第五部 第九話 ~事実は、静かに書き換えられる~
噂による誤解には耐性のある悠馬君
最初は、違和感だった。
それも、
説明できるほどの大きなものではない。
「……あ」
廊下ですれ違った同僚が、一瞬、言葉を選んだ。
「……お疲れさまです」
「……お疲れさまです」
それだけ。
でも、間があった。
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午前中。
会議室。
悠馬は、いつも通り
資料を配り、要点を説明した。
内容に、問題はない。
反応も、いつも通りだ。
でも。
「……佐伯さん」
会議後、声をかけられる。
「昨日の夜会、大変でしたね」
(……大変?)
「いえ、特に」
「……ああ、そうですよね」
その言い方が、
“分かっている前提”
だった。
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昼。
コピー機の前。
会話が、止まる。
「あ……」
「……」
(……今度は止まりすぎだ)
悠馬は、紙を受け取り、
その場を離れた。
背後で、声が落とされる。
「……家族の事情、難しいよね」
「うん……」
(……またか)
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午後。
来客対応。
名刺交換。
「佐伯さん」
相手は、柔らかく笑った。
「ご無理、なさらないでくださいね」
(……無理?)
「……はい」
それ以上、言わなかった。
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噂は、
もう“噂”ではなかった。
それは、
・ 断片
・ 善意
・ 想像
・心配
が混ざり合って、「一つの物語」になっていた。
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「弟さんの件」
「大変でしたね」
「でも、佐伯さんが
支えていらっしゃるんでしょう?」
(……支えている?)
「家族思いですものね」
(……思ってはいるが)
訂正すべきだろうか。
悠馬は、一瞬考えた。
だが。
(……どこから)
(……何を)
(……誰に)
説明には、時間がかかる。
相手は、もう”納得している”。
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夕方。
叔父上が、短く言った。
「……事実扱いが始まったな」
「……はい」
「噂は、もう訂正できない」
(……知っています)
「正確には」
一拍。
「”訂正するには、相手が多すぎる”」
悠馬は、小さく息を吐いた。
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「聞く」
叔父上は、視線を向けた。
「訂正するか」
「……しません」
初めて、即答した。
叔父上の眉が、わずかに動く。
「理由は」
「……混乱します」
「誰が」
「……全員が」
そして、自分も含めて。
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夜。
フラット。
ノアの服を着て、椅子に座る。
カタカタカタカタ。
「ゆう」が今日も回復する。
チャットが流れる。
『ゆうさんって、距離感うまいですよね』
『踏み込みすぎないの、信頼できる』
(……まただ)
「了解」
それだけ返す。
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ふと、考える。
(……訂正しない、という選択)
今までは、
・ 面倒
・ 判断が増える
・説明が必要
だから避けていた。
だが、今は違う。
(……これは)
(……線を引くのと同じだ)
訂正しない=肯定ではない。
否定しない=同意ではない。
ただ、巻き込まれない。
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翌日。
同僚が、そっと言った。
「佐伯さん」
「はい」
「……無理、しないでくださいね」
悠馬は、少し考えてから答えた。
「……ありがとうございます」
それ以上、言わなかった。
同僚は、それで満足したようだった。
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その夜。
ベッドに横になり、天井を見る。
(……訂正しない)
(……逃げではない)
(……選択だ)
物語を、自分の手で止めることはできない。
だが、
自分が入らないことは、選べる。
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翌週。
夜会。
いつも通り。
踏み込ませない。
線を越えさせない。
だが、“守っている人”として見られている。
(……役割が
また一つ増えたな)
それでも、悠馬は立っていた。
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”噂は、事実になった。”
でも、その事実は
悠馬の人生を決定づけるものではない。
少なくとも、今は。
悠馬は、初めて知った。
”訂正しないことは、諦めではない。”
それは、
> 自分が
> 立つ場所を
> 守るための
> 選択
だった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




