第四部 第五話 ~完璧なデート計画、距離感だけが不良品~
なんか不器用でかわいいと思わなくもない?みたいな?
ノアの計画は、本当に完璧だった。
完璧すぎて、
『人間の感情が入り込む余地がなかった』
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集合は、昼。
人混みを避け、騒がしくならない時間帯。
悠馬は、十分前に到着していた。
(……早すぎたか)
いや、遅れるよりはいい。
ベンチに座り、スマホでメモを確認する。
・挨拶は笑顔
・体調を気遣う
・歩く速度を合わせる
・距離は詰めすぎない
・一線は越えない
(……問題ない)
この時点で、完全に ”業務進行表” である。
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「こんにちは」
声をかけられ、悠馬は立ち上がった。
「こんにちは」
看護師は、私服姿だった。
病院で見る白衣とは違う、柔らかい色合い。
(……白衣、ないのに優しそうだな)
即、そんなことを考えてしまう。
「体調はもう大丈夫ですか?」
「……はい。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑ではないですよ」
即答。
(……優しい)
だが、それは仕事の延長だ。
分かっている。
分かっているのに、
胸が少し跳ねる。
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美術館。
静かで、人が少ない。
展示の説明文を二人で眺める。
「この作家、線が強いですね」
「……はい。迷いがない」
(……自分の話か?)
悠馬は、つい考えてしまう。
「佐伯さん、こういう場所、
よく来るんですか?」
「……いえ。初めてです」
「意外ですね」
「仕事では必要がなくて」
(……また仕事)
看護師は、小さく笑った。
「“必要がなくて”って言い方、珍しいです」
「……よく言われます」
(……直らないな)
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移動はタクシー。
ドアを押さえ、先に乗るよう促す。
距離は、きちんと一人分。
近すぎない。
遠すぎない。
(……完璧)
ランチは、事前に調べた胃に優しい店。
「こんなに考えて選んでくださったんですね」
「……体調を崩したので」
「それだけ?」
「……それだけです」
嘘ではない。
だが、全てでもない。
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花屋。
小さな花束。
高すぎない。
重すぎない。
「受け取ってもらえますか」
「……ありがとうございます」
看護師は、戸惑いながらも受け取った。
(……よし)
(……これで“失礼”はない)
悠馬は、ほっとしてしまった。
それが、”最大のミス” だった。
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帰り道。
駅の前で、立ち止まる。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
いつも通り、一歩下がる。
礼儀として。相手の人生を尊重して。
「……あの」
看護師が、声をかける。
悠馬は、反射で姿勢を正した。
(……来た)
「佐伯さんって」
一拍。
「……私のこと、どう思ってますか?」
(……来た)
完全に。
(……正直に)
(……誠実に)
(……下げすぎない)
頭の中で、エド叔父とノアが同時に警告を発する。
だが、悠馬はいつもの癖を選んだ。
「……とても尊敬しています」
「救われました」
「だから」
一拍。
「ご負担になりたくありません」
看護師の表情が、少しだけ曇る。
(……あ)
だが、悠馬は止まらない。
「距離は、このくらいが
適切だと思います」
自分と彼女の間を、視線で示す。
(……言った)
言ってしまった。
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沈黙。
看護師は、しばらく黙っていた。
そして、静かに言う。
「……佐伯さん」
「はい」
「それ、
”丁寧すぎて分からないです”」
胸が、きゅっと縮む。
「大切にされてるのは分かるんです」
「でも」
一拍。
「私は、ここに
立たされてる感じがしてしまって」
(……立たされてる)
「近づいていいのか、ダメなのか」
「私が決める前に、
決められているようで」
(……まただ)
悠馬は、言葉を失った。
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家に戻ると、
ノアが待っていた。
「どうだった?」
「……完璧だった」
「どこが」
「……計画が」
ノアは、嫌な顔をした。
「結果は?」
「……距離感が不良品だった」
ノアは、天井を仰ぐ。
「兄さん」
「……何だ」
「それ、相手を“守る”じゃなくて」
「”展示品にしてる”」
悠馬は、
その言葉を静かに受け取った。
(……展示品)
「触れるな」
「動くな」
「壊れるから」
それが、自分のやっていることだった。
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その夜。
コーヒーを淹れる。
砂糖は、三杯。
(……まただ)
完璧にやろうとした。
誠実であろうとした。
結果、距離を固定した。
(……間違ってはいない)
(……でも、正しくもなかった)
悠馬は、カップを見つめた。
次は、聞かなければならない。
「近づいていいですか」と。
それが、一番怖い。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




