第五部 第十六話 ~足元、という言葉~
もうヤダこいつら、すぐに考え込むんだもん!
こまけえことはいいんだよおおお!
夜会の翌朝。
悠馬は、いつもより少し早く目が覚めた。
理由は、分からない。
疲れが残っているわけでも、
緊張が解けたわけでもない。
ただ、頭が静かだった。
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キッチンに立つ。
冷蔵庫を開ける。
チキン。
ヨーグルト。
卵。
(……足りている)
電子レンジを見る。
(……今日は後でいい)
それだけで、朝が進んだ。
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通勤。
駅までの道。
いつも通っているはずの道なのに、
今日は少しだけ地面の感触を意識した。
(……立っている)
靴底が、アスファルトを踏んでいる。
当たり前のこと。
だが、ふと頭をよぎった。
”足元。”
(……足元?)
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オフィス。
昼休み。
コーヒー。
砂糖三杯。
椅子に座ると、
周囲が少しざわつく。
だが、今日は気にならなかった。
(……騒がしくても立てる)
(……静かでも立てる)
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ノアの言葉が、ふと浮かぶ。
> どこに立ちたいか
その時は、答えられなかった。
今も、答えはない。
だけど。
(……立ってはいる)
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午後。
仕事を終え、資料を閉じる。
「佐伯さん」
同僚が言った。
「今日は、落ち着いてますね」
「……通常です」
それでも、相手は満足した顔で去っていく。
(……評価ではない)
(……観測だ)
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帰宅。
フラット。
ノアの服を着て、椅子に座る。
カタカタカタカタ。
「ゆう」が
今日も役割を果たす。
回復。
解除。
立て直し。
誰も落ちない。
しかし。
(……ここは足元ではない)
初めて、そう思った。
安心できる。
でも、立ち続ける場所ではない。
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ログアウト。
椅子にもたれる。
天井を見る。
夜会。
オフィス。
フラット。
画面の向こう。
どれも、居場所ではある。
しかし、
”足元”ではない。
(……足元、か)
それは、国でもない。
肩書でもない。
役割でもない。
(……人、なのか)
すぐに否定した。
(……まだ分からない)
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ベッドに横になる。
靴を脱ぎ、足を伸ばす。
シーツに触れる。
柔らかい。
(……立たなくていい)
それだけで、少し息が深くなった。
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悠馬は、初めて自覚した。
自分は今、
「どこに立つか」ではなく、
「何を足元にするか」を
考え始めているのだと。
答えは、まだない。
だが。
『問いが生まれたこと自体が、今までとは違っていた。』
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その夜。
眠りに落ちる前、一つだけ思う。
(……並んで立つ、というのは)
(……足元を
共有することなのかもしれない)
それは、まだ仮の考えだ。
でも、悠馬はその言葉を否定しなかった。
“足元”という言葉は、まだ形にならないまま、
静かに彼の中に残った。
次に誰かと並んだ時、
きっとまた、思い出す。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




