幕間 ~兄さんは、確かに料理が上手だった(過去形)~
悠馬は料理ができるのか。な話
「兄さんって、料理、上手だったよね」
唐突に、ノアが言った。
蘭が箸を止める。
「え?」
「うん。小さい頃さ、普通に作ってたよ」
「普通に?」
「普通に」
ノアは、少し考えてから言い直す。
「……いや、妙にちゃんと」
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「煮込みとか」
「焼き加減とか」
「塩のタイミングとか」
「なにより」
一拍。
「無駄なことをしない」
蘭は首を傾げた。
「それ、今の悠馬から
全然想像できないんだけど」
「だよね」
ー
即答。
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「じゃあ、いつからああなったの?」
菜摘が、湯のみを置きながら聞く。
ノアは、真剣に考え始めた。
「……いつだろ」
「仕事始めてから?」
「いや、その前から怪しい」
「大学?」
「うーん」
眉を寄せる。
「料理が“選択”になった頃かな」
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蘭が、ぴたりと止まる。
「選択?」
「うん」
ノアは、淡々と言った。
「材料選ぶ」
「献立考える」
「作る順番考える」
「洗い物考える」
「食べる時間考える」
「翌日の予定考える」
「全部、兄さんの地雷」
「……地雷?」
「うん」
「一つでも正解が分からないと全部止まる」
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菜摘、静かに頷く。
「……ああ」
「納得した?」
「ええ」
「料理が下手になったんじゃない」
一拍。
「料理を“生活”として扱う余裕がなくなった」
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ノアは、少し困った顔で笑った。
「たぶんさ」
「兄さん、料理が嫌いになったんじゃない」
「料理以外で全部使い切った」
「判断も」
「集中も」
「責任も」
「だから」
肩をすくめる。
「電子レンジに負ける」
蘭が、吹き出した。
「負けるって」
「負けてる」
即答。
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「でもさ」
ノアは、少しだけ声を落とす。
「ネトゲだと無双するんだよ」
「……は?」
「役割が決まってる」
「正解がある」
「回復すればいい」
「落とさなければいい」
「結果が数値で出る」
「……料理じゃん」
「料理じゃない」
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菜摘が、静かに言った。
「戻ると思う?」
ノアは、少し考えてから答えた。
「戻らなくていいと思う」
「え?」
「今の兄さんは“作れる場所”が違う」
一拍。
「キッチンじゃなくて、モニターの前
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その頃。
ロンドン。
カタカタカタカタカタ。
「ゆうさん、今日も安定でした!」
「誰も落ちなかった!」
悠馬は、小さく打つ。
「……仕事ですから」
ログアウト。
冷蔵庫を見る。
電子レンジを見る。
(……後で)
その「後で」は、今日も来なかった。
兄さんは、料理が上手だった。
ただしそれは、
“生活が壊れる前の話”だ。
今は、別の場所で、
別の役割をきちんと果たしている。
——問題は、
それが食えないことだけだった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




