2章 小さな手 5/8
「おはようございます、神子上さん」
「ああ、おはよう」
二人でしゃべってるうちに学舎が見えてきた。このあたりになると学生が増えてくる。同じ方向へ向かう学生達。男子は僕と同じように学ランだったり、着物だったり。学生服が推奨だが絶対ではない。
「神子上先輩、おはようございまーす!」
「おはようございます!」
「おはよう」
「さっきからどいつもこいつも頭を下げよる。‥‥なんじゃ典膳、ヌシは有名人か?」
「そりゃ、まぁ‥‥。伊藤さんの次ぐらいにはね」
「‥‥えらっそうじゃのう。皆の気持ちが解からんわ」
「‥‥‥‥」
「おなごはみなセーラーか。でもお師さんみたいにかっこいい黒じゃないんじゃの」
「うん、伊藤さんのは特別だから。元々ここの生徒でもないし」
「なるほどのう。お師さんと同じ服着とったらどいつもこいつもひんむいてやろうと思うとったわ」
「‥‥こんなヤツの面倒見なきゃならないのか、僕は‥‥」
学舎の敷地内に入る頃には僕らは他の学生に取り囲まれた状態で歩いている。
さらに学舎へと歩いていくと、それこそもう二重三重にも囲まれる。僕らが歩くのにあわせ、取り囲んだ人垣も移動する。みんなの視線が僕らに――いや、正確には僕の横にいる小柄な女の子へと注がれている。‥‥まぁこれは予想していた事だ。今日ばかりは仕方が無い。
「おはようございます神子上先輩。‥‥まさかその子ですか?」
「ああ、そうだ」
「へぇ~‥‥」
「おぉ‥‥」
一人が代表するかのように、僕に話し掛けてきた。
僕の簡単な返答にその場の全員が大きくどよめいた。
もう、その場の2,30人は居るだろう学生達に遠慮なく見られささやかれ、さすがに善鬼も眉をひそめる。
「‥‥なんじゃ、こいつらは。典膳」
「見物客だろ」
「なに?」
「天下の一刀斎の最初の弟子を一目見ようと集まってんだよ。‥‥伊藤さんの話題だ。学舎だけじゃなく、きっともうとっくに町中の誰もが知ってるよ」
「‥‥ほう。それで、ワシをな‥‥。なるほどの。それなら解かるわ。くく‥‥」
「‥‥何がおかしいんだ?ていうか‥‥なんだよその目つき」
「皆まで言うな、典膳。わかっとるわかっとる。
――よーし!!ここに居るヤツらでワシと勝負したいやつ!順番にならべ!!前から3人ずつかかってこい!」
「‥‥は?
‥‥いやいやいや!解かってない解かってない!」
「やかましいぞ典膳。皆困っとるではないか。驚いとるではないか!遠慮するな、来ぬならワシから」
「いやいやいや!バカかお前!バカだお前!
‥‥みんなもさっさと学舎に入れ!引っ掻かれるから!こいつマジで猿だから!」
「さ、猿っ?!猿と言うたか典膳!!」
「いて、痛っ!!殴るな!なんだよ猿が怒りのツボだったのか!」
「お猿と言うたか!!可愛いお猿と言うたか!貴様典膳!」
「微妙に言ってねえ!」