第五部 第三話 ~夜会は、楽だ~
悠馬君夜会は平気なんだ・・・(2回目)
夜会の準備は、楽だった。
スーツを選ぶ必要はない。同じ型、同じ色。
ネクタイも、同じ系統。
(……考えなくていい)
それだけで、少し息がしやすくなる。
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会場に入ると、空気が変わる。
姿勢。
歩幅。
視線。
すべてが、”知っている世界”だ。
「佐伯さん、お久しぶりです」
「今夜もよろしくお願いします」
(……こちらこそ)
挨拶は、反射で出る。
言葉を選ばなくていい。
間に迷わなくていい。
夜会には、「正解がある」。
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同伴者は、叔父上が手配した女性。
落ち着いていて、会話も的確。
(……助かる)
腕を貸し、歩調を合わせる。
周囲の視線が、好意的なのが分かる。
「やはり、佐伯さんは安心感がありますね」
(……仕事です)
内心で、そう返す。
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立食のテーブル。
軽食。
グラス。
「何か召し上がりますか?」
「……少し」
一口。
(……食べた)
それだけで、今日の食事を済ませた気になる。
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会話は、途切れない。
市場の話。
人事の話。
形式的な雑談。
(……楽だ)
生活改善より、ずっと。
電子レンジより、ずっと。
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二日目。
移動。
同じような顔。
同じような挨拶。
(……慣れている)
慣れているから、
疲れていることに
気づかない。
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三日目。
夜会。
また夜会。
生活改善カリキュラムは、
頭の片隅に追いやられる。
(……後で)
その「後で」が、
来ないことを、
悠馬はよく知っていた。
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夜会の数が増えるにつれ、
評価も、静かに上がっていく。
「連日でも崩れませんね」
「体力があります」
(……体力ではない)
これは、
慣れだ。
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だが、家に戻ると、一気に静かになる。
ドアを閉める。
靴を脱ぐ。
(……暗い)
冷蔵庫を開ける。
整然。
だが、
減っていない。
(……今日はいいか)
電子レンジを見る。
(……今日は無理だ)
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四日目。
朝。
目覚ましを止めて、起き上がれない。
(……重い)
体が、少しだけ言うことをきかない。
でも、夜会の時間が近づくと、不思議と動ける。
(……行ける)
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夜会。
同伴者が、違う。
だが、対応は同じ。
丁寧。距離は一定。
期待を、煽らない。
(……煽っていない)
本人は、そう思っている。
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帰り際。
同伴者が、小さく言った。
「……また、ご一緒できますか?」
一瞬、言葉に詰まる。
(……ローテーション)
(……断る練習)
だが、口から出たのは、
「……機会があれば」
だった。
(……逃げた)
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翌日。
夜会の招待が、さらに増えていた。
(……減らない)
叔父上の「週二回まで」が、頭をよぎる。
しかし、
「これは夜会ではない」
「これは付き合いだ」
そうやって、自分で線をずらす。
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一週間後。
生活改善は、完全に止まっていた。
朝食は、取らない。
冷凍庫は、そのまま。
電子レンジは、飾り。
しかし、夜会だけは、完璧だった。
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ふと、鏡に映る自分を見る。
スーツ姿。整った表情。
(……立っている)
だが、その下で、
何かが確実に削れている。
(……外は、楽だ)
(……だから、戻れなくなる)
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その夜。
帰宅後、ソファに沈み込み、動けなくなる。
コーヒーを淹れる。
砂糖は、三杯。
(……生きてる)
それだけを、確認する。
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夜会は、楽だった。
”だからこそ、危険だった。”
悠馬は、まだこの時、知らない。
この「楽さ」が、
次に来る「全方位無双と謎モテ期」への
助走になっていることを。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




