Phantoms.
連載化してみました…
と言っても、書くのはアイデアが出てきた時だけですので超不定期更新に成ると思われます…
中華連邦陸軍第4軍区(人民解放軍時代は済南軍区)に所属する、第二砲兵旅団第六十八野戦砲大隊第四中隊の射撃陣地は、大混乱に陥っていた。
何しろ、後方から届くはずだった、砲兵にとっての槍である砲弾そのものの補給が途絶えてしまっていたのだ。
現状では砲兵の支援射撃が必要になるような戦闘は起きていないものの、日本側が本格的な反攻に出てきた場合、現状の砲弾備蓄では何とも心もとない。
さらには、兵員への糧食まで不足し始めている。
砲弾や糧食の補給を妨げているのは、散発的に広範囲で続いている敵兵のゲリラ活動だ。
この中隊を含む戦闘団が陣を構えているのは大分県東部、中華連邦軍の揚陸拠点からはひどく離れている。
さらに、補給の頼みの綱であった大分自動車道も、すでに破壊工作によって数か所の橋梁やトンネルが破壊されており、その地点を避けるために補給部隊は道が曲がりくねった九州山地へ分け入り、度重なるゲリラ攻撃を受けているのであった。
これを鎮圧しないことには、これから予期される日本側の反攻からの防御作戦、もしくはこちらからの中国四国地方への侵攻時における支援射撃に支障が出てしまう。
何よりも、度重なる補給路の寸断や中国軍駐屯地へのハラスメント攻撃さらには糧食の不足などにより、兵員の士気はガタ落ちしている。
この状況を打開するために、戦闘団は最低限の警備部隊を除いた、歩兵大隊の大部分を投入し、大々的な山狩りを決行することとなった。
…そのことが、ゲリラ達の狙いとも知らずに。
--------------------------
九州山地にて遊撃行動を取っている部隊の主力は、対馬から転進した対馬警備隊で、さらに別府駐屯地の第41普通科連隊所属の隊員その他、主に地元出身者がそれに合流している。
殆どの部隊は開戦時の防空戦闘終了後に避難民を護衛する形で九州を脱出したが、特に希望者は部隊を離脱(最初は脱走という形で)し、九州に留まって遊撃行動を行うこととなった。
特に対馬警備隊は、山岳での高い遊撃戦闘能力と、部隊からの強い希望(中国の対馬侵攻前に、住民とともに島から撤退したため、復仇への隊内の士気が凄い事になっている)により、部隊が丸ごと九州に残留し遊撃戦闘を行う。
さらに、開戦劈頭の巡航弾攻撃からの防空に、福岡県内及び熊本県北部に展開していた陸上部隊直援の陸自第二高射特科団及び、九州北部の地域防空を担当する空自第二高射群がある程度成功したため、特に九州北東部において各自衛隊基地・駐屯地の破壊が不徹底となっており、特に各陸自駐屯地、分屯地に関しては、中国側の優先目標ではなかったため、ほぼ完全に機能を残しており、武器弾薬や一部の大型装備も離脱隊員達の為に故意に「放棄」されていた。
--------------------------
中国軍の歩兵中隊は、ゲリラ掃討を目的に県道672号線を東から西へ向かっていた。
ちょうど玖珠町‐日田市境を抜け、大分自動車道と並走していた。
その様子を、3Km彼方から見つめる者たちがいた。
『こちらサザンカ、672号線に敵歩兵部隊現出、三個小隊相当、軽戦車一両が随行。各部隊は戦闘準備、送レ』
『こちらHQ、聞いての通りだ。まずツバキが重MATを叩き込む。ツバキ、軽戦車は最初に潰すな。着弾確認後、管制要員は即座に退避しろ。そのまま戦車を先頭に前進させ、キルゾーンに誘い込む。ヒナゲシ、ホオズキ、射撃用意。指名で射撃開始せよ、送レ』
『ツバキ了、送レ』
『ヒナゲシ了、送レ』
『ホオズキ了、送レ』
『よし、こちらHQ、ツバキ、射程に入り次第知らせ。報告後自由射撃せよ、送レ』
『ツバキ了、終ワリ』
--------------------------
縦列で進んでいた中国軍歩兵部隊の、ちょうど真ん中部分に突如79式対舟艇対戦車誘導弾が前方から着弾し、一挙に一個分隊に相当する兵員が即死、それに倍する数が戦闘不能となった。
玖珠駐屯地所属の、西部方面対舟艇対戦車隊隊員による射撃だ。
79式そのものは後継の87式中MATや96式MPMS、中距離多目的誘導弾に比べると旧式化が目立っているが、MPMS以外のすべての後継装備よりも威力が高く、また対舟艇用の破砕弾頭を装着しているため対歩兵火力としてはオーバーキル気味ですらあった。
3Kmを超える距離から放たれたためまったくの不意打ちとなり、ゲリラの山狩り目的で来たために装甲兵員輸送車に乗車していなかった歩兵部隊には、この攻撃を防御できる装備はなかった。
唯一歩兵に随行していた62式軽戦車が、搭載した重機関銃を牽制のために発射地点に撃ち放ちつつ前進し、各歩兵がその援護下で散開しつつ相互援護しながら前進してくる。
さらに、62式軽戦車の主砲が発砲され、79式MATの発射機を全壊させたが、要員はそもそも発射機から50m離れて発射管制をしていたうえにMATの着弾確認後すぐに退避していたため、62式の85mm砲では要員までは殺傷できなかった。
歩兵部隊の生き残りの二個小隊のうち、二個分隊を負傷者の救援に当たらせ、残りの一個小隊+一個分隊が62式の支援下で攻撃部隊を捕捉、撃滅することとなった。
--------------------------
『HQ、こちらツツジ、離脱完了。これよりHQとの合流地点に向かう。発射ユニットは全壊、人員に損害なし。...寿命が縮んだぞ、送レ』
『あー、こちらHQ、...正直すまんかった、送レ』
『こちらツツジ、次はMPMS使わせてくれ、送レ』
『こちらHQ、考えとくよ。サザンカ、敵はなおも前進中か、送レ』
『こちらサザンカ、敵は軽戦車を先頭に押し立ててきている。一個小隊が前進中、二個分隊が第一攻撃点にて負傷者の救護に当たっている、送レ』
『HQ了解。ヒナゲシ、ホオズキ、RR射撃用意、弾種煙幕、ヒナゲシは敵軽戦車、ホオズキは歩兵を狙え、指名で発射せよ。小銃班、機関銃班は煙幕の展開後自由射撃せよ、送レ』
『ヒナゲシ了、送レ』
『ホオズキ了、送レ』
『よろしい。サザンカ、火力小隊迫撃班「コブシ」がHQの指名で第一攻撃点へ射撃する。射撃諸元をコブシに知らせ、送レ』
『サザンカ了、コブシ、射撃目標は座標205-437。弾種榴弾、信管VT、曳火射撃せよ。発射時期はHQに従え、送レ』
『サザンカ、こちらコブシ、座標205-437、弾種榴弾、信管VT、曳火射撃了解した、終ワリ』
--------------------------
62式を中核とする部隊が、ついにキルゾーン...ホオズキ、ヒナゲシ各小隊の正面に到達した。
『HQ、こちらサザンカ、敵部隊が設定されたキルゾーンに到達、送レ』
『HQ了。サザンカ、これよりコブシが中迫射撃を行う。弾着観測を実施し、修正値を報告せよ、送レ』
『サザンカ了、送レ』
『よろしい、こちらHQ、コブシは撃発準備完了...撃発用意、3、2、1、撃発、今!!...5、4、3、2、1、弾着、今!!!』
コブシ...火力小隊迫撃砲射撃分隊が81mm迫撃砲L16を射撃開始した。
試射の一発目は50mほど離れた場所に着弾したが、直ちにサザンカ...偵察/前進観測混成班によって修正値が伝えられ、効力射に入った。
81mm迫撃弾は近接信管によって高度5mほどで炸裂し、一発で学校の教室程度の範囲内を制圧する。
そんな攻撃に十数発も曝された負傷者や救護班は直ちに壊滅、戦闘どころか移動も不可能な状態に陥ってしまった。
『HQ、こちらサザンカ、射撃効果大!!!射撃効果大!!!再攻撃の必要なし、送レ!!!』
『HQ了、ヒナゲシ、ホオズキ、RR指名、射撃用意、てぇ!!!』
『こちらヒナゲシ、命中、命中!!!ホオズキの射弾も命中している!!!射撃開始!!!』
サザンカ、ホオズキ各隊の84mm無反動砲から放たれた発煙弾は、それぞれの目標に命中し所定の効果を発揮した。
まず62式軽戦車が白い煙に一瞬で包まれ、一拍遅れて歩兵小隊が続いた。
特に歩兵小隊は、炸裂し飛散した赤リンが兵達に付着して自然発火。
パニック状態に陥った兵達が火の付いたまま走り回り、炎と煙を一層広範囲に撒き散らす。
さらにその状況に、陸自普通科小隊が89式小銃やミニミ軽機関銃の射弾を叩き込み、中国軍の歩兵達はバタバタと薙ぎ倒されていった。
止めとばかりにホオズキ隊の84RRから榴弾が撃ち込まれ、中国軍歩兵部隊は完全に壊滅してしまった。
62式軽戦車の方も決して無事では済まなかった。
救護部隊の断末魔の無線を聞き、慌てて方向転換をしようとした所に発煙弾が撃ち込まれた。
62式は決して最新鋭の戦車とは言えない。
それどころか、装甲の厚さや主砲の口径などを見る限りは、第二次大戦型と言っても良いだろう。
とはいえ、たかが発煙弾で行動不能に成る筈も無く、方向転換を続行しようとした。
しかし、その時には随伴歩兵は壊滅、敵が戦車に近付くことを阻む者は一切無かった。
赤リン弾の煙幕を抜けた62式は、しかし、その事実に気が付いていなかった。
随伴歩兵部隊がいた場所に煙幕が滞留しているのをスリット越しに確認した62式の車長は、慌ててキューポラから身を乗り出して、歩兵部隊の安否を確認しようとした。
しかし、車長がキューポラを開けて外に出た瞬間、陸自普通科本管班の本部付き狙撃手が車長を狙撃、車長は車内へ滑り落ちてしまった。
操縦士がこれを助けようとして戦車の行き足を止めてしまい、その隙にホオズキ隊のレンジャー隊員が警察署から「拝借」していた催涙弾を開けっ放しのキューポラに放り込んだ。
残っていた戦車乗組員達もこれには堪らず脱出し、ひとしきり咳き込んだ後、目の前の陸自隊員に89式小銃を突き付けられている事に気付いた。
そのまま乗員は陸自に投降、62式軽戦車は貴重なゲリラ側の機甲戦力として重宝される事となる。
『こちらヒナゲシ、敵戦車の鹵穫に成功した!!!当方に損害なし、捕虜3名を捕った、送レ!!!』
『HQ了、此にて作戦終了だ!!!総員よく頑張った。中隊全隊へ、移動開始だ。以前の指令通りに各自移動してくれ。ヒナゲシ、貴隊はHQと合流し、鹵穫兵器及び捕虜を引き渡してくれ、送レ』
『ヒナゲシ了、終ワリ』
後、彼等はこう呼ばれる様になる。
山の亡霊達、と。
誤字、文法等の間違いが有れば、どしどしクレームお願いしますであります!!!