剣魔祭 血祭りシャーベット
《さぁ!ブロックGの百人が集結した!!間もなく戦闘開始です!!》
皆が一様に自分の獲物を構える、それにならって自分も真紅刃の「アカツキ」を構える。
闘技場は円状で大体の直径が300メートルとかなり広いコロッセオのような作りだ。
一応レイチェル達を探してみるものの、人が居すぎて捜索を諦めた。《それでは参りましょう!!予選ブロックG、戦闘開始ィ!》
ウォオォォォオオ!
掛け声と共に戦士達が戦い始める、先制攻撃を成功させた者の姿もある。
「死ねェ!」
「よっと」
槍を持った戦士が突っ掛かるが、コースが丸見えで回避しやすく、そのままアカツキで頸動脈を一閃してやった。
槍戦士は喉から血を吹き出すもののすぐに塞がり何処かへ転送されてしまう。
《おおっと!“聖盾”が中央で囲まれている!流石に数の暴力には勝てないか!?》
実況の声で中央に視線が集まる、そこには10人余りに囲まれたノリスが陣取っていた。
「ふっ…ワシも侮られた物だ」
ノリスは身を低く構えると脚に力を込める。
「“チャージバックル”!!」
それは猪の突進とも、ブルドーザーの突撃とも形容できない破壊力のスキルだった。
目の前にいた哀れな挑戦者達は暫くの空中旅行を楽しみ、場外へ消えていった。
更にノリスは盾を持ち上げると投擲モーションに入るぞ。
「“ブーメランバックル”!!」
何と巨大な盾を投げ出した!!
コレには会場内も沸いた。
盾は周りの挑戦者の頭に次々と当たり、ノリスの手元に帰ってきた。
「さぁ!次の相手は誰だ!!」
「流石は噂に名高いノリス=グラディウス、私でもあの盾を攻略するのは難しいか…」
観客席に居るセシリアが呟く、レイチェルは楽しそうに庶民のお菓子である「ボンバーモロコシ【塩】」を食べながらアツキを探していた。
「アツキ様、居ないなぁ…」
「…アノ…」
「はい、ええっと…リシュさん?」
リシュは控えめにフィールド内の端を指差す、そこには中央を眺めるアツキの姿があった。
「あ!居ました!!リシュさんは眼が良いのですね~」
「エヘヘ…」
その時、司会が叫んだ。
《おおっと!南側で注目選手達がぶつかるっ!!》
《おおっと!南側で注目選手達がぶつかるっ!!》
「!」
ヒュッ!
全力で前に飛び出す、細身の刀が首のあった位置を空振る音がした。
確認しなくても解る、サムライのアマノ=リョーマだ。
「不意討ちとはサムライらしくないな!」
「暗殺の邪剣には容赦はしない、貴様は拙者が地獄へ送る」
「おお怖い…手加減無しだ、掛かってこいよ」
「望むところだ、邪道の剣よ!!」
リョーマは上段に刀を構える、サムライの特徴は何といっても職業技能の「構え」だろう。
「構え」は魔力を少し消費して技の制度を上げる技能だ、この技能の特徴はこれだけではない。
「“鬼斬”!」
重量のある一刀がリョーマの刀から放たれる、アカツキで受け止めたくはないのでここは回避、容易いが相手にチャンスを与える事になってしまう。
「“燕返し”!」
迅速の切り上げが鬼斬の終了直後に飛んでくる、コレが構えの最大の特徴、「構えキャンセル」である。
回避がし辛い切り返し技を組み込むことで隙の大きい大技が隙の少ない技となる。
仕方ない、受けてやろうじゃあないか……。
但し、タダでは起きないぞ?
ザシュッ!!
腕でガードし鮮血が飛ぶ、痛いが作戦通りだ。
「ぐわっ!?」
腕と共に斬らせた毒袋の中身がリョーマに飛び掛かる。
中は“スナイパータランチュラ”から採取した猛毒を改造した薬だ、少なくても強烈な頭痛や目眩、吐き気、息苦しさがリョーマを襲うだろう。
「“毒属性付加”……ダサいな、“エンチャントヴェノム”」
アカツキの刃を手で撫でると、真紅刃が紫に染まる。
刃に毒を塗る技だが、今回の毒は一掠りで致死に至る毒だ、間違っても死なないと言うことはない。
「“賽ノ河原ノ橘花”……責めて痛みを知らずに逝け、アマノ=リョーマ!!」
すり抜け様に喉仏を刈っ斬る、リョーマは状態異常でコチラをちゃんと見据えれていない。
絶殺の一閃がサムライの鮮血で彩られた。
《決まったぁぁぁあ!サムライVSアサシンの戦いはアサシンに軍配が上がったぁぁ!!》
ウォオォォォオオ!!
リョーマは消え、リョーマの手にしていた刀が地面に突き刺さっている。
「……で、いつに成ったら掛かってくるんだ?」
少し離れた所でゆっくりとした型を舞っているチャイナドレスの中華少女が居た。
「ウチは強い人と闘いたいだけ、弱い人とは戦わないのがウチのポリシーだよ!」
バンッ!!と闘気を可視化させる中華少女、どうやらモンク系統の職業だったらしく、エンチャントも掛かって準備万端の様だ。
「中華少女、…たしか…フォン=メイシャンだったか?余り女の子は殺りたくない」
「構わない、ウチは死闘がしたいだけ!さぁ掛かって来い、アサシン!」
片脚を上げ、チャイナドレスのスリットから脚に付いているレッグバンカーを見せつけるかのように構える。
レッグバンカーは蹴るとバンカーが突出し相手を穿つ物だ。
ってかそれ、対魔物用の武装だったよな?人に使うとか正気か?
当たると即死する、射程は彼方が上手、どうするか…。
「先手必勝!“鷲蹴撃”!!」
ライダーキックの様な真っ直ぐな蹴りが襲い掛かる。
「…速い!!」
鷲が獲物を捉えるかのように素早く、可視化された闘気が虹のように走っていく。
その姿は龍を連想させられた。
「チィ!!」
見えているのに避けきれない、蹴りを甘んじて受けるしかない!
ドッ!!
そのまま反動で後ろに吹き飛んだためレッグバンカーの追撃を受けることだけは回避したが衝撃と嘔吐感が気分が悪い、骨折れてるんじゃないか?
「……ってぇ」
「意外とタフだね、ウチの鷲蹴撃を受けて立ってるなんてさ」
「……立ってるだけでも…精一杯だよ…」
しかも漁夫の利狙う輩が俺の背後にいらっしゃるのだが…。
「これで決める!!“蝶興撃”!!」
レッグバンカーを地面に打ち付けながら跳躍するメイシャン、可視化された闘気は虹の蝶の羽となり更に上空へ翔ぶ。
確かにこんだけ派手な技ならサーカス団で稼げるだろうなぁ…。
さて…一体どうするべきかな?
後ろのハイエナも居るし、メイシャンの必殺キックも何とかせねばならない。
……いいこと思い付いた。
「はぁぁあ!!」
蝶の羽で加速したキックが自分の胸に飛び込んでくる。
俺はそのまま後ろに倒れて尻を軽く持ち上げる。
「ふわっ!?」
いきなり軌道が変わったからかバランスを崩したメイシャンは後ろに居たハイエナに蹴りをぶつけに行く形となる。
完全に不意を突かれたハイエナは対処が遅れる。
「!?」
そしてハイエナの脳天に綺麗なドロップキックが入った。
ガチャンッ!
ドスッ!ドスッ!
そのままレッグバンカーがハイエナの頭を串刺しにしたのだった。
見事な一連の動作は実況の声により盛り上げられ、観客から喝采が沸き起こった。
「いきなり乙女のお尻を触るなんてサイテーッッ!信じらんない!」
「二つ忠告しておく、一つはアノ技は隙だらけだから改良しろ、二つ目は……その服であの技はやるな、下着丸見えだ」
「なっ!!!?バッ・!?」
勝手に顔を真っ赤に恥ずかしがっている、うんカワイイなコイツ。
微笑ましい状況を見つめながらへたり込んだメイシャンを起こしてやろうとした瞬間だった。
ゾワッ
急に全身の毛が逆立つような寒気が襲う。
メイシャンも同じだった様子で、辺りを見回していた。
「……雪?」
空から雪が降り始めている、コレから暑くなっていくこの地域の気候だと、この時期に雪は降らない。
「大魔法だ!!」
悲鳴じみた叫び声が遠くから聞こえてくる、その先には荘厳なローブを着た魔導士が本を片手に詠唱していた。
「ん~…簡易的な物の、大魔法は加減がわかりませんねぇ…」
そう言ったかと思うと、また詠唱を再開し始める。
チクチクと寒気に痛みが混ざり始める、息が白くなり吐いた唾が瞬時に凍り付く。
「来るぞッ!!」
「“全てを凍てつかせる反逆者共の牢獄よ、彼の物に永遠の苦痛と悲嘆を与えん!!”」
「え、え!何!?」
「さっさと逃げろメイシャン!」
メイシャンを端までぶん投げると、背後から透き通った魔法詠唱が聞こえてきた。
「“コキュートス”」
その瞬間、世界が、真っ白に凍り付いた。