表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐伯悠馬の恋愛事情  作者: 雪森蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/137

第四部 第二話 ~アンドロイド、限界を迎える~

悠馬君は「やさしさ」に飢えていたのかもしれない回

目を覚ました時、

最初に見えたのは白い天井だった。


(……病院、か)


悠馬は、それだけを確認してから、

ゆっくりと瞬きをした。

身体は重い。だが、不思議と痛みはない。


(……仕事は)


そこまで考えて、天井を見つめたまま思考が止まった。


(……仕事、今どうでもいいな)


それが分かった瞬間、少しだけ安心した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「起きました?」


柔らかい声。

悠馬は、視線を動かす。


白衣。

マスク。

名札。


看護師だった。


「……はい」


声が、自分のものとは思えないほどかすれている。


「大丈夫ですか」


その一言が、妙に胸に響いた。


(……大丈夫ですか)


責めない。

急かさない。

評価しない。


ただ、状態を気遣うだけの言葉。

悠馬の周囲の人間は、だいたいこう言う。


「大丈夫だよね」

「まだいけるよね」

「君ならできる」


それに比べて、この言葉は逃げ道があった。


「……ご迷惑を」


言いかけて、喉が詰まる。


「今は、謝らなくて大丈夫ですよ」


看護師は、淡々と言った。


「立ちくらみと、過労と、

 胃の不調が重なっています」


(……胃)


「検査の結果次第ですが、しばらく安静にしてくださいね」


安静。


その単語が、頭の中で跳ねた。


(……安静)


(……仕事、止めろってことか)


「……仕事の、連絡を」


言おうとした瞬間。


「あとででいいです」


即座に返される。


「今は、休む時間です」


(……即答)


悠馬は、その即断に少しだけ面食らった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらくして、ドアが勢いよく開いた。


「兄さん!!」


聞き慣れた声。


(……来た)


ノアだった。


「……生きてる?」


第一声がそれだった。


「……一応」


「一応って何」


ノアは、ベッドの横まで来て

悠馬の顔を覗き込む。


「顔色、紙みたい」


「……コピー用紙?」


「せめて高級紙であれ」


(……どうでもいい)


ノアは、医師から説明を受けながら

何度も頷いている。


「胃潰瘍の一歩手前、ですね」


「……一歩手前」


「踏み出してないのが奇跡です」


ノアが、ちらっと悠馬を見る。


「兄さん、奇跡起こすの

そっちじゃないから」


「……すまない」


「だから謝るな」


即座に遮られる。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「ところで」


ノアが、看護師に聞いた。


「兄、どうやって運ばれてきたんですか」


看護師は、少し困ったように

笑った。


「会社の方が呼んでくださって」


「倒れた後も、

 『議事録は……』

 と言いかけていましたよ」


沈黙。


「……兄さん」


ノアが、ゆっくり振り向く。


「何だ」


「アンドロイドでも、シャットダウンは必要」


「……人間だ」


「どっちでもいい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ベッドに戻された後、悠馬は天井を見ていた。


(……倒れた)


(……本当に)


自覚は、遅れてやってくる。


(……あの通知)


昼に来た、あの一文。

終わりです、と丁寧に告げる言葉。

そこから、一気に走り切った。


止まらずに。


(……止まれなかった)


それを、身体が代わりに止めただけだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「兄さん」


ノアが、椅子に座りながら言う。


「これ、結構やばいからね」


「……どのくらい」


「胃潰瘍まであと一歩」


「……踏みとどまったな」


「自慢じゃない」


即否定。


「しばらく、仕事止めるよ」


「……却下」


「決定事項」


(……強い)


「叔父上は?」


「知ってる」


「……やはり」


「“ようやく倒れたか”って言ってた」


「……ひどい」


「でもさ」


ノアは、少しだけ真面目な声になる。


「兄さんが倒れないと止まらなかったでしょ」


悠馬は、返事ができなかった。


(……その通りだ)


ーーーーーーーーーーーーーー


病室のドアが、静かに開く。

さっきの看護師が、様子を見に来た。


「体調、いかがですか」


「……落ち着いています」


「よかった」


それだけで、十分だった。


ノアは、二人を見比べて目を細めた。


(……あ)


その視線に、悠馬は気づかない。

ただ、その声を聞くだけで少し楽になる。


(……不思議だ)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日は、もう休んでくださいね」


看護師は、そう言ってカーテンを閉めた。


静かになった病室。

悠馬は、深く息を吐いた。


(……仕事じゃない優しさ)


(……初めて、ちゃんと向けられた気がする)


その感覚が、胸の奥でじんわりと広がる。


ノアが、小さく言った。


「……兄さん」


「何だ」


「それ、完全に落ちてる」


「……何に」


「白衣の天使」


「……仕事だ」


「分かってる」


ノアは、にやっと笑う。


「分かってても落ちるやつ」


悠馬は、何も言い返せなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この時点で、悠馬はまだ知らない。

この優しさが、仕事であることも。


この恋が、ゆっくりと

自分を別の形で追い詰めていくことも。


今はただ、


『アンドロイドは、ついに強制終了された。』


そして、

再起動の最初に見たのが「白衣の天使」だった。




AIアシスト作品です。

対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。

前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。

一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ