第五部 第一話 ~エド叔父の抜き打ち部屋チェック~
悠馬君、抜き打ちお宅訪問される回
ドアは、あっさりと開いた。
鍵の音がして、悠馬は顔を上げる。
「……叔父上?!」
「在宅で良かった」
エドワード叔父上は、コートを脱ぎながら淡々と言った。
連絡は、なかった。
理由は分かる。
連絡をすれば、この男は“整える”。
今日は、「整っていない状態」を見る日だ。
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部屋は、静かだった。
生活音がない。
空気が、人の気配を含んでいない。
叔父上は、一歩入ったところで立ち止まり、
ゆっくりと室内を見回した。
「……」
まず、机。
書類の束。
未開封の封筒。
パンの空袋が、
一つ。
(……昼食)
叔父上は、小さく息を吐いた。
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次に、冷蔵庫。
「開けるぞ」
「……どうぞ」
返事はしたが、止める理由もない。
扉が開く。
中は、ほぼ空。
調味料。
水。
なぜか、
小さな「カエルの置物」。
「……これは」
「あ、看護師の方にいただいたものです」
(まだ、取ってあるのか)
叔父上は、何も言わなかった。
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冷凍庫。
整然と並んだ、作り置き。
ラベル。
日付。
「……菜摘だな」
「……はい」
「食べていない」
断定。
「……もったいなくて」
「逆だ」
即答。
「ちゃんとしたものだから、食べろ」
正論は、静かに刺さる。
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パントリー。
カップ麺。
インスタントスープ。
そして――
胃薬。
種類。
量。
頻度。
「……いつからだ」
「……常備です」
「常備、の量ではない」
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クローゼット。
同じスーツ。
同じ色。
同じ形。
(選ぶのが面倒なのだろう)
その奥に、見覚えのある服。
「……ノアのだな」
「昔、置いていきました」
「返していない」
「……はい」
(僕の普段着だし……)
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最後に、キッチン。
叔父上は、電子レンジの前で止まった。
日本製。
高機能。
ボタンが、
多い。
「……使っているか」
「……時々」
「“時々”とは」
「……押せた時だけ」
叔父上は、一拍、無言になった。
「……なるほど」
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リビングに戻り、叔父上はソファに腰を下ろした。
悠馬は、向かいに座る。
「結論から言う」
来た。
「これは、恋愛以前の問題だ」
「……はい」
否定できない。
「お前は、外では立っている」
「だが」
一拍。
「生活が、完全に死んでいる」
言葉は、重い。
だが、怒気はない。
「ノアは今、日本だ」
「拓海と、菜摘、蘭と一緒に挨拶回りをしている」
「菜摘は、二ヶ月ほど戻らない」
「ジェシカと凛は、アメリカ」
「つまり」
叔父上は、はっきり言った。
「お前は、完全に一人だ」
悠馬は、黙って頷いた。
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「有能嫁作戦を進める前に」
叔父上は、静かに続ける。
「まず、生きろ」
「食べろ」
「休め」
「選べ」
「それができないまま人を迎えるな」
その言葉は、叱責ではなく、指示だった。
「……分かりました」
「分かっていない」
即断。
「だが、これから分からせる」
叔父上は、立ち上がり、
合鍵をポケットに戻した。
「明日から、生活改善だ」
「拒否権は?」
「ない」
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ドアが閉まる。
静けさが、戻る。
悠馬は、しばらくその場に座っていた。
(……生活)
夜会なら、立てる。
役割がある。
正解がある。
だが、ここには正解がない。
冷蔵庫を、もう一度見る。
電子レンジを見る。
(……難しいな)
小さく、そう呟いた。
こうして、第5部は
“生活”という最も厄介な敵から始まった。
夜会よりも、
電子レンジよりも、
厄介な敵から。
悠馬君、夜会はいいんだw
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




