第六部 第一話 ~戻っただけ、のはずだった~
休みが終わると寂しいですよね。
出社初日。
悠馬は、
いつも通りの時間に
いつも通りの席に座った。
椅子の高さ。
モニターの角度。
キーボード。
(……問題ない)
体は、完全に覚えている。
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「佐伯さん」
声がする。
振り向く。
「お休み、どうでした?」
(……来た)
「……通常です」
相手は、少し困ったように笑った。
「それ、感想ですか?」
「……事実です」
(……通じていない)
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午前中。
会議。
資料の確認。
指摘。
判断。
滞りは、一切ない。
でも。
「佐伯さん、余裕ありますね」
(……余裕?)
「休暇でリフレッシュされた感じがします」
(……HPは安定していましたが)
口には出さない。
「……必要な時間でした」
それだけ答える。
相手は、満足そうに頷いた。
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昼休み。
コーヒー。
砂糖、三杯。
席に座ると、
なぜか人が寄ってくる。
「佐伯さん、ちゃんと食べてます?」
「……はい」
「無理してません?」
「……していません」
「休暇明けは大事ですからね」
(……何が?)
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ノアが、横の席で小声で言った。
「兄さん」
「はい」
「戻ってきた人扱い、されてる」
「……戻りましたが」
「そうじゃなくて」
一拍。
「人生の節目越えた人扱い」
「……越えてはいません」
「本人が否定するやつは
だいたい周囲が決める」
(……困ります)
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午後。
メール。
件名:体調確認
差出人:総務。
(……なぜ)
本文は丁寧だった。
> 無理のない勤務を
> お願いします
(……通常勤務だが)
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業務は、完璧だった。
修正も、指示も、判断も。
しかし。
「佐伯さん、今日は早めに切り上げても」
「……問題ありません」
「いえ、お気遣いなく」
(……お気遣いはそちらでは)
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退社。
外の空気は、もう完全に秋だった。
涼しい。
(……戻った)
そう思う。
しかし、同時にこうも思った。
(……戻った“つもり”なのだろうか)
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フラット。
自分の部屋着に
着替える。
一瞬だけ、ノアの服に
手が伸びて、やめた。
(……今日はこちらで)
理由は、特にない。
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椅子に座る。
モニターを点ける。
……でも、
ログインはしなかった。
(……今日はいい)
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悠馬は、ふと考える。
休暇前と、何が違うのか。
仕事は同じ。
生活も同じ。
でも、
”周囲の距離”だけが少し変わった。
近すぎる。心配されすぎる。
(……足元がズレている)
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ノアの声が廊下から聞こえた。
「兄さん、大丈夫?」
「……問題ありません」
「その返し、もう
“大丈夫な人”じゃないんだよな」
「……?」
「大丈夫って言わなくても
大丈夫そうな人扱い」
(……ややこしい)
悠馬は、小さく息を吐いた。
(……戻っただけのはずだった)
でも、
休暇は確かに何かを残していったらしい。
それは、答えではない。
ただ、「ズレ」だ。
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『戻っただけなのに、
居場所が少しだけ変わって見える。』
悠馬は、その感覚を否定しなかった。
今は、まだ。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




