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囚われの無念

今回はマジで短いです

 覚えているのは突如家に現れた少年と戦闘を行い負けたというビジョン。俺は、いつもとは違うふわふわと浮かぶような感覚ではなくジメジメとしたなんだか血生臭い場所にいた。

 どこを見回しても何もない。無限輪廻の覇龍が現れる前兆もない。俺は一体どうなってしまったのだろう。俺は、どこにいるのだろう。


『苦しい……』


 どこかから声が聞こえた。


『悲しい……』

『辛い……』

『痛い……』


 負の感情が俺の中に流れ込んでくる。何だ、これは。胸が苦しくなり、頭も割れるように痛い。ここは精神世界だ。どこの誰かは知らないが、飲み込まれれば帰ってくることはできない。意識を保て。自分を失うな。そう言い聞かせるように俺は大きく息を吸った。

 なおも続く負の言葉に何度となく自我を失いそうになるが出口を探して俺は歩き出す。ぴちゃぴちゃと気味の悪い音が足元から聞こえる。それに加えてこの血の匂い。頭がどうにかなりそうだ。

 おぼつかない足で進んだ先には、なんとも綺麗な湖が存在した。俺は頭痛を抑えるために近くの木に腰掛け胸を掴んで大きく深呼吸する。


「はあ……ふぅ……いったい、誰がこんなことを。恨みを持つ理由ならたくさんあるが、こんな仕打ちができるのはそういないはずだぞ?」


 俺の送ってきた人生は恥と恨まれることの多いものだった。それが悪いかと言われれば自覚できないということからそれほど悪いとは思ってはいない。しかし、こんな仕打ちをされるのなら、今一度問わねばなるまい。

 俺の人生に、悔いはないか?

 その問の答えは簡単だ。


――――大アリだよ、クソ野郎。


 何度となく悔いを残してきた。何度となく失敗を繰り返した。何度となく失ってきた。

 思い返せば思い返すほど、際限なく放出される恥ずかしい記憶の数々。あそこでああしてればなど、人生でなんと繰り返したセリフだろうか。

 だが、性格のせいか俺は悔いを悔やむ時間を自身に与えなかった。後悔を後悔させなかった。だからこそ、学ばず。だからこそ、無駄なことを繰り返す。妙な連鎖は、自分では断ち切れず。異様なことは、俺の判断に基づかない。

 ゆえに、俺は俺である。何度も同じ悔いを残し、何度も同じ失敗を繰り返し、何度も同じものを失ってきた。それに、どうして否定できるだろうか。どうして、自分で自分を肯定できないのだろうか。

 そうさ。俺はこういう人間だ。何故、その一言を世界は許してさえくれないのだ。


「何、考えてんだよ。俺は」


 精神侵食で頭が痛いせいか。元々頭がイタいせいか。俺はそんな理不尽と呼ばれるモノに物申す。

 きっと、その理由は至極簡単。颯希という存在を見たからだ。

 体に意図して手に入れたものではない力を手に入れ、それを巡って戦いが巻き起こる。知らずのうちに大切なものを失い、そして知らされることなっく忘れていく。

 俺はそんな颯希を自分と重ねているのかもしれない。もちろん、俺は自分を颯希ほど可愛らしいとは思っていないし、同じくらい不幸だとも考えていない。ただ、あいつのことを心の底からわかってやれるやつは、俺でもいいかもしれないと思っているのだ。いいや、そう望んでいるのかもしれない。

 やがて、頭痛も沈静化してきた。俺はそれを見計らって立ち上がる。すると、静かだった湖に微かな波紋が広がった。見れば、そこには全身を強固な鎖で縛られた狼がこちらを向いて唸っていたのだ。


「お前は……そうか。ここは、颯希の心の中だったのか」


 俺はその狼を見たことがあった。一度だけ、颯希の瞳から俺の力を喰らい殺そうとしてきたことがあった。そいつが何故、ここにいるのか。よく考えればここは精神世界。誰かの心の中でも十分あり得るのだ。

 つまり、俺は知らずに颯希の精神世界、あるいは魔術領域に侵入してしまったとそういうわけだ。


「お前さん、どうしてこんな幼女の中にいるんだよ」


 狼は唸るだけで答えない。いや、答えているのかもしれないが、俺がそれを読み取ってやれない。こいつには意思がある。それを伝達する手段が存在しないのだ。もどかしい。こいつの言葉を理解できないのが本当にもどかしい。

 狼に触れると、威嚇のような唸りが響く。俺はそのまま頭を撫でる。そして、


神仏滅殺の神狼(ヴァナルガンド・フェンリル)。苦しい、のか?」


 答えは返ってこない。唸ることもない。否定なのか。それとも……。

 再び、俺の頭は割れるような痛みに襲われた。何が起きているのか。それとも、何かが起きようとしているのか。どちらにせよ、このままでは精神世界にい続けることもできなくなりそうだ。

 俺はもう一度だけ狼に触れると、


「待ってろ。お前さんが本当に苦しいっていうのなら、俺が……俺がお前さんを奪ってやる!!」


 ぴくんと耳が跳ねた。大人しくなった狼は静かに俺を睨んだまま、目を閉じた。俺もそこで意識が飛び、気がついたときには本当に全てが終わっていた。

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