第七部 第三話 ~凛、帰る~
いろいろあって胃が荒れてるんですがいい薬ないですかね悠馬君?
凛が戻ってきた時、ロンドンはいつもの空だった。
曇り。
いつも通りの灰色。
空港のロビーも、いつも通りに忙しい。
誰も特別扱いしない。それがロンドンだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
迎えに出たのは、悠馬とノアだった。
本来なら秘書が行く。
だがノアが「俺が行く」と言い、
悠馬は「では僕も」と言った。
理由は誰も口にしない。
ーーーーーーーーーーーーーー
到着ゲート。
人の流れの中で、凛はすぐに見つかった。
背筋が伸びている。歩き方に迷いがない。
そして隣に、見慣れない男がいた。
体格が良い。
笑顔が明るい。
ロンドンの空気に対して、妙に眩しい。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「凛!」
ノアが手を振る。
凛は軽く片手を上げた。
「久しぶりね」
それだけ。
抱擁もしない。
凛らしい。
ーーーーーーーーーーーーーーー
男が一歩前に出た。
声が大きい。
空港の空気が一瞬で変わる。
凛が淡々と紹介した。
「彼が婚約者の”カイル・アンダースン”よ」
男はにこにこしている。
「初めまして!会えて嬉しいよ!」
陽気なアメリカ訛りの英語だった。
ノアが反射で答える。
「……どうも。こちらこそ」
悠馬も礼儀正しく頭を下げた。
「佐伯悠馬です」
その瞬間。
カイルの目が輝いた。
「君が悠馬?」
「噂は聞いてるよ」
「クールだね!」
悠馬は一拍遅れて瞬きをした。
「……そうでしょうか」
「うん!」
迷いがない。
眩しい。
ノアの目が僅かに光った。
(……陽キャ?)
(……仲間?)
ーーーーーーーーーーーーーーー
ノアが咳払いをする。
「とりあえず車を」
「もちろん!」
カイルは即答する。
「ロンドンってすごいな」
「灰色だけど、格好いい」
凛が言う。
「短い滞在よ」
「必要なことだけ済ませる」
カイルは笑った。
「それが凛だよね」
ーーーーーーーーーーーーーー
車内。
ノアが運転。
凛とカイルが後部座席。
悠馬は助手席。
沈黙は不自然ではない。
凛は沈黙を気にしない。
悠馬も同じだ。
ただ、
カイルだけが楽しそうに喋る。
「凛から聞いてたよ」
「ロンドンは複雑だって」
「でも君が全部回してるって」
悠馬は短く答える。
「業務ですから」
「仕事、ね」
カイルは笑う。
「でもさ」
軽い声。
「それだけじゃないんだろ?」
悠馬の指が一瞬止まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
凛が横から言った。
「カイル」
「ん?」
「余計なことは言わない」
「はいはい」
肩をすくめる。
でも笑顔は消えない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
会社のエントランスで、凛が立ち止まった。
悠馬を見る。
視線がまっすぐ刺さる。
逃げ道がない。
「驚いた?」
悠馬は答えられなかった。
凛は眉一つ動かさない。
「急じゃないわ」
「決めただけよ」
一拍。
そして、即答。
「彼のいる場所が、私の場所」
悠馬は、言葉を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
カイルが隣で笑う。
「ほら、シンプルだろ?」
凛は淡々と続ける。
「仕事もする」
「彼も了承済み」
「アメリカに定住する」
悠馬はようやく声を探す。
「……それでいいのですか」
凛は即答した。
「いいわ」
迷いがない。
選んだ場所に立つ。
凛はそういう人間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
悠馬はその言葉を受け止めながら、
自分の足元を見た。
戻る場所はある。
役割もある。
けれど。
“居場所”は。
まだ。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




