紅とも緋色とも呼べぬ血よりも赤い色に変わり、蛇の頭は徐々にドラゴンへと変わっていく。七つの頭に十本の角を持った赤い龍が忍者たちの前に姿を現した。


「蛇。聖書ではそれはドラゴンであり、7は禁じられた数字だ。ヨハネの黙示録では、赤い龍は悪魔とされ、殲滅対象であった。お前たちが本当に正しいと言えるのなら倒してみろよ。この緋赤神帝の狂龍(エンペラー・サタン)をよぅ!!」


 その言葉を合図に、緋赤神帝の狂龍(エンペラー・サタン)は暴れだす。目的は残りの忍者の殲滅。そして、それに要された時間は、実に一瞬であった。


「あ、ありえない……。眷属を七匹も……。それに、この強さは……」

「気が付くのがちょっと遅かったな。もう少し早く気がついていたら、お前の下半身は無くならないで済んだかも知れないぞ?」


 下半身を無くした男に影丸は静かにそう告げた。

 影丸日土、いいや、冥府破りの蘇生者(インフェルノ・アスクレピオス)は何を隠そう三大結社の一つ、蒼穹の魔女のただ一人の側近である。その強さは蒼穹の魔女本人どころか、ほとんどすべての魔女が知っており、その上で手を出してはいけないと考えている。なぜなら、影丸日土という人物には魔力に底がない。無限に魔力を引き出せるのだ。そんな影丸がどうしてSS級レートで収まっているのか。それは単に戦う気が皆無だからだろう。その実、戦った記録はそう多くない。ゆえに、取り決めに少しばかりのズレがあるのだ。

 そんな時、影丸の一本の電話が入った。相手は主である蒼穹の魔女からだった。


「はいはい。なんですかい、主殿」

『その様子では終わったのですね。戦力はどれほど減らしましたか?』


 明らかに幼く高い声が耳に入ってくる。音量を上げていたことを忘れていた影丸はそっと音量を下げると、再び話し出す。


「そうっすね。半分以上は削ったと思いますけど。何なら、ラスボス以外は片付けましょうか?」

『いいえ。そろそろ彼がそちらに着きます。早々に逃げてください』

「いいじゃないですかい。見つかったとしても怒られることは何もないでしょうよ」

『そ、そうじゃありませんっ。そ、その、恥ずかしいのでっ』

「ははっ。主殿は恥ずかしがり屋さんで。そんなにご執心なら連れて行きますよ?」

『じょ、冗談はここまでです! さっさと帰ってきなさい!』


 はいはいと影丸が電話を切ると、まだ着かない佐久間響木に向けて、


「さーって。ここからはお前の戦術次第だぜ、親友」


 そっと、つぶやくのだった。

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