第一部 第六話 ~レッスン1:普通に会話しなさい~
優等生だけど、コミュ障悠馬君です。
佐伯悠馬は、本気で思っていた。
(……ここにいたら、本当にヤバい)
朝食後、
ノアと蘭からあれだけの事実を淡々と突きつけられ、
自分だけが取り残されていると理解した瞬間から、
胸の奥で警報が鳴り続けている。
これは危険だ。この屋敷は、今。
(……逃げよう)
判断は早かった。
遅すぎるくらいだが、今からでも遅くないはずだ。
ロンドンに戻る。
仕事を理由にする。
体調不良でもいい。
とにかく距離を取る。
そう決めて、悠馬は荷物をまとめ始めた。
――その時。
コンコン。
控えめなノック。
嫌な予感しかしない。
「悠馬」
扉の向こうから聞こえた声に、悠馬は動きを止めた。
(……先回りされた)
扉を開けると、
そこにいたのはエド叔父だった。
穏やかな表情。いつも通りの雰囲気。
つまり、もう決まっている。
「今日は休日だろう」
「……そう、ですが」
「大切な客人が来る」
悠馬の中で、何かが音を立てて崩れた。
「一緒にもてなすように」
「……俺も、ですか」
「他に誰がいる?」
論理的すぎる。
「安心しろ。仕事の話はない」
(それが一番安心できない)
エド叔父は、
悠馬の内心などお見通しと言わんばかりに、
淡々と続けた。
「軽い会話でいい。
距離感も、常識的な範囲で構わん」
(距離感……)
その単語が、悠馬の胃を刺激する。
エド叔父は、
心の中で考えていた。
――いきなり有能嫁をぶつけるのは、
さすがに酷だろう。
彼はすでに報告を受けている。
フランス出張。
商談は成功。
その裏で――
”悠馬が、なぜか逃げ回っていたことを。”
どうして知っているか?
それは簡単だ。
人は喋る。
しかも、善意で。
「若いのに真面目でね」
「ちょっと女性慣れしていないみたいで」
「可哀想なくらいだったわ」
断片的な情報は、十分すぎるほどだった。
(なるほど……)
エドは結論を出す。
――レッスンが必要だ。
「今日の客人は、私の知人の娘だ」
悠馬の顔が、
わずかに引きつる。
「良家の令嬢だが、堅苦しい話はしない」
(それが一番怖い)
「普通に会話しなさい」
普通。
その二文字が、
今日一番の難題だった。
「……叔父上」
悠馬は、慎重に言葉を選ぶ。
「僕、あまり……」
「知っている」
被せるように言われた。
「だからだ」
逃げ道は、完全に塞がれていた。
やがて、来客の車が到着する。
玄関ホールに響く足音。
悠馬は、深く息を吸った。
(……これは、レッスン1)
(まだ本番じゃない)
そう言い聞かせる。
だが、
心臓の鼓動は、
フランスで走っていた時と同じ速さだった。
エド叔父は、
満足そうにそれを見ていた。
(まずは、“普通”からだな)
こうして。
佐伯悠馬の
”女性耐性補習授業”は、本人の意思とは無関係に、
静かに始まった。
感想をいただけると嬉しいです。
※一応完結分までは完了してますので都度載せる予定です。
よろしければ見てください。
AIアシスト作品です。
僕はまだ、ただの学生だったはずなのに。
気づいたら、伯爵家と組織と、大人たちの胃を一手に引き受けていた。
これは「有能すぎたせいで詰んだ男」の話。




