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燃えよ戦國  【シナリオ形式】

作者: 嵯峨野鷹也
掲載日:2011/07/28

<登場人物>


木下藤吉郎

竹中半兵衛

蜂須賀小六


徳川家康

明智光秀

佐々成政

織田信長


浅井長政

浅井久政


武将A

武将B

武将C

武将D

武将E

武将F

武将G

武将H(寝返り武将)

武将I(  〃  )

武将J(  〃  )

武将K(朝倉方)

武将L( 〃 )

明智家臣A

明智家臣B

木下家臣A

木下家臣B

徳川家臣A

佐々兵A

佐々兵B

木下兵A

木下兵B

使い番A

信長小姓

家康小姓

朝倉兵A

朝倉兵B

朝倉兵C

朝倉兵D

侍A

侍B

侍C


<オープニング/エンディングテーマ>

「燃えよ戦國」 

 http://s2.whss.biz/~asougi/in/SENGOK.MID


(1)山道

   行進する織田の軍勢。

字幕「永禄十三年(一五六七)四月二十五日」

   そのはるか後方に、延々と続く小荷駄

   隊。

   木下藤吉郎、小柄で気さくそうな男。

   藤吉郎、小荷駄隊の中で馬に乗って胡

   瓜をかじりながら前後を見ている。

字幕「木下藤吉郎」


(2)山道、登り坂

   小荷駄隊が坂道にさしかかる。

   一台の車が、止まってしまう。

   後ろの車が進めない。

   藤吉郎、馬を飛び降り、駆け寄る。

藤吉郎「よし、いくぞ! ソラーッ!」

   藤吉郎、足軽に混ざり、かけ声をかけ

   て車を押し始める。

   馬でやってくる竹中半兵衛。

   竹中半兵衛、やや病弱そうながら長身

   で眼光が鋭い。

字幕「竹中半兵衛」

半兵衛「殿!」

   その瞬間、ようやく動き出す車。

   藤吉郎、その勢いで倒れてしまう。

   藤吉郎、ムクリと起き上がって笑顔で

   手を振る。顔面、土だらけ。

   半兵衛、苦笑して一礼、隊の後方へ戻っ

   て行く。

   藤吉郎、ニヤリとして腕で顔を拭う。

N「将軍・足利義昭を奉じ、いち早く京に上

 り天下統一に乗り出した織田信長は、当面

 の敵である朝倉義景を攻めるため、越前に

 侵攻した。ときに永禄十三年、四月二十五

 日…。」

   S#5までNでつなぐ。


(3) 湖(琵琶湖)の見える街道

   早馬が駆け抜けて行く。


(4)小谷城、石垣

   Nでつなぐ。

   早馬が駈け登って行く。


(5)小谷城、中庭

   Nでつなぐ。

   使い番Aが急ぎ走って行く。


(6)小谷城、広間

字幕「浅井長政」

長政「では、やはり織田殿が越前へ?」

   浅井長政、知勇兼ね備えた、精悍かつ

   繊細な武将。

使い番A「はっ!」

   長政、苦渋に満ちた顔。

   浅井久政、長政の父。足音も高く広間

   にやってくる。

長政「父上!」

字幕「浅井久政」

久政「長政、大変なことになったのう。織田

とは、結ぶのが得策とお主は言ったが…」

   使い番、退出して行く。

   長政、腰を下ろす。

長政「…裏目に出ましたな。」

久政「織田信長殿はそなたの義理の兄。とも

 に天下に号令しようとの盟約もある。一方

 で朝倉義景殿には、かつて滅亡しかけた我々

 に援軍を送ってくれた恩義がある。どうす

 るつもりじゃ。」

長政「どちらを取っても、義理知らずになり

 ますな。」

久政「しかし、朝倉との戦さは、我らに相談

 なく始めないことになっていたはずじゃ。

 織田信長殿は何と言っている?」

長政「恩人に刃を向ける必要はない、中立し

 て動かずにいてくれればそれでよい、と。」

久政「で、朝倉義景殿は?」

長政「大至急、援軍を送られたし、と言って

 きました。」

   久政、しばし熟考。

久政「この戦さ、どう思う?」

長政「兵の装備、数、武将たちの顔ぶれから

 して、まず織田の勝利、間違いありますま

 い。」

久政「うむ…さて、我々はどうすべきかな?」

   久政、厳しい顔つきで探るかように長

   政を見る。


(7)手筒山、大手口

   谷間にある柵から、鉄砲が放たれる。

   織田軍の槍隊、何人かが倒れる。

   柵が開き、朝倉勢が討って出る。

   佐々成政、豪傑タイプの猛将。

字幕「佐々成政」

成政「鉄砲隊前へーっ!」

   槍隊が下がると、折り敷いた鉄砲隊が

   現れる。

成政「はなてーっ!」

   自由に撃つ鉄砲隊。

   朝倉の兵が何人か倒れる。

   倒れた兵士の一人を助けようとする朝

   倉兵A。

成政「突っこめぇぇぇぇ!」

   ふたたび織田方槍隊が突進。

   朝倉兵A、刀を抜こうとするが間に合

   わず槍に貫かれ、朋友に重なるように

   倒れる。

   地面に流れる血潮。それを踏みつけて

   走り去る兵たちの足。佐々兵A、朝倉

   兵Aの血にに足を滑らせて転ぶ。

   佐々兵B、手を貸して立たせる。

   佐々兵A、B、ともに走り出す。

   柵の中から鉄砲の一斉射撃。

   佐々兵B、足を押さえて転がる。

佐々成政「すすめーっ!」

   佐々隊、一気に柵に取りつく。

   鉄砲の台尻で殴られる者

   柵の間から槍を突き入れる者

   柵をはさんで掴み合いをしてる者

   柵をよじ登ろうとして槍で突かれる者

   など、混乱した戦況。


(8)離れた高地

   明智光秀陣地。

   風に乗って、戦いの喧噪が聞こえてく

   る。散発的に混ざる鉄砲の音。

   明智光秀、冷静そうな男。

字幕「明智光秀」

   馬鞭を持った光秀、仁王立ちして戦況

   を見ている。

光秀「ふーむ…この分なら、今日中に落ちる

 だろうな。」

明智家臣A「はっ…」

光秀「それにしても…鉄砲というのは、便利

 なようで不便なものよ。野戦では、一発放っ

 たあとやられ放題か。どうあっても、なに

 か楯になるものを置いておく必要がある。

 うむ…」

   家臣たち、答えられない。

   明智家臣B、駈け込んでくる。

明智家臣B「申し上げます。木下藤吉郎様、

 小荷駄を率いて到着いたしました。」

光秀「ほう、木下藤吉郎…か。」

   光秀、戦況に視線を戻し馬鞭を弄びな

   がら

光秀「我々もそろそろ、行こう。」


(9)織田本陣、はずれ

   小荷駄隊が続々と入ってくる。

   汗と泥に汚れた服装で、馬にまたがり、

   満足そうに笑っている藤吉郎。

   その横に、やはり乗馬で半兵衛と蜂須

   賀小六。

字幕「蜂須賀小六」

小六「間に合ってよかったのう。」

藤吉郎「まったくだ。信長様はどこまでも突っ

 走ってまうから、ついてく者が苦労する。」

   半兵衛、続々入城する小荷駄を見たま

   ま真顔で答える。

半兵衛「この進撃の早さに小荷駄でついて行

 ける者…殿以外には明智様くらいでしょう。

 信長様はちゃんとご存知です。」

   藤吉郎と小六、笑いが消え、半兵衛の

   方に視線を移す。

藤吉郎「明智光秀、か。」

   藤吉郎、またにっこり笑って

藤吉郎「小六、半兵衛。今夜こそゆっくり休

 めるぞ!」


(10)織田本陣、外

   幡幕を張り巡し、柵で囲った陣地。

   織田信長と徳川家康、護衛や小姓を引

   き連れ、乗馬で戻ってくる。

   侍たちが忙しそうに走り回っている。


(11)織田本陣、馬置き場

   信長たち、馬を降りる。

   手綱とりの侍たちが馬の面倒を見る。

字幕「織田信長」

信長「兵糧が届いたそうだな。」

武将A「はっ。」

信長「サルめ、なかなかやりおる。」

   馬の手綱をわたしながら、注意深く聞

   いている徳川家康。

字幕「徳川家康」


(12)織田本陣、仮小屋の中

   濡れ手拭いで汗を拭く信長と家康。

信長「手筒山もまもなく終わる。」

家康「は…。」

   家康、家康小姓に手拭いを渡す。

信長「一乗谷まで攻め込むのも、そう先の話

 ではないのう。」

家康「まったくです。」

   信長小姓が酒・杯をもってくる。

信長「家康殿、朝倉はどう出ると思う?」

家康「は?」

   いきなりの問いにとまどう家康。

家康「されば…各砦の守りを固め、本城が籠

 城に備える時間を稼ぐでしょう。」

信長「籠城するか。」

家康「兵力の差、勢い…などを考えれば。」

   信長、立ち上がり、格子窓から外を見

   る。

   槍を持った武者が数人、並んで歩いて

   いる。

信長「城は守りに強い。」

家康「は…。」

信長「だが、一乗谷に籠城しても、勝算は、

 ない。違うか?」

家康「は…。」

信長「やつがわしなら、どうすると思う、家

 康殿?」

   信長、探るように微笑。

   家康、ますます緊張する。

家康「されば…少数精鋭をもって、敵の本陣

 へ一気に…」

信長「フ…。」

家康「もしも朝倉が籠城する気なら、どこか

 に援軍を頼んでいるでしょう。」

信長「浅井長政じゃ!」

   信長、家康のほうを向く。

信長「だが、それはかなわぬ。長政も馬鹿で

 はない。いまさらわざわざ織田に歯向かう

 ものか。それに、わが妹を与え、すでに味

 方となっている。」

家康「…そうでしょうか?」

   信長、ゆっくりと歩いて床机に座る。

信長「朝倉義景、もはや死を待つのみよ。」

   緊張した家康と冷たい信長の視線が交

   わる。

   侍A、いきなり入ってくる。

侍Aの「申し上げます!」

   侍A、ひざまずいて、

侍A「ただいま、佐々成政様と明智光秀様よ

 り、手筒山の砦を落としたとの使いが参り

 ました。」

   信長、立ち上がり、にやりと家康に笑

   いかける。


(13)織田本陣、兵糧集積所

藤吉郎「なにぃー! また移動だと?」

木下家臣A「はっ。御本陣を手筒山まで進め

 られるとの由につき、小荷駄も今夜までに

 手筒山にくるようとの御命令です。」

   その横で冷静に聞いている半兵衛。

藤吉郎「ここまで来て、まだ動くのかぁ?」

   藤吉郎、天を仰いで情けない顔。

藤吉郎「勘弁してちょうよ…」

半兵衛「(たしなめるように)殿…」

藤吉郎「わあってる、わあってる…(木下家

 臣Aに)昼飯がすんだら出発だ。全員にそ

 う伝えておけ。」

木下家臣A「はっ…!」

   木下家臣A、下がる。

藤吉郎「勝ち戦さとは言え、俺ゃたまらんぞ

 …この調子では。」

   小六がやってくる。

小六「また移動だって?」

藤吉郎「小六、もうひと働きしてもらうぞ。」

   小六、どっかと座る。

小六「すでにこれまでの強行軍で、兵は疲労

 困憊、荷車もずいぶんとぶっ壊れ、病気の

 者も続々と出ている始末。これ以上の移動

 は困難ですねぇ。」

藤吉郎「どうせえっちゅうんじゃ、おみゃー」

   小六、黙ってしまう。

半兵衛「殿、動ける者だけをもって手筒山へ

 参りましょう。」

藤吉郎「あとは、おいて行くのか?」

半兵衛「あとは、一晩休ませてからにすれば

 よいでしょう。いずれにせよ、一乗谷が陥

 ちれば戦さは終わりです。朝倉方の奇襲さ

 えなければ、荷も大丈夫でしょう。」

小六「やつら、奇襲する元気なんかねえよ。」

   小六、手鼻をすする。

藤吉郎「よし、その手でいこう。半兵衛、お

 みゃーは残って後から来い。」

半兵衛「は…」

小六「(あざけるように)なんと、こりゃ残

 念♪。一緒に戦えると思ったのにのお。」


(14)手筒山、大手口(日没後)

   倒れた柵、折れた槍、血の跡など、激

   戦のあとがなまなましく残る大手口に、

   小荷駄隊が入って行く。

   隅に寄せられた死体の山。

   折り倒された柵の代わりに、新しい柵

   を作っている将士。


(15)手筒山、本陣小屋(夜)

   織田方諸将が集まっている。

   上座には信長と家康。

   汗まみれで入ってくる藤吉郎。

藤吉郎「木下藤吉郎、ただいま到着いたしま

 したぁ!」

信長「そう大声で言わんでも聞こえる。大儀

 であった。」

藤吉郎「ははっ!」

   藤吉郎、末席に控える。

   軽蔑するように藤吉郎を見る佐々成政。

   冷たい目で見る明智光秀。

信長「今日、ここ、手筒山が落ちた。あとは、

 金ヶ崎の城塞じゃな。」

   信長、一同を見渡し、

信長「成政、キンカン。お主らは今日の戦さ

 で疲れたであろう。明日はこの手筒山で休

 め。」

光秀「はっ…」

成政「御意。」

信長「サル。」

藤吉郎「(驚いて)はっ…」

信長「明日は成政に替わって先陣を務めろ。」

   藤吉郎、わくわくした笑みを見せ、平

   伏。

藤吉郎「はーっ!」

   信長、一同を見回す。

信長「その後、朝倉の動きは?」

武将B「物見の報告では、やはり一乗谷に籠

 城する模様でございます。」

信長「よし。三日のうちには一乗谷へ攻めか

 かる。それまで、できるだけ兵を休ませて

 おけ。金ヶ崎は、サル…」

藤吉郎「はっ!」

信長「お前に任せる。総攻撃の前に陥とせ。」

藤吉郎「御意っ!」

成政「殿、金ヶ崎は要害ですぞッ…! 木下

 のごとき軽輩一人で…!」

   藤吉郎、ムッと成政をにらむ。

光秀「同感ですな。三日では辛い。せめて、

 五日与えてはいかがでしょう?」

   藤吉郎、光秀をにらむ。

光秀「…お主の為に言っているのだ、木下。」

   信長、ちょっと考えるように諸将を見

   る。

   それを見た藤吉郎、意地になって

藤吉郎「命に替えても、三日以内に陥としま

 する!」

   考え込む信長。

家康「…やらせてみればいいでしょう。でき

 ずとも大勢に影響ありますまい。三日で陥

 ちなかったら、援軍を送ればよろしい。」

   信長、家康を見てゆっくりとうなづく。

信長「そうじゃな。よし、サル、試しにやっ

 てみろ。」

藤吉郎「ははーっ!」

   藤吉郎、平伏。

   信長、立ち上がる。諸将も席を立つ。

家康「それでは、また明朝…」

信長「家康殿…。今回の戦、貴殿の手を借り

 るまでもなかったのう。わざわざ来てもらっ

 て済まぬことをした。」

家康「いやいや…では。」

   家康、出て行く。


(16)手筒山、物資置き場(夜)

   小六が帳面を手に点検している。

   そこへ、藤吉郎が帰ってくる。

   小六、顔を上げる。

藤吉郎「小六、もうそのくらいにしておけ。」

小六「まったく、こんな仕事はしたくないな。

 面倒臭いったらありゃしない。」

藤吉郎「ぼやくな。明日は城攻めで先陣だ。」

小六「もともとわしは槍一筋で…(はっと気

 がつき)今、何と言った?」

藤吉郎「主君に同じことを何度も言わすな。

明日は戦さができると言ったんだよ。」

   小六、奇声を挙げて飛び跳ねる。

   藤吉郎、黙って見ている。


(17)手筒山(夜)

   夜が更ける。

   兵糧方では、大釜で玄米を炊いて大忙

   し。兵士たちは、野戦食で食事中。

藤吉郎「…小六、うどんが食いたくにゃーか。」

小六「うどん?」

藤吉郎「京の都のうどんは尾張のものとは違

 う味がした。越前のうどんはどんな味だろ

 うか気になるのさ。はは…(空虚な笑い)」

   小六、無視して食べ続ける。


(18)手筒山、木下陣(夜)

   盾を並べ、兵士たちが睡眠中。

   篝火の側に立つ歩哨があくびしている。

   横になり、むっとして夜空を見ている

   藤吉郎。

   離れたところで大いびきの小六。

   藤吉郎、急に何かを思い出して、ふと

   噴き出し笑い。


(19)金ヶ崎城、搦め手口

   整列する軍団の先頭に立つ藤吉郎。

   とつぜん算盤橋が延びてきて、ゆっく

   りと開く門。

藤吉郎「そりゃ、門が開いたぞぉー!」

   いっせいに突入する木下勢。

   門の中には武士の死体が2、3体。

   門の中に血刀をさげた武将H。藤吉郎

   を見つけ駆け寄る。

武将H「木下様、約束どうり織田様に…」

藤吉郎「わあってる、わあってる!おみゃー

 の手柄ぁ、ちゃぁんと伝えてやるわい!」

   走り去る藤吉郎。

武将H「(絶叫)寝返りの約束はわしの本領

 安堵、本領安堵ですよぉーっ!」


(20)金ヶ崎城、城内

   そこここで激しい斬り合い。

   小六、陣太刀を振って大暴れ。

   逃げようとして後ろから斬られた朝倉

   兵Bに、助けようとして自分も斬られ

   た朝倉兵Cがかぶさる。

   足を斬られた朝倉兵D血を流しながら

   這いずって逃げようとするが、逃げ惑

   う味方に踏みつぶされる。

   槍を構えておっかなびっくり進んでく

   る木下勢の足軽たち。

   それに取り囲まれ、断末魔の悲鳴を上

   げる侍C。

   朝倉方の鉄砲隊を指揮していた武将I、

   藤吉郎が姿をあらわすと、急に味方を

   斬り殺しだす。

   驚く鉄砲隊兵士たち。

武将I「木下様、恩賞の黄金十枚、よろしく

 お願いしますぞー!」

藤吉郎「わあってる、わあってる!」

   藤吉郎、手を振って走りすぎる。


(21)金ヶ崎城、本丸

   朝倉兵たちが口々に「裏切りだぁ!」

   と叫び、逃走していく。

   本丸で朝倉の旗が下ろされ、木下の旗

   が上がる。藤吉郎、小六たちを引き連

   れ走ってくる。

   本丸のやぐらの上に顔を出す武将J。

武将J「木下様、約束どうり…!」

藤吉郎「わあってる、わあってる!」

   藤吉郎、本丸に駆け込む。


(22)手筒山、本陣小屋

   信長、桶の水で顔を洗う。

   その横に家康、くつろいだ風。

   緊張して控えている光秀。

   そこへ駆けこんでくる侍A。

侍A「申し上げます。ただいま、金ヶ崎の城

 が落ちました。」

光秀「半日もしないうちにか? 木下め、

 どういう攻め方をしたのだ?」

侍A「その…なんでも、城内に裏切り者が続

 出したとかで…。」

   信長、背を向けたまま高笑い。

   驚く光秀と家康。

信長「サルめ、あらかじめ手を打っておった

 か。はーっはっはっはっは!」

   信長、くるりと振り向き

信長「ただちに本陣を金ヶ崎城まですすめる。

 明日は一乗谷を総攻撃じゃ!」


(23)手筒山、大手口(夕刻)

   半兵衛、小荷駄を率いて入城。

   門の衛兵と二言三言。

半兵衛「また本陣が移動しただと?」


(24)金ヶ崎城、本丸前(夕刻)

   負傷兵や壊れた家財道具など、戦いの

   跡が生々しい城内。

   乗馬してやってくる信長一行。

   あわてて迎えに出る藤吉郎。鎧があち

   こち潰れ、汚れたまま。

藤吉郎「と、殿!」

信長「サル、でかしたぞ。」

藤吉郎「なんの! 殿の命あらばこの藤吉郎、

 地の果て天の終りまでも突き進み、城のひ

 とつくらい、いつでも奪ってさしあげます

 る!」

   信長、苦笑。

   後ろでしらけている諸将。

   信長、ひらりと馬から下りる。


(25)金ヶ崎城、城内(夜)

   小六と藤吉郎、つれション中。

藤吉郎「どうだ小六。ちょっとは暴れられて

 満足したか?」

小六「いやぁ、暴れ足んねえ。」

   藤吉郎、しまいながら呆れたように

藤吉郎「明日は総攻撃か。戦さはもうすぐ終

 わるでよ。」

小六「総攻撃では、われらはこの城に残るん

 だろう?」

藤吉郎「まぁな、たぶん。」

小六「しかたねえな…。手柄はこの次の戦さ

 に期待するか。」

藤吉郎「予備部隊の悲しさだわぁね。」

   藤吉郎、馬鹿笑いしながら先に去る。


(26)金ヶ崎城、本丸櫓(夜)

   城内の所々に篝火が見える。

   櫓に、徳川家康が立っている。

   その後ろから、光秀が現れる。

家康「明智光秀殿か。」

光秀「徳川様、どう思われます?」

   家康、疑問顔。

光秀「我々は浅井長政との約束を破り、越前

 に攻め込みました。…長政め、裏切るかも

 しれんと拙者は見ておりますが。」

家康「信長殿はそう思っておられぬようだ。」

光秀「浅井・朝倉は先代からの盟友関係。昨

 日今日で同盟を結んだばかりの我々とは、

 付き合いの長さが違います。」

   家康、外を見ながら考えこむ。


(27)金ヶ崎城、米倉前(夜)

   篝火が焚かれ、衛兵が立っている。

   藤吉郎と小六が通る。

藤吉郎「ところで半兵衛はどうした?」

小六「知らせによると、手筒山まで着ている

 とか。どうする、急がせようか?」

藤吉郎「…必要にゃーよ。もう明日は総攻撃、

 今ある兵糧だけでも充分なくらいだ。」

小六「今回は、まったく楽な戦さで、たまら

 んぜぇ。」

藤吉郎「手柄も立てられん、か。」

小六「そうよ。それなのに半兵衛の野郎とき

 たら、『戦さでは何が起こるかわからぬ』

 だとよ。」

藤吉郎「はっはっは、あいつらしい、慎重な

 こった。…今日はもう、寝るべえ。」


(28)金ヶ崎城、本丸(夜)

   光秀・成政ら諸将、一室に眠っている。


(29)金ヶ崎城、出丸(夜)

   家康、眠っている。


(31)金ヶ崎城、城内(夜)

   篝火が焚かれ、見張りの兵があくびを

   している。


(31)金ヶ崎城、兵糧倉(夜)

   藤吉郎、小六、兵士たちと雑魚寝。

   そこへいきなり駆け込んでくる侍A。

侍A「(小声)木下様っ、木下様っ!」

   藤吉郎、がばっと起きる。

藤吉郎「何だ、騒々しい!」

侍A「しっ、おしずかに!」

   侍A、藤吉郎に耳打ち。

藤吉郎「軍議? こんな夜中に?」

侍A「しっ!」


(32)手筒山、本陣小屋(夜)

   織田方諸将が集まっている。

   上座には信長。家康はいない。

武将B「この夜中に、諸氏にお集まりいただ

 いたのは他でもない。実は、このようなも

 のが届けられたのだ。」

   武将B、手に布包みを捧げ持つ。両側

   が縛られている。

   信長、それを手にとって諸将に見せる。

成政「これは?」

信長「妹が、陣中見舞いにとよこした。中身

 はあずきだそうじゃ。」

武将A「妹君というと、浅井に嫁がれた、お

 市様…」

   信長、うなずく。

   途端にはっとして顔が青くなる光秀。

信長「わかったようじゃの、キンカン。」

   光秀、無言でうなずく。

   それを見て、藤吉郎も気がつく。

藤吉郎「あっ! ああっ!」

信長「さわぐな!」

武将A「何なんじゃ、いったい。」

   成政、顔に手を当てて考えている。

成政「さっぱりわからん。」

信長「キンカン、種明かしをしてみよ。」

   信長、布包みを光秀に渡す。

光秀「恐れながら…この紐は、朝倉。もう一

 方の紐は、浅井。真ん中の小豆は、我々。

 つまりこれははさみ撃ちの知らせ、と愚考

 いたします。」

武将A「な、なんと!」

   騒ぎ出す武将たち。

武将D「浅井長政が寝返ったと?」

武将C「そんなバカな!」

   フン、という顔で布包みを奪い取る成

   政。

成政「寝返り裏切りは戦国のならい。今さら

 あわてることでもないわ。」

武将D「佐々殿、何か策でもおありか?」

   諸将、口を閉じる。

   成政、布包みをポン、と投げおく。

成政「策も何もあるか! 一乗谷は目の前、

 一気に朝倉の本城を血祭りに挙げ、返す刀

 で浅井を撃つ!」

   またざわめき出す。

信長「サル。」

藤吉郎「はっ」

信長「兵糧は、もつか。」

藤吉郎「その…」

   藤吉郎、思わず誤魔化そうとして手を

   弄ぶ。

信長「戦さ二回分、兵糧があるかと聞いてお

 る!」

   藤吉郎、黙りこくる。

   視線が集まる。

藤吉郎「その…二回は…無理ではないかと…」

   また、ざわめき出す。

武将D「では、兵をふたつに分けたら…」

武将E「一つづつ潰してくれと言うようなも

 んじゃい。」

武将F「まず、後ろの浅井を討って…」

武将G「たわけ。正面の敵をどうする?」

武将C「前門の狼、後門の虎だぁ…」

   そこへ入ってくる徳川家康。

家康「信長殿、話は聞きましたぞ。」

信長「家康殿か。何か考えでも?」

家康「考え。……こういうときの故事が

 あります。」

信長「故事?」

家康「どんな計略も使えないほど追い詰め

 られたときには…」

信長「三十六計、逃げるに如かず、か…。

 よし、決まりじゃぁ!」

   信長、立ち上がる。

   諸将も立ち上がる。

藤吉郎「お待ちくださいっ!」

   全員の動きが止まる。

藤吉郎「兵を引き上げるには、敵の追撃を防

 ぐ『殿軍(しんがり)』が必要でございます!」

信長「おお、もちろんじゃ。」

家康「信長殿、今、殿軍を決めておかねばな

りますまい。誰を残されます?」

   信長、ムムーと考えこみ、諸将を見回

   す。

武将E「(小声)無茶じゃ…」

武将D「この殿軍、必ず死ぬぞ。」

武将F「木下め、よけいなことを…」

   成政、床机に座り直し、腕を組んで力

   む。

   光秀、真剣な表情で諸将を見回すうち、

   成政と目が合う。

   光秀と成政、同時に立ち上がりかける

   が、一瞬早く

信長「サル、言い出しっぺじゃな。」

   藤吉郎、驚いて表情を挙げる。

信長「…できるか。」

藤吉郎「(顔を引きつらせ)はっ!」

成政「無理じゃ、やめておけ馬鹿者!」

藤吉郎「殿がお決めになったことですぞ!」

   諸将、二人を見比べる。

藤吉郎「この藤吉郎、みごと殿軍をやり遂げ

 てご覧にいれます!」

   信長、表情を引き締め、向き直る。

信長「わかった。木下藤吉郎、越前引き上げ

 の殿軍を命ずる!」

藤吉郎「(引きつった表情で)はっ!」


(33)金ヶ崎城、兵糧倉前(夜)

   陣地はざわついている。

   兵たちが忙しく動き回っている。

   藤吉郎、厳しい表情で戻ってくる。

小六「殿!」

藤吉郎「小六、えらいことになったぞ…引き

 上げの殿軍を引き受けちまった…。」

小六「殿軍ぃ…? じゃ、浅井長政殿が寝返っ

 たという噂はやっぱり…無茶苦茶な!」

藤吉郎「それもこれもみんな成り行きじゃ、

 しかたないわい!」

   藤吉郎、振り向く

藤吉郎「小六…おみゃー、手柄立てたいと言っ

 てたな。手柄の立て時だぞ。」

小六「冗談じゃねえ、命と引き換えだぜ?」

藤吉郎「おみゃー、これまで命の危なくない

 戦さばかりしてたのか?」

   小六、ちょっと考えて落ち着き、

小六「ちげえねえ。戦さは戦さだ。」


(34)金ヶ崎城、大手口(未明)

   続々と急ぎ足で出て行く軍勢。

   大手口に作られた櫓の上に立ち、城の

   中を見ている藤吉郎。

   その後ろに立つ小六。

   信長が馬に乗りやってくる。

   藤吉郎、櫓の上から一礼。

   信長、それに気がつく。

信長「後を頼む。」

藤吉郎「はっ!」

   信長、馬腹を蹴るが、少し行ったとこ

   ろで馬を止め、振り向く。

信長「サル! 命令じゃ、生きて帰れ。」

   藤吉郎、驚く。

藤吉郎「はっ! 命に替えましても!」

小六「(ぼそっと)無茶着茶じゃな。」

   信長、苦笑してから力強くうなずくと、

   ふたたび馬腹を蹴って走り去る。

   しばらくして出てくる家康。

   家康、馬を止め櫓を見上げる。

家康「(家臣に小声で)凄まじい男じゃな。」

徳川家臣A「は…?」

   怪訝な表情の徳川家臣A。

   家康、馬腹を蹴る。

   藤吉郎、大手口から外を見ている。

成政の声「こりゃ、木下!」

   藤吉郎、驚いて振り向く。

   櫓の下に、佐々成政と明智光秀。

成政「この目立ちたがりの山ザルめ、手柄と

 引き換えに死んじまえ。」

   成政、馬鹿笑い。

   藤吉郎、ひきつり笑いして手を振る。

光秀「(成政に)…奴め、意外にやりとげる

 かも知れんぞ。」

成政「なに?」

   不思議そうに見る成政。

光秀「不思議な男だ…できそうにないホラを

 吹いて、それをやってしまう…いつもな。」

   光秀、馬腹を蹴る。

   成政、納得できない表情で続く。


(35)金ヶ崎城、本丸(夜明け)

   軍議の跡。床机も篝火もそのまま。

   旗だけがたくさん立てられている。

   陣中に兵士は一人もいない。

   風が吹き抜け、旗をはためかせる。


(36)金ヶ崎城、兵糧倉(朝)

   小六が入ってくる。

   藤吉郎、いらいらと歩き回っている。

小六「少し落ち着け。」

   小六が腰を下ろすと、藤吉郎もあぐら

   をかく。

藤吉郎「小六よ、こうなってみると人間、こ

 の世にやり残したことがいろいろとあるも

 のだなあ。」

小六「気の弱いことを…」

藤吉郎「小六…、おみゃーには、本当に世話

 になったもんだ。今のわしの出世も、もと

 はと言えば長良川でおみゃーに拾われたの

 がツキはじめだった。」

小六「あんときのくそ汚れた宿無しのガキが、

 今じゃ織田家のおん大将様だもんな。世の

 中、まったく、わからねえ。」

藤吉郎「これが乱世ってやつよ。しかしのう、

 小六。ここで生きて帰ったら、さらに凄い

 出世ができるかも知れないぞぅ。」

小六「さらに凄い出世?」

藤吉郎「(うなずき)さらに凄い出世。」

小六「いつも言ってた、『一国一城』か?」

藤吉郎「その、一国一城だ。」

   二人、ほくそ笑むような笑い。

   続いて、はじけたように爆笑。

小六「一国一城か!」

藤吉郎「一国一城だ! 笑っちまうぜ!」

   とつぜん笑いやめる小六。

小六「生きて帰れたら、の話しだ。」

   藤吉郎も笑いやめる。

   急に空気が重くなる。

藤吉郎「…朝倉め、浅井長政の挙兵はもう知っ

 てるはずだ。いつ、攻めてくるかな?」

小六「さあな。昼になるか、夜になるか、は

 たまた明日になるか…」

藤吉郎「ええい、待っているとムカムカして

 くる! いっそ、今すぐ来ないものか…!」

   一息おいて、

木下家臣Aの声「敵襲ーっ! 朝倉勢が見え

 ましたぞーーっ!」

藤吉郎「たーっ、たったっ!」

   刀を置いたまま、あわてて走り出す藤

   吉郎。

小六「殿、殿ーっ!」

   小六、刀を持って呼ぶ。

藤吉郎「お、おう、すまん。」

小六「落ち着け!」

   藤吉郎、刀を受け取る。

藤吉郎「水じゃ! 誰か、水を持て!」

   木下家臣A、桶を持って来て、ひしゃ

   くを差し出す。

   藤吉郎、ひしゃくを受け取らず、桶ご

   と抱えてガブ飲み。水がザバサバこぼ

   れる。

   藤吉郎、空になった桶を投げ捨てる。

藤吉郎「さァ、行くぞォー! 一国一城!」

   藤吉郎、大股に出て行く。

   小六、苦笑してついて行く。


(37)金ヶ崎城、大手口

   櫓に登る藤吉郎。

   柵には、鉄砲・弓が準備され、旗がこ

   れでもかとばかりに林立し、その後ろ

   には槍隊が控える。

藤吉郎「えーか、本隊の退却を気づかれるで

 にゃーぞ! 景気よく、ハデにいけ!」

軍勢「おーーーっ!」

家臣B「殿!来ました!」

   身を乗り出す藤吉郎。

   遠くから、しずしずと迫る朝倉勢。

藤吉郎「(つぶやく)来よった、来よった…」

   藤吉郎、櫓を駈け下りる。

   沈黙する鉄砲・弓組。

   整列し、いったん止まると、突撃にう

   つる朝倉勢。

藤吉郎「はなてーっ!」

   銃声連発。

   何人かの朝倉兵が倒れる。

   さらに射撃。

   弓が飛んで行く。

藤吉郎「門を開けーっ!」

   木戸を開き、喚声をあげて槍隊が突っ

   込んで行く。

   乱戦。

   必死の木下勢のほうが強い。

   朝倉方が逃げ始める。

   追う木下勢。

   朝倉方の鉄砲隊が前へ出る。

   一斉射撃。

   次々と倒れていく木下勢。

木下家臣B「退けーっ!」

   今度は木下勢が退き、朝倉勢が追う。

   木下勢、木戸の中へ駆けこむ。

藤吉郎「放て、放て、放てー!」

   弓と鉄砲が射撃。

藤吉郎「よーし、じっくり引き付けてもう一

 回いくぞ!」

   藤吉郎の後ろを負傷兵が運ばれて行く。

   鉄砲の一斉射撃。


(38)金ヶ崎城、兵糧倉

   滝のように汗を流し、肩で息をして戻っ

   てくる藤吉郎。

   頭に血の付いた布を巻いた小六が待っ

   ている。

藤吉郎「小六、搦手口はどうじゃ。」

小六「敵は、こちらの撤退をまだ確信してい

 ないようだな。小手調べにちょこちょこ来

 てるだけだ。この分なら、もしかすると夜

 までもつかもしんねえ。」

藤吉郎「ようし、いいぞ。このまま夜になっ

 たら、闇に紛れて…」

   そのとき、木下家臣A、あわてて駆け

   込んでくる。

木下家臣A「殿ーっ、寝返りです、寝返りが

 出ましたーっ!」


(39)金ヶ崎城、城内

   武将J、手勢を指揮して木下兵を斬り

   殺している。

   抜刀して駆けつけてくる武将H。

武将H「お前っ…?」

武将J「負け戦さに味方したら、我が身が危

 ないからな!」

武将H「阿呆んだら! いまさら朝倉に戻っ

 たって、信じてもらえるもんか!」

武将J「兜首の二つ三つもとって帰れば、何

 とかなるわい! 指し当たっては、裏切り

 もんのお前の首じゃ!」

   武将J、Hに斬りかかる。

武将H「この、すっとこどっこいめ! 裏切

 りもんはお互い様じゃーっ!」

   兵士たちの間にも激しい乱戦が続く。

   小六、大勢の鉄砲隊を率いて駆けつけ

   てくる。

   鉄砲隊は折り敷くが、小六、合図を出

   せずとまどう。

   鉄砲隊の後ろから、藤吉郎が駆けつけ

   てくる。

藤吉郎「構わん、放て、放てーっ!」

小六「殿!」

   鉄砲が火を吹く。

   ばたばたと倒れる敵味方。

   武将Hも、絶叫し、血を吐きながら倒

   れる。

   そこへ踏みこむ藤吉郎。

   涙を流す瀕死の武将H。

武将H「木下様…木下様ぁ…わしらまで…わ

 しらまでぇ…」

藤吉郎「…すまん。こうなったらもう、誰も

 信じられんのだ。」

武将J「…裏切りは…戦国の…ならい…(血

 を吐く)ぐふっ!」

藤吉郎「生きておったか、貴様!」

   藤吉郎、刀を拾ってつかつかと近寄る。

   こちらも瀕死の武将J、不敵に笑う。

武将J「もう遅い。…拙者の手のものが、朝

 倉の陣へ…走った…織田…撤退…知らせに

 …お前ら、もうすぐ皆殺し…ぐふっ、ぐふ

 ふっ!」

   武将J、血を吐いてばったり死ぬ。

   藤吉郎、仁王立ち。

藤吉郎「小六ーっ!」

小六「なんじゃい!」

   藤吉郎、ゆっくりと振り向く。

   集まる兵士たちの視線。

藤吉郎「(絶叫)今のうちに、転進ーーっ!」

   弾かれたように走り出す兵士たち。

小六「(小声で)素直に逃げるって言やいい

 のに。」


(40)金ヶ崎城、兵糧倉

   盛大に燃えている。


(41)金ヶ崎城、大手口

   我先に飛び出して行く木下勢。

   馬に乗って飛び出して行く藤吉郎。


(42)山道

   急ぎ足で撤退する織田勢。

   ふと、光秀が馬を止め、後ろを向く。

明智家臣A「光秀様! 一刻を争いますぞ!」

光秀「ウム。」

   光秀、馬腹を蹴ってふたたび進む。


(43)森の中の道

   鎧も旗も捨てた者が多い木下勢、必死

   に走る。

   藤吉郎も徒歩で走っている。

藤吉郎「峠は近いぞーっ!」

   息を切らせる藤吉郎。

   その時、馬に乗った小六が前から戻っ

   てくる。

小六「殿! この先に、敵が先回りしてる!」

   木下勢、足が止まる。

   小六、馬を飛び降りる。

小六「鉄砲も来てる。何人か、やられた。」

藤吉郎「バカヤロォ、それじゃ袋のネズミじゃ

 ねえか!」

   へたり込む藤吉郎。

   武将I、後方から駆けつけてくる。

武将I「分かり切ってたことです、木下様。」

藤吉郎「なんじゃ、おみゃー、まだいたんか

 い。」

武将I「約束の恩賞をまだいただいておりま

 せんからな。」

藤吉郎「恩賞、か。こうなったらもう、当て

 にせんほうがいいぞ。」

武将I「どうですかな? これを聞いたら出

 す気になるかも知れませんぞ。」

   一同の目が集まる。

武将I「竹中半兵衛殿が手筒山の砦に健在で

 す。」

藤吉郎「半兵衛が?!」

   一同、ざわめく。

   うなずく武将I。

小六「嘘つけ! さては貴様、我らを罠に嵌

 める気だな!」

武将I「いまさらあんたらを罠に嵌めたとこ

 ろで何の手柄にもなりはせん。ほっといたっ

 て勝手に死ぬんだからな。」

   武将I、藤吉郎を値踏みするように見

   る。

   藤吉郎、やにわに立ち上がる。

藤吉郎「こうなったら、いちかばちかだ、全

 軍手筒山へ向かえ!」

   木下勢、一斉に今来た道を引き返す。


(44)山道

   織田勢が撤退中。鉄砲足軽が目立つ。

   光秀が成政に追いついてくる。

   光秀と成政、並んで馬を早足に走らせ

   る。

光秀「浅井に呼応して、六角も動き出したよ

 うだ。」

成政「六角承偵か…。蹴散らして通ってくれ

 るわい!」

   光秀、苦笑。

   そこへ、道を逆に急いでくる、全員乗

   馬した徳川勢。

   立ち止まる光秀と成政。

成政「なんだなんだ? 道が逆だぞ、おい!」

   乗馬した家康がやってくる。

光秀「徳川様!」

   家康、馬を止める。

   疑問顔の光秀と成政。

   しばらく家康と視線を合わせる。

   家康、ふ、と笑みをもらして

家康「木下という男…こんなところで死なす

 のは、ちと惜しい。」

   家康、馬腹を蹴り、走り去る。

   光秀、じっとその後ろ姿を見つめてい

   る。

成政「物好きな殿様だぜ。」

   成政、さっさと行こうとして光秀の様

   子に気がつき…

成政「光秀…行くぞ!」

   成政、さっさと行ってしまう。

   光秀、まだ見ている。

   光秀、鉄砲足軽たちに目が行く。



(45)手筒山近くの離れた高地

   疲れきってぼろぼろの木下勢、ようや

   く登ってくる。

藤吉郎「おお…あれは…間違い無く俺の旗だぁ

 …俺のひょうたんの旗が、まだ…まだ…!」

   藤吉郎、感動にむせる。

小六「そうも言ってられねえぞ。見てみろ。」


(46)手筒山、大手口

   厳重に閉じられた門。

   ごく少数の木下勢が守りについている。

   そこへ、探るように近づいてくる朝倉

   勢。


(47)手筒山近くの離れた高地

藤吉郎「いかん! あれじゃ、もたねえ!」

   藤吉郎、ぐっと拳を握りしめる。

小六「半兵衛ーっ!」

   藤吉郎、兵たちを見る。

   みな、悲痛な形相で見守っている。

   藤吉郎、意を決し

藤吉郎「(絶叫)行くぞ!」

   はっと驚く一同。

   すでに抜刀して走り出した藤吉郎。

小六「殿に続けー!」

兵士たち「おりゃぁぁぁ!」

   突っ込んで行く兵士たち。


(48)手筒山、大手口

   じわじわと迫る朝倉勢。

   柵のなかで固唾を飲む木下勢。

半兵衛「まだ待て、じっくり引き寄せるのだ

 ぞ。」

   槍や刀を手に、しーんとしている。

   半兵衛、ふと空を見る。観念の表情。

   その時、とつぜん喚声が聞こえ、驚い

   た半兵衛は視線を戻す。

   朝倉勢の横から突入する藤吉郎たち。

小六「おらおらおらー! 死にたくねえ奴は

 退いてろー!」

   槍を振り回し滅茶苦茶に走り回る小六。

   他の木下勢兵士たちも、無茶苦茶に武

   器を振り回して続く。

   危ないので逃げ回る朝倉勢。

   柵の中の一同、驚く。

半兵衛「殿だ! お助け申せ!」

   柵が開き、一同喚声を上げ突撃。

   ヤケクソ気味の木下勢、さんざんに朝

   倉勢を切り立てる。

   やがて朝倉勢、一人、また二人と算を

   乱して逃げ出す。

藤吉郎「追うな! 追わんでいいぞ! それ

 より早く、早く砦に入れ!」

   木下勢、柵の中に駆け込む。

   木戸が閉じられる。

   柵の脇に立つ藤吉郎。

   陣羽織にところどころ切り傷と返り血。

   駆けつけてくる半兵衛。

半兵衛「殿! よく御無事で!」

藤吉郎「半兵衛、おみゃーこそなんで逃げな

 い?」

半兵衛「主の生死も確かめずに家臣が先に逃

 げる訳には参りませぬ。」

   笑い合う二人。

   その後ろを、兵士二人にかつがれた武

   将Iが通る。

藤吉郎「おう、おみゃー…どうした! やら

 れたか?」

   武将I、かなりの深傷。すでに顔に血

   の気がない。

武将I「き…木下様…」

藤吉郎「傷は浅いぞ、しっかりしろ。」

   武将I、手を延ばす。

   藤吉郎、その手を取る。

武将I「…お…恩賞の…」

藤吉郎「黄金十枚だったな。」

   武将I、うなずく。

藤吉郎「この砦に無事、入れたのはまったく

 おみゃーの大手柄じゃい。この戦さが終わっ

 たら、十枚どころか、黄金五十枚、恩賞に

 もらってやるでよ。きっとやるでよ。」

   武将I、涙を流してうなずく。

藤吉郎「さあ、はやく手当てしてこい。」

   武将I、運ばれて行く。

半兵衛「殿、あの傷ではもう…」

藤吉郎「わかってる。」

   藤吉郎、武将Iの去った方をじっと見

   つめて、つぶやくように

藤吉郎「(自分に言いきかせるように)せめ

 て、黄金の夢を見ながら死ね。」

   藤吉郎、立ち上がり振り向く。

藤吉郎「半兵衛、兵糧は?」

半兵衛「遅れて着いた分が丸々と。」

   藤吉郎、柵の外を見ながら

藤吉郎「よーし、たっぷり飯を炊け! 腹が

 減っては戦ができん!」

半兵衛「御意。」

藤吉郎「残りは、焼いちめえ。」

半兵衛「焼く?」

   藤吉郎、半兵衛を見る。

藤吉郎「なんじゃおみゃー、まさかここで籠

城戦をする気じゃないだろうな?」

   半兵衛、ニヤリと笑う。

藤吉郎「…干し飯があるだろう。干し飯と塩、

 味噌・梅干し・干し魚、なんでもいいから

 全員に三日分、配っちまえ。残りゃあ全部、

 灰にしろ。」

半兵衛「まさに背水の陣、でございますな。」

   半兵衛、走り去る。

   柵の外、遠くを見る藤吉郎。


(46)手筒山、大手口(夜)

   柵の中で見張りの足軽たちが、兵糧丸

   を齧り、竹筒の水を飲んでいる。

   遠くで何か動く。

木下兵A「なんだ…!」

木下兵B「どうした?」

木下兵A「何か動いたぞ?」

   足軽たち、槍を手にして柵にくっつき、

   外を見る。

   離れた物陰から朝倉兵数人が飛び出し、

   逃げて行く。

   出て行くか見送るか、迷う兵士たち。

   駆けつけてくる小六。

小六「どうした!」

木下兵B「朝倉方の物見が来ております。」


(47)手筒山、本陣小屋跡(夜)

   小六・半兵衛が床机に座り、藤吉郎は

   楯の上に横になっている。

小六「朝倉め、やる気のようですぞ。」

藤吉郎「どうするよ?」

半兵衛「昔、建武中興のとき、楠木正茂公が

 使った手に、敵が攻め込んできたらわざと

 砦に火をかけ、自刃したふりをするという

 のがございます。」

藤吉郎「死んだと思わせて逃げる手か。」

小六「そいつは上手い!」

   小六、笑う。

   藤吉郎、最初は一緒に笑うが、ふと考

   えこむ。

藤吉郎「…だが、今回の戦さには兵たちを異

郷につれてきている。できるだけ大勢を逃

 がしてやりたい。その手はだめじゃ。」

   三人、考えこむ。

半兵衛「ならばこういたしましょう。」


(48)手筒山、大手口(夜)

   ひたひたと迫る朝倉勢。

   柵の中では、篝火が赤々と燃えている。

   朝倉勢の面々に、緊張感。

   先頭の武将Kがさっと采配を振ると、

   朝倉勢、喚声をあげて一斉に突進する。

   柵に飛びつき、木戸を引きずり倒す。

   刀槍を構えて突入する朝倉勢。

   だが、そこには誰もいない。

   とまどう朝倉勢。

武将K「何としたことじゃ、これは?」

   その時、奥から走ってきて跪く、朝倉

   の旗を着けた足軽(実は藤吉郎)。

足軽(藤吉郎)「申し上げまーす。砦の中は

 もぬけの殻、すでに人っ子一人、おりませー

 ん!」

武将K「しまったッ! 奴らすでに逃げたぞ!

 追え、追えーっ!」

   武将K、サッと身を翻す。

   朝倉勢、一斉に走って戻る。

   朝倉勢がいなくなると、足軽、跪いた

   まま顔を上げ(藤吉郎の顔が見える)、

   手で合図する。

   小六を先頭に、闇の中からぞろぞろと

   出てくる木下勢。


(49)木立ちの中、川原

   いきなり、鉄砲の射撃。

   徳川勢と朝倉勢が、川岸で戦闘中。

   激しい斬り合い。

   徳川勢は馬で家康を守るように動き、

   徒歩の朝倉勢はそれを取り囲むように

   攻撃。

   家康、馬上で刀を抜いている。

徳川家臣A「殿! すでに囲まれてます!」

家康「魚燐の陣形で中央を突破しろ。」

   川の上流のほうから、喚声とともに現

   れる朝倉勢の援軍。

家康「この分では、すでに木下の奴も…」


(50)森の中

   ぼろぼろの木下勢がしずしずと歩いて

   いる。

   遭遇戦の喧噪が聞こえて来る。

藤吉郎「なんじゃい、あの音は?」

   藤吉郎、小六・反兵衛と目を合わせる。


(60)木立ちの中、川原

徳川家臣A「殿、あっちからも軍勢が!」

家康「やむをえん、引き返すか…!」

   歯ぎしりして振り向く家康。

   だが、川向こうから水しぶきをあげて

   突進してくるのは木下勢。

   途端に形成が逆転。

   突然の斬り込みに驚く朝倉勢に、徳川

   勢が反撃。

   ついに撃退する。

家康「おお…」

藤吉郎「徳川様ではありませんか?」

家康「木下、生きておったか!」


(70)見通しのきく草原

   木下勢・徳川勢が休息中。

   家康が干し飯を齧る横で、藤吉郎が干

   し飯をぱくつく。

   家康、竹筒の水を飲んで一息つく。

藤吉郎「徳川様、なぜ戻ってこられたのです」

家康「わし一人が生き残るのと、木下、お主

 と二人で生き延びるのと、どちらが天下の

 ためになると思う?」

藤吉郎「天下、でございますか?」

小六「天下のためか、こいつぁいいや!」

   小六、馬鹿笑い。

   藤吉郎、目でたしなめる。

   家康、微笑。

家康「しかし、助けにきて逆に助けられると

 はな…。」

   藤吉郎、口にほおばったまま

藤吉郎「なんの! 徳川様の軍勢、百万の味

方を得た気分ですぞ!」

半兵衛「そのとうり。」

   家康・藤吉郎・小六、少し離れたとこ

   ろにいる半兵衛を見る。

半兵衛「この先に敵の鉄砲隊がいます。ほっ

 ておいては面倒だし、どうやって始末する

 か思案しておりましたが、これでぐんと楽

 になりました。」

   半兵衛、歩み寄って、藤吉郎と家康の

   耳元に耳打ち。


(71)峠道

   見通しがきき、ゆるやかな坂が広がっ

   ている峠。

   そこを狙うように朝倉方鉄砲隊が岩陰

   や木陰に陣取っている。

   舌なめずりをする兵士。

   そこへ、朝倉の旗を立てた騎馬の武者

   (実は半兵衛)がやってくる。

   兵士の報せを受け、武将Lが顔を出す。

武将L「まてまてー! どこへ行く!」

武者(半兵衛)「おう。御本陣から来た物見、

 朝倉五郎太と申す! 通りがかりに、ひそ

 みし織田勢の残党を見つけ、撃滅すべく援

 軍をお願いに参りました!」


(72)見通しのきく草原

   近くに森がある。

   木下勢が、疲れ切った様子で寝転がり、

   休息している。


(73)森

武者(半兵衛)「あれでございます。」

武将L「でかした! よし、気づかれぬよう

 に取り囲め!」

   朝倉方の鉄砲足軽、森のはずれに散開

   する。

武者(半兵衛)「鉄砲で狙うには、ちと遠す

 ぎますな。」

武者L「なぁに、一斉に走り寄って鉄砲を放

 ち、それから料理すればあっという間に終

 わるわ。」


(74)見通しのきく草原

   いびきまでかいている木下兵。

   寝返りをうつ藤吉郎。

   そっと片目を開いて警戒。


(75)森

武将L「よーし、いくぞ!」


(76)見通しのきく草原

   武将Lとともに一斉に飛び出してくる

   鉄砲隊。

   驚いて起き上がる木下勢。

   折り敷く鉄砲隊。

武将L「わははははー、鉄砲隊ーっ、…」

   武将Lが片手を振り上げたとたん、後

   方の森から馬蹄の音。

   飛び出してくる徳川騎馬隊。

   驚く間もなく蹂躙されてしまう朝倉方

   鉄砲隊。

藤吉郎「やっちめえー!」

   一斉に飛びかかる木下勢。鉄砲隊につ

   かみ掛かる。

   そこここで鉄砲の音はするが、乱戦に

   なって役に立たない。

   木下勢、次々と鉄砲を奪い取る。

   あっという間に勝敗が決まる。

   思わず勝利の雄叫びを上げる木下・徳

   川勢。

半兵衛「殿、敵はまだまだたくさんおります

 ぞ!」

藤吉郎「わかってる。(大声で)ぐすぐずし

 ている暇はない、戦略的後方移動じゃ! 

 峠まで一気に走れ!」

   走り出す軍勢。

半兵衛「(小声で)素直に逃げると言いなさ

 れ。」


(77)山道(夜)

   木下勢が朝倉勢と交戦中。

   藤吉郎の元へ、血まみれの木下家臣A

   が走ってくる。

木下家臣A「殿、殿ーっ!」

   朝倉兵が鉄砲を放つ。

   木下家臣A、藤吉郎を守るように倒れ

   る。

   藤吉郎、あわてて木下家臣Aを抱き起

   こす。

藤吉郎「こりゃ、こりゃっ! しっかりせん

 かぁっ!」

半兵衛「殿! 早くっ!」

   半兵衛、藤吉郎の腕を引いて引きずり

   さがる。

   その直後、藤吉郎のいた場所に槍をつ

   けて駆け抜けていく朝倉武者。

   小六が追いかけて、槍で馬からつき落

   とす。

   朝倉兵たち、小六を取り囲む。

   小六、我にかえって驚く。

   半兵衛、数人を率いてそこへ切り込み

   小六、救い出される。

半兵衛「一緒に戦さができましたな、蜂須賀

 殿。」

   小六、ばつが悪そうに頭を掻く。

半兵衛「あぶないっ!」

   半兵衛、小六ををつき飛ばす。途端に

   銃声連発。

   木下兵数人が倒れる。

   半兵衛ももんどり打って倒れる。

藤吉郎「半兵衛っ!」

   藤吉郎、思わず飛び出して半兵衛を助

   け起こす。小六も飛び出す。

   すぐに迫ってくる朝倉兵。

   藤吉郎と小六、刀と槍を振り回しなが

   ら急いで逃げきる。

   藤吉郎、必死の御相。

藤吉郎「半兵衛、死ぬな!」

小六「馬鹿野郎! 手前とはまだまだ戦さが

し足りねえぞ!」

半兵衛「急所は…はずれております。」

   乗馬した家康がかけつける。汗と泥と

   返り血で凄惨な姿。

家康「我々が横槍をかける。その隙に退け!」

藤吉郎「徳川様!」

家康「一緒に帰ろう。」

   家康、ニッコリ笑って駆け去る。

半兵衛「殿…」

藤吉郎「なんじゃい!」

半兵衛「一緒に帰りましょう。」

   カッと目を見開く藤吉郎。

藤吉郎「小六ーっ!」

小六「なんじゃい!」

藤吉郎「鉄砲を下げろ! 徳川様が駆け抜け

   たら一斉射撃ーっ!」

   釣瓶撃ちの銃声。


(72)峠道(夜)

   銃声でつなぐ。

   闇の中を、一言も漏らさず走っていく

   集団。

   それはぼろぼろの状態で峠道を走る木

   下・徳川勢。

   槍を捨てる者、鎧も捨てる者…。


(73)山すその広い林道(朝)

   フンドシ一丁で槍を抱えた小六を先頭

   に、元気なく歩く木下勢(ほとんど全

   員落ち武者状態)。

   小六、とつぜん手を延ばして木下勢を

   止める。

藤吉郎「どうした?」

小六「あれを!」

   小六の指さしたほう、やや小高いとこ

   ろに、騎馬・徒歩混成の新手の優勢な

   軍勢が陣取っている。旗印は浅井。


(74)小高いところ

   浅井勢の陣。

   浅井長政、馬上にて口を一文字。

   林道をにらむと、さっと采配を振る。

   長政の後ろで展開する浅井勢。


(75)山すその広い林道

   #73と同じ。

   後ろから追いついてくる家康(徳川勢

   は木下勢ほど着衣が乱れていない)。

家康「浅井長政か。」

   半兵衛、苦しげに

半兵衛「かなりの人数ですな。正面からぶつ

かったら、勝ち目はないでしょう。」

   話している間にも、次第に戦列を整え

   ていく浅井勢。

小六「畜生めが…」

藤吉郎「もう一息だっちゅうのに…」

家康「どうやらここまでのようだな。」

   家康、抜刀する。

   兵士たちも槍や刀を手にする。

   ゆっくり、ゆっくりと、なぶるように、

   近寄ってくる浅井勢。

   木下・徳川勢、面々の顔に絶望が広が

   る。

   ずいっ、ずいっと重量感たっぷりに展

   開する浅井勢。


   一同、藤吉郎を見る。

   藤吉郎、死を覚悟してにっこりと笑い、

   浅井勢を見据える。

藤吉郎「越前のうどん、食い損ねたのう。」

小六「それが、この世にやり残したことか?」

   目を合わせニヤッと笑い合う二人。

藤吉郎「小六、半兵衛、よくぞ今までこんな

 わしに尽くしてくれた。」

小六「ヘッ! 腐れ縁て奴よ。」

半兵衛「いや。なかなかおもしろかったです

ぞ、殿と共に戦うのは。」

   藤吉郎、二人に微笑んでから、家康を

   見る。

   家康、既に徳川勢の準備を終えている。

家康「行くか、木下。」

   藤吉郎、力強くうなずいて刀を抜き、

   立てて肩につける。(突撃命令の準備

   動作。)

   小六、槍を構える。

   兵士たちも覚悟を決めた様子。

藤吉郎「よぉーし、…。」

   藤吉郎、ゆっくり息を吸って、何かを

   叫ぶ。

   一同、決死の突撃。


(76)小高いところ

   S#74と同じ。

   浅井長政、采配を振る。

   

(77)山すその広い林道

   S#72と同じ。

   浅井勢が陣を組み、木下勢を押し包も

   うと動き始める。


(78)山すその広い林道

   突進していく木下勢。泣きながら笑っ

   てわめいていたりなど、すでに諦めの

   表情。


(77)山すその広い林道

   S#72と同じ。

   浅井勢の槍衾が、いまにも木下勢を…


   その瞬間、森の中から連続して射撃音

   が!

   ばたばたと倒れる浅井兵。

   間をおかず、まばらに続く釣瓶撃ち。

   (一斉射撃ではない。)

   浮き足立つ浅井勢。

   藤吉郎たちは驚いて立ち止まる。


(78)森の斜面

   明智・佐々の鉄砲隊が来ている。

   佐々兵が射撃した鉄砲を次々と後ろの

   者に渡し、後ろの明智兵が弾丸を込め

   ている。

   その後ろで、馬に乗って見守っている

   成政と光秀。

成政「なるほど…これでいけるな!」

   光秀、軽く不敵な笑みをもらすと、馬

   首を返す。


(79)山すその広い林道

   S#72と同じ。

   さんざん撃ちかけられ、浮き足立つ浅

   井勢。


(80)小高いところ

   #74と同じ。

   不断に続く銃声。

   浅井長政、舌打ちする。

長政「不覚を取った。やむを得ん、退け。」

   長政、馬首を返すが、一度振り返る。

   目に映るのは木下勢の旗。

   長政、無感動な表情で引き上げる。


(81)山すその拾い林道

   浅井勢、たくさんの死体を残して逃げ

   て行く。

   呆然とする藤吉郎。

   木立ちの中から、光秀と成政が現れる。

成政「遅いぞ、このサル!」

   驚く藤吉郎たち。

   明智兵が、予備の馬をつれてくる。

   馬にまたがる藤吉郎・半兵衛・小六。

藤吉郎「光秀殿…成政殿…! あ…あんたた

 ち …とっくに逃げたんじゃあ…」

光秀「(視線をそらしながら)…鉄砲隊にも

 もう少し実戦を経験をさせておきたかった

 だけだ。」

藤吉郎「しかし…」

成政「(ニヤリとして)期待を裏切って悪かっ

 たかのう、光秀?」

光秀「裏切りは、戦国のならいよ…ふっ」

   光秀・成政、馬首を返して走り出す。

   家康、それに続く。

   呆然としながら振り返る藤吉郎。

   半兵衛、目を閉じてこくりとうなずく。

   小六、手を当てて鼻をすすり、不敵な

   笑顔。

   泣きそうな笑顔の藤吉郎。

藤吉郎「…ハアッ!」

   藤吉郎、馬に鞭を当て走り出す。


(82)湖(か大河)の見える下りの山道

   乗馬した光秀・成政・家康・藤吉郎・

   半兵衛・小六が次々と走り去る。

   その後に、ごちゃ混ぜとなって続く各

   人の軍勢。

N「この間、年号が変わって、元亀元年四月

 三〇日。…数年ののち互いに強敵として死

 闘を繰り広げるということを、彼らはまだ

 知らない。」

   

             終

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦いの詳細が分かりやすい [一言] シナリオ形式が分かりやすくていいです!
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