最寄り近所
自分のこと以外どうでもいい。それはちょっと言い過ぎかもしれない。
でも人間なんてそんなものだ。
建前と本音は誰にでもある。
どうでもいいなんて思ってないというのが、自分の本心であったとしても、心のどこかではどうでもいいと思っているのだ。
そうであると俺は思っている。
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その日はやけに外が騒がしかった。早朝とも呼べる早い時間帯。寝ている人は寝ている。
だが、その日は皆飛び起きたと思う。それほどの騒がしさだったのだ。
現に俺も一瞬で目が覚めた。
目が覚めないわけがない。パトカーのサイレンの音というのは、遠くにも届くように音が大きいし、あのなんとも言えない高い音は人々を不快にさせる音色であり、よくない知らせなのだから。
かきざき まこと
柿崎 真 こと僕は都内のとある住宅街に独り暮らしをしている大学生だ。暇な毎日を過ごしていた真にとって、朝のパトカーのサイレンは少し刺激的でもあった。
しかも、かなり近いところで事件があったらしいのだ。当然近所のおばちゃん達は野次に行く。当然僕も外に出ていった。
事件があったのは僕の家と言っても貸家だが、そこから徒歩2分という相当のご近所さんなのであった。
そこでの事件。一言で言うと殺人事件。詳しく言うと強盗殺人事件らしいのだが、おばちゃん達の話など宛になるわけでもなく、人が亡くなっていることしか、はっきりとは分からなかった。
だが、はっきりと分からなくても良いのだ。なぜなら、一言、他人事であるからだ。
人が死んだ、それも近場で。それ以外は何でも良いのだ。強盗による殺人事件だとか、性的暴行後の殺人だとか。
話のネタになれば何でも良かった。
僕でさえそう思っていた。
人間なんてものはそんなものだ。
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通っている大学は徒歩10分という近さだ。最近はそのせいで時間にルーズになっている気がする。遅刻しそうになった必要な講義を一時間だけ受けてから、憩いの場などと呼ばれるスペースで、親友である天野 達也と缶コーヒーを飲みながら談笑していた。
「そういえばさ、真は知ってるか?」
「何を?」
「近くであったっていう事件のことだよ。」
「あぁ、家から近かったからな。俺も見に行ったよ。」
「それがさ、あの事件があった家この大学に通っている子の親族らしいんだ。」
「もしかして、両親とか?」
「その可能性が高いらしいんだ。」
「お前も知らないのかよ。その口振りからして、真相でも教えてくれるのかと思ったよ。」
「僕も人づてで聞いた話だから、よくは知らないんだ。ごめん。」
「じゃあ、この話はやめだ。暗い話ばかりしてると気分まで暗くなる。」
「ま、待ってよ。ひとつ聞いてて分かったことがあるんだ。」
「分かった。聞くだけな。」
「それがさ、無差別らしいんだ。」
「はぁ?事件の中身が分かってないのに、無差別って・・・。何を言ってるんだか。」
「いや、なんかさ無差別殺人らしいってことだけみんな噂してて。誰に聞いても無差別だって言うから。」
「お前が聞いてきた奴ら全員アホだってことが分かった。そしてお前もアホだ。」
達也はアホだと言われてショックだったらしく、暫く話すのをやめた。そして、この話題はもう終わりだと、そして、頭を冷やしてこいよと言った後、家に帰った。