第四部 第二話 ~アンドロイド、限界を迎える~
悠馬君は「やさしさ」に飢えていたのかもしれない回
目を覚ました時、
最初に見えたのは白い天井だった。
(……病院、か)
悠馬は、それだけを確認してから、
ゆっくりと瞬きをした。
身体は重い。だが、不思議と痛みはない。
(……仕事は)
そこまで考えて、天井を見つめたまま思考が止まった。
(……仕事、今どうでもいいな)
それが分かった瞬間、少しだけ安心した。
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「起きました?」
柔らかい声。
悠馬は、視線を動かす。
白衣。
マスク。
名札。
看護師だった。
「……はい」
声が、自分のものとは思えないほどかすれている。
「大丈夫ですか」
その一言が、妙に胸に響いた。
(……大丈夫ですか)
責めない。
急かさない。
評価しない。
ただ、状態を気遣うだけの言葉。
悠馬の周囲の人間は、だいたいこう言う。
「大丈夫だよね」
「まだいけるよね」
「君ならできる」
それに比べて、この言葉は逃げ道があった。
「……ご迷惑を」
言いかけて、喉が詰まる。
「今は、謝らなくて大丈夫ですよ」
看護師は、淡々と言った。
「立ちくらみと、過労と、
胃の不調が重なっています」
(……胃)
「検査の結果次第ですが、しばらく安静にしてくださいね」
安静。
その単語が、頭の中で跳ねた。
(……安静)
(……仕事、止めろってことか)
「……仕事の、連絡を」
言おうとした瞬間。
「あとででいいです」
即座に返される。
「今は、休む時間です」
(……即答)
悠馬は、その即断に少しだけ面食らった。
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しばらくして、ドアが勢いよく開いた。
「兄さん!!」
聞き慣れた声。
(……来た)
ノアだった。
「……生きてる?」
第一声がそれだった。
「……一応」
「一応って何」
ノアは、ベッドの横まで来て
悠馬の顔を覗き込む。
「顔色、紙みたい」
「……コピー用紙?」
「せめて高級紙であれ」
(……どうでもいい)
ノアは、医師から説明を受けながら
何度も頷いている。
「胃潰瘍の一歩手前、ですね」
「……一歩手前」
「踏み出してないのが奇跡です」
ノアが、ちらっと悠馬を見る。
「兄さん、奇跡起こすの
そっちじゃないから」
「……すまない」
「だから謝るな」
即座に遮られる。
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「ところで」
ノアが、看護師に聞いた。
「兄、どうやって運ばれてきたんですか」
看護師は、少し困ったように
笑った。
「会社の方が呼んでくださって」
「倒れた後も、
『議事録は……』
と言いかけていましたよ」
沈黙。
「……兄さん」
ノアが、ゆっくり振り向く。
「何だ」
「アンドロイドでも、シャットダウンは必要」
「……人間だ」
「どっちでもいい」
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ベッドに戻された後、悠馬は天井を見ていた。
(……倒れた)
(……本当に)
自覚は、遅れてやってくる。
(……あの通知)
昼に来た、あの一文。
終わりです、と丁寧に告げる言葉。
そこから、一気に走り切った。
止まらずに。
(……止まれなかった)
それを、身体が代わりに止めただけだ。
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「兄さん」
ノアが、椅子に座りながら言う。
「これ、結構やばいからね」
「……どのくらい」
「胃潰瘍まであと一歩」
「……踏みとどまったな」
「自慢じゃない」
即否定。
「しばらく、仕事止めるよ」
「……却下」
「決定事項」
(……強い)
「叔父上は?」
「知ってる」
「……やはり」
「“ようやく倒れたか”って言ってた」
「……ひどい」
「でもさ」
ノアは、少しだけ真面目な声になる。
「兄さんが倒れないと止まらなかったでしょ」
悠馬は、返事ができなかった。
(……その通りだ)
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病室のドアが、静かに開く。
さっきの看護師が、様子を見に来た。
「体調、いかがですか」
「……落ち着いています」
「よかった」
それだけで、十分だった。
ノアは、二人を見比べて目を細めた。
(……あ)
その視線に、悠馬は気づかない。
ただ、その声を聞くだけで少し楽になる。
(……不思議だ)
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「今日は、もう休んでくださいね」
看護師は、そう言ってカーテンを閉めた。
静かになった病室。
悠馬は、深く息を吐いた。
(……仕事じゃない優しさ)
(……初めて、ちゃんと向けられた気がする)
その感覚が、胸の奥でじんわりと広がる。
ノアが、小さく言った。
「……兄さん」
「何だ」
「それ、完全に落ちてる」
「……何に」
「白衣の天使」
「……仕事だ」
「分かってる」
ノアは、にやっと笑う。
「分かってても落ちるやつ」
悠馬は、何も言い返せなかった。
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この時点で、悠馬はまだ知らない。
この優しさが、仕事であることも。
この恋が、ゆっくりと
自分を別の形で追い詰めていくことも。
今はただ、
『アンドロイドは、ついに強制終了された。』
そして、
再起動の最初に見たのが「白衣の天使」だった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




