2i:塔-2
『ハァハァ……アノ蛆虫共メ……』
黒い月が浮かぶ荒野で白い砂の山から白骨化した手が飛び出てくる。
『危ウク本当ニ死ヌ所ダッタ……』
手の主は『電子の女帝』に『D』と呼ばれていた少女。
だが、今の彼女は骨だけの体に蘇芳色の襤褸を纏った姿になっており、一見すれば死神のようにも見える。
『ダガマア……サシモノあの女ノ娘デアッテモ死ヌ直前ノ【ダブルドール】カラノ【ディスアピア】ニハ気ヅカナカッタヨウダ。マア、【ディメンジョンデザイン】デ作ッタコノ場ノオカゲモ有ルダロウガ。』
『D』は襤褸に付いた砂を払いながら自画自賛を行う。
なお、【ダブルドール】とはエネルギーを消費して自分の分身を作り出す力であり、【ディスアピア】は手近な並行世界に移動する力である。
加えて【ディメンジョンデザイン】と言うのは今自分が居る世界を少し変えた並行世界を生み出す力であり、この三つの力を組み合わせることによって『D』はあの最後の一撃の間際に『電子の女帝』とヤタの目から逃れてこの場に移動したのである。
『クフフフフ……マア、何レニセヨダ。私ハ逃ゲキッタ。』
『D』は荒野の何処かに向かって歩き始める。
『クカカカカ……力ヲ取リ戻スノニハ時間ガ掛カルダロウガ、取リ戻シタ暁ニハ必ズ奴ラヲ喰ラッテヤル。』
『D』はこれからどのようにして再び自分の数を増やして自分をこんな姿になるまで追い詰めた者達に復讐するかを考え、その計画が実行された際にどのような表情を浮かべながら死んでいくのかを想像して笑い出す。
『サテ、ソウナレバマズ……ワ?』
そして一通りの想像をし終わったところで『D』が別の世界に逃げ出そうとしたその瞬間。
『D』の首が宙に舞う。
『ナ……!?』
『D』の目に映るのはこの世界の特性なのかすぐさま砂に変化していく自分の身体に、下手人であろう右手に片刃の剣を持ち、額に一本の角を生やしたメイド服姿の女性。
だがそこまでは良い。
『何故貴様ガ……!?』
問題はそのメイドから離れた場所で椅子に座り、こちらに向けて笑みを浮かべる自分そっくりな少女。
『D』にはその少女の正確な名は分からない。
が、その身に纏う力から彼女が自分と同じだという事は分かる。
『何故貴様ガ此処ニ……「詰めの甘い娘のしりぬぐいの為さ。やれ。」
「はい。」
『イガペッ!?』
そして『D』が何かを問う前に少女に仕えていると思しきメイドの手によって切り刻まれ、『D』は今度こそ確かにあらゆる世界から消滅したのであった。
「帰るぞ。」
「はい。」
やがて、少女……『電子の女帝』からお母様と呼ばれていたその存在は自分に仕えるメイドを連れて自らの居塔へと帰っていった。
『D』とお母様は瓜二つの姿をしています。