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私は彼を知っていた

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/07/09

 少なくとも私は彼を知っていた。

 彼の方は私を知らなかったけれど。


 だからこそ、私は彼を避け続けた。

 私を知らない彼が私を避けることなんて出来ないから。


 私は彼と同じで本来は多くの人と触れ合うのが大好きだった。

 けれど、彼を避けるあまりそれが出来なくなり、誰とも喋ることがなくなった。


 私は彼と同じで本来は外で思い切り身体を動かすのが大好きだった。

 けれど、彼を避けるあまりそれも出来なくなり、私は家の中でじっと布団にくるまるばかり。


 嫌だった。

 嫌で仕方なかった。

 それでも、私は彼に会いたくなかった。


 だって。

 同じ顔を持つ彼……すなわち、もう一人の私と出会ったとき、私は死ぬと確信ししていたから。



 *



 随分と時間が経って。

 私は知った。


「なんできたと思う?」


 絶句する私に彼は告げた。


「お前が苦しむのを見るのが飽きたからだよ。引きこもってばかりでつまらないから」


 同じ顔でゲラゲラと笑う彼を見て。

 私は絶望のあまり、すべてを失った。


 怪異とはなんて理不尽なものだと思いながら。

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