第33話 そういえば〝同時に拾った場合〟って、どうなるんでしょう?
「そういえば〝同時に拾った場合〟って、どうなるんでしょう?」
本日はランダム生成ダンジョンの三階層を探索中、唐突にそんなことを呟いたのは、少女剣士ラム=ソルディア。
《異次元の魔女》ことクロエ引っ越し直後と違い、今は安定した三階層で、襲ってくる魔物もあまりいない。そんな余裕が及ぼした考えだろう。
しかしハークはハッとした表情で、今日も一緒に探索しているリーリエに言う。
「い、言われてみれば……前までは単独か、ほんのたま~にリーリエと組んで探索するくらいだったから、気付かなかったけど……その場合、どうなるんだろうな!? リーリエ、間違いででも同時にアイテムを拾ったことあったっけ?」
「んん……残念ながら、ないわね。普段は探索と魔物を倒すのに集中するから……アイテムもその場その場で、特に何も考えず拾ってたし」
「だよな? じゃ、じゃあもしかすると、だぞ……たとえばラムが拾えなかった五階層のアイテムでも、俺と同時になら拾えるんじゃないか? しかもその場合、ラムのLUKが適用される可能性も高いんじゃ――!?」
「わあ、ハーク師匠、テンション上がってますねぇ……ほんとにお好きなんですねぇ、ランダム生成アイテム拾い。でも正直、アタシもハマってきちゃってますし……試す価値はあるんじゃ、って思います!」
ぐっ、とラムが両手を握って同意を示すと、リーリエが目ざとく落ちているアイテムを見つける。
「あら、ちょうど良いところに何か……軽装の鎧かしら。ラムさんの体装備を探してるとこだったし、ちょうどいいわね」
「でかしたリーリエ! よし、じゃあ早速……早速やってみるか! まず試しに、な!? ホント、試すだけだから、優しくするから!」
「そんなハーク師匠、お望みなら少しくらい激しくして頂いても……♡ なんてアタシまでボケてたら話が進みませんからね。ここは我慢しますよ。んもうっ、アタシがツッコまないとしょうがないんですからっ」
自らのツッコミに存在意義を見出しつつある少女剣士、それでいいのかと思うが――とにかくハークとラム、二人そろってしゃがみ込み、鎧らしき装備に手を添える。
できるだけラムのLUKが適用されるように、と先に触れさせ、その小さな手をハークが上から包むように握った。
(! お、おぉ……ハーク師匠の逞しい手が……これは役得、役得ですね……♡)
「どうだろう、ラム。持ち上げられそうか? おーい、ラム?」
「……ハッ!? す、すみません緊張で呆けちゃって! えっと、あ……あっ!? は、ハーク師匠、持ち上げられそうですっ……アタシじゃ三階層の装備でも、あんまり拾えなかったのに……!」
「おお……おお! こ、これは期待できそうだなっ……よし、じゃあ、いくぞ!」
ハークの合図と同時に、ラムと共に拾い上げる。
「! こ、これは……この装備は――!?」
ハークが鑑定した、その結果とは――!?
――――★鑑定結果★――――
『ディDdドOOオソmアのタかシKなイと』
くぁwセdrftgyふジこppppp。
効果:コんいチわア
――――★鑑定終了★――――
「うわあああああああっ!? ウッウオアアアアアア!!?」
「きゃああああああっ!? ハーク師匠のリアクションも鑑定結果も、二重にきゃあああああっ!!? 何ですかコレなんなんですかぁっ!?」
ハークとラムが拾い上げ、鑑定した直後には投げ捨てた、その何とも形容しがたいモノ――もはやアイテムか装備なのかすら分からない、モザイクが更にツギハギになったような異物。
ハークにとっても初めて見るだろうナニカを、それでも長男の責任感からか、どうにか説明しようとする。
「う、うう、これは、こういうのは……クロエいわく、バグとか何とか……ランダム生成ダンジョンの想定外の瑕疵だから、出来るだけ起こさないようにするべきだっていう……う、うう、恐ろしすぎる……」(状態異常:恐怖)
「は、ハーク師匠が初めて見るくらい取り乱してる……何でだろ、ランダム生成にハマってる反面、それ関係だと感情が比例しちゃうのかな……まあ怖いのは共感しますけど。そ、それでどうしましょう、この、これ……バグとか何とか?」
「粉々に爆破して燃やし尽くして灰も残さず消滅させよう。出来るだけ不具合を残したくない、俺はこのランダム生成ダンジョンを……実家を守らねば……!」
「な、なるほど、ご実家の長男という責任感もあるんですね。にしても強火な姿勢、まあそれくらい怖かったのも分かりますけど……」
ラムが同意する、その隙に――強かに怯えるハークを、いつの間にやらリーリエが抱きしめ、白く滑らかな手で撫でつつ慰める。
「何にせよ、二人同時に拾う方法はダメみたいね。……よしよし、ハーク、幼馴染の胸の中で泣いてもいいのよ?」
「うう、すまないリーリエ……くっ、今の鎧、もしかしたらレア二つ名つきで高性能だったかもしれないのに……せめて、せめて消耗品とかで試しておけばぁぁぁ……」
「そういうとこの後悔もあるのね。大丈夫、大丈夫よ……きっとクソ、いえウ〇コみたいな装備だったわ。装備はまた探して拾えばいいから……うふふ、弱ってるハーク、可愛いわ……ずっと甘やかしたい……軽めに百年くらい♡」
珍しくシワッシワに憔悴するハークと、ご満悦の幼馴染エルフことリーリエ。
そんな二人をモヤモヤしつつ眺めていたラムだが、ふと気づいた。
「うぐぐ、一緒に驚いたりツッコんだりしてる内に、完全に出遅れたぁ……ん? あれ、これは……魔法のスクロール?」
「ウッ! ら、ラム、それ、拾うのか? ……か、鑑定する?」
「ハーク師匠、軽く鑑定がトラウマになってません? で、でも一応、お願いしますっ」
「わ、分かった。それじゃ、どうにかこうにか気を取り直して――」
――――★鑑定結果★――――
『メタシオータのスクロール』
〝メタシオータ〟の魔法を一度だけ放てる。
――――★鑑定終了★――――
普通に拾ったものだし、一先ずハークが懸念していたであろうバグではない。だがやはり不明瞭な魔法の名前に、ラムが首を傾げる。
「あれっ? ここ三階層なのに、五階層の〝アルメキオラ〟の時みたいによく分からない魔法ですね……?」
「よく覚えてるな、ラム。うーん、三階層でも例は無くもないんだけど、珍しいな……案外クロエが三階層に引っ越してきた影響かもな。……それで、そのスクロール、持って帰るのか?」
「あ、えっと……じゃあ、一応? ま、まあそんなに嵩張るものでもないですし、いつかは魔法の効果が分かるかもしれませんからっ」
「そっか、そうだな……LUKの高いラムが拾ったなら、良いものって可能性もあるし。分かった、じゃあ……ちょっと俺の精神的ダメージが大きいから、今日の探索はここまでにしようか」
「精神的ダメージが大きい割に、冷静かつ的確な判断にも思えますけど……さすがハーク師匠♡ ということにしておきます。じゃあ帰還しましょ~!」
こうして、ハークとラムの心に〝バグ〟という名の引っかき傷をちょっぴり残しつつ(リーリエはノーダメージ)、本日の探索は、早々に切り上げることとなった。
ただしそれは、あくまでも探索はという話だ。。
本番は――セーフティールームに帰ってからである――




