黄金の王
一週間近く書けなくてすみませんm(_)m
稲美と別れてから早三時間。その間、俺は家に着くと体力の回復と精神の疲労を取り除くために体が睡眠をねだってきたので、颯希と魔女を布団に寝かせてからねだられるままベッドに横になった。
そのまま寝入ってしまったようで、起きると部屋の中は薄暗くなっていた。約二時間の睡眠だが、それでもなかなかに体力を回復できた。精神の疲労もそこそこ解消できたようで体が軽い。魔女もそうかと言われると流石に空っぽまで使われた魔力は回復しておらず、また体力や精神の疲労もそれほど元に戻っていないため寝入っている。
颯希はというと、いつもなら起きる時間だが未だに起きていない。学校で暴れて疲れたのだろうか。それとも俺を心配していたのがよほど精神の侵食を早めたのか。どちらにせよ寝ているのだから寝かせておこうと思い、そっとしておいた。
立ち上がると、俺は一回の伸びをする。
「んっと。まだ稲美は帰ってきていないのか?」
スマホを確認すると一時間ほど前にメールが入っていた。宛先は稲美で、今日は遅くなると書かれていた。案外、敵の情報集めでもしているのだろうとわかっていたが、流石にここまで遅いと心配にもなる。まあ、稲美に手を出すやつはそういないと理解しているのでそこまで心配にはならないかった。
部屋の電気をつけると二人が起きてしまうと考えた俺は、静かに扉を開くと二人が起きないようにリビングにまで行って電気を点けて、明るい中でスマホで情報を収集していた。
三時間の中で目新しいニュースはない。特に、どこかしらが黄金に変化したというニュースは全くと言っていいほど存在しなかった。相手の行動がわからないのは心もとない。着実にこちらに向かってきているとわかっているので少しでも情報が欲しいと思ったのだが、流石に尻尾は掴ませないらしい。
ソファに座ってため息をついていると、ふと腹が鳴った。
「もう五時か。稲美はもう少しかかるはずだし、勝手に飯を食うとあいつはキレるからなー」
かと言って腹が減った状態でいるのはよくない。体力の回復が万全とは言えないし、思考を求められる今は腹が程よく膨れている状態がベストだ。
何かを軽く食べるかとも考えた。がしかし、それよりも稲美が怒るほうが怖いので思考を大半停止してとりあえず敵のことは考えないようにした。
代わりに、魔女が言っていた言葉を、無限輪廻の覇龍(ウロボロス・オーフィス)の言っていた言葉とかけ合わせて考える事にする。魔女は、俺が自身が何であるかと考えることで完成されると言っていた。加えて、無限輪廻の覇龍は笑いながらそこまで魔女が企てていたのかと言った気がする。この言葉はどこか繋がっているように思うのだ。
魔女は俺を使って何かを研究していた。その何かを無限輪廻の覇龍は知っていた。だからこそ、そこまで企てていたのかと笑ったのではないだろうか?
だが、その何かとは何だ? 俺は魔女の眷属になった。魔力もなく、特出した能力もなかった俺を配下にして魔女に何のメリットがあるというのだろうか。研究素体が俺で、魔女は研究者。俺を使って何かをしていた。いいや、何かを施した。
うむ。腹が減っているせいか思考が定まらない。魔女の考えていることも不明なため余計に話が拗れる。
「考えても無駄か」
ふぅっと息を吐いて、俺はそうつぶやいた。
カチカチと時計の針の音が静かな部屋に響く。その音は俺の内部にまで浸透して、もの寂しさを覚えさせる。
一人。完全なる孤独。そんな感じがどこかあった。俺は家族を失った。財産を失った。全てを失った。手元に残ったのはこの命だけで、それでもいいと考えていた。暖かくもなかった家族。それほど裕福でなかった財産。無価値に等しかった過去の日々。どれもが自由主義を阻害する要素であり、虚しさを覚えさせる要素であった。だから、魔女に全てを奪われたときは平然と死を受け入れた。それでも構わないと考えたのだ。
しかし、魔女はそんな俺を買った。面白そうだという理由だとしても、何かに使えるだろうという思惑でも、どんな理由でさえも無効にさせてしまうほどに魔女の瞳は俺を欲していた。それこそ、喉から手が出るほどに。
俺の知るところではないだろうと言いたいのだろう。しかし、これは事実なのだ。俺の知る魔女は皆が自分勝手だ。意思を持つ者など不必要ならば買わない。長い時間を生きてきた魔女であればあるほど、その考えは固く魔が差すことなど到底ない。
そういうことから緋炎の魔女もそうであると仮定して、俺はそう結論づけた。同じであるとは言わないが、そうである可能性が高いという点で、俺は主を他の魔女と同類と見ている。本人が知ればかなりお怒りになるだろうけど、そんな無意味な怒りは買いたくないので口には出さない。
ははっと、魔女が怒るところを考えて少しだけ笑ってしまった。なんだか、前の家族よりも家族らしい今が、俺にとっては素晴らしく美しく見えた。母親のような幼馴染。頑固そうで柔らかい義父さん。姉のように叱る魔女に、幼い妹を思わせる颯希。
自由主義者の俺がずっと縛られていたいと考えてしまうほどに美しくも儚い生活だ。
「守りたいよな、この今を。そのために……」
強くならねば。今よりもずっとずっと強く。
そう、願った瞬間だった。心臓が、大きく跳ねたのだ。身を震わせるほどの鼓動は次の瞬間、俺に吐血させた。
「がっ!」
いったい何が起きているのだろうか。冷静になれない頭で必死に考える。だが、答えには行き着かない。前にもこんな事があった気がする。だが、そのときはすぐに収まった。
なのに、今はどうだ。吐血は収まるどころか悪化の一途を辿って、既にリビングの一角を俺の血で汚してしまった。死ぬということも考えられるが、俺には無限輪廻の覇龍ののろいとも呼べる副作用で生き返ることができる。そのため、死ぬことに恐怖することなく俺は再び考え始める。
前の吐血は颯希と目を合わせた時に奥に眠る神獣を目にしたことで起こったことだ。しかし今、颯希は眠っている。目を合わせたことはないし、ましてや他人の魔術領域に目を向けること自体があまり宜しくないのでそんなことは滅多にしない。
ということはだ。これは他人の攻撃の可能性が高い。そして、俺にそんなことをしてくる輩は大抵いいやつではない。
俺はすぐさま魔女との魔力回路を開き、魔力を体に取り入れようとする。が、俺はすぐにそれをやめて、眷属を召喚できるだけの十分な魔力を取り入れずにその場で膝をつく。
ぴちゃんと血だまりが音を発する。息もだんだん弱くなってきた。だが、それでも魔力を供給しようとは思わない。
今、この瞬間に魔力を提供してもらえば最悪の場合、魔女にも被害が行く可能性がある。魔女は療養中だ。そうでなくても魔力が不安定なのにこれ以上の損害を与えるのは負担が大きすぎる。ここは一旦死んで、体の回復を待ってから相手の特定を急いだほうがいいと考えたのだが……。
「やっほー」
何処から入ってきたのか、見知らぬ男がその場で立って笑っていた。手には手袋をしていて、メガネのレンズが光を反射して目元がよく見えない。
男がこの現状を作り出しているのは明目だ。しかし、俺には魔力がない。それに加えてこの出血量だ。視界がぼやけてきて体に力が入らない。
「だ、れだ」
「お前が知らなくてもいいことだよ。緋炎の犬」
緋炎の犬。眷属である俺に対する暴言であると理解したが反撃をすることができない。文句の一つでも言ってやりたいが既に声も出せない。
復活したら、覚えていろよ。そう視線で伝えると、
「安心しろ。お前が起きる頃には全てが終わっているさ」
そう言って、男は手袋を外す。その手には魔術印があって、読み取れればどういう魔法なのかもわかるのだが、どうにも視界がぼやけて見えない。男は手袋を外した手で俺の頭を掴むと、
「じゃあな」
短くそう伝えられた。
その後の俺の記憶が存在しない。殺された。それはわかったがどういう方法なのかはわからない。もしくは、何もされないまま息絶えた可能性も加味できるが、それを考えるのはまだ先のことでいいだろう。




