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第79話

 この世界と酷似しているゲーム――聖魔のオラトリオ。


 それは乙女ゲームであり、RPGの要素を持っているゲームでもある。


 そしてRPGには長距離を楽に移動する手段が用意されているのが常であるわけで。


(ノアの魔法がなんで……!)


 光の鳥。


 それは聖女ノアが浄化の力を具現化させたものであり、その背中に彼女たちを乗せて町から町へと運ぶ役割を持つ存在でもあった。


「あれは聖女ノア=アリアの浄化の力を具現化させたものです! 気を付けて!」


 あの鳥が現れたということは、ノアあるいは彼女に近しい人物が乗っている可能性がある。


 そうでなくとも、あの鳥は浄化の力の塊。


 ただの体当たりでも魔族への有効だとなりえるものなのだ。


 いくらアンネローゼが有数の実力者であったとしても、相手が聖女の力そのものとなれば油断はできない。


「厄介ですわね……!」


 私の言葉でその事実を理解したのだろう。


 アンネローゼは毒づく。


 彼女は氷の魔術を展開し、迎撃に備える。


 急激に冷えてゆく大気。


 しかし緊張で体温は上がってゆく。


(浄化の力は、魔族にとって天敵。かなりマズイ状況かも)


 光の鳥をぶつけるのは、ノアの攻撃技でもあった。


 それもわりとストーリーが進んでからの強力な攻撃として。


 しかもそれはあくまでゲーム上の演出。


 現実で、あの鳥がどれほどの殺傷力を魔族に発揮するのかは分からない。


 ゲームではバランス調整のために強めの攻撃技とした扱いになっていたとしても。


 浄化の力の設定から考えると、直撃がそのまま死に直結する可能性だってある。


「来た……!」


 こちらへと光の鳥が降下してくる。


 そうなると私にできることはほとんどない。


 せめて邪魔にならないようにと、アンネローゼの背後で息をひそめる。


 すると――


「なッ……!」


 光の鳥は翼を広げて減速し――弾けた。


 粒子となった浄化の光が庭園に散ってゆく。


 ――鳥の背中には誰もいなかった。


 どうやらあれは攻撃目的でも、誰かを運搬する目的でもなかったらしい。


 ただの嫌がらせ目的だとは思わないけれど……。


「……あれ?」


 光が散ってから。


 光に気を取られていて気が付かなかったが、空中を漂う物体があった。


「これって……」


 謎の物体の正体は封筒だった。


 空に舞っていたそれを私は手に取る。


「手紙?」


 おそらく手紙で間違いないはずだ。


 封筒に施されていた封蝋を見る限り、聖王国の王族から送られてきた者ということだろう。


「どうやら魔王様宛のようですわね」


「……ですよね」


 聖王国の王族の身が使える紋様の封蝋で閉じられた手紙。


 それを聖女ノアしか使えない手段で送られてきた。


 であればリュートへとあてられたものだと考えるのが妥当だろう。







 公式とは言い難いルートから送られてきた手紙。


 とはいえ、相手が相手だ。


 人間と魔族。


 その違いがあるとはいえ、これは国同士――外交に大きくかかわる文書といえる。


 そんなものを私たちが開封できるはずもなく、手紙に封をしたままリュートの執務室へと訪れていた。


「ほう」


 事のあらましを聞くと、リュートは興味深そうに笑みを浮かべた。


 つい先日、彼の生存が聖王国に露見してしまっている。


 そのタイミングでノアがよこした手紙。


 彼の関心を引くには充分な代物だろう。


「わたくしが調べた限りでは、何も仕掛けはございませんでした」


 アンネローゼはそう語る。


 ここは魔術がある世界。


 手紙にブービートラップを仕込むのも、私がいた世界よりはるかに楽なのだろう。


 だからこそ彼女は事前に手紙を調べていたわけだ。


「お許しいただけるのならば、わたくしが開封を――」


 それでも見落としがある可能性がある。


 開けた瞬間、浄化の力が襲いかかってくるかもしれない。


 だからこそ自分が開封することを提案するアンネローゼ。


 リュートはそれを手で制する。


「構わん。オレが開ける」


 そう言って、彼はアンネローゼの手からひょいと手紙を取る。


「さて」


 そして、あまりにも気楽な所作で手紙を開いた。


「なっ」


 罠を一切考慮していないとしか思えない行動。


 思わず私たちは驚きの声を漏らした。


「気にしても仕方があるまい。それに、あの女は姑息な手を仕掛けはしない」


 たしかに彼女がそういう人柄であることはゲームのシナリオからも分かる。


 だからといって、私が彼の立場ならここまで恐れず手紙を開くことはできないだろうけれど。


「……ふむ」


 そんなことを考えている間も、リュートは手紙を読み進めている。


 視線を走らせながらも、彼が感情の起伏を見せることはない。


 彼の表情から文面を予測することはできなかった。


「クク。そう来るか」


 ただ一言。


 そう口にして、彼は手紙を閉じた。


「魔王様?」


 私はおそるおそる問いかける。


 手紙を読んだ反応からは、怒りや驚きは見えなかった。


 面白い。


 それが一番近い反応だろうか。


「招待だ」


 彼は私の問いに答える。


 ひらひらと手紙を振りながら。


「どうやら、聖女はオレと話し合いの場を設けたいらしい」


 魔王と話し合う。


 それは平和的であり、異常ともいえる申し出だった。

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