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Resistance   作者: らいか
4/4

Decisive battle.

遅くなりました

九州山地部隊は、単身前進展開する西部方面情報隊隊員が危険をおして発信した、敵部隊概要電文を受信した。


『96式戦車8両、BMP-1(86式歩兵戦闘車)9両、92式装輪装甲車9両、その他火力支援小隊他を含む混成大隊戦闘団が国道210号線を西進中、1740時における位置は玖珠町新長野交差点、周囲を警戒しつつ毎時15km程度の速度で前進中、迫小隊のみは3Km程後方を追走』


これを受信した遊撃部隊中隊長は、現有する中隊装備と敵の規模とをすり合わせ、大枠が決定されていた対処計画を細部まで煮詰めると同時に、各部隊へ敵の規模及び装備、作戦計画を下達。

攻撃は前回の戦闘地点よりも西側、日田市天瀬町、豊後中川駅北西500mの玖珠川にかかる橋梁付近のカーブをキルゾーンに設定して行われることとなる。


敵部隊のキルゾーンETA(到達予想時間)は1930時前後。

大枠が決まっていたとはいえ、これからの時間で陣地を整えて部隊を配置しなければならない。

現状全戦力は、普通科歩兵3個小隊(ヒナゲシ、ホオズキ、フヨウ)、重迫1門(クロユリ)と中迫1個小隊(コブシ、コマクサの2個射撃分隊)、対戦車5個小隊(西部方面対戦車隊のツバキ、ツユクサ、チゴユリ、タンポポ4個小隊+41普連隷下各中隊直轄を再編した1個小隊トリカブト)、1個偵察小隊(サザンカ)、3個FO班(アサガオ、アジサイ、アヤメ)、それに中隊本部(HQ)。

総計すれば当たり前の中隊以上の戦闘力を持ち、特に支援火力は非常に強力だが、裏を返せばその支援火力に見合う歩兵戦力が足りない。しかしこの戦闘に限っては、敵の殲滅ではなく無力化、及び我の脱出が目的なので、一気に火力を叩き付けて敵部隊を無力化し、即座に各装備を爆破、身軽になった支援要員を身一つで回収しそのまま離脱、という荒業によって早急な脱出が可能となる。もともと書類上は放棄されている装備なので、壊してしまっても問題はない。しかし、技術情報の流出に関しては細心の注意を払う必要がある。


『HQより全部隊、作戦を下達する。まず対戦車各部隊。ツバキ、念願のMPMSだ、日田市中組に構築した射撃陣地に入れ。キルゾーンまで5Km、間接射撃になるため、専属でアサガオを付ける。ツユクサ、キルゾーン北西500m、玖珠川北岸の射撃陣地だ。直射になる。第1射後は直ちに退避。チゴユリ、キルゾーン真東1.2kmに布陣しろ。敵の後背を突く形となる、可能ならば敵本部を判別し、第1射で潰せ。退避判断は任せる。タンポポ、北東1キロ山頂に布陣しろ。トリカブトの87式MATは分散配備だ、2基を北東800m山上、もう1基を南東200mに配置。MAT各部隊は、目標との高低差にも注意せよ。目標配分は、ツバキ(96式MPMS1基)及びツユクサ(2個分隊73式重MAT4基)、トリカブト(2個分隊87式中MAT3基)の3小隊、発射機8基が敵戦車、チゴユリとタンポポの8基が装甲車だ。特にツバキとツユクサ、トリカブトは確実な必中を期しろ、自分が粉々になるぞ。第2射以降は戦車、BMP、92式の優先順位だ。但し、本部を確認した場合はこの限りでない、優先して狙え。迫、クロユリ、コブシ及びコマクサはアジサイとアヤメの統制のもと、火力支援を行え。クロユリはツバキと同一の陣地へ、コブシは竹尾地区陣地、コマクサは天瀬カントリークラブ陣地から射撃だ。クロユリは敵の迫部隊をアヤメの統制で、コブシ及びコマクサはアジサイ統制下で敵本隊を狙え。ヒナゲシ、ホオズキ、フヨウ各部隊は玖珠川両岸に展開、ヒナゲシが北岸キルゾーン真北、ホオズキが南岸キルゾーン南東、フヨウは南岸の南西側だ。200m程度の距離になる、高低差は50m程度。撃ち下すことになる。HMG(ブローニングM2重機関銃)とAGG(96式自動てき弾銃)を基幹に、部隊を配置せよ。HMGとAGGは敵装甲車の撃破を優先、歩兵が下りてくる前に丸ごと潰す事を目指せ。サザンカは210号線沿いに分散展開、敵の接近及び詳細な規模を逐次有線で報告せよ。攻撃開始はHQが統制する、送レ』


『ツバキ了、MPMSか、やったな。送レ』


『ツユクサ了、もうちょいマシな役をくれよぉ...送レ』


『チゴユリ了解、送レ』


『タンポポ了、送レ』


『トリカブト了、送レ』


『アサガオ、アジサイ、アヤメ了。これより分散し、各所へ向かう、送レ』


『クロユリ了、送レ』


『コブシ、コマクサ了、送レ』


『ヒナゲシ了、送レ』


『ホオズキ了、送レ』


『フヨウ了、送レ』


『サザンカ了、これより配置に向かう、送レ』


『よし、こちらHQ、各部隊、移動開始せよ、終ワリ』


有線が騒ぎ出す。迫撃砲部隊とFOとの打ち合わせ、移動手段や相乗りの相談、撤退時の放棄装備の処理、エトセトラエトセトラ。

これで、少なくとも確認された敵に対する備えは最低限出来た。

あとは、、戦闘が始まるまで、それぞれの持ち場でやれることをやるだけだ。


...しかし、彼らには大きな誤算があった。


--------------------------


『こちらサザンカ、敵部隊を確認。報告にあった通りの戦力だ。本部は92式に分散して座上している模様、送レ』


サザンカからHQへの有線通信。

これを受け、各部隊は有線網を活用し、攻撃準備を開始する。


『HQ了、チゴユリ、視認次第報告せよ、送レ』


『チゴユリ了、終ワリ』


キルゾーンに向かう敵部隊を、ホオズキが視認。キルゾーンまで1km強の距離。既に迫全部隊とMAT一部部隊の射界に入っている。


--------------------------


中国軍掃討部隊部隊長の中佐は、苛立っていた。

一つには、座上する92式装甲車がお世辞にも乗り心地が良いとは言えない事。

一台に無理やり指揮班を詰めているから、ぎゅうぎゅう詰な状況になっている。

一つには、もっと早く合流するはずだった攻撃ヘリ編隊とのランデブーが、上手くいっていない事。

今も隣の通信手が無線交信を続けているが、向こうの返答は要領を得ない。どうやら、合流地点を見落として宮崎県まで南下してしまっているようだ。このままではランデブーは1930時前後まで遅れてしまう。

さらにもう一つ、今進んでいるこの地形そのものが、隊長の胃を締め上げていた。何しろ、今進んでいるのは川沿いにある、この周辺唯一の幹線道路。周りには山がそそり立っていて、どこの地点からでもこちらを自由に狙い撃つことができる。もしも攻撃を受けたとしても跳ね返せるだけの戦力は整えてきたが、それでも余り気分が良い事では無い。

既に日は落ち、周りは暗黒に包まれて、見えるのは灯火管制下にある各車のパイロットランプのみ。

本当は夜が明けてから出直したいところだが、この幹線は可及的速やかに開啓しなければならない。何よりも、上からそのような指揮を受けている以上、従わなければ自分が危なかった。


1927時。間もなくヘリとのランデブーで、指揮班は少し浮き足立っていた。

左手の川の対岸に学校を見て、幾度目かの橋を渡り始めたとき、それは始まった。


--------------------------


『こちらHQ、全部隊、攻撃用意...開始!!!』


傍受されることのない有線通信網をその言葉が駆け巡り、各部隊は行動に移る。


まず先頭を進む96式戦車が、突如爆散した。

ツバキ隊が放ったMPMSの誘導弾が、赤外線の目でとらえた先頭戦車へ着弾。戦車の中では最も脆弱な上面装甲をその高速度・大重量による運動エネルギーで食い破り、砲塔内で成形炸薬弾を炸裂させた。

直撃を喰らった96式の砲塔が、飛ぶこともなく内部からの爆圧で粉々になり、破片の雨を周りに降らす。

突然の攻撃に浮き足立った戦車群を、MPMSとは違うもっと近接からの攻撃が貫いていく。

ツユクサ隊の79式重MAT4基が火を噴き、射出された誘導弾が砲塔と車体との継ぎ目に着弾。

MPMSのようなデタラメな威力こそないが、それでも弱点に命中すればとても抗堪出来ない攻撃を喰らった96式戦車、被弾4両のうち3両が砲塔を飛ばし完全に撃破、残る1両も砲塔の旋回が不可能になった。

被弾なしの後列3両が、被弾車両の前へ出てツユクサ陣へ射撃を加えんとするが、トリカブトが後背からの攻撃を敢行。87式中MATの攻撃を喰らった3両は、上部ハッチから炎をトーチのように吹き出し、全車沈黙。

戦車7両を瞬く間に撃破された敵部隊は混乱。

しかし、生き残った戦車1両のみが応戦を敢行。

車体そのものを回転させることで、動かなくなった砲塔の機能を補って照準を付け、ゲリラ掃討用に一発目から装填していた(通常は1発目はAPFSDSを装填)榴弾をツユクサ陣に撃ち込む。

ツユクサ、撤収が間に合わず被弾、有線通信途絶。

その引き換えに、生き残っていた戦車もトリカブトの第2射を受けて沈黙。

さらに、チゴユリ及びタンポポが、本部車及びその周辺に固まっていた92式8両に対して79式重MATを叩き込み、全弾命中、撃破。

ツバキのMPMS第2射も、最後の92式を食い破った。

MPMS除くMAT部隊は、露呈した火点から離脱。MPMSも、射撃を停止。どちらにしても、使える誘導弾の残弾はほぼ撃ち尽くし、残っているのはこれまで温存してきたMPMS4発と、ヒナゲシ、ホオズキ、フヨウ各隊が携行する01式軽MATが若干のみ。


『本部、本部、応答せよ!!!くそっ、これより私が指揮を執る!!!第1中隊は全員降車戦闘、戦車部隊と第2中隊及び本部の生存者を捜索、IFVは歩兵を援護せよ!!!迫撃砲小隊、布陣し砲撃準備、目標は追って指示する!』


掃討部隊の中で唯一無傷で生き残った、86式歩兵戦闘車(BMP-1)搭乗の第1中隊中隊長が指揮を引き継ぎ、麾下部隊に応戦を指示。さらに、迫撃砲小隊に攻撃準備を指示し、反攻体制を整えようとした。

しかしそれらの動きも、巧妙に稜線上に布陣するFOは見逃さなかった。


『クロユリ、こちらアヤメ。敵迫小隊が停止、布陣し始めた。座標1432-2076。標高120。射線方位角3700。着発信管、試射はじめ。送レ』


『クロユリ了。座標1432-2076、標高120。方位角3700。着発信管、試射、発射はじめ。半装填よし...撃発!!!...3、2、1、弾ちゃーく、今!!!』


『クロユリ、こちらアヤメ。修正値、座標1440-2100、修正射はじめ、送レ』


『クロユリ了、1440-2100、修正射、発射はじめ。撃発!!!...弾ちゃーく、今!!!』


『クロユリ、こちらアヤメ。命中。効力射はじめ。VT信管、急射4発、送レ』


『クロユリ了、効力射はじめ。VT信管、急射4発、発射はじめ!!!』


支援体制を整えようとした中国軍迫撃砲小隊だったが、中隊支援火力の虎の子たるクロユリの重迫…120mm迫撃砲RTから射出された120mm迫撃砲弾が、アヤメの統制のもと飛来。

軽榴弾砲をも凌駕する120mm迫撃砲弾の曳火射撃に、まともな防護手段を持っていなかった中国軍迫小隊は為す術も無く、効力射の急射4発のみで戦闘力を喪失。

さらに、敵本隊へもコブシ及びコマクサの中迫から榴弾が降り注ぐ。


『コブシ、コマクサ、こちらアジサイ。歩兵が出て来た。地域射撃、設定された射撃諸元に基づいて、コブシ、コマクサの順で着発信管で試射。コブシ、射撃開始せよ、送レ』


『コブシ了。試射、撃発今!!!...3、2、1、弾ちゃーく、今!!!』


『コブシ、こちらアジサイ、修正の用無し。一時射撃中止せよ。コマクサ、試射はじめ、送レ』


『コブシ了、射撃停止する、送レ』


『コマクサ了。試射はじめ。...3、2、1、弾ちゃーく、今!!!』


『コマクサ、こちらアジサイ。修正の用無し、パーフェクトだ。コブシ、コマクサ各隊、VT信管、効力射はじめ。急射、我の射撃停止令まで射撃続行せよ、送レ』


『コブシ了、送レ』


『コマクサ了、終ワリ』


コブシ、コマクサ各隊、L16 81mm迫撃砲の最大発射速度で射撃開始。両隊合わせて、毎分40発という猛烈な速度で砲弾が撃ち出され、敵本隊周辺の上空で次々炸裂。

既に車外に出ていた歩兵は瞬く間に蹂躙される。

猛烈な弾幕の中では、残った歩兵も歩兵戦闘車の中から出ることができず、車内に缶詰めになる。


進退窮まった本隊に、更なる脅威が現れる。


『こちらヒナゲシ、射撃開始!!!』


『ホオズキ攻撃開始!』


『フヨウ、射撃開始!!』


本隊近接に潜伏していた3個小隊が、一斉に射撃を開始。

ブローニングM2から撃ち出された.50BMG弾が、BMP-1最大の弱点である後部エンジン区画の装甲を縫い、96式自動てき弾銃からの40mm成形炸薬弾が、側面装甲を容易に貫徹する。

第1中隊のBMP9両のうち、3両が瞬く間に炎上、誘爆。

残った6両も、何とか応戦を試みるが、山上から撃ち下してくる陸自普通科部隊に対して、主砲塔の73mm低圧砲及び同軸機銃の仰角が足りず、後部兵員室のガンポートから小銃による細い反撃の射線を張るのが精いっぱいだった。

さらに1両のBMPが撃破され、陸自側には勝利が、中国軍側には絶望がよぎったとき。

死の鳥が現れた。


--------------------------


最初に攻撃を受けたのは、最も南に位置する天瀬カントリークラブ、コマクサ射撃陣だった。

迫撃砲の発射音が次々轟く中、その羽音が接近するまで、コマクサ隊の全員は気付く事が出来なかった。

南側から突然ヘリの羽音が耳をつんざき、稜線の影から攻撃ヘリが2機、飛び出してくる。

一瞬、隊の全員の時間が止まり、その間にヘリのうちの1機がホバリングを始め、ヘルメット連動の23mm機関砲が陣地を睨み付けた。


「退避、退避ー!!!」


一番最初に再起動した陸曹が絶叫し、次の瞬間に隊員全員がグリーン脇の雑木林へダッシュ。

しかし、ヘリがそれを見逃すはずもなく、重い打突音のような砲声が鳴り響き、陣地へ容赦なく23mmの雨が降らされた。

迫撃砲の砲身が一瞬で弾け飛び、集積されていた弾薬が誘爆。グリーンに大きなクレーターが一瞬で刻まれる。

さらに、隊員達が逃げ込んだ林にも掃射は及び、十分に奥まで入れなかった隊員は赤外線センサーで次々と狙い撃ちにされ、弾け飛んだ肉片が隠れた隊員たちの上に降りかかり、陸士が悲鳴を上げる。

悪夢のような、永遠のような十数秒の末、攻撃ヘリは満足したのか、コマクサの戦闘力の喪失を確認してから北方へ転舵。


『こちらコマクサ、全部隊へ、敵の攻撃ヘリの攻撃を受けた!!!損害多大。戦闘の続行は不可能。攻撃ヘリは北へ向かった、全隊警戒せよ、送レ』


断線した有線の代わりに林の中へ隠匿していた無線機を使い、全部隊へ警告を発する。

しかし、他部隊がそれに返答をする時間はなかった。


--------------------------


次に攻撃ヘリの襲撃を受けたのは、キルゾーン周辺で攻撃を続けていたヒナゲシ、ホオズキ、フヨウの3隊だった。


『こちらコマクサ、全部隊へ、敵の攻撃ヘリの攻撃を受けた!!!損害多大。戦闘の続行は不可能。攻撃ヘリは北へ向かった、全隊警戒せよ、送レ』


この無線を聞き終えないうちに、先行した1機がキルゾーン上空に到達し、まずはホオズキ隊に牙を剥く。

胴体両側面の短翼(スタブウイング)が煌き、16連装の57mmロケット弾がばら撒かれた。

一気に10発近いロケット弾が着弾し、十分に掩蔽された陣地内にいたとはいえ、ホオズキ隊に少なくない損害が出る。

小隊に2丁配備されていたのブローニングM2重機関銃のうち、生き残った1丁が弾幕を張るが、ヘリに届く前に放物線を描いて落ちていく。お返しとばかりに23mm機関砲が降り注ぎ、銃座が射手ごと吹き飛ばされた。

撃ち上げる12.7mmと、撃ち下す23mmでは圧倒的に射程の隔たりがあった。

先程まで自分たちが得ていた高所の優位が一瞬で奪われ、形勢も逆転する。

さらに、2機目の攻撃ヘリが現れ、機関砲を掃射する。

万時窮す、ここまでか...

皆がそう思った時だった。

ホバリングしながら機関砲を撃ち放していた敵の1機が、突然空中で木端微塵になった。

次いで、残った1機の至近を白煙が掠め、ヘリがバランスを崩す。

白煙は外れた後に軌道を修正し、BMPに突き刺さり、爆発した。


『こちらツバキ、支援射撃を実施する、送レ!!!』


ツバキ隊の、MPMSによる射撃だった。

MPMSは有線式の赤外線画像誘導、誘導員が目視で目標を判別して攻撃することが可能だ。

その機能を利用して、本来は対戦車/対舟艇ミサイルであるMPMSで対空射撃を行ったのだが、しかしさすがに対空ミサイルほどの誘導性能は持っていなかった。

続けざまにさらに2発の白煙が飛来したが、ヘリには命中せず、どちらも再誘導でBMPに突き刺さった。

それらをフレアを出しつつ回避しながら、中国軍ヘリパイは怪訝な気持ちに襲われていた。


(どんなSAMでも発射前にIFF質問波が来るはず。だが今のは一切前兆が無かった...挙句の果てに命中しなかったらそのまま装甲車に突っ込んだぞ...それに、SAMとは思えない程運動性が低いが、フレアには騙されない...何だ、あれは...)


取り敢えず彼は、対SAM防御...低空飛行によって敵ミサイルの目を逃れようとした。

しかし、そこで彼は決定的なミスを犯してしまった。

山の稜線よりも下に下がり、これ以上攻撃が来なかった事に安堵していると、突然真横から銃撃を受ける。

ヘリは、攻撃を受けずに潜んでいたヒナゲシ、フヨウ各隊の正面に降下してしまっていたのだ。

これまでの仇とばかりに、ブローニングM2や96式AGGが火を噴き、隊員個人の小銃もそれに続く。

さらには、84mmRRから時限信管調定の榴弾が放たれ、機体の周囲に黒い花を咲かせた。

さすがに初速の遅いAGGの成形炸薬弾は命中しなかったし、小銃による射撃も装甲に防がれてしまった。

だが、ブローニングM2の12.7mm弾が、テールブームに複数発命中。テールローターへの循環パイプが損傷し、アンチトルク制御が一瞬乱れる。そして、その隙に虎の子の01式軽MATが、ヒナゲシ隊の対戦車手によって発射され、エンジンの赤外線に喰らい付いて命中。

エンジンを対戦車成形炸薬弾で吹き飛ばされたWZ-10は、その衝撃で放物線を描いて落下し、爆発。


『こちらヒナゲシ、敵ヘリ墜落!!!墜としたぞ!!!送レ!!!』


『HQ了!!!残りはBMP2両だ、片を付けるぞ!!!ヒナゲシ、フヨウ、東側の車両に火線を集中、撃破せよ。もう1両は可能ならば鹵獲したい、攻撃を控えろ、送レ』


『ヒナゲシ了、送レ!』


『フヨウ了だ、終ワリ!!』


戦闘能力を未だ残すヒナゲシ、フヨウ各隊の火線が、1両のBMPに集中。

先程命中しなかった鬱憤を晴らすかのようにAGGが成形炸薬弾を撃ち出し、BMPを打ち据える。

あっという間にBMPは炎上し、撃破。

残りは一両だけになってしまった。

最後の1両のBMPの乗員たちは、次は自分の番だと覚悟を決める。

しかし、そこで攻撃がピタリと止み、BMPの乗員たちは恐る恐る顔を見合わせる。

取り敢えず周囲を観察しようと、車長がキューポラから顔を出した瞬間、ヘッドライトが狙撃で砕かれた。

続いて、キューポラのハッチに弾丸が命中し、車長はすぐさま引っ込んだ。

しかし、一向にそれ以上の攻撃がされない。

不思議に思っている顔を見合わせていると、後部兵員室の後部ハッチが突然こじあけられた。次いで、車中に催涙弾が放り込まれる。さすがにNBC環境下でも行動可能なBMP-1も、車内からのガスは防げずに、乗員達は次々脱出し、車外に待ち構えていた陸自隊員に拘束された。


『こちらフヨウ、ヒナゲシと共に敵兵多数を拘束!FVの鹵獲に成功した、送レ』


『HQ了。これにて作戦終了だ。これより残存部隊は敵味方の負傷者の救援に当たれ、終ワリ』


--------------------------


この後、九州残存部隊のうち、大分方面の部隊は結集し別府から脱出。四国にたどり着き、そこで保護、解隊された。

これらの部隊の活躍は、以後この国で...いや、世界各国で長く伝えられることとなる。

果たしてMATでヘリを落とせるのだろうか?

...まあ、ジャベリンだって対ヘリモードあるし!?(逆切れ)

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